95 / 186
第二章
混じり者
しおりを挟む
タマラに案内されて村を見て回ることにした。
「どこから案内いたしましょうか?」
「害獣と魔獣の被害の状況を見たいのだが、その後でこの村の蓄えなども確認したい」
「承知しました」
タマラは軽く会釈をすると俺を連れ立って外に出る。
ネコのような細長い白い尻尾がスカートから生え、振り振りと揺らしながら俺の前を歩く。
そのきれいな尻尾を思わずじっと見てしまう。
「どうかいたしましたか?」
「何でもないです」
女性の尻尾をじっと見るということは許されるべきことなのか判断できず、思わず何でもないふりをした。
「混じり者を見るのは、はじめてですか? お見苦しいでしょうか?」
「いや、申し訳ない。女性の体をじろじろ見るのは失礼とは思いつつ、きれいな尻尾だったのでついつい見てしまった」
「……そうですか。タマラは気にしませんのでどうぞお好きなだけ見てください」
その赤い瞳でじっと見た後、タマラは先を歩き始めた。
「こちらが畑になります。他にもいくつか点在しておりますし、見られたと思いますが村に入られるところにもございます。ただし主要な農作物はこちらで栽培しておりました」
タマラが過去形で言ったように、その畑はまともに農作物が植えられていなかった。
根菜類が植えられていたであろう地面は掘り起こされ、果菜類や葉菜類も食い荒らされていた。
「今の状況で村はどのくらい次の冬を乗り切れる?」
「……節制して、種イモも使っておよそ半数と親方様は見ています」
「害獣を捕まえたり、森で狩をしても駄目か?」
タマラは表情を変えずに首を横に振る。
「肉はその場限りで保存がきかないため、計算できません。街で売れれば良いのですが、タマラたち混じり者は安く買い叩かれてしまいます」
「なんでそんなに混じり者が嫌われるんだ? 俺は遠くの国から来たのでよくわからないだが」
タマラはまたじっとこちらを見る。
「タマラたちがいつ狂獣化するかわからないからだと思います」
「狂獣化? なんだそれは?」
「獣人族をご存知ですよね。純粋な獣人族は自分の意思で、獣の力と人の知性を持った獣化を行います。タマラたち混じり者はその獣化時に、自分がわからなくなる狂獣化になってしまう事が多いのです」
要はバーサークモードになるのか。そいつは怖いな。仲間が急に襲って来られると対応が難しい。
「しかし、獣人も混ざり者も見た目でわからないのでは?」
タマラの頭にどこに隠していたのか、猫耳がニョッと出てきた。
「獣人は普段、完全な人の姿になれますが、混じり者はタマラの尻尾や耳のように獣の一部がどこか残ってしまいます。獣の部分をコントロールできないから獣化の時に人の心を失うのだと言われてしまうのです。服や靴で隠せるところが獣の部分の人もいますけど」
「ちなみに君の親は何の獣人なんだ?」
「母がワーキャット、猫の獣人です」
猫か。獣化してもなんかかわいいだけのような気もするが。
そうするとこの村の人間が商売は難しいのか。
「……俺たちが仲買として村と街を行商すればいいんじゃないか? 村で他に売れるものはあるか? 宝石やマナ石なんかはないか?」
「そのような物があれば親方も盗賊をしようとは考えません」
それもそうか。
俺はふと空を見上げる。
青い空に煙が立ち上っていた。
「なあ、タマラ。あの煙はなんだ?」
「あれは炭を作っております」
炭か。昔はバーベキューやキャンプは楽しみだったが、街を出てから毎日キャンプなんだよな。
煙……キャンプ……。
燻製!
「ちょっと聞きたいんだが、燻製は作らないのか?」
「くんせい……ですか? それはどういったものなのでしょうか?」
旅の保存食として干し肉は食べるが、硬くて味気なく決して美味いものではない。村で生き延びるために食べるのはそれでもいいかもしれないが、それで商売しようとすると価格が安くなかなか厳しい。
燻製ならどうだろうか? 塩気と木の香りで商品価値は上がるのではないか? 保存もきくので、たまに俺が来て街に売りに行くときも便利がいい。
「近くに桜の木はあるか?」
「桜ですか? 少し山へ行けばいくらでもあります」
塩は俺たちの積み荷だ。
あとは肉があれば燻製がつくれる。
ほかに何かないか?
俺は考えながら歩いていると、村の入り口の畑に来ていた。
涼しげな風が吹いてくる。
臭い! 糞の匂いだ。確か入口にそんな匂いのする花が大量に咲いていたのを思い出し、村に戻ろうと踵を返す。
ふと先ほどの夢の言葉が頭をよぎる。
「ちょっと家に戻ろう」
俺は慌ててみんなのいる家へ戻った。
「どこから案内いたしましょうか?」
「害獣と魔獣の被害の状況を見たいのだが、その後でこの村の蓄えなども確認したい」
「承知しました」
タマラは軽く会釈をすると俺を連れ立って外に出る。
ネコのような細長い白い尻尾がスカートから生え、振り振りと揺らしながら俺の前を歩く。
そのきれいな尻尾を思わずじっと見てしまう。
「どうかいたしましたか?」
「何でもないです」
女性の尻尾をじっと見るということは許されるべきことなのか判断できず、思わず何でもないふりをした。
「混じり者を見るのは、はじめてですか? お見苦しいでしょうか?」
「いや、申し訳ない。女性の体をじろじろ見るのは失礼とは思いつつ、きれいな尻尾だったのでついつい見てしまった」
「……そうですか。タマラは気にしませんのでどうぞお好きなだけ見てください」
その赤い瞳でじっと見た後、タマラは先を歩き始めた。
「こちらが畑になります。他にもいくつか点在しておりますし、見られたと思いますが村に入られるところにもございます。ただし主要な農作物はこちらで栽培しておりました」
タマラが過去形で言ったように、その畑はまともに農作物が植えられていなかった。
根菜類が植えられていたであろう地面は掘り起こされ、果菜類や葉菜類も食い荒らされていた。
「今の状況で村はどのくらい次の冬を乗り切れる?」
「……節制して、種イモも使っておよそ半数と親方様は見ています」
「害獣を捕まえたり、森で狩をしても駄目か?」
タマラは表情を変えずに首を横に振る。
「肉はその場限りで保存がきかないため、計算できません。街で売れれば良いのですが、タマラたち混じり者は安く買い叩かれてしまいます」
「なんでそんなに混じり者が嫌われるんだ? 俺は遠くの国から来たのでよくわからないだが」
タマラはまたじっとこちらを見る。
「タマラたちがいつ狂獣化するかわからないからだと思います」
「狂獣化? なんだそれは?」
「獣人族をご存知ですよね。純粋な獣人族は自分の意思で、獣の力と人の知性を持った獣化を行います。タマラたち混じり者はその獣化時に、自分がわからなくなる狂獣化になってしまう事が多いのです」
要はバーサークモードになるのか。そいつは怖いな。仲間が急に襲って来られると対応が難しい。
「しかし、獣人も混ざり者も見た目でわからないのでは?」
タマラの頭にどこに隠していたのか、猫耳がニョッと出てきた。
「獣人は普段、完全な人の姿になれますが、混じり者はタマラの尻尾や耳のように獣の一部がどこか残ってしまいます。獣の部分をコントロールできないから獣化の時に人の心を失うのだと言われてしまうのです。服や靴で隠せるところが獣の部分の人もいますけど」
「ちなみに君の親は何の獣人なんだ?」
「母がワーキャット、猫の獣人です」
猫か。獣化してもなんかかわいいだけのような気もするが。
そうするとこの村の人間が商売は難しいのか。
「……俺たちが仲買として村と街を行商すればいいんじゃないか? 村で他に売れるものはあるか? 宝石やマナ石なんかはないか?」
「そのような物があれば親方も盗賊をしようとは考えません」
それもそうか。
俺はふと空を見上げる。
青い空に煙が立ち上っていた。
「なあ、タマラ。あの煙はなんだ?」
「あれは炭を作っております」
炭か。昔はバーベキューやキャンプは楽しみだったが、街を出てから毎日キャンプなんだよな。
煙……キャンプ……。
燻製!
「ちょっと聞きたいんだが、燻製は作らないのか?」
「くんせい……ですか? それはどういったものなのでしょうか?」
旅の保存食として干し肉は食べるが、硬くて味気なく決して美味いものではない。村で生き延びるために食べるのはそれでもいいかもしれないが、それで商売しようとすると価格が安くなかなか厳しい。
燻製ならどうだろうか? 塩気と木の香りで商品価値は上がるのではないか? 保存もきくので、たまに俺が来て街に売りに行くときも便利がいい。
「近くに桜の木はあるか?」
「桜ですか? 少し山へ行けばいくらでもあります」
塩は俺たちの積み荷だ。
あとは肉があれば燻製がつくれる。
ほかに何かないか?
俺は考えながら歩いていると、村の入り口の畑に来ていた。
涼しげな風が吹いてくる。
臭い! 糞の匂いだ。確か入口にそんな匂いのする花が大量に咲いていたのを思い出し、村に戻ろうと踵を返す。
ふと先ほどの夢の言葉が頭をよぎる。
「ちょっと家に戻ろう」
俺は慌ててみんなのいる家へ戻った。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

真☆中二病ハーレムブローカー、俺は異世界を駆け巡る
東導 号
ファンタジー
ラノベ作家志望の俺、トオル・ユウキ17歳。ある日、夢の中に謎の金髪の美少年神スパイラルが登場し、俺を強引に神の使徒とした。それどころか俺の顔が不細工で能力が低いと一方的に断言されて、昔のヒーローのように不完全な人体改造までされてしまったのだ。神の使徒となった俺に与えられた使命とは転生先の異世界において神スパイラルの信仰心を上げる事……しかし改造が中途半端な俺は、身体こそ丈夫だが飲み水を出したり、火を起こす生活魔法しか使えない。そんな無理ゲーの最中、俺はゴブリンに襲われている少女に出会う……これが竜神、悪魔、人間、エルフ……様々な種族の嫁を貰い、人間の国、古代魔法帝国の深き迷宮、謎めいた魔界、そして美男美女ばかりなエルフの国と異世界をまたにかけ、駆け巡る冒険の始まりであった。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

異世界を服従して征く俺の物語!!
ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。
高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。
様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。
なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった
根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる