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第二章

ヒーロー

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『か~ね~みつ~キック!』

 ソフィアに斬りかかろうとした男を兼光が吹き飛ばす。
 俺はレイティア達の方を見ると、既にほとんど片付いている。
 伏兵兼光に慌てる盗賊達。
 この好機を生かさなければ!
 痛みに耐えて俺は盾を構えて突っ込み、タックルで数人を倒して親方までの道をあける。

「ソフィア!」

 それだけで伝わるはずだ。
 親方の女性もこちらとの間に障害物がないのを確認して左手をソフィアに向ける。

「ファイアボール!」
「バイブレーション!」

 一瞬相手が早い!
 火の玉がソフィアに向かって放たれる!

 俺は反射的に手を伸ばして火の玉を掴む。
 火の玉は爆発して二の腕まで広がり、燃え上がる。

「グ、ギィ、ア!!!!!」

 言葉にならない叫び声!
 熱さと痛みに転げまわる。

「キヨ!」

 厚手の布で右腕を叩かれ、火が鎮火するのを感じながら、俺は気絶した。




「竜ケ峰先生。娘がどうしても犬を飼いたいと言ってるのですが、昔から犬だけは駄目なんですよ。小さい頃に近所の犬に噛まれたのがきっかけだと思うんですが」

 年の頃は四十前くらいだろうか。背の低い少しふくよかな女性が話しかけている。
 小さな部屋には応接室のようでソファーとテーブルがあるだけだ。

「分かります。誰でも小さい頃に怖い思いをすると、なかなかその恐怖は抜けないものですよね。ただ、あなたの小さい頃ですので、少し思い違いをしているだけかもしれませんよ」
「どういうことですか?」

 女性はコーヒーカップを両手で持ちながら、メガネの奥で不思議そうな目をしている。

「少し記憶を遡ってその当時のことを思い出してみましょうか。大丈夫ですよ。ただ思い出すだけですから。ちなみにそれはいつ頃の話ですか?」
「わたしが小学校に上がってすぐのことですから六歳くらいですかね」

 女性は無意識に左上に視線を移す。
 俺はにっこりと笑い緊張をほぐす。

「ではチカラを抜いてリラックスしてください」

 俺は今までの患者と同じように催眠状態へ誘う。

「わたしが一つ数えるごとにあなたの記憶は一歳若くなります」

 俺は患者の女性を六歳まで逆行させる。

「さあ、あなたは近所の犬の前にいます。そしてその犬に噛まれてしまいますが、落ち着いてみてください。そう! 痛くないですね。あなたは噛まれたと言う事実だけに驚いてしまいましたが、実は痛みはない。俗に言う甘噛みです。その犬をよく見てください。大きい犬ではありますが、尻尾を振ってあなたと遊びたがっているだけであなたに危害を加えようとしていません。落ち着いてその犬の頭を撫でてあげましょう。大丈夫ですよ。可愛い犬です。ほら、あなたに頭を撫でてほしがっていますよ」

 患者は目を閉じ、催眠状態のまま恐る恐る右手で何かの頭を撫でようとする。
 その後、犬と楽しい遊ぶように誘導して、催眠状態を解く。

「一度、娘さんとペットショップでも行ってみてあげてください。きっと犬の事が怖くなくなっていますよ。それではまた何かございましたら、お越しください」

 そう言って俺はいつものように患者を送り出す。

 犬か。俺なら大型犬がいいな。広場で一緒に駆け回って、ぺろぺろ舐められたいな。
 そうそう、こんな風に。
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