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第一章
帰還
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俺たちはその後、何事もなく昼前には街にたどり着くことができた。
俺とアレックスは報告とゴブリンリーダーの引き渡しのために警備隊本部へ出向く。
「よくぞ、無事に戻って来てくれた」
本部長自ら、応接室にて俺たちを出迎えに来てくれた。
初めて会った時に深く刻まれていた眉間のしわが今は和らいでいた。
「ご心配をおかけしました。救助隊の派遣、感謝致します」
アリシアの言葉と同時にユリも敬礼をする。
「いや、今回の件は私たち警備隊の手柄ではない。彼らのおかげだ。私たちは君たちを見捨て、街の警備を選んだ」
「もちろん、それが警備隊本来の役割であり、使命と心得ており何ら異論はございません。そのため彼らに許可と支援を頂いたことは特例と心得ております。その特例をお認めいただいたことに心より感謝申しあげます」
本部長は敬礼している二人の手を強引降ろし、震える手で握り締める。
「本当に無事で良かった」
本部長は二人に頭を下げる。
「本部長、頭を上げてください。ちなみに私の他の隊員たちの行方はどのような状況でしょうか?」
「安心したまえ、君たち二人以外は昨夜、無事に戻ってきたよ。あとは任せて、今はゆっくり休みたまえ」
アリシアの緊張の糸が切れたのが目に見えてわかった。ユリも含めて。
隊長としての責務がこれまで体を支えていた。そのアリシアを支えようと気を張っていたユリの気も緩む。
二人が退出したあと、俺、レイティア、アレックスが応接室に残る。
「まあ、掛けたまえ、疲れただろう」
ソファーに腰掛けるとアレックスは報告を始めた。
ゴブリンの巣に向かう途中、飛竜種のドラゴンを見かけたこと。
事前情報通り、ドワーフの村跡地をゴブリンが根城にしていたこと。
ゴブリンがゴブリンリーダーにより統制された軍隊になり、ゴブリンナイトもいたこと。
ゴブリンリーダーが何者かにミノタウロスを与えられていたこと。
そして、そのミノタウロス、ゴブリンナイトを殲滅(せんめつ)し、ゴブリンの軍勢を壊滅させたことを報告した。
「ゴブリンが統制された軍隊になっているとはにわかには信じ難いな。しかしそれが本当なら、この街に侵略をされていたら甚大な被害が出ていたな。そのあたりはお前たちが捕まえたゴブリンリーダーから情報を引き出してみる。その上、ドラゴンを見かけるとは何かがおかしいな。王都の警備隊に報告をあげておこう。疲れているところ悪いが、あとで報告書を提出しておいてくれ」
「分かりました」
アレックスは隊長らしく要所のみを簡潔に報告を行った。
「キヨさん、本当に無事にアリシアたちを救出してくれてありがとう。レイティア、良かったな」
本部長は穏やかな表情で感謝の言葉を口にする。
これで俺たちの救出作戦は成功したのだ。
後日、アリシアから聞いた話では、どうやらゴブリンリーダーを力を与え、あそこにゴブリンの里を築くようにそそのかしたり、ミノタウロスを与えた人物がいるようだが、名前をサトシという以上の情報は出てこなかったそうだ。
結局、ゴブリン達は俺たちで駆除してしまったので、警備隊本部も大規模な防衛体制を解除し、通常の周辺警備に切り替えられた。
「お母様は思ったほど儲からなかったと、なげいておりましたよ」
ソフィアが話していたが、思ったほどと言っているくらいだから、儲かりはしたのだろう。長期的に見ると安全な方が貿易が盛んになって儲かるだろうにと、思うのだが商人としては儲けられるときには儲けたいと思うのは当たり前のことだろう。
「さて、キヨよ。儂の報酬をもらおうかのう」
ムサシマルはそう言って残った金から約束通り三百万マルを持って行った。
回復薬やマナ石が残ったが使っていないマナ石だけは売った。
馬に関してどうするか考えたが、日頃の使い道がなければ馬場代や餌代もバカにならないのでこれも売ることにした。
不要と思われるものは売り、支払いを終わらせると一千万マルほど手元に残った。
この金の使い道を考えたとき、俺は真っ先にソフィアに金を返そうと決めた。
「ご主人様、あれは差し上げたものとお話ししたはずです。あたしの両親はああ見えてお金にはうるさいのですよ。今回はご主人様でしたので利息も返済期限も設けておりませんが、剣の被験体のように借金を盾にどのような要求をされるかわかりません」
確かにそうかもしれない。
しかし一千万マル返してもまだ一千万マルの借金が残る。月に十万マル返しても約十年か。長いな。ソフィアの分も考えると二十年。長すぎる。
「ご主人様、幸いこの一千万マルは無利子です。返済せず、これを原資に何か始めてはいかがでしょうか?」
「そうだな。少し考えてみよう。手伝ってくれるか?」
「はい! 喜んで」
ソフィアはほんわりとした笑顔で答えた。
そうは言ってもソフィアの両親に挨拶に行かないわけには行かない。
借りていた剣も返さなければならないだろう。
俺はソフィアと一緒に両親の元を訪れる。
「先日は言い過ぎました。申し訳ありません」
俺は開口一番、まず頭を下げた。
「お金もこの剣も非常に助かりました。おかげさまで、家族を無事に助けることができました」
ソフィアの両親はそんな俺を見て二人で顔を見合わせる。
「いえいえ、あなたの言葉は娘のことを思ってのことだとわかっています。私どもも失礼なことを言ってしまい申し訳ありません。ソフィアもごめんなさいね。私たちの可愛い娘がお金に変えることができないことなんてわかりきっていたのにね」
ソフィアの母親の言葉に、父親はうんうんと頷いていた。
俺は剣の魔法は発動し、ミノタウロスを真っ二つに出来たことを報告した。しかしそのあとマナ切れの症状が出たことも付け加えた。
「組み込んだマナ石が暴走したか? 術者のマナ量によってマナ出力を調整ができるようにしておかないと、出力が大きすぎてマナ切れを起こしているのか? まだまだ改良が必要だな」
ソフィアの父親はブツブツと独り言をつぶやいていた。
「そうだな、一旦剣は預かるから、十日ほどしたらまた来てくれないか? 調整しておくよ」
「分かりました。それでお金の件ですが、分割払いでお願いしたいのですが」
「キヨさんなら、ある時払いで構いませんよ。そのかわりこれからも色々とお願いする事があるかもしれませんが」
ソフィアの言った通りだ。
ソフィアの両親の笑顔の奥には、何を考えているかわからない光を宿していた。
「わ、私のできる事であればお受けします」
「よろしくお願いいたしますわよ」
ソフィアの両親に挨拶を終え、俺たちはいつもの酒場に行った。
すでにレイティア、リタそしてムサシマルが一杯やっていた。
「それで師匠はこれからどうするんだ?」
俺はムサシマルに今後の予定を聞いた。
この街最強のアリシアと嫁取りの儀を行うためにこの街に来ていたのを思い出していた。
「しばらくはこの街にいるぞ。嫁取りは置いておいてもアリシア殿とは戦ってみたいんじゃ。そのためにはアリシア殿の体調が万全でないと、面白くないからのう。逆にキヨはどうするんじゃ」
「俺はソフィアの家に厄介になりながら、借金を返すよ。返済方法はこれから考えるけどな」
「わたしも一緒に返すからね」
「借金持ちは大変だね~」
リタが焼き塩鮎をほおばりながら、俺たちを茶化す。
「それでアリシアさんはその後どうだ?」
「あれからお姉ちゃんは特に衰弱も無く元気よ。元気すぎるくらい。あと二、三日もすれば職場に復帰するみたいよ」
そう言った途端に店の扉が勢いよく開いた。
「ここにいた! キヨ~。レイティアとの仲は認めないわよ~~~!」
俺たちの未来は前途多難のようだ。
第一部完
俺とアレックスは報告とゴブリンリーダーの引き渡しのために警備隊本部へ出向く。
「よくぞ、無事に戻って来てくれた」
本部長自ら、応接室にて俺たちを出迎えに来てくれた。
初めて会った時に深く刻まれていた眉間のしわが今は和らいでいた。
「ご心配をおかけしました。救助隊の派遣、感謝致します」
アリシアの言葉と同時にユリも敬礼をする。
「いや、今回の件は私たち警備隊の手柄ではない。彼らのおかげだ。私たちは君たちを見捨て、街の警備を選んだ」
「もちろん、それが警備隊本来の役割であり、使命と心得ており何ら異論はございません。そのため彼らに許可と支援を頂いたことは特例と心得ております。その特例をお認めいただいたことに心より感謝申しあげます」
本部長は敬礼している二人の手を強引降ろし、震える手で握り締める。
「本当に無事で良かった」
本部長は二人に頭を下げる。
「本部長、頭を上げてください。ちなみに私の他の隊員たちの行方はどのような状況でしょうか?」
「安心したまえ、君たち二人以外は昨夜、無事に戻ってきたよ。あとは任せて、今はゆっくり休みたまえ」
アリシアの緊張の糸が切れたのが目に見えてわかった。ユリも含めて。
隊長としての責務がこれまで体を支えていた。そのアリシアを支えようと気を張っていたユリの気も緩む。
二人が退出したあと、俺、レイティア、アレックスが応接室に残る。
「まあ、掛けたまえ、疲れただろう」
ソファーに腰掛けるとアレックスは報告を始めた。
ゴブリンの巣に向かう途中、飛竜種のドラゴンを見かけたこと。
事前情報通り、ドワーフの村跡地をゴブリンが根城にしていたこと。
ゴブリンがゴブリンリーダーにより統制された軍隊になり、ゴブリンナイトもいたこと。
ゴブリンリーダーが何者かにミノタウロスを与えられていたこと。
そして、そのミノタウロス、ゴブリンナイトを殲滅(せんめつ)し、ゴブリンの軍勢を壊滅させたことを報告した。
「ゴブリンが統制された軍隊になっているとはにわかには信じ難いな。しかしそれが本当なら、この街に侵略をされていたら甚大な被害が出ていたな。そのあたりはお前たちが捕まえたゴブリンリーダーから情報を引き出してみる。その上、ドラゴンを見かけるとは何かがおかしいな。王都の警備隊に報告をあげておこう。疲れているところ悪いが、あとで報告書を提出しておいてくれ」
「分かりました」
アレックスは隊長らしく要所のみを簡潔に報告を行った。
「キヨさん、本当に無事にアリシアたちを救出してくれてありがとう。レイティア、良かったな」
本部長は穏やかな表情で感謝の言葉を口にする。
これで俺たちの救出作戦は成功したのだ。
後日、アリシアから聞いた話では、どうやらゴブリンリーダーを力を与え、あそこにゴブリンの里を築くようにそそのかしたり、ミノタウロスを与えた人物がいるようだが、名前をサトシという以上の情報は出てこなかったそうだ。
結局、ゴブリン達は俺たちで駆除してしまったので、警備隊本部も大規模な防衛体制を解除し、通常の周辺警備に切り替えられた。
「お母様は思ったほど儲からなかったと、なげいておりましたよ」
ソフィアが話していたが、思ったほどと言っているくらいだから、儲かりはしたのだろう。長期的に見ると安全な方が貿易が盛んになって儲かるだろうにと、思うのだが商人としては儲けられるときには儲けたいと思うのは当たり前のことだろう。
「さて、キヨよ。儂の報酬をもらおうかのう」
ムサシマルはそう言って残った金から約束通り三百万マルを持って行った。
回復薬やマナ石が残ったが使っていないマナ石だけは売った。
馬に関してどうするか考えたが、日頃の使い道がなければ馬場代や餌代もバカにならないのでこれも売ることにした。
不要と思われるものは売り、支払いを終わらせると一千万マルほど手元に残った。
この金の使い道を考えたとき、俺は真っ先にソフィアに金を返そうと決めた。
「ご主人様、あれは差し上げたものとお話ししたはずです。あたしの両親はああ見えてお金にはうるさいのですよ。今回はご主人様でしたので利息も返済期限も設けておりませんが、剣の被験体のように借金を盾にどのような要求をされるかわかりません」
確かにそうかもしれない。
しかし一千万マル返してもまだ一千万マルの借金が残る。月に十万マル返しても約十年か。長いな。ソフィアの分も考えると二十年。長すぎる。
「ご主人様、幸いこの一千万マルは無利子です。返済せず、これを原資に何か始めてはいかがでしょうか?」
「そうだな。少し考えてみよう。手伝ってくれるか?」
「はい! 喜んで」
ソフィアはほんわりとした笑顔で答えた。
そうは言ってもソフィアの両親に挨拶に行かないわけには行かない。
借りていた剣も返さなければならないだろう。
俺はソフィアと一緒に両親の元を訪れる。
「先日は言い過ぎました。申し訳ありません」
俺は開口一番、まず頭を下げた。
「お金もこの剣も非常に助かりました。おかげさまで、家族を無事に助けることができました」
ソフィアの両親はそんな俺を見て二人で顔を見合わせる。
「いえいえ、あなたの言葉は娘のことを思ってのことだとわかっています。私どもも失礼なことを言ってしまい申し訳ありません。ソフィアもごめんなさいね。私たちの可愛い娘がお金に変えることができないことなんてわかりきっていたのにね」
ソフィアの母親の言葉に、父親はうんうんと頷いていた。
俺は剣の魔法は発動し、ミノタウロスを真っ二つに出来たことを報告した。しかしそのあとマナ切れの症状が出たことも付け加えた。
「組み込んだマナ石が暴走したか? 術者のマナ量によってマナ出力を調整ができるようにしておかないと、出力が大きすぎてマナ切れを起こしているのか? まだまだ改良が必要だな」
ソフィアの父親はブツブツと独り言をつぶやいていた。
「そうだな、一旦剣は預かるから、十日ほどしたらまた来てくれないか? 調整しておくよ」
「分かりました。それでお金の件ですが、分割払いでお願いしたいのですが」
「キヨさんなら、ある時払いで構いませんよ。そのかわりこれからも色々とお願いする事があるかもしれませんが」
ソフィアの言った通りだ。
ソフィアの両親の笑顔の奥には、何を考えているかわからない光を宿していた。
「わ、私のできる事であればお受けします」
「よろしくお願いいたしますわよ」
ソフィアの両親に挨拶を終え、俺たちはいつもの酒場に行った。
すでにレイティア、リタそしてムサシマルが一杯やっていた。
「それで師匠はこれからどうするんだ?」
俺はムサシマルに今後の予定を聞いた。
この街最強のアリシアと嫁取りの儀を行うためにこの街に来ていたのを思い出していた。
「しばらくはこの街にいるぞ。嫁取りは置いておいてもアリシア殿とは戦ってみたいんじゃ。そのためにはアリシア殿の体調が万全でないと、面白くないからのう。逆にキヨはどうするんじゃ」
「俺はソフィアの家に厄介になりながら、借金を返すよ。返済方法はこれから考えるけどな」
「わたしも一緒に返すからね」
「借金持ちは大変だね~」
リタが焼き塩鮎をほおばりながら、俺たちを茶化す。
「それでアリシアさんはその後どうだ?」
「あれからお姉ちゃんは特に衰弱も無く元気よ。元気すぎるくらい。あと二、三日もすれば職場に復帰するみたいよ」
そう言った途端に店の扉が勢いよく開いた。
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