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第一章

救出部隊編成

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「条件とは?」

 俺は息を飲んだ。おそらく最後の交渉だ。

「まず、この依頼については偵察隊として一部隊五名のみとします。依頼について隊員から志願者を募るが、五名に満たない場合は依頼を却下します」
「了承しました。では、部隊編成は明日の朝一番でお願いします。それと本件における情報の開示をお願いしたい」
「了解した。詳細は担当者と打ち合わせをしていただきたい」
「わかりました」

 俺は本部長と握手を交わした。

「本部長、わたしは本件について志願いたします」
「子猫ちゃんが行くなら、僕も志願させていただきます」

 わかった、と一言だけ言って本部長は部屋を出て行った。しばらくすると、担当者と名乗る女性が現れた。
 三十代後半のキリとした黒髪に赤のメッシュが入った肩まである髪。がっしりとした体つきは純粋な体術だけでも俺を制圧しそうだ。
 その担当者からゴブリンの巣の場所は馬で飛ばして約一日の場所にあり、元はドワーフの住処兼採掘場跡に住み着いている。ゴブリンの数は不明だが、かなり多いらしい。取り残された人数は五人など、口外しない事を条件にわかる範囲で情報を教えてくれた。
 また、担当者は部屋を去り際にこちらを振り向いた。

「レイティア、良い伴侶に恵まれましたね。清人さん、本部長は立場上あのような判断を下しましたが、隊員の救出の依頼をいただき、非常に感謝しております。ただしくれぐれも無理はなさらないでください」

 そう言って俺に礼をして部屋を出ていった。

「わたしたちの一番初めの教官だった人よ」

 警備隊本部を出るとムサシマル、リタそしてソフィアまで待っていた。
 状況を簡単に説明する。

「わかった。私も志願する。それにサラとマリーが加われば、ちょうど五人じゃない」
「ありがとう。リタ」
「しかしキヨ、申し訳ないがまだ金が足りそうにないぞ。儂らも馬を手配せねばならんが、状況が状況じゃ借りるわけにもいかんじゃろう。それにレイティア達のマナ石も準備しとかんとまずい。どうにかなるかのう?」

 やはり、そうか。本部長に本気度を見せるために相場より高い金を提示してしまった時から心配はあったんだ。

「ソフィア、君だけが頼りだ。どうにかなるか?」

 ソフィアは顔を輝かせた。

「お任せください。ただ、今日はもう遅いので明日の朝一番で準備いたしますが……」

 そう言って言い淀んだ。

「……ご主人様、今晩はあたしの家に泊まっていただき、一緒に行っていただけないでしょうか?」

 今の俺に選択権はない。

「わかった。ムサシマル、今ある金は全て渡すので明日の昼までに準備をしておいてくれ。金が準備でき次第、合流する。レイティアとリタ、アレックスは警備隊での準備をお願いする」
「わかった。じゃが、結局合計何人になるんじゃ」
「七人の予定だ」
「八人ですわ、ご主人様」

 ソフィアが俺の言葉をすぐに訂正した。

「いや、ソフィアは残ってくれ。お金の都合をつけてくれただけでもありがたいのに、これ以上は甘えられない。今回、どんな危険があるかわからないんだ」
「よくわかっています。だからこそ、あたしも行きます。あたしはご主人様の盾となるためにも離れません。そうでなければ、何のためにあたしに魔法の練習をさせていたのですか?」

 確かに対生物戦としてのソフィアの魔法の効力は大きい。まだ多数相手には不安があるが単独戦では非常に心強い。

「ご主人様がダメだというのであれば、あたしは単独でもご主人様についていきます」

 ソフィアが思い込んだらそう簡単には引き下がらないようだ。人見知りの怖がりのくせに頑固な性格と言うのがここ数日でわかって来た。

「わかった。ただし俺の言うことは必ず聞くこと、危なくなったら自分の身の安全を第一に考えることを守ってくれ。俺の楯だなんて思うな!」

 そうしてソフィアも今回の救出戦に参加することになってしまった。
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