上 下
44 / 186
第一章

ソフィアとの帰り道

しおりを挟む
 その後、同じ対象物で振動の大きさを変化させてみたり、複数の対象物に関してどのくらいまで可能なのか試してみた。
 一時間もテストを行っただろうか、さすがにこんなに魔法を使うのは初めてのようでソフィアに疲れが見えてきた。

「今日はこれで切り上げて、明日にしよう。明日は何か予定はあるか?」

 俺は袋に木切れやら兜を片付けた。

「朝、お弁当作って掃除と洗濯を済ませましたら、特に用事はありません」

 それ、自分の部屋の事じゃないよな。おそらく。

「一日くらい掃除と洗濯はさぼって大丈夫だろう。明日は一緒に狩に出て実際の動物に対して魔法を使ってみてほしいんだ」
「わかりました。郊外デートですね」

 いや違うけど。指摘するとまた面倒なことになるので流すことにした。

「それでは明日の朝、俺たちの部屋に来てくれ」
「わかりました。ご主人様」

 そう言って俺はソフィアと別れて宿へ向かった。
 別れたたよな。なんで後ろからソフィアが付いてきてるの?

「何か言いたいことでもあるのか?」

 俺はソフィアに振りむいて尋ねた。

「そうですね……愛してます」
「いやそうじゃなくて、なんで後をついてきてるんだ?」
「え! だってご主人様の夕食の準備がまだじゃないですか」

 キョトンとした顔で俺を見た。そういえば、食材を買ってきてたな。

「もしかしてあれ俺たちのためか?」
「ええ、当然、そうですが?」

 ソフィアはいつも俺たちが酒場で夕飯を食べているのを知らないんだった。

「そうか、ありがとう。ただ、いつもは俺たちは酒場で夕食を食べているんだ。今後はそんなところまで気を使わないでくれ」
「わかりました」

 寂しそうにしたソフィアを見て心が痛んだが、あまり深入りされても困るしな。

「食材ももったいないし、今日はありがたくいただくよ。それとかかったお金は言ってくれ」
「お金なんていりません。それよりも一緒に食事をしてもいいですか?」

 まあ、ムサシマルは酒を飲みに行くだろうし、一人で食べる食事も味気ない。今日だけだろうし、まあいいか。

「ああ、いいよ」

 ソフィアの顔がパッと明るくなった。


 ソフィアが宿の共同キッチンに行っている間に俺はムサシマルに状況を話した。
 今日の夜は酒場に行けないこと、明日の狩りにはソフィアを連れていくことの了承を得た。
 今日の鹿でしばらくは狩に行かなくてもよいのだけれどもリーとの約束もある。だから獲物が取れなくてもよかったので、ソフィアの魔法を試すのにもちょうど良かった。

「おまたせしました。ご主人様」

 ソフィアは料理をもって部屋に入ってきた。お盆の上には兎のシチューに鳥のチーズ焼き、サラダにワインだ。
 うまそうな匂い、そして食欲を誘う香り。
 ここはお約束で塩辛いとか変な味とかなのか? 見た目通り美味いか、普通もあり得る?
 さあ、勝負!

「それではいただきます」

 俺はシチューを一口食べた。
 天使のラッパが鳴り響いた。

「美味い!!」

 そのまま、鳥肉を食べてみた。チーズと鳥肉がマッチしてこれも美味い。

「お口に合ったようで嬉しいです。なかなか、人に食べて頂くことがないので心配だったんです」
「両親はいたよな」
「ええ、この街にいるのですが、一緒に住んでないのです」

 聞いたらマズイ話か? ゼロが親子の関係に影響を及ぼしていることは、ソフィアの話から感じていたのでそれ以上、深く聞くことはしなかった。
 それから俺たちはたわいもない話しをしながら、食事を終えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪女と言われ婚約破棄されたので、自由な生活を満喫します

水空 葵
ファンタジー
 貧乏な伯爵家に生まれたレイラ・アルタイスは貴族の中でも珍しく、全部の魔法属性に適性があった。  けれども、嫉妬から悪女という噂を流され、婚約者からは「利用する価値が無くなった」と婚約破棄を告げられた。  おまけに、冤罪を着せられて王都からも追放されてしまう。  婚約者をモノとしか見ていない婚約者にも、自分の利益のためだけで動く令嬢達も関わりたくないわ。  そう決めたレイラは、公爵令息と形だけの結婚を結んで、全ての魔法属性を使えないと作ることが出来ない魔道具を作りながら気ままに過ごす。  けれども、どうやら魔道具は世界を恐怖に陥れる魔物の対策にもなるらしい。  その事を知ったレイラはみんなの助けにしようと魔道具を広めていって、領民達から聖女として崇められるように!?  魔法を神聖視する貴族のことなんて知りません! 私はたくさんの人を幸せにしたいのです! ☆8/27 ファンタジーの24hランキングで2位になりました。  読者の皆様、本当にありがとうございます! ☆10/31 第16回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。  投票や応援、ありがとうございました!

装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera
ファンタジー
※まだまだまだまだ更新継続中! ※書籍の詳細はteraのツイッターまで!@tera_father ※第1巻〜7巻まで好評発売中!コミックス1巻も発売中! ※書影など、公開中! ある日、秋野冬至は異世界召喚に巻き込まれてしまった。 勇者召喚に巻き込まれた結果、チートの恩恵は無しだった。 スキルも何もない秋野冬至は一般人として生きていくことになる。 途方に暮れていた秋野冬至だが、手に持っていたアイテムの詳細が見えたり、インベントリが使えたりすることに気づく。 なんと、召喚前にやっていたゲームシステムをそっくりそのまま持っていたのだった。 その世界で秋野冬至にだけドロップアイテムとして誰かが倒した魔物の素材が拾え、お金も拾え、さらに秋野冬至だけが自由に装備を強化したり、錬金したり、ゲームのいいとこ取りみたいな事をできてしまう。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

転生したら侯爵令嬢だった~メイベル・ラッシュはかたじけない~

おてんば松尾
恋愛
侯爵令嬢のメイベル・ラッシュは、跡継ぎとして幼少期から厳しい教育を受けて育てられた。 婚約者のレイン・ウィスパーは伯爵家の次男騎士科にいる同級生だ。見目麗しく、学業の成績も良いことから、メイベルの婚約者となる。 しかし、妹のサーシャとレインは互いに愛し合っているようだった。 二人が会っているところを何度もメイベルは見かけていた。 彼は婚約者として自分を大切にしてくれているが、それ以上に妹との仲が良い。 恋人同士のように振舞う彼らとの関係にメイベルは悩まされていた。 ある日、メイベルは窓から落ちる事故に遭い、自分の中の過去の記憶がよみがえった。 それは、この世界ではない別の世界に生きていた時の記憶だった。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。 底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。 ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。 だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。 翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

処理中です...