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第一章
二人の修行
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俺たちは街に帰ると早速、鹿肉や鳥肉を換金する。
馬のレンタル料を差し引いても十分な黒字になった。
その後は日課となった稽古をムサシマルにつけてもらった。
相変わらず全く歯が立たない。今日のレッドキャップが可愛く感じるぐらいだ。
剣だけでなく、短剣、ロープ、徒手など色々な手で稽古をつけてくれる。
目突き、急所攻撃など生き残るために卑怯という単語など無かったような攻撃。またそれに対する防御も教えてくれる。
俺の体力が切れると稽古終了である。
いつものようにしばらく大の字で体力が回復するのを待って、武具を片付ける。
俺が荷物を持って二人で宿に戻った。
宿に戻るとベッドの上には溜まっていた洗濯物が洗濯され、綺麗に畳まれていた。
部屋も綺麗に掃除され、森と稽古で汚れた俺たちが部屋に入るのを躊躇してしまう。
テーブルの上には花まで活けられていた。
ソフィアがやってくれたのはすぐにわかったが、当の本人が見当たらない。
俺たちは部屋に入る前に簡単に汚れを落とした。
「なあ、キヨよ。まさか、あの女中このままここに住み込んだりはしないじゃろうな? その時は悪いが二人でここを出て別の宿を探してくれ」
いやいや、それは困る。今は金に少し余裕はあるものの、俺の収入で二人で暮らすほどの余裕はない。
「大丈夫。ソフィアには家に帰ってもらうし、俺の魔法の効果に問題がないことがわかれば、そもそもメイドもやめてもらうから」
魔法習得という未知の技術を行った手前、なんの問題もない事を確認するまでは俺の責任だし、それの感謝で家事をしてもらうのは、彼女の心の負担にもならないために受け入れようとは思っているが、そんなに長く関わる気はない。
「ただ今戻りました。ご主人様」
部屋に人の気配を感じていたのか、ソフィアが戻ってきた。
「今日の狩りはいかがでしたか? ご主人様」
ソフィアはパンや肉、野菜などを詰めた袋を部屋の端の涼しい棚に置きながら言った。
「なあ、ソフィア。そのご主人様はやめてくれないか?」
ソフィアは目を見開いて聞き返した。
「ではなんて呼べば良いのですか? ご主人様」
「みんなが呼んでいるように、キヨで良いんだよ」
「そんな滅相もない。愛しのご主人様を呼び捨てでなど呼べません。もしもそのように呼ぶよう命令されるのであれば、あたしのことはメス豚とお呼びください。メス豚と。……あ、ちょっといいかも。さあ、お呼びください。お願い! 呼んでください、メス豚と!!」
ソフィアが何やら興奮し始めた。まずい。
「わかった、わかった。ご主人様でいいから、ソフィアはソフィアだ」
何やらソフィアは残念そうに目を伏せた。
「それでだ。昨日の魔法のおさらいと使いかたなど色々試してみて欲しいのだけど良いか?」
「ええ、もちろんです」
俺たちはムサシマルを部屋に残して外に出た。
手にした袋の中には武具屋から格安で譲ってもらったボロボロの剣と兜、それに森で拾った木切れを入れていた。
街はずれの人気の無い広場に着いた。
「じゃあ、まず確認するけど、覚えた魔法は一種類だな」
俺は袋から石と小さな木切れを取り出しながら確認した。
「はい。一種類です」
「じゃあ、まずこの石に魔法を使ってみてくれ」
地面に置いた石を指差した。
「バイブレーション!」
石はカタカタと振動し始め、徐々に振動が大きくなった。
魔法自体は昨日と変わらず発動する。
次に木切れに魔法をかけたがこれも問題なく発動した。
「まだ、マナ量は問題ないか?」
「あたしはマナ切れを体験したことがないのわかりませんが、おそらく大丈夫です」
見た目にも問題なさそうだ。ここからが本番だ。
「次はあの木の枝だ」
広場に生えている木の枝を指さした。
大ぶりの枝は少しの風でも動きそうになかった。
「わかりました。バイブレーション!」
ここがクリアできないとこの魔法の使い道が制限される。
俺は緊張して様子を見守る。
よし! 木の枝は風がないにもかかわらず、振動をしてその葉を散らしていた。
第一段階クリアだ。
「じゃあ、次は少し向こうを向いてくれ」
俺はソフィアの後ろで古い兜とそれに収まるくらいの大きさの木切れを取り出した。
木切れはすっぽり兜に収まった。それを地上に置き、ソフィアからは兜の中に木切れが見えないように兜の後ろをソフィア側に向けた。
「こちらを向いていいぞ。あの兜の中に入っているものに魔法をかけてみてくれ」
木切れと兜の隙間から予想するに魔法がきちんと発動すれば、木切れと兜がぶつかる音がするはずだ。
ソフィアが不安そうな顔をしている。
「バイブレーション!」
どうだ? 二人は静かに状況を見守った。
しばらくしても音は聞こえない。
俺は兜を取って中の木切れの状態を見たが発動していないようだ。
「すみません。失敗したみたいです」
まあ、ここまでは想定済みだ。
「大丈夫、大丈夫。気にしない。じゃあ次は中に入っているのは見ての通りこの木だ。これにさっきと同じようにこの兜をかぶせる。さっきと同じように兜の中は見えないけど、中に入っているのは木だとわかっているな。じゃあ、これでもう一度魔法をかけてみて」
先ほどと同じ状態ではあるが同じ条件ではない。
「はい」
ソフィアは静かに深呼吸して、手を兜に向けた。
「バイブレーション!」
どうだ?
カタカタカタと兜の中から音が聞こえてきた。
成功だ! やはり魔法発動の条件として魔法をかける対象を認識しないと成功しないのだな。
「成功しました!」
ソフィアは目を輝かせて、若干頭を下げておねだりしてきた。
しょうがないな。
「よくやった。さすが、ソフィアだな」
俺はそう言いながら頭を撫でてやった。
馬のレンタル料を差し引いても十分な黒字になった。
その後は日課となった稽古をムサシマルにつけてもらった。
相変わらず全く歯が立たない。今日のレッドキャップが可愛く感じるぐらいだ。
剣だけでなく、短剣、ロープ、徒手など色々な手で稽古をつけてくれる。
目突き、急所攻撃など生き残るために卑怯という単語など無かったような攻撃。またそれに対する防御も教えてくれる。
俺の体力が切れると稽古終了である。
いつものようにしばらく大の字で体力が回復するのを待って、武具を片付ける。
俺が荷物を持って二人で宿に戻った。
宿に戻るとベッドの上には溜まっていた洗濯物が洗濯され、綺麗に畳まれていた。
部屋も綺麗に掃除され、森と稽古で汚れた俺たちが部屋に入るのを躊躇してしまう。
テーブルの上には花まで活けられていた。
ソフィアがやってくれたのはすぐにわかったが、当の本人が見当たらない。
俺たちは部屋に入る前に簡単に汚れを落とした。
「なあ、キヨよ。まさか、あの女中このままここに住み込んだりはしないじゃろうな? その時は悪いが二人でここを出て別の宿を探してくれ」
いやいや、それは困る。今は金に少し余裕はあるものの、俺の収入で二人で暮らすほどの余裕はない。
「大丈夫。ソフィアには家に帰ってもらうし、俺の魔法の効果に問題がないことがわかれば、そもそもメイドもやめてもらうから」
魔法習得という未知の技術を行った手前、なんの問題もない事を確認するまでは俺の責任だし、それの感謝で家事をしてもらうのは、彼女の心の負担にもならないために受け入れようとは思っているが、そんなに長く関わる気はない。
「ただ今戻りました。ご主人様」
部屋に人の気配を感じていたのか、ソフィアが戻ってきた。
「今日の狩りはいかがでしたか? ご主人様」
ソフィアはパンや肉、野菜などを詰めた袋を部屋の端の涼しい棚に置きながら言った。
「なあ、ソフィア。そのご主人様はやめてくれないか?」
ソフィアは目を見開いて聞き返した。
「ではなんて呼べば良いのですか? ご主人様」
「みんなが呼んでいるように、キヨで良いんだよ」
「そんな滅相もない。愛しのご主人様を呼び捨てでなど呼べません。もしもそのように呼ぶよう命令されるのであれば、あたしのことはメス豚とお呼びください。メス豚と。……あ、ちょっといいかも。さあ、お呼びください。お願い! 呼んでください、メス豚と!!」
ソフィアが何やら興奮し始めた。まずい。
「わかった、わかった。ご主人様でいいから、ソフィアはソフィアだ」
何やらソフィアは残念そうに目を伏せた。
「それでだ。昨日の魔法のおさらいと使いかたなど色々試してみて欲しいのだけど良いか?」
「ええ、もちろんです」
俺たちはムサシマルを部屋に残して外に出た。
手にした袋の中には武具屋から格安で譲ってもらったボロボロの剣と兜、それに森で拾った木切れを入れていた。
街はずれの人気の無い広場に着いた。
「じゃあ、まず確認するけど、覚えた魔法は一種類だな」
俺は袋から石と小さな木切れを取り出しながら確認した。
「はい。一種類です」
「じゃあ、まずこの石に魔法を使ってみてくれ」
地面に置いた石を指差した。
「バイブレーション!」
石はカタカタと振動し始め、徐々に振動が大きくなった。
魔法自体は昨日と変わらず発動する。
次に木切れに魔法をかけたがこれも問題なく発動した。
「まだ、マナ量は問題ないか?」
「あたしはマナ切れを体験したことがないのわかりませんが、おそらく大丈夫です」
見た目にも問題なさそうだ。ここからが本番だ。
「次はあの木の枝だ」
広場に生えている木の枝を指さした。
大ぶりの枝は少しの風でも動きそうになかった。
「わかりました。バイブレーション!」
ここがクリアできないとこの魔法の使い道が制限される。
俺は緊張して様子を見守る。
よし! 木の枝は風がないにもかかわらず、振動をしてその葉を散らしていた。
第一段階クリアだ。
「じゃあ、次は少し向こうを向いてくれ」
俺はソフィアの後ろで古い兜とそれに収まるくらいの大きさの木切れを取り出した。
木切れはすっぽり兜に収まった。それを地上に置き、ソフィアからは兜の中に木切れが見えないように兜の後ろをソフィア側に向けた。
「こちらを向いていいぞ。あの兜の中に入っているものに魔法をかけてみてくれ」
木切れと兜の隙間から予想するに魔法がきちんと発動すれば、木切れと兜がぶつかる音がするはずだ。
ソフィアが不安そうな顔をしている。
「バイブレーション!」
どうだ? 二人は静かに状況を見守った。
しばらくしても音は聞こえない。
俺は兜を取って中の木切れの状態を見たが発動していないようだ。
「すみません。失敗したみたいです」
まあ、ここまでは想定済みだ。
「大丈夫、大丈夫。気にしない。じゃあ次は中に入っているのは見ての通りこの木だ。これにさっきと同じようにこの兜をかぶせる。さっきと同じように兜の中は見えないけど、中に入っているのは木だとわかっているな。じゃあ、これでもう一度魔法をかけてみて」
先ほどと同じ状態ではあるが同じ条件ではない。
「はい」
ソフィアは静かに深呼吸して、手を兜に向けた。
「バイブレーション!」
どうだ?
カタカタカタと兜の中から音が聞こえてきた。
成功だ! やはり魔法発動の条件として魔法をかける対象を認識しないと成功しないのだな。
「成功しました!」
ソフィアは目を輝かせて、若干頭を下げておねだりしてきた。
しょうがないな。
「よくやった。さすが、ソフィアだな」
俺はそう言いながら頭を撫でてやった。
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