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第一章
ダンスホール・ソフィア
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俺は早速、次の日にソフィアと約束を取り付けた。
レイティア達が野営訓練をするど真ん中の日に。
ソフィアはその日、仕事だが午後からなら大丈夫と言うことになり、待ち合わせは午後一時から、遅い昼食を食べてから出かけることにした。
東地区中央の猫像前で俺は待っていると、黒を基調とした、シックなドレスを着たソフィアが木の陰からこっちを見ている。
隠れているつもりか? こんな天気の良い暑い日に黒のドレスは悪目立ちしてるぞ。
どう言うつもりか分からず、しばらく気がつかないふりをしていたが、いい加減腹も減っていた。
「ソフィア、何してるんだ」
俺は近づいて声をかけた。
「ひゃ、あの、実は罠なんじゃないのかと? あたしが出て行った途端、周りからいっぱい人が出てきて笑われるんじゃないのかと思って、……見てました」
どんな被害妄想だよ! 俺の方が罠じゃないかと疑ってるよ。
「大体、今日はソフィアからのリクエストだろう。なんでそんなことするんだよ」
「あたしてっきり、もう二度会ってもらえないと思ってたのに、次の日にお誘いが来たので何かの罠かと」
どんな人生を歩んだらそんな発想になるんだ?
「初めは俺も迷ったけど、もうこの段階に来たら素直に楽しもうと思う。ソフィアもそうしてくれるとありがたいだけど」
「え、あ、はい。ありがと……ご」グー。
ん、腹の音? 俺じゃない。
「すみません。はしたないですよ……ね」
恥ずかしそう、お腹を押さえるソフィアを見て思わず、声を立てて笑ってしまった。
「笑ってごめん。そうだよね、俺も腹が減ってるんだ。よし、そこの屋台で何か買おう。何が良い? どこかおすすめはある?」
「あたし、こう言うところで食事したことないのでわからないんです。……ごめんなさい」
じゃあ、と兎の煮込み肉のサンドウィッチとフライドポテトを買った。
「熱いから気をつけて。いつもは食事どうしてるの?」
「ありがとうございます。いつもは家で食べるか、お弁当ですね。家の人がいつも作ってくれるので」
「そうか、でもたまには出来立てを外で食べるのも悪くないだろう」
俺がサンドウィッチにかぶりつくのを見て、ソフィアは同じようにかぶりついた。
「……美味しい!」
少し緊張が解けたのか、素直な声が弾けた。
さて、これからどうしたいかソフィアのリクエストを聞いてみた。
「あのですね。二つ行きたい所があるのです」
一つ目はダンスホールだった。実は暴漢襲われた日もダンスホールに行ってみたくて、ウロウロしてたらあんなことになったらしい。
俺も二回目で少し心に余裕がある。
「言っとくけど、俺は今日で二回目なんだ。リードは期待しないでくれよ」
ダンスも覚えないとモテないんだろうな。颯爽とリードしたいもんだ。
「いいえいいえ。あたしなんかと踊っていただけるだけで満足です。あたしもこう言うところで踊るのは初めてですし」
慣れないとやはり女性一人では入りにくいようだ。防音の関係上、外からは何やっているのか分からない分、敷居が高いようだ。
俺達は中に入るとすでに踊っている人達がチラホラといた。
ソフィアは俺の後ろに隠れながら様子を伺っている。
「どうする? そろそろ今の曲が終わりそうだけど、次から入るか?」
もうちょっと待ってと手で合図を出す。
まあ、この雰囲気に慣れるまでのんびり行くか。と飲み物を物色しようとした時、次の曲がかかった。
前に来た時にも流れていた、スローステップの曲。
確か、歌姫の悲恋を歌った曲だと教えてもらった気がする。
突然、ソフィアは俺を引っ張ってホールに入る。
ちょっと待て! こっちの心の準備が出来てないよ。
「この曲が好きなの?」
俺はソフィアを引き寄せながら耳元で問いかける。
「ごめんなさい。いきなりこの曲が流れるとは思わなくて、体が勝手に動いちゃいました」
「大丈夫。この曲なら踊ったことがあるから、少しはマシかも」
マシかもじゃない。レイティアもダンスはやった事があると言っていたが、基本的に相手も踊れる前提で素人の俺相手だとやっとというところだ。
ソフィアはダンスの先生か何かか? 全身をうまく使い自然に次にどう動くかリードしてくれる。踊り易さが尋常でない。ど素人の俺がこんなに踊れるはずがないに踊れているのですぐ分かるが、少し踊れる奴だと自分が急に上手くなったと勘違いするだろう。これでダンスホールに来た事が無いってどう言うことだ?
「ダンスホールに来たことが無いって嘘だろう。ものすごく上手じゃないか」
「憧れだったんです。男の人とダンスホールに行くって憧れがあったんです。なので練習だけは……」
どれだけ練習すればこのレベルになるんだろう?
数曲踊るとお互い、汗が出てきた。
体を寄せるたびにソフィアの甘い体臭が俺を包む。
腕と体全体に感じる柔らかな肢体の感触。
ソフィアははじめにダンスホールに入った時のような消極さが無く、のびのびと踊っているように見える。
アップテンポ、スローステップどんな曲にも対応している。どれだけ憧れていたのか?
さらに数曲踊るもそろそろソフィアの体力に限界が来たようだ。
レイティア達に比べると体力なさそうだものな。
「さて、もう一つ行きたい所はどこ?」
俺は水で喉を潤しながら聞いた。
「もう一つは酒場」
レイティア達が野営訓練をするど真ん中の日に。
ソフィアはその日、仕事だが午後からなら大丈夫と言うことになり、待ち合わせは午後一時から、遅い昼食を食べてから出かけることにした。
東地区中央の猫像前で俺は待っていると、黒を基調とした、シックなドレスを着たソフィアが木の陰からこっちを見ている。
隠れているつもりか? こんな天気の良い暑い日に黒のドレスは悪目立ちしてるぞ。
どう言うつもりか分からず、しばらく気がつかないふりをしていたが、いい加減腹も減っていた。
「ソフィア、何してるんだ」
俺は近づいて声をかけた。
「ひゃ、あの、実は罠なんじゃないのかと? あたしが出て行った途端、周りからいっぱい人が出てきて笑われるんじゃないのかと思って、……見てました」
どんな被害妄想だよ! 俺の方が罠じゃないかと疑ってるよ。
「大体、今日はソフィアからのリクエストだろう。なんでそんなことするんだよ」
「あたしてっきり、もう二度会ってもらえないと思ってたのに、次の日にお誘いが来たので何かの罠かと」
どんな人生を歩んだらそんな発想になるんだ?
「初めは俺も迷ったけど、もうこの段階に来たら素直に楽しもうと思う。ソフィアもそうしてくれるとありがたいだけど」
「え、あ、はい。ありがと……ご」グー。
ん、腹の音? 俺じゃない。
「すみません。はしたないですよ……ね」
恥ずかしそう、お腹を押さえるソフィアを見て思わず、声を立てて笑ってしまった。
「笑ってごめん。そうだよね、俺も腹が減ってるんだ。よし、そこの屋台で何か買おう。何が良い? どこかおすすめはある?」
「あたし、こう言うところで食事したことないのでわからないんです。……ごめんなさい」
じゃあ、と兎の煮込み肉のサンドウィッチとフライドポテトを買った。
「熱いから気をつけて。いつもは食事どうしてるの?」
「ありがとうございます。いつもは家で食べるか、お弁当ですね。家の人がいつも作ってくれるので」
「そうか、でもたまには出来立てを外で食べるのも悪くないだろう」
俺がサンドウィッチにかぶりつくのを見て、ソフィアは同じようにかぶりついた。
「……美味しい!」
少し緊張が解けたのか、素直な声が弾けた。
さて、これからどうしたいかソフィアのリクエストを聞いてみた。
「あのですね。二つ行きたい所があるのです」
一つ目はダンスホールだった。実は暴漢襲われた日もダンスホールに行ってみたくて、ウロウロしてたらあんなことになったらしい。
俺も二回目で少し心に余裕がある。
「言っとくけど、俺は今日で二回目なんだ。リードは期待しないでくれよ」
ダンスも覚えないとモテないんだろうな。颯爽とリードしたいもんだ。
「いいえいいえ。あたしなんかと踊っていただけるだけで満足です。あたしもこう言うところで踊るのは初めてですし」
慣れないとやはり女性一人では入りにくいようだ。防音の関係上、外からは何やっているのか分からない分、敷居が高いようだ。
俺達は中に入るとすでに踊っている人達がチラホラといた。
ソフィアは俺の後ろに隠れながら様子を伺っている。
「どうする? そろそろ今の曲が終わりそうだけど、次から入るか?」
もうちょっと待ってと手で合図を出す。
まあ、この雰囲気に慣れるまでのんびり行くか。と飲み物を物色しようとした時、次の曲がかかった。
前に来た時にも流れていた、スローステップの曲。
確か、歌姫の悲恋を歌った曲だと教えてもらった気がする。
突然、ソフィアは俺を引っ張ってホールに入る。
ちょっと待て! こっちの心の準備が出来てないよ。
「この曲が好きなの?」
俺はソフィアを引き寄せながら耳元で問いかける。
「ごめんなさい。いきなりこの曲が流れるとは思わなくて、体が勝手に動いちゃいました」
「大丈夫。この曲なら踊ったことがあるから、少しはマシかも」
マシかもじゃない。レイティアもダンスはやった事があると言っていたが、基本的に相手も踊れる前提で素人の俺相手だとやっとというところだ。
ソフィアはダンスの先生か何かか? 全身をうまく使い自然に次にどう動くかリードしてくれる。踊り易さが尋常でない。ど素人の俺がこんなに踊れるはずがないに踊れているのですぐ分かるが、少し踊れる奴だと自分が急に上手くなったと勘違いするだろう。これでダンスホールに来た事が無いってどう言うことだ?
「ダンスホールに来たことが無いって嘘だろう。ものすごく上手じゃないか」
「憧れだったんです。男の人とダンスホールに行くって憧れがあったんです。なので練習だけは……」
どれだけ練習すればこのレベルになるんだろう?
数曲踊るとお互い、汗が出てきた。
体を寄せるたびにソフィアの甘い体臭が俺を包む。
腕と体全体に感じる柔らかな肢体の感触。
ソフィアははじめにダンスホールに入った時のような消極さが無く、のびのびと踊っているように見える。
アップテンポ、スローステップどんな曲にも対応している。どれだけ憧れていたのか?
さらに数曲踊るもそろそろソフィアの体力に限界が来たようだ。
レイティア達に比べると体力なさそうだものな。
「さて、もう一つ行きたい所はどこ?」
俺は水で喉を潤しながら聞いた。
「もう一つは酒場」
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