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1章
9.忍び寄る影
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学長室の扉を軽く数度叩く。
「失礼します」
一言断り入室した僕を出迎えたのは高級感漂う椅子に腰掛けるアガレスと──その横に立つ赤髪の中年ローズルだった。
「ふぉっふぉっふぉ、どうやら早々にやってしまったようじゃのぉ」
「まったく相手にも問題はあるとはいえ、さすがにあれはやりすぎだ。そうじゃない奴らもいたかも知れないだろう」
もう既に知られていることは何となく察していたが、1つだけ疑問が残る。
それは──
「その件は本当に悪いと思っています。ですが1つだけ言わせてください。……なんでこんなところにいるんですか?」
デジャブである。
昨夜と同じように冷たい視線を浴びせる僕にアガレスからストップがかかる。
「まあ、待て。今回はわしがこやつを読んだのじゃ。昨日のモンスター討伐でこやつが取った行動について問おうと思っての」
「そうでしたか。……ローズルさん、すいま……あれ?……結局この人が悪いじゃないですか」
「うむ?……おお!確かにその通りじゃな。こりゃ1本取られたわい!」
一瞬ポカンとしてから豪快に笑い出すアガレスに、能力を使った方がいいのではないか、と思ってしまうが、さすがに失礼しすぎるので内に留める。
それはその直後に起こった。
「アガレスのオッサン、遂にボケたんじゃないの?能力が上手く働いてないんだけど」
ケラケラと笑うローズル。額に青筋を浮かべるアガレス。
「ふむ、お主には説教の前に教育が必要なようじゃの」
直後、強大な光で染まる視界。
そして、光が収まったとき、そこにはアガレスと僕、そして赤ちゃんとなってしまったローズルがいた。
「このくらいで勘弁してやるかの」
再び起こる強力な光。
次の瞬間には間抜けな声で叫ぶ元のローズルがいた。
「「今のは……?」」
偶然にも僕とローズルの声が重なる。同じことを考えたからだろうか。
しばしの沈黙。
2人の喉を鳴らす音が激しい自己主張をみせる。
そして遂にアガレスからその真相が語られる。
「簡単なことじゃ。わしの権能、『時』でローズルを赤子まで遡らせたのじゃ」
「「怖っ!!」」
珍しく息ピッタリの2人である。
「……因みにどんな感じだったんですか?」
僕は好奇心に任せ、ローズルに赤ちゃんになる感覚を尋ねてしまう。
後に僕はこの判断をとても後悔することになる。
数分後。
学長室にはできるだけアガレスから距離を取り、部屋の隅でカタカタと震える僕がいた。
「心配せんでも良い。お主には使わん、と言うよりも使えん」
「え?それはどういう──」
「さて、それではオズ君、お主の話を聞こうかの。教室に戻ってもとても授業を行える状況ではないからの」
無理やり話を変えられた気がしないでもないが、それを言われると弱い。結局、意味深な発言については追求出来ずに話が進む。
「実は最近、自分が上手くコントロール出来ないといいますか、感情の起伏が激しいんです」
「思春期じゃな!」
「思春期だな!」
相談する相手間違えたかも……。
そう思わずにはいられない、仲良くサムズアップする2人に大英雄と語り継がれる威光も、長年、上位の守護者に君臨し続けている威厳も想起することは出来ない。
「この年頃の男女全員があんなことするとか、怖すぎるでしょう。どこの世界の世紀末ですか」
「冗談じゃよ、しかし難儀な問題じゃな。もう少し詳しく教えてもらえるか?」
「わかりました。と言っても、上手く説明できる自信はありませんけどね。……詳しく言いますと、力が溢れているような感じなんです。どんどんと力が漲ってきて、遂には僕という器の外、管理が行き届かないところまで溢れてしまうんです」
「その溢れたものが今朝のあれということか……」
アガレスは腕を組み、真剣な表情で考え出す。
長い金髪が朝日に照らされ、美しく輝いていた。
隣に立つローズルも一緒に考えてくれている。
鮮やかな赤髪とくすんだ赤眼が朝日に照らされる姿はどこかみすぼらしく汚い。
両極端な2人だが、どちらとも僕のことを大切に思ってくれていることに嬉しく思う。
「すまんのぅ、わしの手にはちと余るわい。何しろ唯一の後天性守護者だからのぅ、わしら以上に謎に包まれておる。お主の言う通り、お主の行動はただの思春期と片付けるにはいき過ぎておる。だが、わしの人生もそろそろ1000を数える年になるが、そのような経験はないしのぅ。力になれなくて悪かったのぅ」
「いえ、気にしないでください。僕自身の問題なんです、学園長が気にする必要はありませんから」
そう言いながらもローズルに縋るような視線を送るが、返答は両手を上に上げた所謂降参のポーズであった。
国立魔英学園の2階の端。オズが通う教室では多くの人が行き交っていた。
オズの放った殺気によって気絶してしまった生徒が保健室へと運び込まれているのである。
担架に乗せられ運ばれる者やなんとか意識を取り戻した者、1-Aの者が次々と移動していた。
そんな中、気絶することのなかった2人の猛者は互いにオズへの復讐を誓いあっていた。
「くそがッ!なんなんだよあいつ、世界で唯一の後天性守護者だかなんだか知らねえけどよぉ、いきなりこんなことするなんてどんなサイコパスだよ!」
「まったくだな。あんな危ない奴と1年間も一緒にこの学び舎で過ごさなくてはならないとは……」
「何言ってんだ、あんな奴すぐさま上位の守護者様たちが捕らえて、牢屋行きに決まってんだろ!」
「……それもそうであるな。しかしパズズ殿、それでは皆の怒りは何処へ?」
パズズと呼ばれた少年は立ち上がり、筋肉質な男子生徒、べモスに叫ぶ。
「それを今から考えようって言ってんじゃねぇかッ!」
そうして息巻く2人だが、悲運なことに2人ともお世辞にも頭が良いとは言えない。3人寄れば文殊の知恵と言うが、この2人の場合、その倍がいてようやくといったところだろう。
守護者としての能力だけは高い2人が出す提案はどれも力任せなものばかり。
結局、いつまで経ってもいい案が出てくることはなかった。
しかし、そんな2人に忍び寄る1つの影があった。誰にも気付かれることなく動くその影のあとに残るものは何もない。
その影は果たして2人に忍び寄ったのか、それともこの都市に忍び寄っていたのか、今はまだ神のみぞ知るである。
「失礼します」
一言断り入室した僕を出迎えたのは高級感漂う椅子に腰掛けるアガレスと──その横に立つ赤髪の中年ローズルだった。
「ふぉっふぉっふぉ、どうやら早々にやってしまったようじゃのぉ」
「まったく相手にも問題はあるとはいえ、さすがにあれはやりすぎだ。そうじゃない奴らもいたかも知れないだろう」
もう既に知られていることは何となく察していたが、1つだけ疑問が残る。
それは──
「その件は本当に悪いと思っています。ですが1つだけ言わせてください。……なんでこんなところにいるんですか?」
デジャブである。
昨夜と同じように冷たい視線を浴びせる僕にアガレスからストップがかかる。
「まあ、待て。今回はわしがこやつを読んだのじゃ。昨日のモンスター討伐でこやつが取った行動について問おうと思っての」
「そうでしたか。……ローズルさん、すいま……あれ?……結局この人が悪いじゃないですか」
「うむ?……おお!確かにその通りじゃな。こりゃ1本取られたわい!」
一瞬ポカンとしてから豪快に笑い出すアガレスに、能力を使った方がいいのではないか、と思ってしまうが、さすがに失礼しすぎるので内に留める。
それはその直後に起こった。
「アガレスのオッサン、遂にボケたんじゃないの?能力が上手く働いてないんだけど」
ケラケラと笑うローズル。額に青筋を浮かべるアガレス。
「ふむ、お主には説教の前に教育が必要なようじゃの」
直後、強大な光で染まる視界。
そして、光が収まったとき、そこにはアガレスと僕、そして赤ちゃんとなってしまったローズルがいた。
「このくらいで勘弁してやるかの」
再び起こる強力な光。
次の瞬間には間抜けな声で叫ぶ元のローズルがいた。
「「今のは……?」」
偶然にも僕とローズルの声が重なる。同じことを考えたからだろうか。
しばしの沈黙。
2人の喉を鳴らす音が激しい自己主張をみせる。
そして遂にアガレスからその真相が語られる。
「簡単なことじゃ。わしの権能、『時』でローズルを赤子まで遡らせたのじゃ」
「「怖っ!!」」
珍しく息ピッタリの2人である。
「……因みにどんな感じだったんですか?」
僕は好奇心に任せ、ローズルに赤ちゃんになる感覚を尋ねてしまう。
後に僕はこの判断をとても後悔することになる。
数分後。
学長室にはできるだけアガレスから距離を取り、部屋の隅でカタカタと震える僕がいた。
「心配せんでも良い。お主には使わん、と言うよりも使えん」
「え?それはどういう──」
「さて、それではオズ君、お主の話を聞こうかの。教室に戻ってもとても授業を行える状況ではないからの」
無理やり話を変えられた気がしないでもないが、それを言われると弱い。結局、意味深な発言については追求出来ずに話が進む。
「実は最近、自分が上手くコントロール出来ないといいますか、感情の起伏が激しいんです」
「思春期じゃな!」
「思春期だな!」
相談する相手間違えたかも……。
そう思わずにはいられない、仲良くサムズアップする2人に大英雄と語り継がれる威光も、長年、上位の守護者に君臨し続けている威厳も想起することは出来ない。
「この年頃の男女全員があんなことするとか、怖すぎるでしょう。どこの世界の世紀末ですか」
「冗談じゃよ、しかし難儀な問題じゃな。もう少し詳しく教えてもらえるか?」
「わかりました。と言っても、上手く説明できる自信はありませんけどね。……詳しく言いますと、力が溢れているような感じなんです。どんどんと力が漲ってきて、遂には僕という器の外、管理が行き届かないところまで溢れてしまうんです」
「その溢れたものが今朝のあれということか……」
アガレスは腕を組み、真剣な表情で考え出す。
長い金髪が朝日に照らされ、美しく輝いていた。
隣に立つローズルも一緒に考えてくれている。
鮮やかな赤髪とくすんだ赤眼が朝日に照らされる姿はどこかみすぼらしく汚い。
両極端な2人だが、どちらとも僕のことを大切に思ってくれていることに嬉しく思う。
「すまんのぅ、わしの手にはちと余るわい。何しろ唯一の後天性守護者だからのぅ、わしら以上に謎に包まれておる。お主の言う通り、お主の行動はただの思春期と片付けるにはいき過ぎておる。だが、わしの人生もそろそろ1000を数える年になるが、そのような経験はないしのぅ。力になれなくて悪かったのぅ」
「いえ、気にしないでください。僕自身の問題なんです、学園長が気にする必要はありませんから」
そう言いながらもローズルに縋るような視線を送るが、返答は両手を上に上げた所謂降参のポーズであった。
国立魔英学園の2階の端。オズが通う教室では多くの人が行き交っていた。
オズの放った殺気によって気絶してしまった生徒が保健室へと運び込まれているのである。
担架に乗せられ運ばれる者やなんとか意識を取り戻した者、1-Aの者が次々と移動していた。
そんな中、気絶することのなかった2人の猛者は互いにオズへの復讐を誓いあっていた。
「くそがッ!なんなんだよあいつ、世界で唯一の後天性守護者だかなんだか知らねえけどよぉ、いきなりこんなことするなんてどんなサイコパスだよ!」
「まったくだな。あんな危ない奴と1年間も一緒にこの学び舎で過ごさなくてはならないとは……」
「何言ってんだ、あんな奴すぐさま上位の守護者様たちが捕らえて、牢屋行きに決まってんだろ!」
「……それもそうであるな。しかしパズズ殿、それでは皆の怒りは何処へ?」
パズズと呼ばれた少年は立ち上がり、筋肉質な男子生徒、べモスに叫ぶ。
「それを今から考えようって言ってんじゃねぇかッ!」
そうして息巻く2人だが、悲運なことに2人ともお世辞にも頭が良いとは言えない。3人寄れば文殊の知恵と言うが、この2人の場合、その倍がいてようやくといったところだろう。
守護者としての能力だけは高い2人が出す提案はどれも力任せなものばかり。
結局、いつまで経ってもいい案が出てくることはなかった。
しかし、そんな2人に忍び寄る1つの影があった。誰にも気付かれることなく動くその影のあとに残るものは何もない。
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