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冒険道中編

6.盗賊の被害者。護衛の必要性

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 俺はその姿を見て目を見開いた。

「子供??」

 馬車を止めた声の主は子供だった。

 いや、子供といっても幼児というわけではない。
 精々俺の二つか三つほど歳が下ぐらいの少年だ。

 だが、盗賊にしてはあまりにも若々しく、若者にしては表情が焦燥に満ちていた。
 まるで何かが訪れる事を恐れるようなそんな顔をしていた。

 周りにはその少年以外誰もいない。正確に言うならば姿を見せているのはその少年のみで他は息を潜めて俺たちを囲んでいる。

「命は取らない。代わりに馬車をそのまま置いていけ!!」

 焦燥に満ちた少年はそう言い放った。

 俺に庇われるように立って、平然としているフロゾを見やると俺の視線に気付いたのか目があった。

 俺は少年に気づかれぬように目でフロゾと会話をする。

 盗賊に遭遇した時に決めた合図だ。
 即席だが四つほど決めてある。

『逃走』-二度の瞬き。

『捕縛』-片目を瞑る。

『交渉』-じっと睨む。

『殺傷』-目をしばらく瞑る。

 俺は片目を瞑る。

 だがフロゾはそんな俺をじっと見つめていた。

 俺とフロゾは小さくコクリと頷いて少年を見やる。

『交渉』だ。

 交渉をするのはフロゾだ。

 俺は威嚇を込めて軽く刀に手を付けた。

 すると少年や隠れた周りの気配から緊張が走るのを感じた。

 こちらは2人は全く焦っていないで、盗賊側が焦るという、なんとも珍妙な雰囲気が流れた。

「て、抵抗しても無駄だ!お前達が2人だけだというのは知っている!!こっちはお前達を包囲している!」

 少年が叫ぶように言うと、木陰から足元に向かって弓矢が放たれた。

 放たれた弓を見ると少年は少し落ち着きを取り戻したようだった。

 そこでフロゾはようやく口を開いた。

「何が目的だ盗賊。こちらにも馬車を奪われるわけにもいかない理由がある」

「お前らの馬車の中にある食料と衣類。それで命を助けてやる!」

 少年の表情を見る限り何か止むに止まれぬ理由があるようだ。
 だからと言って略奪の限りを許せると言う話ではないのだが。

「…この荷物は村に届けるための大切な商品だ。君たちに渡すためのものではない」

 フロゾは冷静に淡々と答える。

 こちらにも渡せぬ理由がある。村には商品を楽しみにしている人々はたくさんいるだろうから。

「それは…だが!お前らが渡さぬのなら力尽くでいかせてもらうぞ!!」

 少年の瞳は一瞬、若干の決意の揺らぎを見せ、すぐに宿命を感じるような表情に戻った。

 錆びつきのある安物の剣を俺たち二人に構える。

「…襲われては商品を届けられなくなってしまうな。…どうだろう、少しの商品で手を打ってくれないだろうか?」

 フロゾは思案げに刃を構える少年に言った。

 渡すのか?相手は少年だが、盗賊だぞ。
 俺はフロゾのその言葉に少し顔をしかめる。


 俺はここを切り抜けるだけの力を持っているつもりだ。
 見た所、この盗賊達は人を襲うのは初めてだと言うことは明らかだ。
 ここでこのような対応をしてしまえば相手もそれで味をしめてしまうのでは?
 考えすぎかもしれないがそれは互いに悪影響ではないだろうか。
 この盗賊達は同じ手で俺達じゃない他の商人を襲ったとしても確実に討ち取られるだろう。
 いくら集団でも成人にもなっていない少年が護衛を募った商人に勝つ事は天と地がひっくり返らない限り無理だろう。

 盗賊には強者はいない。たまに騎士崩れや冒険者崩れがいるようだが基本は村人の集団だ。
 強い者は成功する。盗賊になる必要がないからだ。
 さらにこの少年は盗賊のような残虐さを持ち合わせていない。
 わざわざ馬車を大声上げて止めてしまうような少年だ。

盗賊ならば何も言わずに奇襲で殺して奪う。それくらいできなきゃな。

 って何考えてんだ俺は!

 とにかくここで施しを与えるような事をしていてもいいのか俺には判断ができなかった。

 フロゾには何か勝算があるのだろうか?

 俺が悩む間、少年も悩んだでいたようで剣を構える少年の額には汗が噴き出していた。

 そして何か結論に至ったのか剣を持っている方とは逆の腕で額の汗を拭った。

「…わかった。それでいい。どのくらいの量渡せる」

 結果はフロゾの提案に了承したようだ。

「渡す量はこれから話し合いで決めるべきだ。一度私の荷馬車を見て決めてくれ。なるべく譲歩するつもりだ」

 フロゾは馬車の荷台を指差して、少し微笑み交じりにそう言った。

「…わかった」

 少年はフロゾの言葉に従い、剣を構えたまま恐る恐る荷台へ近づいて行く。

 必然的に俺達に近づいていく少年。

 ある一定の距離まで近づくと、フロゾが馬車の後方の荷台へ案内する。

 荷台の中を見るために少年は握っている剣を下に降ろした。

 その時だった。

「ふっ…!!」

 バチンッ!!

 カランッ

 ギュッ!!


 俺は本日二度目の目を見開いた。

 急にフロゾが荷台に近づいたと思ったら、少年の手首に手刀を落とし、剣を離させ、油断しきった少年を羽交い締めにしたのだ。

 俺はその一瞬の光景に目を疑いぽかんとしているとフロゾは馬車を背にして叫んだ。

「仲間の命が惜しければ一人残らず姿を現せ!!さもなくばこいつを殺すぞ!!」

 ????

「えぇ、」

 思わず声が出てしまう。


 フロゾ。君はなんでそんなに盗賊っぽいことが言えるんだい?
 羽交い締めにされている少年はバタバタと暴れているがフロゾは無属性魔法で身体強化をしているらしくガッチリとロックして動かない。

「姿を現さないのか?…ならば…!!」

「やめろぉぉぉ!!トーリ兄ちゃんをはなせぇぇ!!」

 森の茂みから少年よりもさらに小さな少年が飛び出してきた。
 
 それを機に次々と小さな少年が茂みから飛び出す。

 数にして18人。

 羽交い締めにされている少年含めて19人。

 全員が12、3歳ぐらいの少年達でこちらに敵意を向けていた。

「…ゆうた」

 ギチギチと少年を締めているフロゾが俺に話をかけた。

 話の内容は大体察しがつく。

「一人足りない」

 俺はフロゾが求めているであろう答えを端的に言う。

「…そうか。ならばこの少年の命は…」

 ガサガサッ!

「ま、待つでやんす!!」

 今度は森の木の上から俺と同い年くらいの弓を持った男が出てきた。

 出てきたところから察するに先ほど弓を放ったのはこの男だろう。

「ジョニー!!俺のことは放っておけ!ガキども連れて逃げろ!!」

 弓を持つ男は少年の叫びを何も聞こえないかのように無視してフロゾを見つめる。

「…何がのぞみでやんす」

 苦虫を噛み潰したような顔でフロゾに問う。

 フロゾは小さく笑みを浮かべた。

 フロゾの持って生まれたキリッとしたクールな顔立ちが今の状況で微笑むと冷たく笑う恐怖の女王のようだった。

「話が早くて助かるよ。しようじゃないか。ジョニー殿」


 俺は今起きている事象に全くついていくことができず、ただ今の状況をボーッと眺めていることだけしかできないのだった。

 誰か説明してくれ。
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