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冒険道中編
5.護衛に強襲。結界は必要でした
しおりを挟む護衛依頼5日目。
馬車は変わらず森の中をかけていた。
今は昼で昼休憩を挟んでいた。
天気も昨日の雨が嘘のように晴れ渡り明るい日差しが森の木々をすり抜けて俺のいる場所を照らす。
神々しいとまで思われるような自然と作られた木漏れ日の幻想的な光景を見る俺は感心したように笑みを浮かべていた。
いい景色だ。実際はただの森ではあるものの、俺の知っている森は強大な魔物が蔓延り、こんなか細い木ではなく最もぶっとくて色が濃い化け物みたいな森しか知らなかったから。
光なんて物はあの森では通らない。唯一光を浴びられる山は幽霊がいるし重力で体が重くなる。
少し離れれば聖獣とか言う化け物が殺しにかかってくる。
あの普通じゃない光景が当時の俺にとって普通だった。
だからこの普通の森は俺にとって特別な森のように感じるのだ。
みんなからすれば反対な印象を抱くだろうけど…
「そろそろ行こう。この調子なら明日の昼には着きそうだ。少しでも早く着いた方が楽でいいだろう?」
景色を楽しみ昔の思い出を懐かしんでいると後ろから声をかけられた。
声の主は護衛依頼の依頼主のフロゾ。
先程まで俺から離れた場所で一人でどっかに行っていたのだが、帰ってきたみたいだ。
護衛だってべったりとくっついているわけじゃない。
依頼主にもひとりの時間をしっかりと作る。
それが女性ならば尚のことである。
汚い話、用を足すのにべったりと護衛がいたら気持ちが悪い。
だからフロゾが無言で離れていっても「どこいくんだ?」とかは言わないし、帰ってきたときに「どこ行ってたんだ?」なんて絶対に言わない。
だが俺は警戒を怠っていない。気配で居場所が大体わかるので何かあったらすぐ駆けつけられるようにはしている。
今は結界も張っていないので魔物に襲われる可能性も微力ながらあるしな。
俺は座っていた腰を上げて馬車の荷台へ座った。
・
・
・
それから2時間程が経った頃だった。
「フロゾ、近くに人の反応がある」
俺の気配察知が人の気配を捉えた。
「森に迷い込んだ人か?距離はどのくらいだ?」
俺の言葉に何も疑う事なく少し緊張した声色で聞く。
「人数は5人。迷い込んだって言うのは考えづらい。距離はまだ大分先だ。あっちはまだ馬の足音すら聞こえてないよ」
「んー、ホテト村の冒険者かな…ここから足の速い馬なら半日くらいで着く距離だし。あるいは…」
「盗賊…か」
俺は言葉を続けようとするフロゾと同じ言葉を放つ。
フロゾも小さく「うん」と頷いていた。
「最近は物騒だからな。盗賊7:冒険者3くらいの確率だろう。ゆうたはどっちだと思う?」
フロゾは焦りがないのか少し冗談めかしくそんな事を言い出す。
「おいおい、何でそんな余裕出してんだ!盗賊だったらどうすんだ!」
仮にもフロゾは女性の商人。盗賊にとって全て盗める最高の獲物にしか見えないだろう。
なのにフロゾは余裕をかましている。少しくらい危機感というものを持って欲しい。
「ゆうたも盗賊だと思うか?私も同意見だ勘だがね」
と俺の大きく上げた声をのらりと躱してそんな事を言う。
「あのなー、昨日も思ったが少しは危機感をだな…」
「私が盗賊に襲われる時は護衛のゆうたが死ぬ時だ。そうだろう?冒険者殿」
「ぐっ」
俺は言葉を詰まらせてしまう。
護衛依頼を受けている俺は何が何でもフロゾを守らなければならない。
たとえそれが盗賊だろうが何だろうがフロゾが行くところでフロゾを脅かすものがあれば俺がフロゾをそれらから守らなければならないのだ。
三週間の間はそういう依頼の契約をしている。
フロゾはそれを知っているからか盗賊かもしれないと聞かされても怯えるような反応はしなかった、寧ろ楽しんでさえいた。
いや、信頼されているのはわかるんだけどなぁ。俺が死んだらフロゾも死ぬって意味だからなそれ。
「…はぁ、わかった。冒険者だったらそのまま、盗賊だったらフロゾと荷物を守るよ。それでいいか?」
俺は少し考えて呆れたようにそう提案する。
すると肩を少しだけ揺らして弾むような口調で
「それは頼もしい!頼りにしているよ」
と、言いやがる。
顔は御者をしているので見えないがその口調は明らかに笑っていることを示していた。
ああ、俺はやばい奴のやばい依頼を受けてしまったのか。
「受ける依頼を間違えた…」
そうボソリと俺が呟くとそれを聞かれていたからなのか、馬車がぐわんと揺れた。
フロゾが急に馬車の速度を上げたからだ。
心なしかフロゾの背中もスッと冷たいオーラが放たれていた気がする。
・
・
・
・
・
あれから更に一時間ほどが経った。
時計の時刻で示すなら3時ごろだろうか。
大分進んだ結果感じていた気配が盗賊だと言う事に気付いた。
だって。
「フロゾ。囲まれてる。数20。どうしてくれんだ?」
馬車を円のように囲み、近づかず離れずの距離を保つ20の気配があった。
20人で行動をする冒険者はいないし、わざわざ気づかれないように馬車を囲んで追う冒険者もいない。
もちろん俺は気配が増えるたびに逐一フロゾに報告をしていた。
しかしフロゾは何かにかられるように道を迂回せずに進んでいった。
その結果がこれである。
どうしてくれるんだと弁明を求める俺に対してフロゾは
「ゆうた、ごめん。でもなんか違和感を感じるんだ。このまま進んでもいいか?」
フロゾは俺に反省の意を示しながらも何かを感じ取ったみたいだった。
「違和感?」
「ああ、だっておかしいだろ?これだけの…」
「そこの馬車止まれ!!!」
フロゾの言葉はそんな怒号のような叫び声によって閉ざされた。
走行中の馬車を止めて俺は荷台から降りてフロゾを守るように外へ出る。
そして声の主を睨みつけた。
俺はその声の主の姿を見て目を見開いた。
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