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勇者召喚編
22.乙女の冒険者生活。これが冒険者?
しおりを挟む私達が冒険者になって3日が経った。
私の体の体調もだんだん良くなってきていて、前の世界の中学二年生の女子には喧嘩で勝てるくらいには回復していた。
そんな私と夕日と伊織の3人でギルドの掲示板を覗いていた。
鉄級冒険者から銅級冒険者になる為だ。
鉄級冒険者の依頼の殆どがお手伝いのような仕事だったりするので、報酬が少ない。
ミリアさんが借りてくれた宿を借り続ける為にも、もっとお金を稼がなくちゃいけないので良い依頼を探していたのだ。
ミリアさんにも、お金を返さなきゃいけないし。
「ねぇ、ナツ、ユウ。この依頼なんてどう??」
良い感じの依頼を探していた私に、掲示板の右側を探すのを担当していた伊織がある一つの依頼の紙を指差して見せた。
『新しくできる飲食店の手伝い』
ーー報酬:10万メダ。
「じ、10万メダ!!?」
飲食店の手伝いをするだけで10万メダ!?
怪しい!!怪しすぎる!!
10万メダをたった1日で手に入るなんてうまうまな依頼が鉄級にあるなんて!!
しかも手伝い!!何手伝わせる気なんだ!!
「10万メダ!?すごいじゃん!!受けようよ!ナツナツ!」
10万という報酬を見て元気にそう言う、夕日。
いや、元々元気だね。
「待ってよユウ、イオ。飲食店の手伝いで10万メダは怪しい臭いがプンプンしない??そんな即決なんてしちゃダメだよ」
「でも他に良い依頼はこっちには見当たらなかったし、宿代だってこれを受ければ余裕ができるよ」
伊織が言った。
二人はこれを受けるつもりらしい。
伊織の言い分も一理ある。
ミリアさんに宿代を一週間分払ってもらったけれど、もう、一週間は経っていて。3人で手分けして依頼を何個かこなしてやっと1泊できると言うその日暮らしの生活にこれからはなる。
それを考えれば、7,000メダの猫探しとか、5,000メダの井戸の水汲みを数度やるよりもこの怪しい依頼を受けた方がいいのではないかと思ってしまう。
結局、2人に説得されてこの依頼を受ける事にした。
・
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ギルドを出て、依頼の紙に書いてあった地図の場所。
つまり手伝うお店に前に、私達は立っていた。
「ここが依頼にあった新しく作る飲食店??」
伊織の問いかけにすぐに私が答える。
「うん、ここで合ってるよ。看板にもちゃんと『ヤーミーズ-2号店』って書いてあるし」
目の前に建っている建物は木造で作られたカフェのようなお店で、入り口には扉は無く、中の様子が少しだけ伺えるような開放的な造りをしていた。
「それにしても2号店って1号店が結構売れたのかな」
なんて会話をしつつ中へ入る。
ヤーミーズ-2号店の内装はやはりカフェの様に作られていて、バーカウンターの様な場所と少し位置の高い椅子と丸いテーブルが数脚置いてあった。
全て真新しく出来ていて、キラキラして見えた。
「すみませーん!!依頼で来た者なんですけどー!」
夕日が大声で叫んでみるとカウンターの裏側の方からぬるりと男の人が出てきた。
男の人は制服なのかかっちりめの白布の服にエプロンを着けているが、ガタイがいいからなのか、アンバランスな雰囲気を醸し出していた。
「ああ、君たちが依頼を受けてくれたのか!!3人もいるじゃないか!!ありがとう!!おっと!俺の名前はヌーノだ。ここのマスターだ。よろしく頼む」
ヌーノさんはエプロンで手をゴシゴシとしてから私達に握手を求めてくる。
「よろしくお願いします。ナツです」
「ユウです!」
「い、イオです」
挨拶と簡単な自己紹介をして、仕事の内容を聞く。
「まあ、お手伝いって言っても簡単な仕事だ。安心してくれ!」
「荷物の運搬とかですか?」
「いいや、荷物の運搬はもう終わってるさ、掃除も道具は新品だからする必要もない」
「じゃあ、何をするんですか?」
そう聞くと、ヌーノさんはニヤリと広角を釣り上げて怪しく笑う。
「なぁに、簡単な仕事さ!」
・
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・
私達は今、街の広場に立っていた。
人がたくさん私たちの事を見ている。
恥ずかしい!!くぅぅ!!
なんで恥ずかしがっているのかと言うと…
「明後日からオープンするヤーミーズ-2号店!是非お越しくださーい!」
「休憩にもピッタリな場所です!!」
「…是非、よ、よろしくお願いしますぅ…」
私達はヤーミーズの広告をさせられていた。
大声でお店の名前を叫び人を惹きつける。
それはそれでいい。
別に私もそれだけで恥ずかしい気持ちになんてならないし、これだけで10万メダもらえるとは思っていない。
ただ、着ている服が問題だった。
私はメイド服を着せられていたのだ。
しかもただのメイド服じゃない。コスプレっぽいメイド服だった。
スカートの丈が短い!!!
なんだこの辱めは!!
と心の中で思いながら[演技:Lv.7]を発揮させてキャピキャピな笑顔を振りまく。
伊織も、久しぶりに履いたであろうスカートに緊張をしてるからか、内股でモジモジとしながら真っ赤な顔をして、広告をしている。
街にいる人たちがすごい目で伊織を見ていた。
そして夕日、夕日は許せない。
夕日は一人だけ、執事服の様な姿なのだ。
ヤーミーズに用意してあるメイド服が2着と執事服が1着だったので、じゃんけんの結果、夕日は執事服を勝ち取ったのだ。
普通ここは伊織が着るやつでしょ!!!
なんでそんな澄まし顔で着てるの!!
ていうか、夕日に関してはじゃんけんとかズルじゃん!![幸運]とかズルじゃん!!勝てないじゃん!!
夕日もその整った容姿とその男装の格好で男女両方を釘付けにしていた。
広場は、私達がいる事によって一種の祭りの様な活気と人混みになっていた。
「メガネメイド!!!うぉー!!絶対ドジっ子だよあの顔!!」
失礼な!!ドジっ子ちゃうわ!!
「見ろよ!あの恥ずかしがり屋の子猫ちゃん!!養いてぇぇ!!」
「俺はあっちの男装執事がいい!!足で踏んでくれねぇかなー!あの笑顔で!!」
なんか凄い会話をしている気がする。
お店の名前ちゃんと聞いてくれているのだろうか?
少し不安になる。
そんなちょっとした騒ぎになっている時にちょっと焦った顔のヌーノさんが人波をかき分けてゼーハーとしながら私たちの前に出て撤収の合図を出したので、私達はその視線から逃げる様に撤収した。
・
・
・
・
「いやぁ、ここまでとは思わなかった!こりゃあ、大繁盛するかもしれん!」
そう言ってヌーノさんはゲラゲラ笑う。
「これで依頼は終了ですか?」
着替え終わった私はそう聞く。
「いんや、終わってない。もう十分な活躍をしてくれたとは思うけど、本来の依頼の目的はこれからなんだ」
ヌーノさんが言うには客寄せはついでで、これからやることが本命だと言う。
「…君たちには、これから出す飲み物の味見をして欲しいんだ」
急に真面目な顔になった。
「味見ですか?」
「ああ、味見。連れてきた従業員にさせようとしたんだが、数品だけ誰もしてくれなくてな。このままだとまずいから君たちに頼んだんだ」
明後日オープンなのに味見してないの??やばくない??まあ、依頼だし、断らないけどさ!
「…わかりました」
「おお、よかった!それじゃあ用意するから待ってろ!!」
そう言って奥の方へとドタドタと行ってしまった。
「ねえ、ナツナツ。タダで食べれるなんてラッキーだね!」
幸運少女がそんな事を小さな声で私に言う。
「そうだね」と小さく返して料理ができるのを待つ。
そう時間がかからずにまず一品の飲み物が出てきた。
色はオレンジ色で太いストローが刺さったドロドロとした飲み物?だった。
臭いを嗅ぐと飲み物とは思えない香りがした。
「ん!」
伊織が思わず声を出してしまっていた。
「さあ!飲んでみてくれ!」
目を輝かせて私達を見るヌーノさん。
飲みたくない!!
飲みたくないと体が叫んでいる。
10万、10万、10万…
美味しい飲み物、美味しい飲み物、美味しい飲み物……
頭に私は必死に暗示をかけて、グラスを握り、一思いにストローを吸った。
「…ん!」
吸いにくい!!ドロドロとしていてストローから這い上がってくるのが遅い!!
私は吸う力をさらに強めるとようやく口にそれが入った。
「……」
「……」
「……しょっぱ!!」
楽しそうに隣で夕日が小さく叫んだ。
そう、しょっぱい。
どこかで食べたことがある味。
これは…
「…オムライス??」
「おぉ!よくわかったな!そう!これはオムライスジュースだ!!
うちはドリンクをメインとして売る店だからな!しょっぱい飲み物も必要だろ!?
オムライスは俺の兄から教わった得意料理だしな!美味いだろ!」
バカですかあなたは。
と、初対面にもかかわらずツッコミそうになってしまった。
おかしいよ!ドリンクメインにするから食べ物をドリンクにする発想がおかしいよ!!
食べ物作ろうよ!!
「ちなみにだが、君たちが着たメイド服の店員がそのオムライスジュースにケチャップをかけて『萌え萌えキュン』っと言ってもらうコンテンツも考えている!!」
カフェじゃなくて、メイド喫茶ですね。薄々気づいてましたよ。はい。
「それでどうだった?このオムライスジュースは!」
期待をする様な眼差しで私達を見る。
「面白いからいいと思う!!味美味しいし!!」
夕日がそう言うとヌーノさんは喜びの顔を浮かべて「そうかそうか」と呟いている。
「見た目が悪いしギャップが受け付けられません」
なんか、ぐちゃぐちゃした感じが嫌だ。
「ストローで吸いにくいなって、思いました。味は美味しいと思いますけど…」
伊織が無難に否定的な表情で言う。
「うーん、3対1の意見だなぁ…」
え?3対1?え?
「え?」
その疑問符は口からも出る。
「イオもユウも賛成、俺も賛成だしなぁ、まあ!全員が受ける様な料理はまだ俺には作れないから採用でいいか!」
え?…もういいです。
それから2品ほどしょっぱい飲み物を紹介されて最後の一品となった。
「最後の一品はこれ!俺のオリジナルのピコの実のミルクティーだ!」
そう言って取り出されたのは、黒のつぶつぶが入ったミルクティー。
そう、見た目完全タピオカのミルクティーだった。
私は先程のトラウマ達を抱えているので恐る恐るそのグラスに手をつけて、太いストローで勢いよく吸い上げる。
「…!」
美味い!味も食感もまんまタピオカだ!!もちもちしてて良い!!
私達3人は満場一致でこれを採用にした。
ようやく全員の気持ちが一緒になった瞬間だった気がした。
「ひぃ、良かったよ。君たちが居てくれて、君たちの笑顔を見てると故郷から離れた甲斐があったって感じるよ」
「故郷ですか?」
「ああ、そう、俺は元々レノス王国のダニエルっつー村に居たんだよ。そんで兄の元で修行しててよ。ようやく兄に認められて、料理の良さを広めるためにアムリス帝国まで来たってわけだ!」
「えぇ、他国まで渡ったんですか?」
「まぁな!一応俺は銅級の冒険者だし、レノスには兄貴がいるからな。
最近はレノスとアムリスが戦争おっぱじめるっつうから心配してたんだけどよ。
なんでも二ヶ月ほど前に神聖国と共同して勇者を召喚したらしくてな。こっちの方が安全なのかもしんねぇと思った訳だ。
それに勇者に俺の飯食ってもらって感想もききてぇからな」
戦争。
やっぱりするんだ。
私達は3人で生きることで今はいっぱいだけど戦争に駆り出されるのはクラスメイト…
秋達だって…
「…まぁ、別にレノスが負けるって思ってるわけじゃないぞ?王国には最強の第一騎士団だっているし、同盟を結んでるロムルスって言う国には餓狼団っていうやばい集団もいるからな?
俺はただ、戦争に巻き込まれたとしても料理の楽しさとか食べ物の美味さを教えたいだけだからな!!」
レノスに逃げた後はどうにかして、勇者達に会って説得をするべきだよね。
そもそも勇者達がわざわざ戦争に加担するとは思えないけど…
「でも騎士団はすごいんだぞ?あの『人類王』って言われているお方がいるからな。結構歳いってるらしいが、未だに実力衰えずに第一騎士団の団長をやってるんだってよ!かっこいいよな。
…おっと、なんか語りすぎちまったな。今回の仕事は以上だ!これが報酬の10万メダだ」
まずは、銅級冒険者になって国境を抜けなきゃ…あと銀が欲しい。
あと、腰についている卵をどうにかして取りたい。
魔力を吸うってことは、生きているって事だよね。
孵化するのかな?
私の魔力を際限なくずっと吸ってるからもしかして孵化したらやばいやつ生まれるんじゃ…
「ツ……ナツ…ナツ!!」
「あわわわわわわ…って何!」
「何って何?ぼーっとして」
考え事をしていて伊織に引き戻されたみたいだ。
夕日が10万メダを受け取ったらしく。今からお店を出るとき見たいだ。
「今日はありがとな!良かったらまた依頼を受けてくれ!と言うか受けてくれなきゃ困る!味見じゃなくて店員として出てくれなきゃ寄せた客が出て行きそうだ!」
「まあ、考えときますよ」
「報酬は弾むから頼んだ!」
そんなことを言われてヌーノさんと別れた。
「それにしてもレノス王国には騎士団がいるんだね!同盟も結んでるって言ってたし!」
夕日がすっかりあたりが暗くなった帰り道にそんなことを言い出した。
騎士団?同盟??
「何それ」
「ナツ、やっぱり聞いてなかったんだね…」
え、何のこと?何?
何でそんな呆れた目で見てくるの??
それにしても、戦争か…
私の憂いを帯びた瞳は行き場を失い、虚空の空を見上げた。
誰も、死なないで。
その思いが彼方の帝国に届いたかは知らない。
ただ私は空を見上げ、そう祈り続けた。
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