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勇者召喚編

20.乙女と体調。魔物が女性に襲われているようだ

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 森を歩いて2日目。


 私達は夕日の向かう方向に適当に進んでいた。


「ごめんね。伊織、重いでしょ?」

「なつめ、大丈夫だよ、重く無いよ」

 私は伊織におぶって貰っていた。

 体は貧血のように力が抜けて、体を動かすとフラフラとしてしまう。
 すっかりと病人のような格好になってしまった。

 自分の足で歩くと、1日に進める量は精々1キロほどだった。

 自分が迷惑を掛けていると思うととても不甲斐ない気持ちになる。
 それに伊織に支えてもらっているし。

 戦闘面でも役に立たず、夕日と伊織に頼りっぱなしだった。






「ゆうひ、休憩しよう」

 伊織の一言で休憩することになって、伊織は私を割れ物でも扱うかのようにそっと私を日陰に座らせてくれる。

「ナツナツ、大丈夫?すっごい顔色悪いけど」


 私の冷や汗タラタラ顔面蒼白の顔を見て泣くんじゃ無いかという程の顔で夕日が尋ねる。

「ふぅ…うん、きっつい」

 嘘はついても今の私ではバレるので正直にいう。
 そんな発言を聞くと夕日はとても辛そうな顔をして、私に干し肉を渡してくる。

 伊織と夕日の顔は、心配を通り越して、魔力欠乏ひんけつ気味の私よりも顔色が悪い気がする。

「…人里まで、あとどれくらいだろ」

 気怠げな気持ちを紛らわせるために会話をする。

「多分もうすぐだよ、お城から迷宮跡地まで馬車で1日もかからなかったくらいだから、きっともうそろそろだよ」

「ゆうひもこう言ってる事だし、あと少し頑張ればつくよ」

 夕日の言葉に便乗するように伊織が言った。

 私は「そっか」とだけ言って、今は腰にくっついている謎の卵を見やる。

 左手にくっついていた卵をどうにか移動させようと試みた結果、体にくっついたままなのは変わらないが、自分の体のどこかなら移動させる事ができるみたいだったので、腰に卵を動かした。

 少し見苦しいかもしれないけど、一応これはポーチだと誤魔化すつもりだ。

 今も卵は私の魔力を際限無く吸い続けている。

「はぁ」

 ついため息が出てしまう。



 休憩もそこそこして、私達は立ち上がりまた歩き出そうとした次の瞬間。


「アォォォォォォォォォォン!!」


 前の方から狼の遠吠えが森を包んだ。

「ねえ、まだお昼だよ。狼の遠吠えなんておかしくない?」

 夕日がそう言った。

「うん、おかしい。何か獲物を襲うとしても遠吠えなんてしないし、狼は普通夜行性だよね。なんかいるのかも」

「私が先に様子を見てくるから、いおりんとナツナツはゆっくりこっちに来て」


 私たちがそれに頷くと、夕日は風のように狼の遠吠えが聞こえた方へと進んでいった。

 私は迷惑を掛けてしまったと思いつつ、伊織におぶさり、あとを追うようにそっちへ向かった。





 意外と、場所は近くだったらしくて、すぐに夕日の元へ到着した。

 私たちに気づいた夕日はクイクイと指を動かして私たちにこっちに来いと促す。

 それに従って静かに夕日の元へ移動して、状況を伊織が聞く。

「ゆうひ…」

「あそこ、あそこに少し大きい狼の魔物が五匹、そこに追い込まれるように冒険者っぽい女の人が一人いる」

 促された方に目をやると、灰色の大きめの狼が鉄製の軽装備の鎧をつけた女性を取り囲むようにして睨んでいた。

 女性は大剣を背中に携えていて、冒険者だという事が見て取れる。

 確かあの狼の名前はーー

「…ウルフィア、狼の魔物で、基本的に、集団行動、風魔法を使ってくる魔物だよ」

 書庫で読んだ魔物の本に書かれていた内容を思い出す。

 灰色の大型狼の魔物。ウルフィアは獰猛で仲間意識がとても強い。
 一匹の戦闘力で言うならばカマイタチを飛ばしてくる狼程度の強さだ。
 だけど、集団となるとその連携力と団結力がとても厄介な魔物になる。
 降り止まぬカマイタチと死角からの噛みつきは多くの命を刈り取ったそうだ。

 そのウルフィアが吠えたと言うことは、五匹からまた狼が増えると言うことを示している。


 女性を取り囲んでいた狼の一匹が、女性に向かいジリジリとつめ寄る。

 そして、ある一定の距離まで近づくと、風魔法でカマイタチを発生させて、相手の喉元へ飛び込もうとした。

 だが、その瞬間。


「オラァァァ!!!」


 女性は背中に携えた大剣を片手で抜いて、ウルフィアに叩き込む。


 ウルフィアは「キャインッ」と鳴いて、後ろに立っていた木に叩きつけられそのまま動かなくなった。


「オイオイ!!それだけかぁ!!拍子抜けだぜ!オラオラオラオラ!!」


 女性は大剣を爪楊枝でも扱っているのかと思わせるくらいに軽々と持ち上げウルフィア達を蹴散らしていく。

 一匹、二匹と、先程と同じように吹っ飛ばして木に叩きつけていた。


 そしていよいよ残り一匹となった瞬間に、先程の遠吠えを聞きつけた別のウルフィアが六匹現れた。

 現れた六匹のウルフィアを見た女性は口角を釣り上げていた。

「いいねいいね!!一撃で仕留めてやるよ!!オラァ!!!」

 そう言って、重そうな大剣でウルフィア達をなぎ払い、後ろに控えていたリーダーらしきもの一匹を残して五匹を蹴散らした。

「アンタはどうするんだい?アンタ一匹でアタシに立ち向かうのかい?」

 ウルフィアに向かい、不敵な笑みを浮かべ大剣を突きつけた。

「グルルルルルル…ガウ!!」

 ウルフィアは唸って最終的に一吠えすると森のどこかへ逃げていった。

「よし、それでいい。アタシも無駄に命を奪いたいわけじゃないんでね」

 そう言って大剣を下ろそうとしたと思ったら…


「そこに隠れてるのはわかってる!!出てきな!!」

 そう言って女性は私達のいる方向へ向けて大剣を構えた。


 私達は顔を向けあって頷きあうと、その女性の前に現れることにした。

 まあ、私は伊織におんぶされてますけどね。

 私達の姿を見て女性はピクリと眉を少し上げたがただそれだけでそのまま大剣を構えていた。

「山賊かい??それにしては随分と可愛らしいもんだけど」

 私達を見てそう問いかけてきた。

 そういえば私達の今の格好はワイシャツ、スカート、リボン、鹿の皮で作った腰巻だった。

 無いよりはいいだろうと思って巻いていた鹿の皮がいい感じに山賊感を出したみたいだった。

 大剣を構える女性に対して夕日と伊織は手を挙げて自分が危害を加えるつもりがないことを表現する。

「私達は商人見習いです!3日ほど前に薬草を取りに行ったところ魔物に襲われて遭難してしまったのです!!!!」

 夕日がそう芝居打つ。

 私達はもし、人間を見かけたらどう対処するかは事前に話し合っていて、結果こんな感じに落ち着いた。


「嘘だね、つくならもっとマシな嘘をつきな。商人が護衛も付けずにこんな森に行くわけがない。それに気配を消すのがうますぎる。そんな商人いるわけがないね!けっ!!」

 あっさりとバレる。

 焦る。

「すみません。嘘です。遭難しました。ここがどこかわかりません。身分は訳あって言えないです」

 夕日はすぐに言葉を撤回して女性に向かってそう話した。

 そうすると女性はじっと私達を睨んだ。

「…大方どっかの貴族かなんかに捨てられたか逃げてきたってところかい。よく見ると変な服だが、素材は上等そうだしねぇ」

 大剣を構えた女性は、勝手にそう解釈してくれた。まあ、間違ってはいないのかもしれない。
 貴族ではなくに国から逃げてきたけれども。


「仲間の一人が大変なんです。良ければ、あなたの暮らしている場所まで案内してもらえませんか?」

 身分については何も言わずにお願いをする夕日。

「…本当に体調は悪いみたいだね…」

 私の顔をじっと見て、女性は何か考えるようなそぶりを見せる。


「…素性はなんだかしれないが、流石にこのままアンタらを放っておくわけにもいかないからねぇ…仕方ない!ついてきな!!」


「…「「ありがとうございます」」」


「礼なんていらないよ。このままアンタのお仲間が死んだらアタシが見殺しにしたみたいで寝覚めが悪いじゃないか。
 アタシの名前はミリア。よろしくな」


 そう言って私たちの前に手を差し出すミリアさん。


 どうやら助けてくれるらしい。
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