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勇者召喚編
18.乙女と神殿。巨大な鳥
しおりを挟む「それじゃあ、夕日、伊織。準備はいい?」
あれから一眠りして準備を整え、私は大きな扉の前に手をかけていた。
「大丈夫!開けよう!!」
「…うん…!」
私の呼びかけに返ってきた二つの声は、どちらも肯定の意を示していた。
二人の表情を見れば、夕日はこれから起こることに何やらワクワクしているようで、目を輝かせてウズウズしているみたいだった。
それに比べて伊織は少し不安そうな表情を見せているが、胸の前でぎゅっと拳を握り、なにかを覚悟するような真面目な顔つきをしていた。
きっと三人ならば大丈夫だろう。
そんな二人の顔をみて、私は扉を押して開けた。
ガチャ
ゴォォォォ…
大きな扉を押すだけでそんな音が聞こえた。
私は片方の扉を三人が通れるほど開けると、これ以上開くのをやめて先へ進むようにする。
扉を開けた先に広がる光景は、何か広い空間だった。
光魔法であたりを照らすも、この空間が広すぎて、闇が光を吸収してしまっていた。
あまりよく見えないと感じ、夕日が光魔法の威力を2段階ほど上げてようやく、この空間の端っこが見えるほどになった。
「…これは…お城?」
伊織がそんなことを言った。
あたりを照らして、見えたのはまずは床。
大理石で作られた床のようで、テラテラと夕日の光魔法を反射していた。
次に目に入るのは、何メートルかの感覚を空けて建っている大きな柱だ。
繊細なほど細かい彫刻に、少量の金属の細工が施されており、柱の一つ一つがとてつもない存在感を放っていた。
そして壁だ。
今までの洞窟のように、適当に穴が開けられたようなゴツゴツとした岩肌ではなくて、びっちりとした石レンガで綺麗に壁が整えられていた。
それ以外には何もおいてはいなかった。
伊織が言うように、少し城のような感じはするが、帝国の城よりも質は圧倒的に上だ。
さらに言えば城というよりもまた別の何かなような気がする。
「んー、なんか神殿ぽいね!あんまり豪華な装飾はしていないみたいだし!」
言われてみると神殿のようだ。行ったことはないけれど、前の世界の写真で見た神殿の柱と似た作りをしている気がする。
「見たところ魔物の気配は無いね」
私がそう言うと、三人で神殿の中を見て回り始めた。
一定の間隔で建てられている素晴らしく細かい造りをした大きな柱。
これ一本、何年かければこれほどの物が出来るのだろう。
そう思えるほどにきめ細やかな造りをした柱だった。
「ナツナツ、いおりん!なんか奥にもう一つ扉あるよ!」
私と伊織が柱に感嘆していると、夕日がそんなことを言った。
夕日が指差す方向を見てみると、薄暗闇の中に小さくポツリと扉があった。
さっき開けた大きな扉よりも小さくて、2メートルほどの大きさの両開きの扉だった。
ほかにあたりを見回しても見るものがないので、扉の元へ行く。
その前に、少し芸術を破壊するようで悪いが、柱に施された金の細工をもらっていった。
先程とは違って二人の顔色は見ずに、扉を開けた。
ガチャ
ギィィィィ…
木で作られたであろう扉は古ぼけたような音を立てて私たちに先の景色を見せた。
明かりを照らすと、先はトンネルのようで、意外と短いトンネルで出口はすぐに見えた。
私達はトンネルを抜けた。
トンネルを抜けると先ほどのように夕日が光魔法の強さを2段階ほど上げたあたりを照らした。
そしてソレを見た。
そこで私達は、時が止まったような感覚を味わった。
な、なに??これは??
一度止まった時に思考できたのはこれだけ。
その後何秒か何十秒か時間が経ち、ようやく時が動き出した。
「伊織!!夕日!!!武器…!!」
思考がようやく現実に戻った私は夕日と伊織にそう叫んだ。
なに!!あれ!!
私はソレを見るが、ソレが動く気配はなかった。
ただ、ソレから放たれる神とも言えるような神秘的な空気に私の警戒レベルを最大にまで引き上げた。
私の掛け声によって、現実に戻された伊織と夕日は急いで武器を構えた。
それからまた時が流れる。
私の体から吹き出した汗は顎に伝って地面にポツリと溢れた。
ずっと動かない。自分もソレも。
さらに時が過ぎると、夕日が何やら警戒を解いたように「ふぅ…」と息を吐いてソレの元へ向かった。
「夕日!!」
「ゆうひさん!!」
「…ねえねえ、ナツナツ、いおりん?これ、石像だよ?」
夕日がそんなことを言ったので私も警戒をしたままソレに近いた。
「ほら。ね??」
「本当だ…」
近づいてようやくわかるほど精巧に作られた、石像。
ソレは羽を広げた鳳の石像。
羽を合わせると30メートルほどありそうな大きな鳥。
その鳳の足元には枷がつけられていて、鎖は壁にまでつけられていた。
この空間にあるのはたったそれだけで、他に何かあるような感じはしないみたいだった。
鳳の石像をまじまじと見る。
じっくりと見ても生き物にしか見えない石像。
羽の一本一本までも生きているかのような造りで、それはまるで、生きていたものが石化したような感じさえした。
今にも動き出しそうなほどの躍動感を感じるが全く動かない。
繋がれていた鎖と枷に目を向けるがそれは石ではなく鉄?で出来たものだった。
「ゆうひさん、なつめさん!鳥の足元に何かあるよ!」
石像を見ていた夕日と私に伊織がそう叫んだ。
叫んだところを見てみると、ポツリと丸みを帯びた物が落ちていた。
「…卵??」
「卵だね…」
「…卵」
鳳の足元、というかお尻の下には隠すように卵が置いてあった。
ドクンッ
「な、何!?」
何!?なんか卵が揺れたような!?
「ナツナツ?」
「なつめさん?」
二人は気づいていないみたいだし気のせい?
改めて卵を見る。
卵は水色のような白色のような色をしていて少しキラキラとしていた。
大きさは鳳に対しては圧倒的に小さくてダチョウの卵ほどだ。
石ではない。
「な、なんでもないよ。この大きな鳥のたまごみたいなものなのかな?」
「雰囲気的にそうだけど、これだけ石像じゃないよね」
「ほ、本物の卵なの??」
夕日は顎に手を当ててまじまじと見つめて、伊織は手に持っていた銀の棒をぎゅっと握って少し下がった。
ドクンッドクンッ
「…!?」
何!?やっぱり何かおかしい…
卵が揺れてる…
そう思って夕日を見ても、卵をまじまじと見ているのにもかかわらずこの卵の揺れには気づいていない。
「ね、ねぇ…」
ゴゴゴゴゴ…
「きゃっ!」
「な、何が起きてるの!?」
突然この場が揺れ始めた。
すると、次は卵が置いてある地面から、青白い光が放たれた。
「夕日!!伊織!!」
やばい!!
そう思った私は、この場が眩く光り輝く中、夕日と伊織の手を取って握り、守るようにして二人を引き寄せる。
輝きは強くなり、空間を白で塗りつぶした。
光に目が眩んで、ぎゅっと目を閉じると何か変な音がし始めた。
ピィィィィイイイン…
ピュン…
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