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勇者召喚編

14.乙女の迷宮跡地生活。これからの指針

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 目を開けば、そこは暗闇の不思議空間ではなく迷宮跡地の洞窟にいた。


 寝てた?のかな。


 あたりを見回すと、夕日と宮本くんも寝ていた。
 まあ、宮本くんは元々気を失っていたけれど。


 どうやら私たちは逃げに逃げて、休憩をしていたところ、溜まっていた疲れが爆発して眠っていたみたいだ。


 どのくらい寝ていたかわからないが、追っ手は来ていないみたいだ。

 まだ二人は目覚めていないみたいなので、サラスから教えてもらった力、【弁財天】を試してみることにした。



 水の力。
 これは水魔法と少し性質の違う力みたいだ。
 通常の水魔法は、水を生み出し、相手に放つことや飲料水として用いるなど、私たちが普段使う水を生み出すような物だ。
 【弁財天】はそれとは変わる。
 水を生み出す事は変わらないが、それ以外の自由度が違う。
 水の性質を変える事が出来るのだ。

 今の私には生み出した水の粘度を変えることくらいしか出来ないので、通常の水魔法とそんな大差はないだろう。



 財宝の力。
 サラスからの説明によると、金銀財宝を操る力。
 というか金と銀ならなんでも操れる力らしい。
 だが、鉄や鋼は操る事が出来ないし、ダイヤモンドやルビーも操れない。
 さらに目に見える財宝しか操れないので、『この洞窟にある財宝を全部私の元にきて!』と念じても意味がないみたいだ。

 財宝の力には色々と制限があるがこの力はとても便利だ。

 金、銀は鉄よりも重く、脆い。

 その考えはこの世界には通用しない。


 金は前の世界よりも価値があるだけだが、銀はこの世界にとって非常に重要な鉱物だ。


 銀は魔力をよく通すのだ。


 鉄や銅も魔力を通すのだが銀はそれらとは比べ物にならないほど魔力伝導率が高い。

 つまり、この力と魔法の組み合わせは完璧なのだ。


 私はそんなことを考えながら[アイテムボックス]から王国兵の鎧と首輪から出来た銀のドロドロを取り出す。


 念のため回収しておいたのだ。


 私は銀のドロドロを見ながら力を使う。


 ドロドロを固めてみたり、べちゃべちゃにしてみたり、球体を作ってみたり、立方体を作ってみたりと色々な事をしてみた。


 この力はかなり自由度が高いみたいで、想像した形ならばなんでも出来るみたいだ。

 手でこねないで想像するだけで何でも出来る粘度みたいな感覚なので、ちょっと楽しくなって色々こねることにした。









「んん…んんーー。あれ?私、いつのまにか眠ってた?…んあ、ナツナツおはよー」

 色々と力を試していると夕日が起きてきた。

 夕日は体をぐっと伸ばし、目をこすりながら私に挨拶をしてきた。

 そういえば、サラスは夕日には私のような力があるって言っていたけど、どうなんだろうか。
 前に秋が私と夕日を鑑定した時にステータスが見えないって言ってた。それってこの力のせい??


「…ナツナツ?」

 夕日をみて考え事をしていたので挨拶を忘れてしまった。

「あ、おはよう、夕日」

 私がみんなの前でステータスを偽ったように、夕日も何か隠しているのかもしれない。
 少し状況が落ち着いたらみんなに隠している事を話そう。


「ナツナツ、ずっと見張りしてたの?ちゃんと寝た?」

「ううん、私もさっきまで寝てたよ。みんなよりちょっと早く起きただけだよ。それよりも、お腹すいたし朝ごはんを作っちゃお。宮本くんはまだ寝てるけど」

「いいけど、食べ物とかあるの?」

「私には[アイテムボックス]という大変素晴らしいスキルがあるからね。ある程度の食料は帝国からもらってるよ。私荷物持ちとしては完璧な才能を持ってるから!」

 そう言って私はアイテムボックスからキャベツを出した。ちなみに食料は帝国の食料庫から少々頂いた物だ。
 [料理]のスキルを使いたいとベルに言うと、まんまと食料庫に案内してくれた。うへへ。おばかさんめ。


 そんな事を思いながら、先ほど銀の塊で作った銀のまな板、銀のお鍋、銀のオタマなどを出していく。

 キャベツを出したし、キャベツ関連の料理を作ろう。

 あ、ポトフが食べたい。

 そう思って、じゃがいも、やブロッコリー、肉の腸詰などを出していく。


 色々とアイテムボックスからポンポンと出していると夕日が話をかけてくる。


「ナツナツ?どうして食器が全部銀なの??」

「食器がないから作ったんだよ。それよりも夕日も手伝って!!」


 夕日に銀の鍋を持たせて、私の魔法で水を入れて、まな板で野菜を切って鍋に入れていく。

 夕日には鍋の下で火魔法を使ってもらい温めてもらう。

 ポトフは基本煮るだけだから作るのも簡単だ。


 そんなこんなでポトフが完成すると、匂いにつられてから宮本くんの体がピクピクと動いた。


「ん……んん…んんー。…は!!」

 宮本くんはパッと飛び起きて辺りを警戒するように周囲を見渡した。
 そして鍋を持つ夕日と私をみてどこかホッとしたような困惑したようなよくわからない顔になった。

「いててて…あの、これはどう言う状況なの??僕達はどうなってるのかな?」


 宮本くんは王国兵に気絶させられてから意識がない。
 自分がどう言う流れでここにいるのかがわからないのだ。

「まあ、説明は後でするとして、まずはご飯食べよ??」

「そうしようー!!」


 そう言って朝?ご飯のポトフを食べた。
 調味料が少ないので前の世界よりも味が薄いが、隠し味のトマトがいい風味を出してくれている。これはこれで美味しい。






「みんな!ごめんなさい!!僕、迷惑ばっかりかけて!!」

 宮本くんは頭を下げて、涙を流していた。


 朝?食を済ませた後、少し落ち着いた頃に宮本くんに、今ここにいる経緯を話した。


 話していくうちに、自分が足を引っ張ったと思って宮本くんは泣き出してしまったのだ。


 そのあと、しばらく宮本くんを必死に夕日とフォローして、落ち着いてもらった。


「それで、僕達これからどうしよう。王国兵の追っ手は今は来ていないけど、時間の問題かもしれないし」

「しばらくは逃げた方がいいと思う。すぐに出たりして王国兵に捕まったりしたら元も子もないもん」

 宮本くんと夕日がそう言う。

「しばらくは逃げる。でもただ逃げるんじゃなくて、魔物を倒してレベルを上げよう。力を蓄えておかないと見つかった時に困るから。ある程度レベルをあげたらここから出よう」

 私たちが生きていると知って困るのは帝国側だろう。
 いくら私達を無能と思っていようと勇者の力の流出を防ぐはず。
 しばらくは必死になって探しているかもしれない。
 いっそのこと私たちのことを死んだと思ってくれれば助かるんだけどなー。

「レベルを上げたあとに洞窟から出たらどうするの??帝国に戻るの?」

 宮本くんがそんなことを聞いてきた。

「帝国には戻らない方がいいと思う。まずは情報収集をするべきだから。
 その為にはまずはレノス王国に行くべきだと思う」

 私がそういうと、宮本くんと夕日が一瞬、口をぽかんとさせたと思うと急に大声をあげて喋り出した。

「な、ナツナツ待って!私達を襲ってきたのはレノス王国の兵士なんだよね!?そんな国に行くのは危ないんじゃない!?」

「そ、そうだよ!今度こそ僕達殺されちゃうかもしれないよ!!」

「予想の域を超えないけれど、その心配はあまりないと思う。私達を襲ったのは王国兵じゃないと思うから」

 私がそう言うと宮本くんと夕日が反応する。

「ど、どう言うこと??」

「あの二人はたしかにレノス王国の兵って言ってたし、帝国の兵士もそう言ってたよ?」

「確かにそう言ってたけど、あの二人はこう言ってた。『俺たちが当たりを引いたみたいだ』って。
 この言葉っておかしいと思わない?
 なんで、私達を見てすぐにこの判断が出来るのかがおかしい。
 帝国があれだけ私達を隔離しているのに私たちの顔が敵国にはすでに知れ渡っていることになるから。
 それに、敵ならわざわざ小川くんを逃す必要も無いと思うし。
 それに王国がそんなにふらっと出てくるようなところにあの帝国が私達を連れていくわけがない。
 だからあの二人はレノス王国の兵じゃないって可能性が高いとおもう」

「だからレノス王国を目指すってことか…」

「確かに、帝国の敵って言われている国だったらむしろ目指した方がいいかもしれないね」

「まあ、確実に危なく無いって言うわけではないけど、まずは目指すべきだと思う」



 そんな会話をして、今後の方針が決まり、ひとまず迷宮跡地でレベル上げをすることになった。








 迷宮跡地の魔物はどこまで深く潜っても強さは変わらない。
 出現する種類も一定である。

 私たちはそんな魔物を狩ってレベルを上げる。


 ローテーションでとどめを刺す形にしている。

 生き物を殺すことを慣れさせる為だ。

 最初は手間取ったが倒していくうちに少しだけ抵抗が減った。

 弱い魔物を倒しているだけなので、魔物側からしたら虐殺以外の何者でも無いのだ。心が痛む。


 私は魔法で、夕日は元々持っていた剣で、宮本くんは手で魔物を殺していく。

 二時間ほど狩ると休憩。それを繰り返して洞窟の奥へと進んでいく。

 休憩中の雰囲気は沈んだ感じになる。


 そんな休憩中に私はふと宮本くんに小さい声で話をかけた。
 

「そういえば、宮本くん。私、宮本くんが気を失っている時に宮本くんの体見ちゃったんだけど」

 あの怪我の数はちょっと度が過ぎている。
 いじめというにはあまりにも残酷なほどの打撲痕。
 それにおそらく召喚される前から付いていた沢山の切り傷や打撲痕。
 そんな痛々しい体をみて心配になった。

 私が宮本くんに話を切り出すと、顔がほんのりと赤くなって慌てたように答えた。小さな声で。

「な!…み、みたの?僕の体。気づいちゃったの?」

 あの傷をみて、気づかないはずがない。あれほどまでにいじめられていたとは知らなかった。

「当たり前だよ。あんなの見たらすぐにわかるよ。どうしていってくれなかったの?」



 私がそう言うとそこから、宮本くんは自分の過去を話し始めた。

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