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勇者召喚編
12.乙女の迷宮跡地失踪。執事と兵隊。
しおりを挟むバチッ!!
ゴポゴポゴポゴポ!!!
男の方から突如異音が鳴り出した。
「な、なんだ!!!!」
異音が響いたと思うと今度は男がそう叫んだような声が聞こえた。
私は気になり、恐る恐る目を開けた。
目の前に広がったのは、下着だけの姿になった男だった。
男はその自分の状況にパニックになったらしく、立ち上がり、オロオロとしていた。
下着だけ。
武器もない。
首輪も消えていた。
なんだがよくわからないが私はこのチャンスを棒にふるわけにはいかない。
私は速やかにに男の顎に掌底を放とうとした。
だがその掌底は当たることが無かった。
私の体を動かすより先に男は私が思い描いた通りに顎がナニカに弾かれて飛んで行った。
私は疑問に思い、男を弾き飛ばした正体を見た。
ナニカは私の足元にあった。
それはドロドロとしていて銀色に輝いていた液体だった。
すぐにその正体はわかった。
「あいつの…鎧??」
正体はわかったが信じることができなかった。
だがわかってしまう。根拠なんてないのだがこのナニカは私が操っていると頭で理解してしまう。
その銀色のドロドロとした液体に目線を向けるのもつかの間、私は慌てて倒れた宮本くんを抱え上げて様子を見る。
首にはくっきりと紫色の手の跡が付いていて先程から目を開けていない。
ただ、息はしているのは確認ができた。
私は他に悪いところがないかを確認するため、気絶している宮本くんのまとっていた制服のブレザーを脱がしてワイシャツのみにする。
腫れているところがあれば私の水魔法で多少の血流はどうにかできるからだ。
ワイシャツ越しに身体をよく見ると私は目を疑った。
「何……これ…」
彼の上半身には全身に打撲痕や切り傷があり、青タンも数カ所。極め付けに彼の胸元にはぐるぐると包帯が巻かれていた。
傷は今受けた傷もあるが大分前から受けているような傷跡があった。
それでも急を急ぐような傷跡は見たところない。
私は見てはいけないものを見てしまった気持ちになり、彼をそっと地面に置いた。
そんなことをしていると、どうやら動けるようになったらしい夕日が話をかけてきた。
「ナツナツ!そんなことをしてる場合じゃないよ!敵が起きる前に逃げよう!」
夕日はそう言って私の手を引く。
私はその言葉を聞いて周りの状況を確認する。
ここにいる兵士は、一人はボロボロになり気絶している。もう一人は下着姿となって気絶していた。
彼らはしばらくは起きないだろう。
だが援軍が来るかもしれない。
彼らは言った。
『おいおい、俺たちが当たりを引いたみたいだぜ!』
確かにそう言った。
俺たち。この言葉ではきっとこの男達の事を指しているのだろう。
だがその次の言葉。
『当たりを引いた』
この言葉は二人組みで行動しているのならおかしい言葉だ。
当たりを引く。
推測するなら、当たりとは私達3人の事だろう。
当たりがあると言うことはハズレがある。ハズレとは私達以外の勇者のこと。
緊急事態の合図が至る所で鳴った事を考えると王国兵は大人数の集団であり、『当たり』つまり私達を狙って襲ってきていることがわかる。
他のクラスメイト達も一瞬心配になるが、小川くんが逃げられたことから、大した心配はしない。私達以外の『当たり』がいるかもしれないが…
私はブンブンと頭を振って考えを改めた。
今考えるのは自分達の事だけだ。
私は一度夕日に引っ張られた手を離して、宮本くんをおんぶする。
そして、私と夕日、気絶している宮本くんは迷宮跡地の奥の奥へと走って逃げて行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夏目達3人が迷宮跡地の奥へ入り込んでから一時間ほどが経った、洞窟の中。
「ぐ、うぅぅ!!……は!!」
そこには顔と鎧がボロボロに鳴った男と下着姿の男がいた。
下着姿の男は目を覚ました。
「お、俺はなにを……」
気絶から目覚めたばかりの男は起きたばかりの頭を覚醒させて今までのことを徐々に思い出していく。
「…は!!奴らは!!くそっ!逃げられた!!」
普段、面倒くさがりで冷淡な口調のその男も、自分の犯した失態に気づいて、声を荒げて悪態をついていた。
男は下着の身となった姿を確認して感情をさらに荒げた!!
「なんだ!あの女は!アルベラ様から授かった鎧も首輪も全てが消えた!!なんだあの力は!!」
男は見ていた。
夏目に隷属の首輪が触れる瞬間の出来事を。
バチッと音がして何かが弾けるのを感じると、今までそれが首輪になっていたのが嘘のようにドロドロと溶けて液体になった。
その瞬間を眺めていると、今度は鎧までもがドロドロと溶けて同じように液体となったのだ。
慌てて男は女を見るが、その瞬間に顎に強い衝撃を受け、今に至ったのだ。
「くそが!!」
男は驚きや恐怖よりも先に怒りの感情が来ていた。
おそらく洞窟の奥に逃げたであろうと予想し、すぐに追いかけようとするが、ギリギリに保たれた理性がそれを制止した。
下着姿の、男には勝ち目がないのだ。
男はまずボロボロとなった仲間の男を叩き起こした。
「おい!!起きろ!!起きろ!!」
バチバチと仲間の男の顔は平手で叩かれてようやく意識を取り戻し始めた。
「ん、ん、んぐぁ、……は!!」
「やっと起きたか」
「俺は?そして奴らは??」
仲間の男はボロボロの身体をぐいっと引き起こしそう聞いた。
「俺たちはやられて、奴らに逃げられた。やられてからどれくらい経ったのかもわからない」
自分も気絶していた事と逃げられた事を伝えた。
仲間の男は思わず顔を顰める。
「ちっ。他の奴らに見つかってねぇよな??」
「わからねぇ、だが俺もお前もこの状況、一度ここから出て準備を整える必要がある」
「おいおい、無駄な足止め食らっちまったぜ」
男達はそう言って、先程とは比べものにならないほどの遅さで洞窟の外を目指した。
・
・
・
・
・
「おいおい、アルベラ様に授かったこの鎧がねぇと、こんなにおせぇのか」
ボロボロの鎧をまとった男が魔物を殴りながらそう言った。
「本当だよ、でも仕方ねぇ、あの鎧には強化魔法が仕掛けられてたからな。それにしても洞窟には誰もいねぇな」
下着姿の男は、洞窟の周りを見渡すとそう言った。
辺りには、男達がきた時の喧騒が全く聞こえていなかった。
響くのは魔物の声のみであった。
男は長い間気絶していて、他の仲間や、勇者も引き上げたのだろうと考えた。
そう考えると下着姿の男は広角をぐいっと吊り上げ、醜い笑みになる。
「おいおい、どうしたんだ?」
ボロボロの男は下着姿の男の笑みを見て、不思議そうに聞いた。
「周りを見てみろ、仲間達はもう引き上げている。つまり一度外を出れば俺たちに奴らを殺すチャンスが戻ってくるかもしれねぇ。奴らがどこへ言ったのか知っているのは俺たちだけだからな」
「おいおい、そりゃあいいじゃねぇか!!うまくいけば五帝選に近づけるかも知れねぇじゃねぇか!!」
「本当だよ、だが五帝選は流石にこれくらいじゃあなれないだろ。
我らがアムリス帝国の皇帝陛下が直々に選ぶ最強の五人だぞ?」
「おいおい、勇者を殺したとなればそれくらいはかてぇよ!」
男達はぐはぐはと笑いながら洞窟を抜けて行った。
もう二人の目には先程自分が誰に負けたのかなんて気にしていない。
すでに自分が1人の勇者を殺し、2人を捕まえた姿しか見えていなかった。
・
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・
・
さらに一時間ほど走り続け、洞窟の外へとやっとついた。
時刻は午後を過ぎて数刻ほど経ったのだろうか。まだまだ日差しが眩しい昼の時間であった。
外には予想通り、他の勇者や仲間の兵士はいなかった。
だが、ひとつだけ、たったひとつだけポツリと立つ人がいた。
男二人は立つ人の姿を見ると目を見開いて、その人の元へ走り、すぐに跪いた。
「て、帝選様!!どうしてこちらに!!」
先程まで笑みを浮かべていた男達は冷や汗を浮かべていた。
「どうしても何も、私が命令を出したのですからここにいるのは当然ですよ」
その人はニコニコと笑顔を浮かべて跪く男達にそう言った。
「しかし!帝選様には執事の仕事があるはずです!!」
男は帝選に向かいそう言うが、まるで聞こえなかったかのように話を無視して言葉を発した。
「それよりも、どうしたのでしょうか?その姿は」
帝選に言われて男達は気づく。
自分達が醜い姿を晒していることに。
その姿からも見て取れるように。
自分達が醜態を晒したことも帝選にはバレただろう。
先程まで出世だなんだと言って開いていた口は、自分の今置かれている立場を理解して口を閉ざす。
すると、片方のボロボロの男が代わりに、起きた事を簡潔に伝えた。
3人の標的を見つけたが、返り討ちにあったと。
男たちの任務は王国兵の鎧をまとい、それになりすまし、勇者にレノス王国のヘイトを集める事だった。
その為に勇者の中で一番の無能を一人殺す任務を受けていた。
ついでに皇太子殿下方が欲しがった女2人を捕らえて隷属化させることも任務に含まれていた。
一つは成功したが、二つ目は失敗してしまった。
帝選は笑顔を崩さない。男達にとっては笑顔は恐怖にしかなり得なかった。
「…事情はわかりました。この事は他の兵には言わないでおきましょう。では、標的がいた場所に案内して貰えますか?」
笑顔のまま帝選はそう言った。
男達は頷き、自分達がやられた場所まで案内することになった。
帝選が他の兵には言わないと言ったこともあって、男達は必死に案内をする。
・
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・
二時間ほどかけて、自分達がやられた場所へ戻ってきた。
男達はこの場所に来ると、自分達が女の勇者にやられた事を思い出す。
考えただけでもはらわたが煮えくり返りそうになるが、帝選の前だ。
いかれる気持ちを必死に抑えていた。
「ここで見失ったと?」
帝選はそう聞いてきた。
「はい、こちらで奴らを見失いました」
「ではもう少し奥の方までいきましょう」
男がそう答えると逃げたであろう方向へと帝選は歩をすすめた。
しばらく進むと、3人は洞窟の2つの分かれ道に差し掛かり、右の分かれ道には勇者達のだと思われるブレザーが転がっていた。
男がそのブレザーを見た瞬間声を荒げる。
「おいおい!ばかじゃねぇか!こんなの置いてあったら逆側に逃げたと言っているようなもんじゃねぇか!!」
男はそう言うと、帝選はニコニコしながら誰もがわかっている指摘をする。
「まあ、その裏をかいて右側に逃げた可能性も考えられますがね」
そう言うと男は、はっ!とした顔になり口を閉じる。
なぜか、帝選は3人の着ていたブレザーを踏みつけて、ボロボロにしていく。
そんな帝選の奇行を2人は黙って見ていると、ブレザーをほとんど布切れにした状態にして奇行をやめた。
「ふぅ、これくらいで大丈夫ですかね」
帝選はボロボロのブレザーを手に持ち、男達の足元へ置いた。
男達は帝選の行動に??マークを浮かべて見ていた。
「三人の勇者の持ち物が落ちていたのは実に都合が良かったとしか言いようがありませんが助かりました」
「帝選様?」
「どう言う事でしょうか?」
「いえ、こちら側の話ですよ」
そう言って帝選はニコニコと笑顔を男達に向けた。
「場所もちょうどいいですし、もう逝きましょうか」
帝選のその言葉が最後に、二人の男の首と体が離れて飛んで行った。
二人の体は血飛沫をあげて力なく倒れた。
その場所には帝選一人となったのだ。
「男達は勇者三名と死闘の末、相打ちで死亡。そう言うことにしておきましょうか」
帝選は吹き飛ばした男二人の首と血まみれになったブレザーを持って洞窟の中から消えていった。
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