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帝国暗躍編

10,帝国の現状。野望と欲の笑い声

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 ここはアムリス帝国の皇城。


 帝国領の帝都では一際目立つ存在感を示していた。
 
 その大きく放つ存在感とは裏腹に、城の隅っこの奥の奥。暗く小さな部屋に、この国の皇帝。
 アルバ=ロルグ=デルセザークはいた。

「陛下、報告がございます」

 その小さな部屋のドアを叩く音が聞こえる。

 アルバは「入れ」と一言放つと、ドアから先程の声の主が部屋に入り、アルバに一封の手紙を渡す。

 アルバはそれを興味なさげに受け取ると手紙の封を開け、流すように読んだ。

 手紙を渡した男は、アルバがその手紙を読み終えるのを直立不動の姿勢で待っていた。

 しばらくすると、アルバは手紙を読み終え、目線を直立不動の男にうつす。

「レノスが教会の者どもを捕まえたか。被害も極小、捕まったやつらも生きておるのか。
 聖教国が動いたのは数週前、早いものだな」

「なんでも、白髪で赤眼の男が獣に跨り、聖教国の作り出した毒を解毒したそうです。王都では神の降臨だと騒いでいるとのこと」

「神を崇拝する教会が、神の裁きを下されるとは。…面倒だな。このままでは勇者召喚に差し支えがあるかもしれぬ。今すぐ教皇に使いを出せ、会談だ」

「仰せのままに」

 男は静かにドアを開け、くらい部屋から速やかに出ていった。

 再びこの部屋にはアルバただ一人となった。

 アルバは一人となった部屋で手紙を眺め、眉間に皺を寄せ、しばらく考える。

 だが考えたところで、今ある情報だけでは何もわからない。
 
 アルバは手紙を燃やし、その小さくて暗い部屋からでた。

 アルバは執務室へ向かい、近くにいた兵士に帝国の魔女アルベラを呼ばせた。

 アルバがしばらく、執務をしていると、ドアからノックする音が聞こえた。

「アルバ陛下。アルベラです」

 アルバがドア越しに響いたその声を耳にした瞬間、先程まで寄せていた眉間のシワがみるみるうちに解けていき、アルバの顔は下卑た笑みに変わった。
 だが、それも一瞬の事でその顔はすぐに無表情に変わった。

「入れ」

 アルバの一言でドアが開き、その女性。アルベラが姿を現した。

 顎ほどにまで切りそろえられた美しく輝く赤みがかった髪。吸い込まれるほどに美しく輝くアメジストのような紫色の瞳。誰も触れられぬような白く透き通った肌。そして誰もがむしゃぶりつきたくなるような肉付きのいい身体。

 アルバは、その魔物をも魅了しそうな美しく妖艶な姿を見て、一度整えた顔がまたも醜く緩みそうになったが、どうにかして耐えた。

 アルベラは執務室に入り、アルバへ挨拶し、用件を聞こうとした。

「アルバ陛下、今回はどのような件お呼びになられたのでしょうか」

「よく来たな。アルベラよ。今回お前を呼び出したのは勇者召喚の進展具合とレノスについて聞きたいからだ」

「勇者召喚と…レノスですか?」

「そうだ。先程レノスで教会の清水の毒を解毒した者がいると連絡が入った。その者が聖気を持っている可能性がある」

「ほう、聖気ですか…」

「まあ、そのことは後で良い。先に勇者召喚の進展を話せ」

「は。勇者召喚についてはもうほとんどの準備は整っております。勇者に与える装備、資金、装飾、設備、全て抜かりなく整えました。残りは召喚の日を待つのみでございます」

 アルベラの勇者召喚についての説明を聞いていくうちにアルバの無表情な顔は緩み、アルバの流れる血は熱くなり、心臓は高揚していった。

「はっはっは!!そうか!準備はもう整っておるのか!あとは計画にうつるだけか!」

「左様でございます。して、レノスの件を詳しく教えてもらってもよろしいでしょうか?」

 アルベラは話が逸れるのを恐れてか、テンションが高揚して今にも走り出しそうなアルバに話をかけ元に戻す。

「そうだったな!」

 アルバはんんっと喉を鳴らしてレノスで起こった事を話しだした。





「つまり、獣に跨った白髪赤眼の男が聖気を使える可能性があると?」

「そういうことだ」

 アルベラはこの話を聞いたとき、一度迷宮都市のスタンピードの事を思い出した。
 だが、そこにいた少年は黒髪黒眼だったことを思い出しすぐ頭から消した。

「…おそらくですが、その獣は聖獣の可能性が高いです。聖獣は高い戦闘力を持っており、聖気を帯びています。白髪赤眼の男も聖気を持っている可能性も十分にありえるでしょう」

「そうか、ならば勇者召喚の邪魔になる前に始末するべきか…」

「変に刺激するのは得策ではないと思います。相手は聖獣の可能性が高いと勇者召喚をしていない我々には少々、武が悪いと思います。それに今我々が下手に動いてレノスを刺激する方が勇者召喚に影響がで兼ねません」

「それもそうだな。今レノスの第一騎士団に出られても厄介だ。このまま準備が整うまで待つとするか」

「その方がよろしいかと」

「アルベラよ。助かった。お前に褒美を与えたい。
 どんな者でも構わぬぞ。王妃にだってしてやれる」

 調子をよくしたアルバがそう言いながら、隠せていない歪んだ笑みをアルベラに見せる。

「ふふっ、褒美なんて。大したことはしていません。それに王妃はすでにいらっしゃいましょう」

 妖艶な笑みを浮かべるアルベラ。

「いや、お前はよくやっている。お前はいつも我からの褒美を受け取ろうとせんではないか。今回は受け取ってほしい」

 アルバはまるで好きな子に贈り物を送る男にでもなったような勢いで褒美を取らそうとする。

「では、こうしましょう。褒美は勇者召喚が成功した暁にまとめて頂くことにします」

「そうか。ならばその時に今までの分を渡すとしよう。はっはっは!」

 アルバは笑みを浮かべてアルベラを見るがそれを気にすることもなくアルベラは「それでは、失礼」といって部屋から出ていった。

 アルバはその立ち去る後ろ姿を見て野望に目を燃やしていた。

 アルベラが立ち去り一人になった部屋でアルバは呟く。

「これで、世界は我の手にまた一歩近づいた。もう少しで全てが手に入るのだ。アルベラも…くく…くくく…はははは!!」

 その野望と欲に染まった笑い声は城中に響き渡った。

 帝国の未来を讃えるように。






 

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