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帝国暗躍編

9.教会大清掃終結。大好物の食べ物はたまに食べるから大好物

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真言マントラ:恵比寿天」

 俺がそう口にすると、頭の中から呪文の様な声がどこからか聞こえてきた。
 目を閉じて、その声を聞いていると段々と力が湧き出してくる。
 湧く力が俺の許容量まで行くと呪文はピタリと止んだ。

 はゆっくりと目を開き、周りの様子を確認する。広場なので沢山の人がを見ていた。
 周りをさらっと確認し終え、自分の今の状態を見る。肌は自分の肌よりも白く、髪も白く変色していて、服は自分が着ていた服が光り輝く狩衣の様なものに変わっている。

 それはまるで暗闇で出会った恵比寿天の様だった。

 真言マントラとは自分の中に眠るこの世ならざる力を極限まで高める。要はリミッターを外すの様な物だ。

 
 ワシは力を確認した後、再び目を瞑り、水の気配を探す。

「いた」

 一瞬でその気配を見つけた。三つの気配が離れた場所に分散していた。
 どの場所も、ある程度離れておりシシオウの脚で一つ一つ潰していくと、それなりに時間がかかるところにそれぞれあった。

「…ふむ、これでは時間がかかるな“水流転移すいりゅうてんい”」

 呟いた瞬間、ワシは広場から姿を消していた。





 場所は変わり、少し開けた商店街の様な場所にいた。
 ワシの目の前には清水を配る聖職者の姿とそれを受け取る沢山の人達がいた。
 それらが急に現れたワシを見て動きを止める。

 それらの視線を全て無視して、力を使う。

「“水流変換:水すいりゅうへんかん:みず”」

 一言放つと、清水が光り出して、一瞬黒色に変わり、清水の中の黒色が段々と小さくなって、清水の入った瓶の外から煙の様に飛び出て消えた。

「シシオウ、浄化」

「グゥ!!」

 シシオウから光りが放たれ、そこにいた人達を包み、浄化した。

 驚いて全く動かなかった人達が、光りを浴びて元気になったのか。何か叫んでいた。

「お、おい!痛みで動かなかった俺の足が動いてるぞ!!」

「ぎゃあ!!折れに折れ曲がったわしの背筋が!ピンとしている!!!」

「風邪が治った!!」

「「眩しい!!」」

 誰かが口々に言っていたが、ワシは気にせず聖職者の方に向いた。

「ひ、ひぃっ!」

 ワシと目が合うと、聖職者は何か化け物でも見るかの様に驚き、体を仰け反らせ、尻餅をついた。

「“水流結界すいりゅうけっかい”」

 そう言い放つと瓶に入っていた水がニョロニョロと動き出し、聖職者の方にひとりでに動いて、ロープの様に巻きついた。

「…ふむ」

 聖職者を捕縛したのを確認して、ワシは他の使っていない水に指をさし、くいっと手を動かした。すると、水に縛られて身動きが取れなくなった聖職者の体を水で這い回る様に確認した。

 確認し終えると、這い回っていた水が異物を探知したように異物と共に聖職者から飛び出た。

 爆弾だ。

 それを確認すると、先程の水で爆弾を包み、それをバキバキと水圧で縮めていく。

 しばらくすると、水の中には何もなかったかの様に爆弾は消えた。
 それを見た聖職者は、白目になり泡を吹いて気絶した。

「次じゃな。“水流転移すいりゅうてんい

 そう言って、またその場から姿を消した。





 二つ目の清水の気配も先程やったのと同じようにして対処した。

 そして今は最後の三つ目に転移したところだ。

 先程と同じ様に、人々が集まり、清水が置いてあったが、状況違かった。

 目の前ではマードが剣を抜いていて、聖職者は、人質を取る様にして、女の人の首にナイフを当てていた。

 転移した瞬間に全員の視線がワシとシシオウに向けられた。

 あたりは喧騒が巻き起こっていたはずだったがそれは時が止まるかのように静かになった。

 そして、マードがハッとした様な顔になり、視線をワシから聖職者に移した。

 聖職者はワシにまだ気を取られており、状況整理をしているようで、動かなかった。

 マードはその隙をついて聖職者に素早く近いて、ナイフを持っている方の聖職者の腕を切り落とし、女性を解放した。

「ぎゃああぁ!!いてぇ!!いてぇよ!ぐぁぁ!!」

 聖職者の男は切られた右腕を抑えながらのたうち回る。

 男の周りに暴れるたびに血がたまっていく。
 男から冷や汗が出て、涙を流していた。
 死ぬのが怖いのだろうか。

「…ふむ、ここで死なれては面倒じゃ。“血流操作けつりゅうそうさ”」

 そういうと、男の血はピタッと止まり、正常に流れ始めた。

「シシオウよ、浄化と回復を頼む」

 その後は流れるように清水を水に変えて、シシオウが周りを光で包み浄化。
 腕を切られた男は聖気によって血が止まるまでは回復させた。
 爆弾も同じように確認して、圧縮して消し、念のため男を“水流結界すいりゅうけっかい”で動きを封じた。

 人々もこの一連の動作を見ており、湧き上がった。まるでヒーローショーを見ている無邪気な子供のように叫んでいる。

 それを横目に他に清水の気配がないかを探った。沢山の気配ではなく。数は少ないが、一つ一つの清水の気配がいたるところに散らばっている。

 ワシは全ての清水の場所を細かく確認して、目を瞑り、手を祈るようにして組んだ。


「“水流変換:水すいりゅうへんかん:みず”」


 そう言うと、清水の気配が全て消えた。

 そしてそれを唱えたら限界が来たようで、体からみるみる力が抜けていった。

 ここでぶっ倒れる訳にもいかないので気合いで意識を保ち、マードさんに話をかけた。

「マードさん。犯人全員、捕まえました。人が沢山集まってると思うので、運んでください。それと、しばらく、俺、姿を消します。必ず、戻るので、ニルファさんにもよろしく伝えてください」

「その声はやっぱりゆうた君か…気づかなかっ………してくれ……とく」

 マードさんは何か喋っているようだったが、意識が朦朧としていて何を言っているのかわからなかった。

 俺はふらふらになりながら、シシオウの元へ行き、倒れるように跨った。
 最後の最後でめちゃくちゃダサいな。

 そう思いながら

「シシオウ」

「グルゥゥ!」

 俺が一言振り絞るように呟くと、シシオウはわかったと言うように鳴いて翼を広げた。

 そして、翼をはためかせ空へ舞い上がった。

 
 俺は朦朧とする意識の中、小さくなる王都を眺めていた。






 シシオウは俺に負担をかけないようにゆっくりと下降していき、王都の外にある森の奥へ入った。

 九割型気絶している俺は残り一割を振り絞って、ポケットから〈センス〉を取り出して、ポトっと投げた。

 投げた瞬間に、俺の意識はプツッと切れてしまった。
 
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