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迷宮都市編
32.迷宮に引きこもりたい。励まされる
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「…という訳なんですよ」
俺はギルドマスターと話した後、シリルさん達とお昼を食べることにして、お昼ご飯を食べながら、ギルドマスターにアドバイスされた事や魔女の事などを話した。
「迷宮に篭ることは僕たちもギルドマスターから聞いたよ。勿論、迷宮に篭るつもりだよ。利用されたくないからね。
だけど魔女については驚いたなぁ。あの金級冒険者が魔物のようになったのは見てたけど、魔女と精霊が関わってるなんて思ってもなかったよ」
シリルさんは眉を少し寄せてそう言った。
「じゃあ、あの金級冒険者はもともとサニアの精霊が見えてて話しかけてきたってことなのか?」
「いや、そういう訳じゃ無いと思う。元々はゴルアルの目線は精霊を見てなかったから、魔女に何かされたんだと思う」
「んー、そっか、まぁ、精霊はすっげー珍しい存在だからなー、なんかあんだろうなー狙われる理由が」
そんなような会話をアシルとしているとサニーが会話に入ってきた。
「精霊さんも心配だけど、呪いって言うのは大丈夫なのかな?魔法が通じない力なんて、そんな力にどうやって対策すればいいのかな?」
「どうだろうなー、魔法が効かないってなると物理攻撃しかないけど、触って呪いが移ったりしたら気持ち悪りぃから触れねぇな!」
「アシルの思ってるみたいに触ったりしたら、移るみたいなことはないけど、生命力が無くなるまで再生するよ。
だから、死ぬまで倒し続けるか呪いの元を絶つしかないよ。
“呪い返し”って言う反転魔法があるかもしれないから危険だけど」
「難しいねー」
なんて会話を三人でしていると、シリルさんが迷宮の話に戻してきた。
「まあまあ、そんな呪いの話をするより、迷宮の事を話そうよ。
おそらくその力を使えるのは魔女だけのロストマジックだろうからね。僕としてはもう明日にでも迷宮に入りたいからね。
今日いっぱい人に話しかけられてものすごく疲れてしまったからね」
そうシリルさんが話すと、アシルとサニーが思い出したかのようにぐわっと疲れた顔をしていた。
昨日のスタンピード以来俺達含め、十二人は都市の話題となっていたのだ。
ウェストとノース、そしてイーストのギルドマスター三人は昔冒険者パーティを組んでいたらしく『狂想曲』の再来だと言って、都市の人達が盛り上がっている。
シリルさんとアシル、サニーついでに俺は魔物達を多く葬り、シリルさんは『黄金の魔拳』、アシルとサニーは『双生の雷嵐』と呼ばれていた。
金髪イケメン、シリルさんから放たれる拳は美しくも強いそんなイメージを沸きあがらせるいい名前だ。
金髪美少女と美少年の双子、アシルとサニーには、雷神風神のように戦を駆け回る雷と嵐を彷彿とさせるいい名前だ。
そしてあのイチャイチャ五人組の『星屑の軌跡』もかなり盛り上がっていた。
なんでも、『星屑の軌跡』のリーダーのスレッドは“聖なる斬撃”という斬撃で三万もの魔物を倒したからだそうだ。
なんでも光り輝く剣で切り裂く姿はまるで、天の裁きを魔物に与えているようだったと死ぬ気で望遠レンズで都市の塀から眺めていた記者が述べていたらしい。
そしてスレッドは敬意を評されこの二つ名がついた。
『判決の英雄』
スレッドさんからこの話を聞いた時は笑いそうになってしまった。
ハンケツの英雄って呼ばれてるなんて、もうあいつの顔は見れねぇ。
俺がなんて言われているのかは教えられていない。
ギルドマスターが話してなかったからだ。
別にいいけど。
まあ、そんな感じで、俺達を見ると『握手して下さい!』だとかそんな感じの声を今日一日でかけられまくった。
あれからたった一日でだ。
早く、迷宮に潜って沈静化するまでこもっていたいのだ。
そんなことを考えているとシリルさんが話をかけてきた。
「ゆうたくん。人を殺したのがそんなに気になるのかい?」
シリルさんはこちらの目をじっと見てそう話しかけてきた。
「え…」
言葉が詰まる。人を殺したということが頭からこべりついて離れない。
「…はい」
俺はそう一言、言うと言葉が溢れてきた。
「頭から離れないです。俺が守ることのできた命。それを守ることができず、更にこの手で殺してしまいました。
目を閉じると浮かんできます。ゴルアルの顔が。
意識を落とすと語りかけてきます。『殺す』って。
目を開けても、胸が押しつぶされそうな痛みが走ります。俺はどうすればいいんだろうって」
吐き出すように俺は涙を流しながらシリルさんに言った。
そうするとシリルさんは俺の目をじっと見つめたまま少し笑って俺に語りかけた。
「僕も、人を殺した事があるよ」
「え…」
「初めて手を掛けたのは、小さい時に一人で森を散歩していたときかな。
あの時は山賊に見つかっちゃってね。エルフは高く売れるからって襲われたんだよ。
その時に三人やったよ。しばらくの間ゆうた君みたいな状態になったよ。
いくら悪い人と言えど自分の手でやるのはきついからね」
そう言って一旦シリルさんは言葉を切る。
「こればかりは受け入れることしかできないと思うけど、人が簡単に魔物に殺されたり盗賊に殺されたり奴隷にされたりする物だから、自分や他のみんなを守る為には仕方なかったって割り切ったよ。
死から目を背ける事は出来ないけどそうやって受け入れることしか出来ないと思う」
シリルさんは俺の目から逸らさずずっと見たままそう語った。
その日、昼にもかかわらず、涙と鼻水とヨダレをぶちまけた。
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