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迷宮都市編

29.後悔と重責。陰謀の計画

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「ぐぉぉぉぉぉぉおおおおおお!」


 俺は巨大化したゴルアルと対峙していた。

 いや、ゴルアルと言っていいのだろうか。その巨大な生き物はゴルアルの原型をとどめてはいなかった。
 そしてゴルアルの気配もなくなり。
 その生き物から放たれる気配は禍々しい呪力だけだった。

 魔女はまじないで、ゴルアルの生命力を全て使い、化物にしたみたいだ。

 これでゴルアルの命はなくなり、何も聞くことができなくなった。
 魔女の気配も注意深く探したが、いなかった。

 完全な自分のミスだ。

 目の前の魔女の気配に気を引かれ、俺が刀で鳥を斬った瞬間を狙い、ゴルアルに何かを仕掛けて変化させた。

 魔女は相手の気を引くことがとてもうまい。
 魔女は気配を操作して、強く気配を出したり、限りなく弱くさせ、存在を消したりすることで。
 俺に違和感を覚えさせたり、気を引かせたりさせてきた。

 踏んできた場数が違うってわけだ。

 ただこれは俺が油断をして招いた事実でもある。

 この世界のスキル【隠蔽】だったり、俺が気を抑えることができる時点で警戒するべきだった。
 気配を抑えられるのは自分だけではない。
 シリルさんだって、さっき戦った大きな骨の魔物だって、気配を隠蔽していた。

 そんなわかりきった事であるにもかかわらず、自分の力を過信した事でこんな状況になった。

 俺の気配察知は心眼、音魔法を使ってかなりの精度で敵を捉えることができる。
 気配察知と音魔法でどの辺りに敵がいるかがわかる。
 そして心眼で相手の気や魔力の流れなどを観ることができる。

 つまり気配さえ掴んで仕舞えば、居場所も強さもわかるのだ。
 だが、隠蔽や気配を抑えられると、心眼でよく観なければわからない。

 俺の力にだって、穴はある。それなのにそれを考慮せず、力に頼りきってしまった。
 
 ちくしょう!甘すぎた!!

 俺はそんな事を思いながら、巨人からの攻撃を避けていた。

 ダメだな。戦闘に集中しなければ。

 そう思い、足を止めて、攻撃を防いだ。

 じっくりと巨人を見るとわかるがこいつには魔法は効かない。 

 魔力が呪力に干渉できないからだ。
 呪力に対抗できるのは聖気のみなので、呪力の塊のようなこの化物には効かないのだ。

「ぐぉぉぉぉおおおお!」
 巨人はそう叫び大振りに俺を攻撃してきた。

 魔法で倒せないので、俺は毘沙門天を発動して、相手の攻撃した後の隙をついて、刀で両腕を切り落とした。
 そうすると、巨大な腕はみるみると縮んで行き、ヨボヨボな枯れ木のような腕になった。

 ゴルアルの腕だ。

「ぐぉぉぉおおお!!!」

 両腕のなくなった巨人は再び雄叫びをあげると俺に突っ込んできた。

 相手は知能が低いのか、バカのようにただまっすぐの突っ込んできた。
 次は足で俺を踏みつぶそうとしているみたいだ。

「すまない」

 俺はそう言って、巨人を真っ二つにして、一刀両断した。

 真っ二つになった巨人の身体はみるみる小さくなり、ミイラのようになったゴルアルが姿を現した。

「ふぅ…」

 相手は化物で人ではない。心や考えまでも化物に変質していた。
 倒さなければ、都市に被害が出ていた。
 倒すべきものだ。

 ただ、それとこれとは別だ。

 俺は人を救おうとして人を死なせてしまったも同然だからだ。

 自分の油断一つで命が失われたのだ。

 力を持てば責任が生じる。

 自分の行動一つで、命だって関わってくると強く認識した。

 俺は心の苦しさと後悔を残しながら死んだゴルアルを抱え、都市に戻った。



「大丈夫かい!!ゆうたくん!」

 都市に入るとすぐにシリルさん達がそこにいた。

「はい。俺は無事です。ですが……」

 俺はそう言おうとすると、シリルさんがすぐに口を出した。

「言わなくても大丈夫だよ。ゆうたくんがなかなか戻ってこなかったから、様子を見に行ってたんだ。そこで僕は見ていたから、言わなくていいよ」

 シリルさんはそういうと、俺から死体を預かり、ギルドの方へ向かっていった。

 シリルさんの後ろ姿をぼーっと眺めていると、俺の肩と手に暖かい感触がした。

 アシルとサニーだった。

 アシルは暖かい手で肩を優しく叩き、サニーは俺の左手を握ってきた。

「今、ゆうたが苦しい思いをしてるっていうのに、俺達はこれくらいしかしてやれないんだ。俺もまだ、人間を殺したことが無いから。殺されそうになったことはあるんだけどな。
 だけどこれだけは言わせてくれ」

「迷宮都市を救ってくれてありがとう」

 アシルにそう言われた。

「なかもりくん。すごく手が冷たくなってるよ。私達じゃ何もわかってあげられないかもしれないけど、辛い時があったらいつでも私達が相手になるからね。だからもう大丈夫だよ」

「なかもりくん、お疲れ様」

 そう言って俺の左手を両手でぎゅっと温めるように握りながらサニーにそう言われた。

 俺は何も言うことができなかった。

 そして二人が俺の肩と手を離した後、俺は一人で宿に帰った。

 都市の中は歓声に溢れていたが、なぜか俺には静かに感じた。

 宿の部屋に戻り、鏡を見ると俺は涙を流していた。

 その日俺は涙を流し続け部屋を出ることはなかった。

 肩と手の温もりを感じながら夜を過ごした。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 そこは薄暗い、小さな部屋だった。


「うーん、大体、実験は成功したかな。だけど、少し知能が低すぎるな。もう少し実験をしなきゃダメか」

 薄暗く静かな部屋から、美しく、妖艶な女性の声が響いていた。

「それにしてもあの子はすごかったな。聖気を使えるわけじゃないのに呪力を断ち切るなんて。すごいなー。ガシャドクロもダメで、大入道もダメだったか」

 響く声は少し弾んだようだった。

「面白い子だな」

 そこからしばらくすると暗く静かな部屋の外からガチャガチャと言う音が近づいてきた。

「アルベラ様!!皇帝がお呼びです!早急に謁見していただきたい!」

 そう男の声が響くと、女性はすぐ返事をして、その部屋から出ていった。









 場面は変わり、女性は大きく豪華な部屋にいた。
 その部屋は奥に行くにつれだんだん地面が高くなっているおかしな部屋だ。

 その部屋の奥には派手で威厳のある服を着た中年の男がいて、その右脇に二人の若い男。左に一人の若い女がいた。

「アルベラよ!待っていたぞ!」

 中年の男は女性に話をかけた。

「お待たせして申し訳ない。皇帝陛下」

「よいよい!我のことをアルバと呼べと言ったはずだが?」

「これは失礼。アルバ陛下。
 それでどういった件で私を?」

「うむ、例の計画の件で呼んだのだ。
 計画はどれほど進んでおるのだ?」

 中年の男、アルバと呼ばれる人はそう聞いた。

「計画ですか。計画については八割ほどは完成しております。あとは多くの人間の命と多少の素材が必要なだけでございます。
 予定としてはあと一年と数ヶ月ほどで計画に移れるかと思います」

 そして、女性、アルベラと呼ばれる人はそう答えた。

「ほう、魔女とも呼ばれるお主でもそれほど時間を要するのか!はっはっは!」

 アルバ?は笑うようにそう言った。

「ふふっ、魔女とは言いますが、ただの、長生きをしているおうなでございますよ」

「はっは!そうか!我が思い浮かべる嫗はお主のように美しく儚げな顔立ちはしておらぬし、程よく肉のついた四肢をしておらぬぞ」

「ありがたきお言葉でございます。それで他に私に用はないのでしょうか?」

 アルベラ?は話を切るように返した。

「おお、話が逸れたな。もう一つは来たる計画に向けて息子と娘に、武器を作ってやりたくてな。お主の付与魔法を頼む」

「仰せのままに」

 アルベラ?はそう言って、話を終わらせ立ち去ろうとした。

「アルベラよ、待て。」

 アルバ?に止められた。

「何でしょうか?アルバ陛下」

「お主に計画の勇者召喚について詳しく聞きたいのでな。我に夜、自室で話を聞かせてくれないか?」

 アルバ?はそう言い放った。

「ふふっ、お戯れを。陛下には皇后様がいらっしゃりますので。夜にそのようなことはできませんよ。
 それでは失礼」

 そう言って、アルベラは豪華な部屋から去っていった。

 部屋に残ったのは男三人と女一人だった。

「では、この世を我のものにしたらアルベラも我のものにするとしよう」

 アルバ?はそう呟いていた。

「お父様!!アルベラは俺の妻にするって話ではなかったのですか!」

 一人の若い男がアルバ?に向けてそういった。

「そうだな。お前の妻で我の妾だ。はっはっは!!」


 大きな声笑い声が部屋中に響き渡っていた。
 
 
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