上 下
33 / 133
豊穣の町(仮)に行く編

3.この村を救うには。いや、俺達は神じゃないって

しおりを挟む
 俺とシシオウは、村の真ん中の広場へ来ていた。

「あのー、皆さん。突然すみません。俺の話を聞いてもらえますか」

「……」

「俺に食料を分けさせてくれませんか?」

「必要ない…」

「食料は、全員分お腹いっぱいになるだけ持っています。だから」

「そんな事をしても死ぬのが遅くなるだけだ。もう楽になりたいんだ。井戸水は汚れ、畑は育たない。今を生き延びたって、また絶望するだけなんだよ」

「で、でも」

「必要ない」

 村人達はどうやら、生きるのを諦めようとしているみたいだ。
 絶望的状況に叩きつけられ、助かる見込みもない。
 だが、俺は諦めてしまっている村人を見て、イラっときた。

「何諦めてんだ!井戸の水が汚れて水が飲めなくなって、畑が育たなくなったからってなんだよ!今お前達は生きているだろう!
 真っ暗で何もない場所にいるわけでもない!自分が動けば、景色が変わる場所に今お前達はいるんだ!今、生き延びたら、なにか変化があるかもしれない。だけど今諦めて死んでしまえば、もうそこで本当に終わりなんだ!諦めないで飯を食え!」

「なにをしても無駄…」

「うるせぇ!無駄じゃない!行動を起こす前に無駄かどうかなんて、わからないだろ!」

「起こしたさ!行動はした!やれるだけ試した!だが、ダメだったんだ!無駄なんだよ!」

「いいや、無駄じゃない。そうやって試して、足掻いて、ダメだったって結果がわかった。次に同じことをやらないで済むようになった。それに俺が来た。俺達が畑を、井戸を全部何とかしてやる。だから飯を食え!俺はお前達が生きたいと思うまで飯を食わせ続ける!!」

「信じられない」

「いいや、信じてもらう。俺はお前達を絶対に救ってやる」

「……」

 今まで黙っていた、グロウが口を開いた。

「みんな、もう一度頑張って見ないか?それに、餓死するよりも、腹一杯食べて死んだ方が、辛くないと思うんだ。だから飯を食べよう」

「…グロウがそう、言うなら」


 どうやら、とりあえず飯は食べてくれるみたいだ。久しぶりに俺も感情的になってしまった。
 暗闇で一度生きる事を諦めてしまった俺と重ねてしまった。
 今考えると、ちょっと怒鳴ったのは恥ずかしいなぁ。



「じゃあ、食べ物出しますね」

 そう言って、焼きたての魔物の肉や、食べると元気になる実、水を一人一人に渡していった。全員がお腹いっぱいになるように。

 村人達は、飯を貰うや否や、すぐに手をつけた。
 いらないとは言っていたが、お腹は空いたんだろう。

 村人達は涙を流しながら飯を食べていた。

「うめぇ、うめぇよ……」

 あたりからそんな声が聞こえる。
 子供の泣き声だって聞こえた。

 飯を渡して食べれたのはいい。食料もまだたくさん残っているし、引き出しから出せばいくらでも出せる。

 ただ、この村をどうやって、建て直すかだ。井戸と畑は間違いなく、魔法か何かがあるだろう。家畜の病気は闇魔法か何かだろう。
 とにかく、調べてみなければわからない事だらけだ。

 俺は村人全員が飯を食べ終えるのを確認すると、グロウに井戸へ向かうと伝えて、井戸へ向かった。


 うーん、これはなんだ、魔法じゃない。ただ、何かあるなぁ。魔法と似た何かが井戸の底でうごめいているなぁ。

 こうゆうの図書館で読んだことあるぞ。なんだったかな。確か古い魔法みたいな、なんだっけな。ああ、あと少しで出そう。えっとぉーー!

「ガゥ」

 ああ、今シシオウが話しかけたせいで忘れたわ。すぐそこまで出てきたのに。

「なんだよ、シシオウ。今井戸について考えてたんだぞ。あと少しでこの原因がわかるところだったんだが、シシオウに話しかけられて、忘れちゃったわ!」

「グゥガァウ」

「え、俺なら治せる?そんなバカなこと……」

 俺がそう言っている間にシシオウは井戸の前に立ち、ピカピカを放ち始めた、これは聖気だ。

 あ、思い出した!まじないだ!
 確か、まじないはかけた人の生命力を使って、かけるものだったな。
 まじないの厄介なところは、魔法じゃ干渉できないところだ。何しろ生命力を使ってかけてきているからな。

 ただ解く方法はある。
 こちらも生命力を使って解除したり、今シシオウがしているみたいに聖気を使い浄化したりできる。

 封印っていうのもあったかな。

 ちなみに俺は聖気は使えないが、解くことができる。
 毘沙門天を使えばまじないを断ち切り、消すことができるからな。

 シシオウだけができるってわけじゃないってこと!

 そんな事を考えているうちにシシオウは井戸の浄化をしたみたいだ。

「おつかれシシオウ!よくやったな!よしよしよしよし!」

「グゥ」

「とりあえず、村人達に井戸使えるようになった事報告しに行くかー」

 そう思って、井戸から離れようとして、後ろを向いた時。

「神だ……」

「天のお力だ!」

「「うぉぉぉ!」」

 どうやら村人達は、シシオウが浄化しているところを見ていたらしい。

「あ、あの、井戸はどうにかなりました……」

 村人達が俺とシシオウをものすごくキラキラした目で見てきている。

 さっきまで、死んだような目をしていた人が、全員まるで神をみて敬うような目でこちらを見ているのだ。

 いや、いいんだけどね。生きる希望を持ってくれるのは。
 ただ、目が、目がすごいのだ。

「井戸どうにかなったって、言ったんですけどー」

「あ、はい!そうでした!ありがとうございます!我々はあなた様方に失礼な言動をとってしまいました。申し訳ございません!」

 お礼を言われた後、突然謝られた。

 いや、グロウってそんなキャラじゃないだろ。さっき、俺と口論した人までキラキラしている。

「えっと、謝らなくていいですよ。
 それと、ちゃんと言っておきますが、俺もシシオウも、神ではありませんからね」

「はい、あなた様方が言うなら、神も神では無くなりますよね!お前達、そうだろう!?」

「「はい!」」

 なんだこれは、なんのドッキリなんだ。目がすごい。俺の神じゃないよ発言が、変な方向で受け取られているのはわかる。だって、この人達話通じないもん。

「だから、俺とシシオウは神ではなく、人間と獣です!いいですね!」

「はい!わかっています!あなた様方(以外)は神ではなく、人間と獣なんですね!!」

 なんだわかってるじゃんか。ならなぜキラキラな目をやめないのだろう。
 まあ、わかってくれたならいいか。

「わかってくれたなら、大丈夫です。」

「「おぉ!」」

 何が「おぉ!」なのだろう。この人達にいちいちツッコミを入れていくと日が暮れてしまう。というか、もう暮れてきている。

「では、ゆうた様、シシオウ様、暗くなってきましたので、村の中の家にお泊り頂けないでしょうか?」

「グロウさん、あの……」

「グロウとお呼びください」

「ぐ、グロウ、あの、様ってつけるのやめてもらえませんか?」

「敬語も必要ありません。そして様を止めることはできません。ゆうた様、シシオウ様は(神であり)私達の恩人、様をつけずに呼ぶことはできません」

「わ、わかりまし」

「敬語は必要ありません」

「わ、わかった」


 やばい、グロウの目が本気すぎて、断れない。
 まだ畑は何もしてないのになぁ。

 明日は畑を見に行かなきゃなぁ

しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

補助魔法しか使えない魔法使い、自らに補助魔法をかけて物理で戦い抜く

burazu
ファンタジー
冒険者に憧れる魔法使いのニラダは補助魔法しか使えず、どこのパーティーからも加入を断られていた、しかたなくソロ活動をしている中、モンスターとの戦いで自らに補助魔法をかける事でとんでもない力を発揮する。 最低限の身の守りの為に鍛えていた肉体が補助魔法によりとんでもなくなることを知ったニラダは剣、槍、弓を身につけ戦いの幅を広げる事を試みる。 更に攻撃魔法しか使えない天然魔法少女や、治癒魔法しか使えないヒーラー、更には対盗賊専門の盗賊と力を合わせてパーティーを組んでいき、前衛を一手に引き受ける。 「みんなは俺が守る、俺のこの力でこのパーティーを誰もが認める最強パーティーにしてみせる」 様々なクエストを乗り越え、彼らに待ち受けているものとは? ※この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも公開しています。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

巻き込まれて気づけば異世界 ~その配達員器用貧乏にて~

細波
ファンタジー
(3月27日変更) 仕事中に異世界転移へ巻き込まれたオッサン。神様からチートもらってやりたいように生きる… と思ってたけど、人から頼まれる。神から頼まれる。自分から首をつっこむ! 「前の世界より黒くないし、社畜感無いから余裕っすね」 周りの人も神も黒い! 「人なんてそんなもんでしょ? 俺だって黒い方だと思うし」 そんな元オッサンは今日も行く!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

処理中です...