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森に迷い込んだ編

10.目覚めた力。自力本願は当たり前

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体が動かない。

 蛇に睨まれた蛙のようだ。

 実際蛇と亀に睨まれた人間なんだが。 
 そんな余裕ある言葉も言ってられない体が全く動かない。

 恐い。

 そう思った瞬間、俺は亀に吹っ飛ばされて、意識を失った。








 俺は暗闇にいた。
 森ではない真っ暗などこか。
 とりあえず頭と背中は確認したが、輪っかも羽根も生えていなかったので死んではいない。

 「俺は確か亀に吹っ飛ばされて……気を失ったんだったな、ここどこだよ」

 暗闇が続いていた。

「魔法は……使えない。力は……使えない。刀はある。体は動く……よし」

 刀があるだけマシだ。
 ここは暗闇で何もないので、歩いたり、走ったりしていた。不思議と疲れることはない。



長い時間が経った



 何もない。三年は経っているんじゃないか?そう思ったりしたが、時計もないので実際のところはわからない。

 動くことをやめて、ただひたすら目をつぶっていた。

 初めは刀に話しかけたりもしていたが虚しくなるのでやめた。

 腹が減らないので死ぬことはない。
 これは地獄なのかもしれない。

 ゆうたは二度目の独りとなった。
 
 荷物は刀と服のみ。箱も宝石も紙もない。周りは暗闇のみ。

「諦めようかな」

 そう呟いた。

 その時、突然誰かが立っているのを感じた。

 ゆっくりと、目を開けると武士のような若者が立っており。甲冑を纏っていた。

 左手には家のようなものを持っており、右手には強そうな棒を持っていた。

 こいつは人間じゃないな。
と思った。

『ヌシは死んだ』
一言そう呟いた。

「つまり?」

『ヌシを消す』
そう言って、男は姿を消した。

「何が何だか説明してくれよ……」
そう言った途端暗闇から変化が起きた。

 そこは戦場。

 戦国時代にいるような荒野に立たされていた。

 だが荒野に一人ではない。ナニカがそこには立っていた。

 二種類の鬼がそこにいた。

 その二体から放たれる存在感で数瞬のうちに殺されてしまうだろうことがわかった。

 諦めようかなと呟いた後に現れた変化。
何が何だかわからない。

 なんだこれは。ただ、諦めていたが、状況は変化したらしいことはわかった。

 変化したら死にたくなくなるのは当たり前だ!やっぱり生きたいわ!

 そう思うのは当たり前である。

 2体の鬼のうちの一体が俺に襲って来た。
 どうやら一体ずつが相手になるらしい。

 鬼の顔は醜く、ヨダレを垂らし、俺を殺したあとは確実に俺を食らうことがわかった。しかも、

 こいつ俺を舐めている。

 醜い鬼の爪は当たれば即死だろうと思うくらい鋭い。動きはまるで野生で、読むことができない。
 攻撃をしても避けられ、「ヒッヒッ」
と笑うだけ。その顔は猿やカエル鳥を思い出させる。

 絶対に土下座させてやる。

 そう思うがこいつは強い。まったくもって動きが読めず斬ることができない。

 そんな事を考えていると、鬼の爪が俺の頬を掠った。

 血が出てきていた。その姿を見て鬼はふざけた顔をして、ヒィヒィ言ってやがる。

 余計な事を考えるから、当たるんだな、ただこいつを倒すことだけを考えよう。

 そう決意して、俺は理性のある野生に戻った。

 そしてやり返しとは言わんばかりに鬼の右耳をぶった切ってやった。

 ヒィヒィ言ってた笑顔も姿を消して忿怒の顔でこちらを見ていた。

 鬼は獲物としてではなく敵として認識したのだ。
 圧倒的殺意を持って。

 そこには、の動物がいた。

 食うか食われるか。そこにはそれしかない。

 俺は刀で鬼を斬りつけ、鬼は俺を掴んで腕に噛みついた。

 喧嘩のような戦いだった。

 結果、鬼の脚を斬りつけたのが決定打となり、俺は勝ったが、腕から血を流しすぎてあまり力が入らない状態だった。

次もあんのか。これは消されるかもしれないな。

『ごきげんよう、夜叉を倒すとはなかなかの実力をお持ちで……』

 そこで意識を失ってしまった。








 目が覚めたら森にいた。

なんてことは全くなく、暗闇に戻っていた。

 夢かと思ったが夢ではなかった。

 確認すると傷はないし、体もいたって健康。だがしかし。二体の鬼はいた。

 一瞬驚いたが冷静になった。

「どうして助けたんだ?消すんだろ?」

『楽しみたいので』
もう一人の醜い鬼はそう言った。

『私の名は羅刹。早速ですが、やりましょう』

場所は変わって。寺のある山にいた。

「お前は喋るんだな」

『フフ、そうですね』

 そして戦いは始まった。

 羅刹は魔法ではない何かを使っていた。
 体が動かない状態でどこからか岩を作り出しそれを操って俺に殴ってきていた。

 岩ぐらいなら殴られても痛くないと思ったが、何かが纏われており寺の外へ飛ばされた。痛い。

『恐ろしく頑丈な体ですね、通力に耐えるなんて、素晴らしいと思います』

 動かなくした何かを通力と言うらしい。

「いやふつうに痛いし、何発か食らったら死ぬんだが」

『そうですか』

 攻撃がまた始まった。

 通力で動きを止められ通力で作られた岩で殴られる。同じ攻撃を三発食らった。実に痛い。もう二発くらいで間違いなく死ぬだろう。

 そんな時に変化が起きた。目を疑った。
 殴られすぎて幻覚を見ているのかと思ったが、それは違うらしい。
 どうやら通力が薄っすらとだが見えるようになったらしい。

 俺を掴もうとする透明な手が何故だか見える。
 それを避けると、羅刹は驚いたような顔をして、また俺を掴もうとしてきたそれも避けたら羅刹が話をかけてきた。

『見えるのですね』

「どうだか…」

『降参します、おそらくもう勝てませんので』

「お前諦め早いな、あと少しで倒せるかも知れないのに」

 なんで俺は不利な事を言ったのだろう。全くわからなかったが言ってしまった。

『フフ、あなた、どうせ避けるでしょ?私はこれしか使えないので』

「そうか…」

『そうです』
 羅刹は終始ニコニコしていた。

「……お前、いいやつだろ?傷も直してくれたし、突然通力が見えるようになるのもおかしいし、お前なんかしただろ」

『どうでしょう。では行きましょう』

 話をはぐらかされた。

 元の世界のおばさんを思い出しそうになって、少し寂しくなった。

 場所が変わった、また暗闇だ。
羅刹と夜叉、そしてその前に、男が立っていた。

 男が言ってきた。

『ヌシは一度生きる事を諦め、死んだ。にも関わらず、再び我の前へ現れた。
 何故ヌシは生きようとしている。
ヌシは全てを諦めた。友や、家族、幽霊、獣、この世界に生きる事を諦めていた。何故今再びここに立つ?』
 男はそう尋ねてきた。

「そりゃ、長い間こんな暗闇にいて何も変化がなく、希望もなくなれば生きる気持ちも無くなりますよ。
 俺はそこで諦めました。心がそこで折れてしまいました。
 だが、変化が起きた。あなたたちが現れた。心にある何かが変わって、俺は思ったんです、まだ死にたくないって。
 何かを変える力があるなら俺は変えたいって思ったんです」

 俺はしっかりと感情を表した。死にたいと思った俺はやっぱり死にたくないと思った。
 自分はとても浅はかな人間だろう。だが、生きたいものは生きたいのだから、仕方ないだろ。

『実に浅はかで、人間らしい考えだ。
 我はずっと見ていた、お前が元の世界〈アート〉にいる時から、ヌシの中にずっといた。ヌシの感情が手に取るようにわかる。故にその感情が嘘偽りがないことがわかった。
 この暗闇を変えるだけの力を、我は持っている、だがその力に振り回されず耐えうる力かを、我は見たい。
 つまり!!我と戦え!試してやる!』

 あぁ、こいつも脳筋かよ。

 俺は男と戦った。

 男は右手しか使わず一歩も動かなかった。まるで俺に稽古をつけているようだった。

 暗闇では体力が切れないし、怪我もしないので。ひたすら稽古をしていた。

 とても長い間、稽古をしていた気もするし、とても短い間のような気もした。

 誰かの一生は終わっているのではないか。

 それくらい長いような気がしたし、一日も立っていないのではないかという感じもした。

 いつのまにか、稽古は戦いとなり、お互いが本気で戦っていた。

 戦いは終わり。俺と男は握手をしていた。

「ありがとうございました」

『ヌシはこの力に振り回されることはないだろう。
 我の名は“毘沙門天”。ヌシには残り四つの力がおる。じきに会うことがあるかも知れぬ。力を授けたぞ』

そう言って俺の中から力が溢れ出てきたのを感じた。

 それは、元々自分が持っていた力、のようだった。この力が何か、どう使うのかがわかった。

『行ってこい』

「行ってきます」
 
 俺はそう言って、暗闇を刀で切り裂き、空間を抜け出した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ここは、ゆうたが去った後の暗闇。


『行ったな』

『ヒッ』

『生きましたね』

『ヌシらもあいつの元へ行け、我はもう、ただの精神体でしかない。あいつが死にそうになった時に助けてやるんだ。いいな』

『ヒッ!』

『ハッ!』

そして二体の鬼は消えていった。











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