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エピローグ

汚ね~! これだから貴族なんか……

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「は!」
 中央にあるカーペットを少し歩き陛下からかなり距離を取って膝懐き、控える。
「卿の今までの軍での献身を陛下はことのほか高く評価されており、帝国の法に則り本日より卿を男爵から子爵へと昇爵を御認めとなった」
「今まで以上に帝国への献身と、陛下に忠誠を捧げます」
 会場がざわついているが、反対するようなものは居ない。
 え、おかしいでしょ。
 定番なら、ここで有力貴族が、成り上がりの昇爵なんかとか言って、反対する物でしょ。
 絶対におかしい。
 ざわめきはしたが、大した混乱もなく式典は終わった。
 直ぐに解放される筈も無く、殿下に捕まる。
「当然、私を待っていたでしょ」
「はい、殿下」
「嘘を言うようになりましたね。だいぶ貴族というものに慣れたようで、安心しました」
 殿下は俺のことを見透かすような目を向けて楽しそうに微笑んだ後、王宮内の殿下執務室に拉致された。
 そこでは、前に見たような光景が。
 サクラ閣下の父君である貴族院議長を始め外交執行部の長官、それに近衛のトップまでもが臨席していた。
「ここに来てもらったのは、これからのことについて話おきたかったからだ。昇爵して君も忙しいだろうが、こちらの方が重要なので理解してくれ」
 殿下はこう切り出してきた。
 そう、今の殿下の言葉の中に『これからのこと』と言うなんて不気味なワードがしっかり入っていることを俺は聞き逃さなかった。
 この時の俺の気持ちとしては『騙された』の一言だろう。
 まあ、ある程度は予想していたが、だいたいがブラック職場の上司には二通りの者が在る。
 やたら高圧的なのとフレンドリーなものだ。
 その内、高圧的なものは精神的にきついものが在るが、よりたちの悪いのは今の殿下のようなフレンドリーに接してくる者だ。
 俺の経験から言うと、より困難な仕事を涼しい顔をしながら平気で命令してくるのは決まってこういう者だった。
「君がどこまで理解しているか分からないが、この国の現状を大局的に理解していないのは多分君だけだろうから、簡単に説明しておく」
 殿下は俺に構わず話を続ける。
 殿下の説明はおおよそ次の通りだった。
 まず、戦争の行方だ。
 半世紀も続けたこの戦争もゴンドワナの趨勢如何で大方片が付くと考えている様だった。
 この戦争を始めた半世紀前は、あの希望の回廊を押さえての勝利が見えていたことで、あそこにこだわり、両国も戦力を集中させて長らく戦ってきたが、当然地域限定だったこともあり戦争は長引く。
 その後は制海権をめぐり海軍同士の戦闘を繰り返しもしたし、帝国の裏口に当たる所への侵攻もあったが、帝国は第二作戦軍を置くことで、辛うじて危機を脱したのだ。
 時代も進み、両国とも海軍力の充実とともに、両国にとって未知のゴンドワナ大陸にほぼ同時に進出して現在に至るが、このゴンドワナ大陸での趨勢が戦争そのものを決めるまでになっているとのことだ。
「帝国にとっては共和国そのものを潰すつもりはない。共和国の帝国に対する攻撃だけを止めさせれば良いだけなのだ。共和国はどう考えているかは分からないが、どのみち戦争が終わればあの国は持たない。独裁者のかなり無理な運営で、あの国には活力が無い。今は、戦争のために無理やり国民を動かしているが、戦争が終わればどのみちあの国は詰む。いや、既に詰んでいるのかもしれない」
「は~」
 明らかに興味の無い話だ。
「その重要なゴンドワナの戦況もヘルツモドキ卿の活躍で、もうじき終わるところまで来ている」
 殿下がここまで説明してくると、今度は外交執行部の長官が話を続ける。
「ヘルツモドキ卿が敵の重要拠点を落としたことで、ゴンドワナでは独立運動が盛んに起きているし、建国も始まっている。既に、あの港町を中心に新たな国が作られることは既に殿下も了承している」
 え、早速建国ですか。
 また、連邦国のような傀儡国を作るつもりの様だ。
 それなら連邦国を広げる方が早いのではとも思うが、将来的に強大な国ができることを嫌う勢力もあって、妥協の産物の様だともこの後説明してくれた。
 外交執行部の説明の後に、今度はサクラ閣下のお父さんである元老院議長が話を始める。
「先に殿下も申していたように、ゴンドワナ大陸の趨勢も、あの拠点を落としたことでほぼ決まりだ。まだ、敵にはあの大陸に帝国の作戦軍にして1~2倍の兵力を残しているが、それも問題無いだろう」
「補給に問題が出ているのですか」
「補給と言えば言えなくもないが、武器弾薬についての補給も苦労はしているようだが、全くできていない訳では無いので、直ぐに攻め落とすことができないことは今までと変わりがない」
 サクラ元老院議長は元軍人であったこともあり、相当軍の情報を持っているようで、現状と見通しを俺に説明してくれる。
 それによると、人的な面で重要な位置づけだった補給港を落としたことで、軍全体にかなり動揺が走り、士気が相当落ちているとか。
 前に俺が仕出かしたことになっているが、あの事件でただでさえ士気が上がっていないところに補給港が落ちたことが問題だとか。
 あそこを使って例の黒服がゴンドワナに来ていたとかで、これからは黒服の連中の大陸への出入りが相当制限される。
 それにより、敵軍の戦闘意欲と云うよりも、戦闘する理由も無くなる。
 何せ、あの国は黒服の指示が無い限り軍は動かせないことになっている。
 武器弾薬や一般兵士の補給と一緒に黒服が来れないこともないが、あいつらは必要に迫られない限り絶対にそれは行わない。
 あいつら自身が嫌われていることを理解している。
 安全が確保された専用ルート以外ではまず移動しないのはこのためだ。
 今でも時々、それ以外のルートを移動中の黒服が襲われる事件が起きているようだ。
 そんなこともあり、黒服の移動が制限されたことで、ゴンドワナにいる軍の戦力は防衛においてのみ脅威ではあるが、こちらに攻め込んでくる力はほぼなくなったと見ているとまで説明してくれた。
 だいたい現状をお偉いさん総出で俺に説明してくれた。
 一介の市民に何と贅沢な。
 これって絶対やばい案件だと俺の経験から来る勘がしきりに危険を訴えて来るが、俺には逃げ場など初めからない。
「だいたい、こんな感じだな。理解してくれたかな。理解してくれないとこれからについて支障が出るから、後で資料も渡すからよく勉強しておいてくれ」
「はい、わかりました殿下」
「なら、これからについてだが、君には早速貴族の責任を果たしてもらわないといけないな、ヘルツモドキ子爵」
「貴族の責任ですか」
「ああ、『ノブレス・オブリージュ《高貴な身分に伴う義務》』と言ったらいいかな」
 ああ、もう駄目だ。
 もう、この先絶望しかない。
 ブラックを通り越して、何と表現したらいいか分からない新次元が目の前に迫っている。
 俺は、殿下の今の言葉で、早速人生を諦めた。
 殿下の後から近衛軍の長官が俺に向かって何かを言っていた。
「ヘルツモドキ卿。只今を持って、貴殿に近衛軍への参加を要請する」
「近衛軍長官の要請を受理して、ヘルツモドキ子爵に、近衛軍准将の職位を帝国皇太子の職責を持って命じる」
 え、何、俺って軍を辞めたよね。
 何で、今更軍に連れて行かれないといけないんだよ。
 俺が黙っていると、周りが少しざわめきだした。
 それを殿下が笑って許して俺に優しく語りかけて来る。
「分かっているよ、ヘルツモドキ卿。約束が違うと怒っているんだよね。でも、大丈夫だ。これは必要なことなので、将軍職を命じただけで、君に近衛軍を率いてもらうつもりはないよ。そこで、近衛軍准将として、ゴンドワナ大陸に新たに作られる総督府の総督についてもらう。植民地じゃ無いので総督府という呼び名もおかしい話ではあるが、これって便利な言葉だよね。総督府を作ることだけで、国内の貴族の受けがいいんだ。君は帝国の英雄なので、かなり無理があったが、どうにか貴族院の了承も得られたし、色々政治ってやつだと理解してくれ」
「で、で、殿下」
「俺はでで殿下じゃないが、何だね」
「俺に総督をしろと」
「ああ、これは陛下から後程、任命されるから、ここでは任命できないが、そうだ」
「俺にできる筈は……」
「何、今までとあまりやることに変わりはないよ。現地勢力と仲良くしながら敵を追い出すだけだ」
 そんなの、やっぱり詐欺じゃないかよ。
 軍からやっと自由の身になれたと思ったのに、どこにも自由が無いじゃないか。
 これでは前のブラック職場と同じじゃないか~~~。

 汚ね~! 大人って汚い、これだから貴族なんか信じられないんだよな。

   


 一平民として戦地特別任用されたのだが、貴族に叙爵したこともあり、一度軍から解放されるが、貴族になったために貴族としての使命を要求される。
 そう、高貴なる使命と言われる奴だ。
 こんな要求をする方からすれば、今までと何ら変わりがないが、いろんなしがらみから貴族なったために自由になれる分だけ使い勝手がいいとか。

 ほとんど詐欺のような手口で、わずかばかりの休暇を与えただけで、元に戻される。

 そんなブラック体質な主人公のお話はこれで終わります。
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