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エピローグ
除籍
しおりを挟む「ありえません」
ジーナが俺の言葉を遮っていきなり否定してきた。
「貴族の当主は、本拠地の移動および登録は帝都の貴族院でしか行えません」
「は? 俺がどこかでアパートを借りることはできないということか」
「いえ、借りることはできるでしょうが、住むことも数日滞在することもできません」
ジーナに俺の野望をきっぱり否定された後は、ジーナによる俺のための貴族講座の始まりだ。
普段はアプリコットの役割でもあるお小言のおまけまで付いてきた。
とにかくやる事のない、また逃げ場の無い車内で『5歳からの貴族入門』あたりから講座が始まる。
あ、このタイトルは俺が勝手に付けたものだから気にしないでほしい。
かわいそうなのは俺の護衛役として付いてきたドミニクだ。
彼女にもついでとばかりに貴族護衛の心得なんかも講座が開かれている。
一晩掛かって一応の説明、あれが説明と言って良いものかは個人の感想によるものだから敢えてここではコメントを避けるが、その説明を受け、おおよそのことは理解した。
まあ俺が思う処の貴族よりもかなり面倒だということだけは理解した。
「一応、まあ無理だとは思うが、一応だけど聞いておきたいのだが、その貴族って、辞めることできるものなのか」
「は~~?」
ジーナは最後にはなった俺の質問を、『こいつ何も理解していないな』って目で睨みながら声を放つ。
「あ、良いです。もうわかりましたから」
貴族はあの忌々しい軍よりも面倒で、時期が来たら辞められるという物ではなさそうだ。
これも、俺の理解と一致する。
なにも好き好んで貴族になった訳では無いのだが、本当にどうなっているんだか。
そんな暗澹たる気持ちになりながらも、列車は俺の気持ちに関わらずどんどん進んでいく。
翌日昼前に終着駅に着いた。
ホームに降りる前からホームには駅長が出張っており、俺たちを待っている。
俺が降りるとそのまま駅舎の応接室に連れて行かれた。
旧都では貴賓室だったが、流石にここではそのような部屋は無いらしく、応接室に俺たちを連れて行く。
応接室に入ると、既に先客がおり、俺たちを出迎えてくれる。
なんでもこの辺りの市庁舎から俺宛てのメッセージを持ってきてくれた総務課長だというのだ。
もう嫌な予感しかないが、俺はその総務課長にお礼を言ってメッセージが書かれた紙を受け取ろうとすると、ジーナが俺の手を押さえて、彼女が代わりに受け取った後、俺のことを睨んできた。
小声で、「あれほど説明したのに、まだ、ご理解いただけないようですね、少佐」
どうも、俺が直接受け取ってはダメの様だ。
ジーナは受け取ったメッセージをすぐ読み、俺に伝えて来る。
「明後日の朝一番に皇太子府に出頭してください。殿下からの呼び出しです」
「明後日だって。ここから間に合うのか」
「ええ、別の紙には時刻表が添えられておりましたから。5時間後に折り返しの貨物列車がここを発ちます。それで旧都まで向かい、そこから輸送機の手配をすぐにします」
「え、5時間後だって。俺、ここには5時間しかいれないのか」
「いえ、自由に見て回れるのは正味3時間もあればいい方では。下手をすると全くないかも。どちらにしても、一度この辺りを監督しております市長への表敬訪問が先ですね。それ次第かと」
結局その後は、総務課長に連れられて市庁舎へ、表敬訪問。
帝国の英雄の表敬訪問とだけあって、かなりの騒ぎとなり、その場で足止めされる事3時間。
その後も色々と連れまわされて、解放されたのが出発前1時間を切ったあたり。
「少佐、お喜びください。駅前なら30分以上の自由時間が取れました」
結局駅前の商店街、と言っても本当にさびれた田舎の商店街だったが、そこをぶらぶらと……ご期待通り何もできなかったよ。
商店街でもちょっと騒ぎとなって、笑顔を振りまいて終わり。
俺、ここに何しに来たのだろう。
帰りの列車内でも、ジーナ先生の講義が待っていた。
とにかく軍でも一夜漬けなんか全く役に立たなかったのに、これからの貴族生活も一夜漬けって何。
しかも、殿下からの呼び出しって、いよいよ軍を離れるための何かだろう。
軍を辞めさせてくれるのは助かるが、一軍人が軍を離れるのに一々やることなんかあるのかね。
喩え佐官だと言っても最低の少佐、しかも成りたてとあっては、どこかに挨拶と言ってもたかが知れているし、そんなことに皇太子殿下が関わるなんかあり得ない話だろう。
俺はびくびくしながら帝都に戻っていった。
驚いたことに部下たちはまだ帝都で休暇を楽しんでいるようだ。
だが、ウシシシ、散々俺をこき使った?アプリコットは休暇を貰えていない。
今まで一蓮托生だったのだから、最後まで付き合え。
どうも、まだ殿下に捕まって色々と仕事をさせられてるようだ。
まあ、彼女は優秀だから俺なんかのお世話係ではもったいない。
皇太子府で良いように使いまわせばサクラ閣下以上に仕事をするかもしれないし、流石は殿下もその辺りを見抜いているようだ。
俺が辞めても予備役に回されることも無さそうなので、正直、そこだけは安心できた。
後は、過労死しないことを祈るだけだ。
直ぐに殿下と面会がかない、殿下の執務室に案内される。
「やあ、少佐。急な呼び出しで申し訳ない。これから王宮で、君の退官を陛下に報告することになっている。それが君の軍での最後の仕事となる。それが終われば、戦地特別任用における軍からの拘束は無くなるから安心してくれ」
「殿下、ご配慮感謝いたします」
「へ~~、君にもそう言う礼儀ができるんだ。なら安心して、次に進めるね」
「次?」
「あ、いや、君は気にしなくていいから」
殿下は含みのあることを言っている。
「殿下、そろそろ」
フェルマンさんが殿下の横に来て時間が無くなりつつあることを知らせて来た。
その後は殿下についてあっちこっちと行ったが俺はよく覚えていない。
陛下の執務室で、殿下より俺の軍籍からの除籍を知らせている。
最後に陛下よりお言葉を賜り、陛下との面会は終わった。
俺が男爵だったこともあり、実にスムーズに面会は済んだ。
しかし、陛下も何か言いたそうにしていたのが気になる。
その後は、貴族院に行って俺の住所変更を済ませた。
何と俺の住所って、今はゴンドワナのあのジャングルになっていた。
あの司令部内が俺の住所だ。
今後は皇太子府の離れに屋敷を賜ったことになっており、そこに俺の本拠を置くことになっているようだ。
何で不確かな表現かと言うと、俺も全く知らない世界で物事が進んでいる。
貴族っていう物は、そういう物なのかと無理やり納得させているが、だが俺の知る限り軍籍から離れたと言っても、今までとあまり変化が無いように感じるのは俺だけか。
殿下より、毎日皇太子府の俺のために作られている事務室には顔を出せと言われている。
俺、軍を止めて晴れて自由の身だよな。
今まで俺が帝都に来た時とどこが違うのかと言いたい。
俺を呼びかける言葉のみ『少佐』から『男爵』に変わっただけで、一向に変わった感じがしない。
え、俺って飼い殺しにあっているのか。
心配していると、数日後に事務員から予定を告げられる。
宮殿で式典があるから参加するようにと。
俺は、皇太子府の侍従に連れられて初めて殿下と一緒では無く王宮に出向く。
王宮大広間では、相当数の貴族が集まっての式典があるらしい。
大広間の端で大人しくしていると陛下は入場されて式典が始まった。
偉そうな人たちが次々に挨拶やらなにやらを話していると、最後に俺の名が呼ばれた。
「ヘルツモドキ卿、前に」
え、何々?
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