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グラス小隊のお仕事
表敬訪問
しおりを挟む子猫たちのリリースも済み、俺らは、街の散策に出かけた。
俺とマキアさんは、何件もの機械を扱う店に入り、そこの店主と楽しそうに話し込んでしたが、後ろに控えている連中は、何が楽しいのかわからないといった顔をして、ブツブツ不満をこぼしていた。
「マキアさん、これだけ探しても見つからないのだから、市長の言うとおり、この街での入手は無理そうだね」
「はい、隊長。私もそう思います。せめて、故障して廃棄するようなものでもあれば、以前に指揮車を修理した時のようにニコイチでもと考えておりましたが、それすらありませんでしたね」
「そろそろ休憩を取ろうか」
「そうですね、私も少し疲れましたので、賛成です」
「みなさん、大変お待たせしました。街での予定を終えましたので、ここいらで休憩をします。よく我慢してくださいました。約束通り、カフェで食事をおごりますので、許してください。追伸ですが、あまり高いのはダメだぞ。さして持ち合わせがないのでな」
「「「分かりました~~」」」
「隊長~~~。あそこの店に入りましょう。オープンカフェになっていて、気持ちよさそうですよ。ね、ね、ね」
「分かった、みんなの分の席を確保してもらってくれ」
「分かりました」と言ってサリーが走っていった。
全員で広場の前にあるオープンカフェに陣取り、フレンチトーストのようなものをコーヒーと一緒に頂いていた。
「少尉、目的の機械が手に入りませんでしたが、この後どうします?」
真面目なアプリコットが聞いてきた。
「なけりゃ~、ないなりにやるしかないが、手間がかかるしな。どうしよう?」
「隊長、ウインチなんて、そうそう民間なんかで使わないですしね」
「え、それもそうか。やっぱり、無謀だったか。どうしようか?」
すると、メーリカさんが、「いっそ司令部に丸投げなんかどうです。一旦基地に帰り、そのあと司令部に人と資材を出させて整備させるのは」
「それも手なんだけれどもね、司令部の連中があまりいい顔をしないんだよ。多分、『暇なお前らに時間をやるからきちんと整備しろ』なんて言われそうだしな。今なら、応急でお茶を濁せるんだが……」
「民間にないウインチって一体どこで使われるものなんですか?」
「そうだな、工場なんかではよく使われるな。このあたりの状況で考えると、造船所か整備用のドックなんかでも使われると思うよ」
「ウインチを使わない造船所なんかこの世にありませんよ。絶対に船の周りにはあるはずのものなんですがね……」
「「「船の周り??」」」
「あ!、海軍さん持っているはずだよね。ここには鎮守府もあるし、整備用に絶対に使っているはずだ」
「隊長、海軍に理由を話して予備でも貸してもらえませんかね」
「それは無理じゃね~~。だって、海軍だよ。うちら陸軍とついこの間派手に喧嘩してなかったっけ」
「あ~~~~、それもそうか。本当に帝都のお偉方はちっとも現場のことを考えなくて好き勝手するんだから」
「少尉、素直に時間をかけて基地に戻りましょう」
「ちょっと待て。ここまで来たのだから、ダメもとで交渉してみよう。補給の絡みもあるし、鎮守府に後で挨拶に出向こう。その席で、ダメもとで聞いてみてダメなら、マーリンさんの言うとおり、時間をかけて、3箇所の補修を行おう。マキアさんやエレナさんの言う箇所については報告書に上げて基地の判断に任せようと思うのだが、どうだろう」
「それでいいじゃね」
やる気のなさそうにメーリカさんが答え、「しょうがないですね。それしかないですかね」 とアプリコットも賛意を示した。
当然マキアさん、エレナさんの両名は不満そうな顔をしていたが、我々にはあまり選択肢がなかったので諦めているようだった。
「海軍訪問での幸運に期待しよう。もしかしたら、素晴らしいことが起こるかも知れないじゃないか。それに、暗い気持ちになるとせっかくの居心地良い場所での食事が美味しくなくなるよ」
「そうですよ。せっかくこんな気持ちの良い場所で、みんなで食事ができるのですから、楽しく食べましょ」と最後にサリーに説得されて、話題を変えて楽しく食事を続けた。
ゆっくりと食事を終え、俺の財布が限りなく軽くなって市庁舎前に戻ってきたら、市内に散らばっていた子猫たちも全員が戻ってきていた。
俺はメーリカさんに点呼を頼み、全員の戻りを確認後、すぐそばの海軍鎮守府に向かった。
鎮守府の受付で、訪問の目的を伝え、表敬のために補給関連の現場責任者の方に面会を求めた。
例によって、子猫たちは保護猫を付けて基地内の休憩スペースにリリースし、俺らは、海軍担当者の後について、鎮守府の庁舎の中に入っていった。
かなり立派な応接セットのある部屋に案内され、直ぐに飲み物を運んでもらい、かなり歓迎されているように感じる中、少し待たされた。
しかし、案内から、今の今まで歓迎されているのが分かる対応をされているので、少しも不快な感情は沸かない。
先ほどカフェで話した懸念などどこにもないので、ジーナやアプリコットあたりは何やら落ち着かない様子だった。
ドアのあたりに軽くノック音が聞こえた後、この基地の士官と思しき人が入ってきた。
素人の俺にはよくは分からないが、着ている軍服からは少なくとも高級士官の部類に入る人であることだけは分かった。
「お待たせしました。グラス少尉。私は、この基地で補給部門を任されているマリー マーゴット 中佐です」
すると、横に控えていたジーナとアプリコットは驚いた顔をして思わずつぶやいていた。
「「中佐ですって」」
さすがにメーリカさんは落ち着いていたが、俺は、彼女たちに「失礼だぞ、落ち着け」と小声で軽く注意した後、「失礼しました。いきなり、私のような小官に中佐のようなお忙しい方がお会いして下さるなんて、予想だにしておりませんでしたので」
「いえいえ、グラス少尉。あなたはかなりの有名人ですよ。本来ならば、ここに副鎮守府長のゴードン准将もご一緒したかったのですが、あいにく鎮守府長のオーザック中将がいま帝都に呼び出されておりまして、基地内がバタバタしており、手が離せなくて、『タイミングが合わずお会いできないのが残念だ』とのことづけを頂いております」
「「「え??」」」
さすがにマリー中佐のこの発言には全員が驚いた。
「海軍では、私は、そんなにも有名でしたか。でも、お忙しい将官がお会いして下さるほどの要人ではないはずですが」と言うのがやっとであった。
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