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サクラ旅団の始動
出戻り
しおりを挟むグラスは、左手で頬を抑えながら、あてもなく歩いていた。
倉庫前で、トラックの整備をしていたシバ中尉が声をかけてきた。
「少尉、その頬のあざどうしたのですか?猫にでもやられましたか?」
「山猫ではないけれど、似たようなものです。ところで中尉、これからどこかに移動でもするのですか?トラックで出発の準備をしているように見えますが?」
「うちのおやっさんは、分かりきったことを命令される前にやっておかないと、どやされますので。どうせ、直ぐに命令がきますよ。墜落した輸送機の調査に、現場まで駆り出されることになります。さっき、一緒だった山猫さんたちにも言っておいたけれど、少尉たちも一緒に駆り出されますよ。現場までの案内が絶対に必要なので」
「それで、急いで風呂に入ってきたのか、あいつらは」
「ん? なんのことです?」
「何でもありません。こっちのことです。ところで、あそこで、敵さんのバイクや、指令車をいじっているのはなぜです?」
「あ~、あれね。敵さんの兵器を鹵獲した場合は、調査が義務付けられているのですが、ここでは詳細な調査はできませんし、かなり乱暴にいじられているから、意味がないので、放っておこうとしていたのです。でも、整備屋の性でしょうかね?きちんと整備していないと落ち着かないんで、教育も兼ねて、新人にやらせているんです。もう、しっかり走れますよ。ガソリンも満タンにしてありますし、オイルも交換済みです。試しに乗ってみますか?」
「いや、結構です」と、シバ中尉ととりとめもない会話を楽しんでいたら、司令部のある方から、マーガレット副官がやってきた。
「こちらにいましたか、グラス少尉。旅団長がお呼びですので、司令部まで同行願います。 それと、シバ中尉、サカキ中佐が司令部でお呼びでしたよ。私たちと同行願います」
マーガレット副官は優しい口調だけれど、有無を言わさず、二人を連れて司令部までやってきた。
「サクラ旅団長、お呼びとのことで、参上しました」
向こうでは、一緒に来たシバ中尉がサカキ中佐に命令を受けていた。
「早速で悪いのだけれど、レイラ中佐率いる調査隊を結成しましたので、あなたの小隊も合流して共和国の被災現場の調査を命じます。今、準備している先行部隊を先導してあなたたちがもといた川原まで案内をしてちょうだい」
「私が率いる小隊を連れてレイラ中佐の部隊に合流します。……あの~、この場合の返答はこれで良かったのでしょうか?いつも、アプリコット准尉に助けてもらっていまして、慣れていないものですから」
「別に、それで構わないわ。今日から、1週間の期間で調査をお願いします。報告であなたも危惧していましたが、敵との鉢合わせの可能性も少なからずあります。現場ではレイラ中佐の指示に従ってください。1時間後に広場に集合して、出発してください。機材等の準備はこちらで指示してあります」
「分かりました、あいつらを集めて集合場所に向かいます」
「あなたたちが鹵獲したバイクと車両の使用許可を出しますので、あなたたちはそれを使ってください」
その後、担当幕僚たちから、細々と指示をいただき、メモに書いてもらい、10分後に開放された。
司令部にはシバ中尉の姿は既になく、多分さっきの倉庫前に行ったのだろう。
グラス少尉は、一人で、山猫の皆さんを探しに、風呂場に向かった。
彼女たちは、すでに風呂を出たあとで、管理をしているマーサ特務曹長に足取りを聞いたら、山猫さんたちは朝食前だったようで、食堂に向かったと教えてもらった。
しょうがないので、来た道を戻り、食堂で、元気に朝食をがっついている彼女たちを見つけ、無事合流した。
命令を伝え、幕僚たちに書いてもらったメモをアプリコット准尉に渡した。
彼女の機嫌はまだ治ってはいなかったが、メモだけは受け取ってくれた。
横で、済まなそうにしている兵士や、クスクス笑っている兵士がいた。
アプリコット准尉はまだ赤い顔をしながら、彼女たちを睨んでいた。
彼女たちの食事も終わり、一息ついたようなので、彼女たちを率いて、先程シバ中尉と合った倉庫前まで来た。
バイクも車両も、すっかり準備が終わっており、エンジンまで掛けられていた。
「グラス少尉、必要な機材、食料、水、全て準備が終わっております。
乗ってこられた車両に積み込んでありますので、確認ください」
と、先程まで、この車両をいじっていた兵士が報告をくれた。
「確認後集合場所まで移動する、総員機乗」
アプリコット准尉が指示を出してくれた。
「少尉、乗りますよ」
と、余計な指示も出してもらった。
車両内では、メーリカが手際よく兵士を使い確認を終えていた。
「准尉、予備を入れ2週間分の食料、ガソリンを確認しました。いつでも、出発できますよ」
すっかり、俺をのけて、機能している部隊であった。
『これ、完全に俺いらなくね』
とは思ったが、そこは流石に大人の俺である。
思っても、絶対に口にしない。
悲しくなるから。
グタグタくだらないことを考えていたら、アプリコットが合図を送ってきた。
「それじゃ~、集合場所の正面ゲート前広場に向けて出発してね」
小隊に向けて、正式に小隊が発足して、多分初めての指示を出した。
バイクを入れた車列がノロノロと動き出した。
正面ゲート前では、既に、シバ中尉が整備をしていたトラック数台と、サカキ中佐、それに、レイラ中佐率いる中隊に、新任の准尉たち10名が待機していた。
アプリコットは俺を連れて?レイラ中佐のところまで行き、調査隊に合流したことを申告し、この時点を持って正式にレイラ中佐の指揮下に入った。
アプリコットは、本当によくできたお嬢さんであった。
今回の移動では、ひとつだけトピックスが発生していた。
先程まで、我々が乗車する車両を整備していたシバ中尉のところの新人が我々と合流し、この車両の面倒を見てくれることになった。
訳のわからない敵さんの車両だけに、専門家が面倒を見てくれるのは心強い。
例え、それが新人でも、我々よりはましである。
とりあえず、みんなで川原まで出発しよう。
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