社畜がひとり美女に囲まれなぜか戦場に~ヘタレの望まぬ成り上がり~

のらしろ

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サクラ旅団の始動

合流前の緊張

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 午前3時。 昨夜まで、この基地内は、24時間どこかしこから作業している兵士の出す音で溢れていた。

 夜中など、寝るにはやかましいくらいであったが、今は、音はほとんどない。時折、哨戒にあたっている兵士の出す軍靴の音くらいである。

 そこにあるのは、緊張からくる重圧しかない。

 歴戦の勇士であるトーゴ大尉でも、耐えるのに気力を要するくらいだから、一般の兵士はさぞかし大変だろうと予想される。

 敵か味方か分からない物が近づいている。もし、敵だとしても、その敵がどのようなものなのか分からないと、非常に緊張する。

 強敵に直に接するよりも、今の方がより恐怖を感じる。

 人は、わからないものに異常に恐怖を感じるものだと改めて感じた。

 この恐怖は、昨日到着したばかりの新兵に、耐え得るものではない。

 上番についている仮設小隊の3グループの准尉たちは、疲労のピークに達しているようだ。

 見るに堪えないほどボロボロである。

 兵士の方は、流石レイラ中佐が鍛えているだけあって、全く疲労は見せていない。

 多分、自分のグループも同じであろうが、

 彼らベテランの兵士がついていたから、新人准尉でも今までどうにか耐えることができたのだろう。 

 残りの新卒の准尉たちを無理やり休ませて正解であった。

 兵舎の方からフル装備の兵士の移動に伴う騒音が、この静けさを破ってきた。

「仮設小隊、夜番についていない6グループ全員揃いました」

 と、無理やり休ませた准尉たちが到着した。

 流石に優秀と言われているだけあって、夜番の兵士の緊張が緩みやすい時間帯に応援として到着してきた。

「ご苦労、仮設小隊の上番を確認した。夜番に当たっている3グループをそこの歩哨小屋に集め、君たちが代わってくれ」

「了解しました」と言ってジーナたち全員が移動しようとしたところ、トーゴ大尉がジーナを呼び止めて、「君が仮設小隊の指揮を取っているのかね。もしそうなら、君のグループはここに残り、私のサポートに当たってくれ。伝令に使いたい」

「了解しました。ケート准尉、指揮を変わってください」とジーナが親友のケートに指揮を預け、トーゴ大尉とともに現場指揮所に残った。



 ボロボロになっていた准尉3名が配下の兵士を連れて、歩哨小屋に戻ってきたのを確認し、トーゴ大尉が彼女らに「別命があるまで、ここで仮眠を命じる。許可ではない、命令だ。寝られなくとも、体を横にし、目をつぶり、じっとしていろ」と、おおよそ、今までジーナが聞いたことのない命令を発していた。

 彼女たちの周りに居た兵士は、その意図するところ理解し、そそくさと仮眠しに行った。

 彼女たち3名も兵士に続き仮眠しに行った。

 ジーナが理解不能といった顔をしていたので、トーゴ大尉はわかりやすく説明をしてくれた。

「精神的にボロボロの3名は、もし、あのまま戦闘に入ったら、十中八九生き残れない。 彼女たちは、極度の緊張、疲労などで、まともな判断ができない状態だ。精神だけでも、正常にして置けるよう無理やり休ませた。まともな判断ができない一団が仲間にいたら、勝てる戦闘も勝つことができないこともある」と、トーゴ大尉は口にしていたが、彼の優しさからくる命令であることをジーナは理解した。



 午前4時半、一番遠くまで出ていた歩哨より連絡があった。

「遠方よりエンジン音複数確認」

 詳細を探るべく更なる前進を指示した後、報告を待った。

 30分後の午前5時頃、続報が入った。

 エンジン音は継続しており、徐々にではあるが音が大きくなってきている。

 明らかに謎の集団は確実にこちらに向かってきている。

 報告を受け、現場責任者のトーゴ大尉は、基地の警戒レベルを自身が発令できる最大のレベル4に引き上げ、基地内全てに非常呼集をかけた。

 5分後、基地正面ゲート付近にサカキ中佐、レイラ中佐が各々の部下を連れて到着し、警戒に当たった。

 現場の指揮権をサカキ中佐に渡し、トーゴは身近にいた自身の部下数名を連れて、前方へ哨戒に出た。

 ……

 30分後、前方に展開していた彼の部下と合流し、川原へと繰り出していった。

 付近はすっかり明るくなり、視界が効く。

 トーゴ大尉は持ってきた双眼鏡を構え、エンジン音のする方向を確認した。

 オートバイ2台に警護されながら、こちらに向かってくる特殊指令車を確認した。

 今まで見たこともない車両だったが、その特徴から明らかに共和国の車両であることが分かる。

 トーゴ大尉は基地に無線を入れ、無意味な戦闘を避け、直ぐにこの場を離れ、基地へと帰還した。

 その一報を受けたサカキ中佐とレイラ中佐は、警戒レベルをさらに一段上げ、付近にいた全員に戦闘準備を命じた。

 トーゴ大尉と哨戒に出ていた兵士が基地に戻り、全員で、車両が向かってくる方向へ銃を構えて、15分が経過した。

 ここまでエンジン音が聞こえてくる。

 もう、疑う余地はなく、共和国の軍用車両がこの基地に向かってくる。

 幸いなことに、確認できた兵力は推定1個小隊であった。

 レイラ中佐はジーナ准尉を呼びつけ、サクラ大佐に伝令を頼んだ。

 旅団長へ状況を説明し、交戦許可を求めたのだった。

 ジーナは直ぐに司令部の入る建家に走り出していった。

 さらに10分後、サクラが副官のマーガレットを連れて、ゲート前まで来た。

 伝令にやったジーナはここにはいない。

 交戦に備え、補給を確保するよう、工兵詰所へと更なる伝令に行ってもらったのだった。

 共和国製の指令車は速度を変えることなく基地正面のゲートに向かってきた。

 しかし、報告にあったオートバイ2台が見えない。

 現場の緊張は更に上がっていった。

 サクラが発砲を指示しようとした瞬間、車両が停止し、ゆっくりと車両の扉が開いた。

 中から、男性1人と女性1人の二人が両手を上げ、降参するように出てきた。

 出てきた2人は帝国軍人の格好をしている。しかも、士官の服装であった。

 レイラ中佐の傍にいた、仮小隊のケート准尉が一言

「アプリコット?」

 そのつぶやきを傍で聞いたレイラ中佐が、驚いた表情をしたまさにその瞬間、アプリコット准尉が大きな声で叫んだ。

「帝国軍人、グラス少尉以下12名。軍の命令により第27場外発着場へ向かう途中であります。輸送機の事故に遭い遭難したため、援助をお願いしたい。尚、我々には、軍属4名、捕虜待遇2名同行しており、それらの処遇も合わせてお願いしたい」

 レイラ中佐は部下を率いて直ぐに車両に近づき、敵奇襲でないことを確認した。

 合わせて、アプリコット准尉から転属命令書を預かり、内容を確認し、警戒レベルを下げた。

 アプリコット准尉が、レイラ中佐に途中ガス欠で立ち往生しているバイクが2台あることを伝え、分乗している兵士の回収をお願いした。

 グラス少尉は、メーリカに後を任せ、サクラ大佐に連れられ、司令部の置かれている建家に向かった。
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