社畜がひとり美女に囲まれなぜか戦場に~ヘタレの望まぬ成り上がり~

のらしろ

文字の大きさ
上 下
1 / 336
のらしろ少尉 転移?する

のらしろ少尉 転移?する

しおりを挟む
 遠くから元気な掛け声が聞こえ、また、別の方角から、パンパンと銃声が聞こえてくる。

 ここは帝都にある軍の士官学校の敷地内、聞こえる銃声も訓練のためで事件性はない。
 質実剛健を旨とする軍の士官を養成する学校内にあって、おおよそ似つかわない声が、ここ体術の授業で使われる道場から聞こえてくる。

「ヒエー、もう勘弁してください」
「帝国軍人として恥ずかしくないのか」
「ごめんなさい、ごめんなさい。何でもしますので、助けてください」
 士官学校に通うにしてはやや年のいった軍人?を一人の教官が投げ飛ばしていた。
 それを、見ているもう一人の教官がつぶやいた。
「本当に、彼を任官させて大丈夫なのか?」
 同僚のつぶやきに答えるようにもう一人の教官が同僚に話しかける。
「大丈夫も、何も、校長からの絶対命令だ。結果は伴わなくてもよく、教育した事実があればいいのだと」
「それにしても、本当に情けない奴だな。仮に今、軍が徴兵を行っても、間違いなく不採用なほど適性がない奴だ」
「本当に彼が20年ぶりに復活した『戦時特別任用』の対象者なのか?」
「こんなのが、配属されたら、彼の率いる隊だけでなく、所属する戦線そのものが崩壊するぞ」
「彼を士官として配属させることのできる先はあるのか?」
「当然、安心して彼に任せることのできる部署など無い。でも、彼の配属は決まっているそうだ」
「へー、それは、どこだ?」
「第3作戦軍のジャングルの中だそうだ。今日中に、彼を輸送機に放り込まないといけないらしい」
「今日中に??
 だって台風が接近して、明日にも上陸する見込みなのに、今日、飛行機飛ばすのか?
 だとすると、嵐の中を運ばれるとは、おかわいそうに」
「どちらにしても、俺だったら、彼の下につくくらいなら、どんなに厳しい最前線勤務だろうが、そっちの方がよっぽどいい。俺、絶対、第3作戦軍には行かない。そこに行く位だったら、第1作戦軍の前線で敵に向かって突撃するほうが断然いい。その方が、はるかに生存確率がある」
「よせよ。彼の迎えが来たようだ。時間だな」

 道場の入り口の方に目をやると、一人の少女を先頭に兵士が2名、こちらに向かって歩いてきた。

「彼女は? もしかして……」
「その、もしかして……だ。昨年度の次席卒業生のアプリコット准尉だ」
「あのサクラ大佐の再来と言わしめる逸材か?」
「その彼女だ」
「さー、最後の1回だ」
 と言って、教官は、彼をもう一度投げ飛ばした。
 彼は、派手に転がり、そして、気を失った。

 アプリコット准尉は彼の元に行き、ゆすって起こしたが起きそうにないので連れてきた兵士に指示を出した。
 そのあと、教官たちに向かい敬礼した後、彼を引き取る旨を申告した。

「アプリコット准尉であります。軍令により、少尉をお迎えに上がりました」

 教官2人も、敬礼をして
「士官学校 校長の指示に基づき、教育プログラム終了したことを申告します。どうぞ、少尉をお連れください」

 当の少尉はまだ伸びているので、とても締まらない引継ぎではあるが、一応、型通りの引継ぎを済ませ、教官は准尉に教育に関する書類を手渡した。
 准尉は書類を受け取り、中身をサッと確認してからついてきた兵士に合図し、少尉を担ぐように連れ出した。
 准尉はもう一度敬礼をしたのち、兵士を追いかけるように道場を後にした。

 それを見送りながら、教官の一人が独り言のようにこぼした。
「何でも彼女、彼の副官を務めるらしい」
「えーーー!
 何を考えているのか軍首脳部は!
 だって彼女は、あのサクラ大佐の再来ともいわれる逸材だろう。それに、卒業順位が10位以内は、卒業後の配属に対して、ある程度の希望が通るはずだろ。なのに、どうして彼の副官なのか?」

「何でも聞くところによると、彼女の受け入れ先が、彼のところしかなかったそうだ。第3作戦軍司令部の強い希望もあったと聞いている。彼女の家、アプリコット男爵家は、穏健内政派の重鎮であるプロキシマ子爵家の寄子だそうだ」
「だとすると、昨今の軍内部の情勢下では、まず、花形部署への配属はあり得ないな。優秀すぎるためのやっかみか何かでのいやがらせなのでは」
 もう一人の教官はきな臭い会話のためか、周りを見渡して、小声で
「彼女、いつまで生きていけるのだろか?
 あの少尉の副官だろ。まともな使われ方するのかな?」
「今時どこの派閥にも属さず、貴族の寄子でもない『野良』では、まともな扱いは受けないだろ。まして、軍務に関しては全くの『素人』では、使いつぶされるか、放置だな」
「放置のほうが生きていけるだけましだが、前線での放置は無いだろうな、捨て駒扱いが妥当だろう。でも、本当に彼、『野良』なのか?
 今回の『戦時特別任用』の推薦は、あのトラピスト伯爵の一派だろ。彼は、急進攻勢派なのでは?」
 すると、もう一人の教官がさらに小声で、
「そのトラピスト伯爵の怒りを買っての前線、それもジャングル送りだそうだ。詳しいことは知らないが、ジャングルの僻地、しかも、敵さん攻撃のおまけまで付くそうだ」
「だから、どの派閥の貴族も、彼を受け入れることができないのか。余計な恨みは買いたくないからな」
「せめて、アプリコット准尉だけは、生き残ってほしいものだ。
 生き残ってさえいれば、今すぐには無理でも、あれだけ優秀なのだ、絶対帝国のために活躍してくれるだろう」
「生きて来年を迎えられるかな?
 『野良』で『素人』である、あの『ノラシロ』少尉と揶揄やゆされているグラス小尉のもとで、無事でいられるとは思えない。とても心配だ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

処理中です...