上 下
6 / 38

6.人生の転換点

しおりを挟む
 俺は新参者だし、あいつらの言う通り良い思いもした。
 しかし、この時の俺は賢者でも仏でもないので少し頭には来たが、甘んじで彼らの洗礼を受けた。

 すったもんだの挙句に結局徹夜して映像の編集は終わった。

 やれやれと、遅めの朝食を食べにホテルの食堂に行くと、この町で開催されるシンポジウムに参加する社長たち一行が食事中だった。

 すかさずリーダーは社長にあいさつに向かうが、俺たちはとりあえず隅で目立たないように食事を始めた。

 食後は、少し休んでクルーザーの掃除くらいしか仕事はないかと考えていたのだが、そうは問屋が卸さない。

 リーダーはできたばかりのプロモーションビデオを社長に見せながら説明していたようで、俺たちのところにリーダーと一緒に社長室長までもが来て。俺に仕事を振ってきた。

 できたばかりの映像を元に販促用にリーフレットを作れだと。
 とりあえず100部もあればいいそうだ。

 100部くらいならばあそこのビジネスサポートセンターの印刷機を使えばどうにかなる。
 簡単な製本までもできそうなので、それなりのものを期待しているだって。

 まあリーフレット製作もプロモーションビデオ編集の時のデータを使いながら、もともと用意してあるこのクルーザーの説明資料から文章を持ってくれば済むだけの話で、手間はかかるが難しい話ではなかった。

 3時間使って昼には準備できたので、リーダーに納品してもらった。

 俺はリーフレット製造で同僚たちとも別れて作業していたのでホテルで一人飯の昼食を摂った。

 おいしいのだが、さすがに海外で一人飯は少し堪えた。

 寂しく一人飯を堪能していると一人の美人が俺のもとに来た。
 彼女は見たことがある。
 社長の秘書だ。
 そうなるとまた仕事だな、厄介な。

 彼女は俺の隣でコーヒーを注文したのち、俺に仕事を振ってきた。

 もともとある販促用のプロモーションビデオに俺の編集した映像を入れ込めないかというのだ。

 もうこれは社長からの命令なのだろう。
 さすがに社長も頼みにくかったのか、自分の秘書を使ってお願いの形をとるあたり、とんだ狸おやじだ。

 ええ、どうせ俺はプロパーでないし、ここで散っても会社には痛手にならないでしょうね。

 さすがの俺も少し鬼が入るが、そこは社会人を10年以上も経験してきたのだ。
 笑顔で、承諾して食後にまたビジネスサポートセンターに向かった。

 驚いたことに、あの美人社長秘書もついてくる。

 見本市のレセプションまで5時間を切った時間だ。
 どうも社長の要望をこの秘書は理解しているらしく、業者に作らせたプロモーションビデオで、各装置の説明の後に、実際に俺たちが使って困難な操船を切り抜けた場面を入れたいらしい。

 俺の横でいちいち指示が入る。

 レセプション開催まで1時間を切った段階で、彼女の満足するものができた。
 データを彼女の持つ携帯パソコンに移して俺の仕事は終わり。

 やれやれやっと開放されるかと思った矢先に、今度は先行で現地入りしている同僚の女性が俺のことを呼びに来た。

「本郷さん。
 すぐにレセプションの準備をお願いします」

「え、俺も参加するの?」

「ええ、リーダーだけの予定でしたが、リーダーは社長にとられましたので、営業が足りません。
 リーダーは本郷に頼めって。
 タキシードは部屋にレンタルのものが来ているはずですから、シャワーでも浴びて着替えてください」

 俺は彼女の言われるままにシャワーを浴びてベッドにあるタキシードに着替えた。
 部屋を出るが、部屋の前で待っていた彼女には俺のことが気にいらなかったらしい。
 俺の手を取り、そのままホテル内の床屋に放り込まれた。

 髪を整えても、まだ不満があるようで、最後には彼女自身のポーチから化粧品を取り出して、目の下にできている隈をごまかし、やっと合格点をもらった。

「キャ、時間がないわ」
 彼女はそういうと、急ぎホテルのバンケットホールに向かう。
 国際見本市の前夜祭でもあるセレモニーには間に合った。
 俺は社長たちがたむろしているそばまで来て、控えている。
 セレモニーの後はパーティーになり散らばっていく。

 俺には、先の社長秘書がそばにつき通訳を買って出てくれた。
 俺をここまで連れてきた同僚は、カモを探しにパーティー会場内を動き回り、その都度俺のところまで連れてくる。
 俺は名刺を出して営業活動だ。
 すべて相手をしたのは外国人のために社長秘書がその都度通訳をしてくれているが、そのうち社長室長が彼女を呼びに来て、俺の営業が終わった。

 少し酒でも楽しむかと料理のある所まで近づくと、東洋美人がこれまた偉そうな中東人を連れて俺のところまできた。

「あの、サトネの方ですよね。 
 あのおしゃれなクルーザーを出品されている方ですよね」

 日本語で俺に語り掛けてきた美人は俺たちが持ち込んだクルーザーがお目当てのようだった。

 さすがに営業時間は終わりだよと言えればいいのだが、相手は美人だ。
 しかも日本語で語りかけてきているので、俺も思わず張り切ってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

催眠術師

廣瀬純一
大衆娯楽
ある男が催眠術にかかって性転換する話

母娘丼W

Zu-Y
恋愛
 外資系木工メーカー、ドライアド・ジャパンに新入社員として入社した新卒の俺、ジョージは、入居した社宅の両隣に挨拶に行き、運命的な出会いを果たす。  左隣りには、金髪碧眼のジェニファーさんとアリスちゃん母娘、右隣には銀髪紅眼のニコルさんとプリシラちゃん母娘が住んでいた。  社宅ではぼさぼさ頭にすっぴんのスウェット姿で、休日は寝だめの日と豪語する残念ママのジェニファーさんとニコルさんは、会社ではスタイリッシュにびしっと決めてきびきび仕事をこなす会社の二枚看板エースだったのだ。  残業続きのママを支える健気で素直な天使のアリスちゃんとプリシラちゃんとの、ほのぼのとした交流から始まって、両母娘との親密度は鰻登りにどんどんと増して行く。  休日は残念ママ、平日は会社の二枚看板エースのジェニファーさんとニコルさんを秘かに狙いつつも、しっかり者の娘たちアリスちゃんとプリシラちゃんに懐かれ、慕われて、ついにはフィアンセ認定されてしまう。こんな楽しく充実した日々を過していた。  しかし子供はあっという間に育つもの。ママたちを狙っていたはずなのに、JS、JC、JKと、日々成長しながら、急激に子供から女性へと変貌して行く天使たちにも、いつしか心は奪われていた。  両母娘といい関係を築いていた日常を乱す奴らも現れる。  大学卒業直前に、俺よりハイスペックな男を見付けたと言って、あっさりと俺を振って去って行った元カノや、ママたちとの復縁を狙っている天使たちの父親が、ウザ絡みをして来て、日々の平穏な生活をかき乱す始末。  ママたちのどちらかを口説き落とすのか?天使たちのどちらかとくっつくのか?まさか、まさかの元カノと元サヤ…いやいや、それだけは絶対にないな。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

無ければいいってもんじゃないっ!

黒川EraSer
大衆娯楽
「ち、ちちち乳首がなーい!?」 普通の高校生活を送る少年“李靖保”。保の人生の唯一の生きがいはエロ。 つまらない日常でも、エロは保の人生を彩ってくれていた。 しかし、ある日突如現れた宇宙人“ロース”によって、エロは抹消の危機に!? 乳首を無くし、「これこそエロくない体なのじゃ」と豪語しながら、地球の未来ニッコニコ計画を遂行するためにロースは保の前に現れたのだった。 エロは不要なものと主張するロースとエロは素晴らしいものと主張する保。 相反する二人の、15禁スレスレを攻める、はちゃめちゃなエロコメディ小説がここに!

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

処理中です...