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第三章 拠点

第48話 助けた人たちとのお別れ会

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 なので、今晩も宴会だ。
 それも、この地に残るものとここを発ち植民地に向かうものとのお別れ会だ。
 
 流石に今日だけはめんどくさい御仁からは逃げられない。
「守様。
 伯爵夫人と、男爵がご挨拶にと参っております」
「言ってくださればこちらから伺いましたのに」
 俺はそう言ってからフランに連れられた人たちとお話を始めた。

「船長、この度は私どもをお助けいただき感謝いたします」
 まず、男爵が俺に挨拶してきた。
 ここでの立場が微妙なようだ。
 男爵本人と男爵よりも上位な貴族である伯爵ご本人がいれば明確に上下関係は成立するらしいのだが、ここのは伯爵のご婦人だけがいる。
 なので、男爵と伯爵夫人とでの上下関係は非常に微妙になる。
 まあ、ここではフランがいるので、そうそう面倒なことにはならないだろうが、男爵が気を利かせて前に出たようだ。

「いえ、フランの関係者ならば当然のことをしたまでだ」
 俺がこういうと一瞬で場の空荷が変わった。
 どうもフランのことを呼び捨てにしたことで不敬罪でも適用したそうにしている。
 だが、そんなことは織り込み済みのフランがすかさず状況を説明している。
 自分たちは全員が俺の配下であることをきちんと説明していくが、どうも貴族たちは納得がいかないようだ。
 特に伯爵夫人は終始不満顔。

 伯爵夫人に不満があろが無かろうが俺には関係ない。
 ここで俺が『フラン様』なんて言うものならば、これ以降のフランとの関係がおかしくなりかねない。
 フランが相当な不満を抱えることだろう。
 それにフランには今後の政治向きのこともあるらしい。

「伯爵夫人。
 この地は、守様が治める地となっております。
 流石に開発を始めて数日ですから何もございませんが……」
 フランが伯爵夫人に説明を始めているが、開発後数日という部分で相当驚かれている。

「確かに、守殿は相当な力量をお持ちのようだ」
 男爵がそう言って、帆船の修理についてのことを言い始めた。
「我らが思いに他早い時期にこの地を離れることができるのも守様のお持ちになる優れた技術の賜物だと聞いている」
「ええ、大魔法士の守様でなければ成しえなかったことばかりなのです」

 でも、自分たちこそが大国の主で一番の文明人であることを疑わない伯爵夫人には納得ができなかったらしい。
 まあ、船の修理が早く済むことなど伯爵夫人にはわかりようもない。
 男爵本人は貿易をしていただけあって船についてはある一定程度の知識を持っているようであのでたらめな修理方法に驚いていた。

 この地でのわずか数日の生活についても、無人島に流れ着いての生活とは思えないほどの贅沢ぶりだと男爵は思っているようだが、町での生活しか知らない伯爵夫人には町の自分の屋敷と比べて、そこまで凄いことだと思っていない。
 だからこそ、自分よりもハイステータスであるフランを敬称なしに言い切る俺について納得がいっていない。
 まあ、わからない話でもない。
 フランに敬称を付けないならばそれよりも下位にあたる自分は家来扱いされるのではと恐れているようだ。

 そんなことするかよ。
 野蛮人でもあるまいし、俺は客人にはそれなりの対応を取るぞ。
 だからこそ、男爵や伯爵夫人には丁寧な言葉遣いに心がけていたのに、それすら理解していないようだ。
 そのため、貴族連中との面談もすぐに終わった。
 ある意味良かったのかもしれない。

 その後船長たちとも面談して会はお開きとなった。
 明日は早朝から帆船は出て行った。
 ちょうど引き潮に合わせて出航していったようだ。
 俺たちはというよりも動力船しか操船を知らない俺には学校で習った範囲しか知らないが、この時代というよりも帆船での出航は引き潮に合わせて行われるのが普通のようだ。
 昔習った覚えはあるが、学校で乗り込んだ帆船にも動力は付いており、出航時には動力を使って港から出ていくものだから忘れていたよ。
 元の世界では金持ちのヨットですら動力付きだ。

 まだまだ、この世界と俺自身との常識のギャップが埋まらない。
 フランや、他の仲間たちとの生活でだいぶ埋まったと思っていたのだが、どうもフランたちの方から俺の常識に合わせてくれているようだった。
 今回の件で、改めてその子と認識できた。

「船が出ていると静かになるな」
「ええ、伯爵夫人には困ったものですが、他の貴族もあんな感じでしょう。
 守様には不快な思いをさせて申し訳ありませんでした」
「いや、俺は気にしていない。
 元の世界では貴族とは縁のない生活だったこともあり、藩士でしか聞いていなかったので、貴族というものはあんなものだと思っていたから、困らなかったよ」
「守様の世界……いいえ、今はそのことよりも今後のことですね。
 あの伯爵夫人や男爵から、私たちのことは少なくとも彼らの行く先である植民地には伝わりました。
 今後、祖国を落とされた以上すぐにこちらに対して動きは無いでしょうが、いずれどこから何かくるかもしれません。
 ですので、できるだけ早くこの地での生活を整えておかないと」
「そうだな。
 それに、人も増えたんだよな」
「ええ、祖国から逃げてきた人たちで置いて行かれた人もおりますし、彼ら彼女らについては、私に任せて頂けないでしょうか」
「ああ、そうしてもらえると俺は助かるが、どうするつもりなのか」
「ここで国を立ち上げるためにも、彼らにはきちんと説明して考えを聞かないと」
「そうだな、だが、無理強いはするなよ」
「無理強い……ええ、説得は試みますが」
「ああ、それでいいか。
 どうしてもと嫌だという者がいればいずれ植民地にでも連れて行くから、そのあたりも含んでおいてくれ」
「わかりましたが、多分大丈夫かと思いますよ。
 敵に攻められた以上、祖国が無事でも彼らのような弱者には生きていくだけでも大変ですし、ここならば少なくとも安全に生きていけますから」

 安全?……本当かな。
 まあ、今までの経験から考えても、たとえ海軍が攻めてきてもあのレベルならば俺の船だけでどうにかなるが、ジェノサイドだけはやりたくないよな。
 所詮俺は軍事ではなく警察の部類の人間だ。
 追い出されたけれど、あそこは殺すのを生業としたのではなく、助けるのを生業とした組織だ。
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