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第48話 トップシークレット

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「そういえば、私まだもらっていないよ。
 ヨーロッパのお土産。」
「そんなのないよ。」
「それってひどくない。
  別に高価なものじゃなくてもよかったのに。
  どこにでも売っていそうなキーホルダーでも、絵葉書でも、シャネルの香水でも、グッチのバックでもよかったのに。」
「おいおい、途中からとんでもないものが入ってきたぞ。
 そんなのは無理でも日本を発つ前には絶対に梓のお土産だけは十分に吟味して買うつもりだったんだよ。」
「それじゃあ、何でないの。」
「それを今から説明するから。」

 こんなやり取りの途中で、順番が来た。
 おしゃれな喫茶店のウェートレスに席まで案内された。
 このエリアはとにかくおしゃれにできている。
 この店に至っては、初めからデートスポットを意識して作られており、案内された席は店の奥の方にあるのだが、割と開放感もあり、何より隣の席との距離が保たれている。
 恋人たちの甘い会話を他の人には聞かれないように初めから設計されているのだ。

 このような場所は諜報関係者の密談にもよく使われるらしい。
 ヨーロッパ旅行以来、何かと世界の諜報関係者とのやり取りが続いたために、最近こういったカップルにふさわしい場所でも諜報関係者ならどういった目で見るかと気にかかる。
 とにかく秘密のやり取りを仕事にしているような連中は、密室などではよほど厳重にチェックされた場所でないと盗聴が怖いので、そういった場所では仕事上の話はしないそうだ。
 よくある飲食店などの個室などは言語道断だと聞いたことがある。
 その代わりに、このようなどこにでもあるような開けた場所で、なおかつ聞き耳を立てられにくい場所の方が安全だとかおりさんが以前教えてくれた。

 正直ちょうど良かったかもしれない。
 梓にこの冬に起きたことを悦明するのに他の人には聞かせられない事の方が多い。
 しかし、梓に隠すことも難しいだろう。
 もし隠し事などしようものなら梓はしつこく聞いてくるか、俺に張り付いて調べようとすらするだろう。
 そっちの方が危ない。
 俺は話せる範囲でできるだけ丁寧に梓に説明するつもりでいた。
 しかし、全部包み隠さず説明などできない。
 なにせ俺の性関係のあまりに爛れた生活だけは知られたくない。
 トップシークレットだ。
 それ以外は、諜報関係者から狙われている危険性のあることや、外務省職員にマークされていることなどをできるだけわかりやすく話すつもりだ。
 
 二人が席についてウエートレスが席を離れたときに梓が声をかけてきた。

 「私たちは運が良かったかもしれないね。」
 「なんで?」
 「ここってすごい人気があるそうよ。
 よく雑誌や、ネットで話題になっているから。
 いつもは平気で1時間くらいは待たされるみたいとネットの記事を読んだことがあるわ。」
 「そう、それは良かった。
 それでなのか、以前見かけた時にはものすごく混んでいたしな。」
 「え?
 直人君、ここに来たことがあるの?」
 「卒業式のために一時的に日本に来た時にね。」
 「?? それってどういうことなの。」
 「卒業式の時にも約束したけど、それを今から説明するね。」 と言って、俺がギリシャに着いた頃から説明を始めた。

 初めての海外でいきなり危険に巻き込まれ、そのまま成り行きでスレイマンの王子を助けたことで、そのままボルネオに連れていかれ、なし崩しで、エニス王子の下で働いていることを説明した。
 そのごたごたの際にスレイマン王国で叙爵され、スレイマン貴族になったことや、その際の褒章で信じられないくらいの財産を預けられたことなどを説明した。

 その財産の一つで油田工区の件で日本有数の企業である海賊興産と深い繋がりもでき、その関係でここ羽根木インペリアルヒルズの中に事務所と住居を持つことに至ったことなど、ところどころの質問を挟んで説明したのだ。

 とにかく梓は驚いていた。

 油田工区を持ったことより、ここに事務所を開いたことに非常に興味を持ったようで、事務所スタッフなどどうなっているのかなどをさらに聞いてきた。

「事務所にはスレイマン王国から遣わされた人が交代で詰めてもらうことになっている。」
「スレイマン王国と頻繁に行き来しているの。」
「スレイマンには叙爵以来行っていない。
 我々の本拠地をボルネオ王国に置いてある。
 エニス王子もボルネオ王国内の皇太子府に併設された施設にいるよ。
 僕のスタッフなど、本拠地もここになるね。」
「え?
 どういうことなの。 
 直人君はそのエニス王子の部下じゃないの。」
「厳密にいうと違うようなものかな。
 僕もよくは分かっていないのだが、何と言ったらいいのかな。
 説明を受けた範囲では……そうだ、いつも梓が貸してくれるラノベでいうところの貴族社会において、僕は数少ないエニス王子の派閥に入っているようなものだよ。
 貴族としては独立しているみたいな。」
「でも一緒にいるんだよね。」
「そうだね、今までは一緒にいる方が多かったかな。
 でもこれからの僕は日本にいる方が多くなるし、エニス王子はボルネオとスレイマンとの間を行ったり来たりの方が多くなるから離れ離れの時の方が多くなるかな。
 僕の仕事はとにかく預かった財産を増やしてエニス王子の政治力を強化していくことらしい。
 もっとも、そういった仕事は付けられているスタッフが非常に優秀なので殆ど任せきりかな。
 ここ日本での事務所の代表もそのスタッフだしね。
 僕はその事務所のオーナーという立ち位置さ。」
「そのスタッフの中に、卒業式で見たあのすごい美人さんもいるの。」

 結局梓が一番聞きたかったことってかおりさんのことなのかもしれない。
 爛れた関係だけは隠すが、あとは包み隠さず説明をしておいた。
 かおりさんをはじめアリアさんやイレーヌさんの3人が現在の俺の会社の責任者のような立ち位置ということと、イレーヌさんが日本に立ち上げた会社の社長をしていること、最後にかおりさんは俺の秘書として割と頻繁に一緒にいることなどを説明した。

 最後の割と頻繁に一緒にいるというところで梓にかなり焼きもちを焼かれたのだが、こればかりはしょうがない。

 だいたい俺と梓とでは釣り合いがとれないので付き合えないだろうと心の中で思っているのだが、さすがに朴念仁の俺でも絶対に今口に出してはいけないセリフだということだけは理解している。
 とにかく平身低頭に梓をなだめてこの場はどうにか収まった。

「急がないけど、いつか絶対にそのかおりさんを紹介してね。
 会ってみたいから。」

 収まった訳じゃない、先送りされただけだった。

「わかったよ。
 流石に今日という訳には行かないけど、できるだけ早い段階で、かおりさんやイレーヌさんを紹介するよ。」

 しかし、現在の俺の状況がばれたらどんなことになるのだろう。
 奴隷だけでも20人以上いて、日本ではこれ以上ない人気を誇るアイドルグループである談合坂32のメンバー全員が俺のセフレで、さらに愛人を一人囲っているという状況をだ。
 殴られて二度と口をきいてもらえないかもしれない。
 なので、この件だけはトップシークレットだ。

 だてに世界の諜報組織を相手している訳じゃない。
 秘密の一つくらいを絶対に守ってみせると強く心に誓った。
 とにかく問題の解決にしろ先送りにしろ、この件の聴取は終わったようで、その後はまた甘酸っぱいデートの続きとなった。

 この店でかれこれ1時間以上いたわけだが、その後は羽根木インペリアルヒルズの中にある映画館で最近話題の映画を二人で見て、ショッピングモールの中をウインドショッピングをしたりと、時間だけは簡単に過ぎていった。

 この後一緒に夕食でもと思ったのだが、梓の住むことになる女性だけの寮での夕食の時間が迫っており、夕食を外でとってくるときには前もって連絡しないといけないルールになっているとかで帰ることにした。
 なにせこの寮は良家の子女が住むかなり有名な寮で、割と寮則が厳しく、特に門限関係には問答無用ですぐに親に連絡がいくというのだ。

 梓も東京に出てきたばかりで親に心配をかけたくないと、渋々ながら帰っていった。
 幸い彼女の寮もここから歩いて20分ばかりのところにあるので、これからは頻繁に会えるねっと言って別れた。

 今日はとても楽しかったのだが、非常に疲れた一日だった。
 なにせ脛に傷どころか脛が折れるほどの隠し事を抱えている身なので、手放しで楽しめなかったというのが疲れの原因だろう。
 自業自得なのだが、梓だけには嫌われたくないという身勝手な思いもあるので、これからはこんな環境に慣れていくしかない。

 とぼとぼと俺は事務所に戻って、帰宅の報告を入れたのちペントハウスに戻って、少し早いが休むことにした。

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