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31~40話

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 31.中身はアラサーだからな?なめんなよ?


「え~~、いやだよー。マリアと教室で食べたいよー。」
「だだこねないで下さい!隠居とかなんですか!ちゃんとお仕事してください!」
「あ、なんか夫婦みたい。あ、今、はじめて手繋いでるね。今日は記念日だー。」
「・・・・・。」

 いつの間にか美空先輩の手首を引っ張っていたはずが手を繋いでいる状態で、屋上に引っ張って行っている私は、美空先輩の言葉と確かにいつの間にか手をぎゅっと握られていることに気づき、表情が無になる。

 そしてそれを後ろについてきながら、美空先輩の変容ぶりに言葉をなくしている一凛と麻日くん・・・。


 屋上の扉をギィっと開けると、

「え・・・あ、速水・・・さん?」

 と、神薙くんが驚いている。

「ごめんねー、神薙くん、先輩がなんか変なこと言い出しちゃったみたいで。」

 なぜ私が謝るんだ。本当に妻か。と、思いつつも先輩と手を握ったまま神薙くんの方へと歩いていく。

「そうだ臣!お前、隠居とかなんなんだよ!」

 麻日くんはたくさんの惣菜パンがのった机の椅子に行儀悪く座りながら眉間にしわを寄せて美空先輩に言う。
 私と一凛は、机を運び、円状に五人座れる様にしていた。

「だから・・・もうボクはマリ・・速水彩衣ちゃんの護衛専門しかしないから、あとの退治場所とかなんかそういうめんどくさいのとかは、全部二人に任せるって言ってるんだよ・・・。」

 美空先輩は、はぁ・・・と、めんどくさそうに大きく息をついて静かに言った。

「・・・お前、本当に臣か?穢れか魔物にでも憑かれたか?」

 麻日くんは怪訝な表情で問う。

「憑かれてないよ・・・まぁ・・・あえていうなら逆かな。憑き物が落ちた・・・落としてもらった・・・みたいな?」
「はぁ!?」
「あー!はいはい!机並べたから、食べながら話そうねー!」

 私は喧嘩になりそうな二人の会話に割って入る。

「あ、ボクはマリアのとなりね。」

 先輩は一気ににこやかに語尾にハートでもついてるかの様な声で言う。

「はいはい。じゃあ、一凛・・・神薙くんと先輩の間にする?」

 麻日くんの隣は嫌だろうなーと思いそう聞くと、ブンブンと首を振った。
 やっぱ麻日くん苦手なんだな。と、苦笑いした。

 というわけで、円を描いて、神薙くん、麻日くん、私、先輩、一凛。という席で座った。

「なんで、マリアの隣に麻日が・・・・」

 と、先輩は少し気に食わないことを言っていたがスルーした。

「はい!ご飯は大事だから食べながら話しましょうね!」

 そう言いながら私がお弁当箱を開けると、

「・・・なんでてめぇが仕切ってんだよ。」

 と、苛立つ言葉が聞こえてきた。

「麻日・・・今、マリアに」
「せんぱーい!私が話すから大丈夫です!」

 美空先輩が殺気立ちながら立ち上がったので、私は肩を押して椅子に座らせた。

「お前らなんなんだよ!昨日まで臣は普通で、なんでもなかったのに、急に臣は変になるわ、お前らは・・・つきあってるみたいだわ。」
「つきあってません!」

 私はすぐさま否定した。

「えーっと・・・昨日、美空先輩のお家に誘われたんですね、話があるって。で・・・そこでまぁ・・・いろいろ・・・それは美空先輩のプライベートなことなので言えないのですがお話を聞いて、相談にのった・・ようなことをして・・・美空先輩は自分に正直に?生きることにしたみたいで・・・で・・・まぁ・・・こんな感じの先輩になってしまって・・・で、なんか私・・・好かれてしまったみたいで・・・。自分で言うのもなんですが・・・・・なので、こんなことになっています・・・・。」

 と言い終わると、その場は、しんっ・・と静まり返った。
 そして美空先輩が口を開く。

「そう・・・彩衣ちゃんにボクは救われた・・・だからもうボクはボクに正直に生きる・・・もう女性に媚びることもしない、無理していい人を演じることもしない・・・・それでいいと言ってくれた・・・そしてそんな彼女がいればそれでいい・・・彩衣ちゃんはボクのマリアなんだ・・・・。」

 美空先輩は瞳を閉じて胸に拳をあて、そう、静かに語った・・・。

「だからって退魔師の仕事、隠居するとか勝手に決めて言われても困んだよ!」

 ガンッ!っと机を足で蹴って麻日くんが言った。
 その場に緊迫した空気が走る。

 あ~・・・まぁ、麻日くんも似たような環境だから、一人だけ救われて少しムカついてるのもあるのかな?
 とにかく麻日くんどうにかしなきゃ・・・神薙くんは・・・なんでもOKしてくれるしな!ごめんね!
 まぁでも・・・確かに、隠居はダメだよなぁ・・・ん?そういえばさっき私の護衛専門とか・・・。

「そうですね、確かに、だからって退魔師の仕事隠居とかはダメだと思います。」

 私は美空先輩を見て言う。

「・・・マリア。」

 先輩は悲しそうな表情をする。
 麻日くんは意外そうな顔をした。

「元は神薙くん、麻日くん、美空先輩、一凛で穢れ退治してたのに、一凛を・・・私がいても意味ないからって抜けさせて、それで、先輩も私のせいで、先輩は有能だと思うし、肝心の、どこに退治に行くかとかの作戦会議に関わってたのに、それを急に私とお昼食べたいからやめるっていうのは・・・。」
「でも!マリアはもう無理しなくていいって!」
「そうですけど!」

 先輩は泣きそうな表情で私を見てくる。

「・・・先輩は・・・退魔師の仕事は嫌いですか?」

 私は優しく問う。

「・・・好きでも嫌いでもないよ・・・。」

「じゃあ、隠居は・・・私とお昼を食べたいのと、私の護衛専門になりたいからですか?」

「うん。」

「そうですか・・・・。」

 私は考える・・・・。

「わかりました。じゃあ、私、お昼毎日ここで食べます!だから、先輩は嫌じゃないなら作戦会議に参加してください!」

「え・・・・。」

「一緒にご飯食べながら、私に穢れや魔物や退魔師のこと色々教えてください!」

 私はほほえむ。

「・・・・うん・・・わかった。」

 少し残念そうだが、先輩は了承してくれた。

「と、いうわけで・・・話はこんな感じにまとまりましたが・・・どうでしょうか?あ、一凛!一凛どうする?お昼教室で鈴と食べる?」

 私が慌てて問うと、

「彩衣ちゃんが・・・頑張ってくれるのに私が頑張らないわけにいかないよ!何もできないけど、私も屋上で食べるよ!」

「・・・う、うん。わかった。」

 一凛が珍しく声を張り上げたので少し驚いた。

「・・・ていうわけで・・・こないだ屋上で食べませんとか言いましたけど、また戻ってくることになりました。ごめんね、神薙くん、麻日くん。」

 私は二人に謝る。

「あ・・いや・・・俺は・・別に・・・先輩が戻ってきてくれて・・・よかったから・・・ありがとう。」
「え・・・あ、いや・・・。」

「まるでガキと母親だな。」

 すると、麻日くんがまた余計な一言を発した。

「・・・・麻日くん・・・これ以上、事を荒立てないでくれる?」

 私は怒りを抑えて静かにそう言った。

「もとはといえば全部てめぇがここに来たのが原因だろ!あ、ちげぇか?一凛がお前に話したのが発端か?一凛が黙ってりゃなんも起きなかったのによぉ!」

 こいつは言わなきゃわからねぇな。言ってもわからないかもしれねぇが。
 外見は高校生でも中身はアラサーだぞ?なめんなよ。


「お前がそういうこと言うから一凛が私に相談してきたんだろうが!!!」


 私は机をバンッ!と叩いて立ち上がり、大声で叫んだ。
 そしてクソ麻日を睨んだ。

「・・・・・・。」

 クソ麻日はきょとんとしている。
 他のみんなは硬直していた。

「お前なぁ!少し口が過ぎるぞ!生意気ツンデレキャラなのかもしれないけど人の気持ち考えろ!!そんだけガンガン言われたら一凛、萎縮するし、相談もできなくなるだろ!!!わからないのか!?わからないだろうなぁ!!!だから言ってるんだもんなぁ!!!だから相談できなくて私に相談したんだよ!原因はお前だ!!!わかれ!!!!あと先輩にはさんか先輩つけろ!!!」

 そう言うと、私はドカっと椅子に座った。

「さ、ご飯食べよ。」

 そして私は無表情で開けたお弁当箱に手を付ける。

 クソ麻日は呆然としていた。
 きっと今までこんなこと言われたことないんだろう。
 そしてみんなも呆然としている。先輩も。これで先輩が私を嫌いになってくれたらそれはそれで好都合なんだけどなー・・・と、思った矢先。


「ジャンヌーーーーー!!!!」


 と、抱きつかれた。

 やっぱり君はジャンヌ・ダルクの生まれ変わりだよ!とか何とか言ってたが無視してお弁当を食べ続けた。もうお昼休み終わりそうだったから。

「あ、一凛。お弁当食べな。お昼終わるよ。」
「え、あ!うん!」

 そう言うと、神薙くんもハッとして、お弁当を食べだした。

 チラリとクソ朝日を見ると、少しむっとしたような、無表情のような顔で、惣菜パンの袋をべりべりと開けていた。

「先輩いい加減はなれてお弁当食べたほうがいいですよ。」

 私はいまだに抱きついたまま何かをべらべら言っている先輩にそう言って卵焼きを頬張るのだった。



 続。



 32.屋上での作戦会議開始!そして今夜、初の退治!そしておばさんはツンデレクソ野郎でも放っておけません・・・。


「マリアー!迎えにきたよー!屋上行こうー!」
「迎えに来なくていいですから・・・。」

 次の日の昼休み。
 私と一凛がお弁当を持って屋上へ行こうとしていると、美空先輩がやってきた。

「えー?だって、一時でも一緒にいたいじゃーん。」

 美空先輩が手を繋ごうとするのを私は阻止する。

「先輩。私と先輩は、お友達ですよ?お忘れですか?」
「・・・・・。」

 先輩は不機嫌そうな表情で横を向く。

「友達なら手は繋ぐよねー?一凛ちゃん?」

 先輩は一凛に振るが・・・・・

「・・・彩衣ちゃんと・・・手、繋いだことありません・・・。」
「女友達で手繋ぐのなんて小学生位までだよねー?」
「うん・・・。」
「というわけで手は繋ぎませんー!」
「ん~~~!」

 私と一凛と先輩はわいわいとしながら屋上へと向かう。
 ちょっと楽しかった。


 屋上へつくと、先に神薙くんが机を並べてくれてて、不機嫌そうな麻日くんが今日も大量の惣菜パンを机の上にのせて食べていた。小さいのによく食べるんだよね、この子。なのに体に悪い惣菜パン・・・・。

「神薙くんありがとうー。ごめんねー。」
「あ・・うん、いや・・・。」
「先、行っちゃうんだもん。今度から一緒に行こうよ。同じクラスなんだし。」

 と、言うと。

「え・・・あ・・・・うん。」

 と、少し嬉しそうにして、返事をしてくれた。

「七斗・・・マリアはボクの物だからね・・・・。」

 先輩が背後から抱きついてきた。

「先輩!お友達!」

 神薙くんは苦笑いしていた。


 そして私は机に行くと持っていた大きな巾着を開けて、

「麻日くん。」

 と言い、麻日くんの机の惣菜パンの横に、ラップに包まれた巨大おにぎりを三つドンドンドン!と置いた。

「・・・あ?なんだよ・・・・。」

 麻日くんはおにぎりを見て怪訝な顔をしている。

「育ち盛りの高校生が、毎日毎日そんな惣菜パン大量に食べてたら体壊すよ。お母さんに言っておにぎり作ってもらってくるからもう惣菜パンはやめな。」

 と、言いながら私は椅子に座る。

「なっ!いらねぇよ!」

 麻日くんはそっぽを向く。

「・・・・・・。」

 私は知っている。麻日くんルートも一応やった。

 麻日くんはアパートで一人暮らしだ。
 母親も父親もいない。
 自炊もしない。
 朝も昼も夜も、食生活はこんなんだ。
 そのくせ大食らい。
 本来なら一凛がこの役をやるのだが・・・・一凛は麻日くん苦手だから、私がやるしか・・・・というか、かわいそうで、スルーできないだろ。いくら嫌いなキャラでも目の前に現実としていたら。

「じゃあ、今日だけ!昨日、怒鳴ったお詫び!ほら!美味しいよ!中身は鮭とおかかと梅!あ、梅干嫌い?」

 私がお弁当箱を開けながら聞くと、

「・・・嫌いじゃねぇけど・・・」
「じゃあ食べて!」
「・・・・・・」

 麻日くんはさすがツンデレ。どうしようかと、もごもごとしていたが、おにぎりをそっと取るとラップをはがし、そっと一口頬張った。

 表情が変わった。

 そのままガツガツとおにぎりをあっという間に一個食べ終えてしまった。
 そうだろうそうだろう。惣菜パンやコンビニのおにぎりと、よそのお母さんでもお母さんのおにぎりじゃ比べ物にならないくらい美味しいだろう。
 こりゃ三つじゃ足りないかなー。などと思っていると、
 皆が私たちを見ていた。
 先輩は「マリアのお母さんのおにぎりを・・・麻日が・・・・」と、つぶやいている。

「昨日のお詫びです。」

 と、私は言い、先輩には今度、クッキー焼いてこようかなー。とご機嫌取りを言う。パッと光のない瞳が笑顔になった。まぁ、嘘なんだけどね。


 そんなわけで、やっと平和にご飯を食べだした私たちなんですが、

「そういや、最近ごたごたしてたけど、穢れと魔物?退治行ってたの?」

 私が問うと、4人が、う・・・という表情をする。

「ここ・・・2、3日うちの班行ってなくて・・・・。」

 と、神薙くん。

「誰かさんのせっ・・・・」

 いでな!と不機嫌そうに麻日くんが三つ目のおにぎりを頬張りながら言おうとしてぐっと言葉をこらえた。
 お、偉いな。お姉さんの注意をちゃんときいてるのか。と、私が思っていると、

「そろそろ行かないと注意受けるね。今夜から再開しようか。」

 美空先輩が以前のような表情で言っている・・・おおお・・・なんか久々に見ると新鮮でかっこいい!
 いつもこんなんだったら・・・ま、いいや。それは。

「そう・・・ですね・・・・。」
「そうだなー。」
「じゃあ、ボクは彩衣ちゃんの護衛ね。」

 あ、さっきの前言撤回。
 私の表情が無になる。

「はいはい。」
「まぁ・・・俺は別にかまいませんけど・・・・。」

 私があしらいながら答えると、神薙くんが長い前髪の下から私を伺ってくれる。優しいなぁ。

「あ!そうか!私も行くのか!」

 つい声に漏らす。

「そうだよ!お前と一凛と臣は決定だ。あとは俺か七斗のどっちかだな・・・。」

 私・・・別に上下関係あんまり気にしないんだけど・・・なんか・・・・なんか気になるというか腹立つんだよなー・・・。

「麻日くん。」
「あ?」
「『さん』か先輩。あと敬語かせめてもう少し丁寧語使おうよ。」
「・・・・うるせぇな・・・。」

 チッと舌打ちする麻日くん。

「舌打ちしなーい!あとで困るのは麻日くんだよ!みんなにそうなの!?喧嘩売られるでしょ!?」
「売られた喧嘩は買って、毎回勝ってるよ。」

 ハッと麻日くんは言い放つ。

「・・・体小さいのに・・・・。」
「うるせぇよ!!今関係ねぇだろ!!!」
「・・・・まぁね・・。」
「話進めんぞ。」

 まぁ、いいか。言葉遣いとか『さん』つけとかあんまあたしも気にしないしなー。
 妥協しよう。

「今日、どの辺に出るって情報入ってる?」
「最近、商店街の裏路地に出るって聞くけど・・・住宅街の方も出るって。住宅街優先かなぁ・・。」
「そうだね・・・彪斗がこの間住宅街でやられたし。」

「!」

 私は彪斗という言葉に箸を止める。

「あ・・・そうだ。速水さん。まだ会わせてないんだけど、ちょっと・・・複雑な事情で学校には来てないけど、同じ班の退魔師がもうひとりいるんだ。不知火彪斗っていうんだけど・・・今度、機会があったら会わせるね。」
「あ・・・うん。」

 知ってます知ってます知ってます!紹介された!!!彪斗くん!!!
 元気にしてるかな!
 私は嬉しくなって少しほほえむ。

「じゃあ、住宅街にしよう。住宅街は・・・麻日の方が得意かな。」
「そうだな。小回りきくし。」
「そうだね、じゃあ、今日は麻日、山田さん、臣先輩、速水さんで・・・。」

 皆は、はーい。と答える。

 しかし、私は少し、ドキドキとしてきた。
 選択肢で選んで、簡単なコマンドで退治していた、穢れ魔物退治にいざ、実際に、現実に自分が行くのだ・・・。

 しかし、ふと気づく。

「あ、でも私見えないですよね?穢れとか・・・。」

 皆が私を見る。

「ふふ、そうだね。」
「そう・・・だね。」
「なんか・・・どうなんでしょう・・・大丈夫ですかね?逆に危なくないですか?どうしたらいいですか?なにしたら・・・。」

 私は少しテンパる。

「大丈夫だよ、マリア。マリアは普通にボクの後ろを歩いてて、止まってとか、進んでとか指示に従ってくれれば。危険な目には合わせないから・・・・命に代えても守るよ。」

 美空先輩はやわらかくほほえむ。

 やめて・・・ほだされる・・・・。

「わか・・・りました。」

 私が返事をすると、

「じゃあ、今日の9時に、山田さんの女子寮前で待ち合わせで・・・」


「9時!!??」


 私は叫んだ。

「え、私そんな時間に家出るの無理ですよ!え、帰り何時ですか!?親になんて言えば・・・。」
「だーいじょうぶ。マリアのご両親にはボクが上手く言うから。あ、もちろんマリアの送り迎えはボクがするよ?家で待っててね?」
「どんな格好してけばいいですか?」
「普通のかっこうでいいよ。まー動きやすいカジュアルな格好?普段着?」
「カバンとかは・・・」
「いらないいらない。」
「なんか不安と緊張が・・・。」
「大丈夫だよ。安心して・・・。」

 この時はじめて、美空先輩に溺愛されていて良かったと思った。


 そんな訳で、今夜9時に麻日くん、先輩、一凛、私で穢れ、魔物退治に行くことになった。


 予鈴が鳴る。

「あ、教室戻らないと。」
「机、片しましょうー。」

 ガタガタと机を隅に戻し、屋上を後にしようとする。

 扉を開き階段を降りようとした私に、

「おい!」

 と、あの声が。
 振り向くと、


「・・・おにぎり・・・うまかった・・・・あんがと・・・・母ちゃんにもお礼言っといてくれ・・・。」


 そう言うと、麻日くんは身軽にダダダと階段を駆け下りて行った。

 ツンデレめ。
 こりゃうちの米消費量が増えるなー。
 お小遣い減らしてもらってもおにぎり作ってもらおう。しかたない。

 私は少しほほえみながらため息をついたのだった。



 続。



 33.先輩、それは反則です。


 私は動きやすい格好で、午後8時半に、自宅のソファに座っていた。
 しかし、心は落ち着かず、冷蔵庫に行き、飲み物を飲んだり、戻ったり、あ、あんまり水分取らないほうがいいかな、トイレ行きたくなるし・・・などと考えてやめて戻ったり。をしていると、

「彩衣どうしたの?さっきからそわそわして。それにどこか行くの?外行く格好してるけど。」

 と、美女母に突っ込まれてしまった。

「え・・・あー・・・うん・・・えっと・・・・」

 私が歯切れの悪い返事をしていると・・・ピンポーンと呼び鈴がなる。

「あら、パパかしら。」

 来た!と、時計を見ると、9時少し前、多分、美空先輩だ。と、私は立ち上がり、玄関へと向かった。

「はー・・・い・・・・」

 そろそろと玄関を開けて、私は目が点になり、言葉をなくした。

「やぁ、こんばんは。マリア。迎えにきたよ。」

 そこにいたのは・・・タキシード姿にいつもと違う少し髪をアップにした、これからパーティーにでも行くんですか?というキラッキラ姿の美空先輩だった。

「・・・・・・」

「マリア?」

 やめろおおおおお!!!!
 いくら興味ないし日頃から鬱陶しいと思ってても、元からイケメンで、こんなバージョンアップされた姿で現れたら落ちるだろおおおお!!!
 反則だ!反則だあああああ!!!!

 こんなのゲームになかったぞ!!!!

 私は両手を顔に当て、うずくまる。

「マリア?どうしたの?大丈夫?具合悪・・・あ」

 先輩はおろおろして私を心配しているようだが・・・気づいてしまったらしい。

「やだ~~!マリアに惚れ直されちゃったかな~!ボク~!気合い入れてきてよかった~!マリア!ほら!ボクをよく見て?見て?」

 先輩が私の手を顔から外そうとする。

「惚れ直してません~~~!!!!やめてくださいーーー!!!」
「うそつかなーい!」

 先輩はとても嬉しそうに語尾にハートがついている声が聞こえてくる。

「彩衣?お友達?」

 すると流石に騒ぎすぎたのか、美女母が扉を開けやってきた。

「お母様、初めまして。美空臣と申します。」

 すると突然しゅばっと美空先輩は立ち上がり、母に挨拶し出したようだ。私は顔から手を少しずらし、美空先輩を見る。

「え・・・え、ええ?美空さんって・・・あの、大きなお屋敷の所の美空さん?」

 母は困惑しているようだ。そりゃそうだろう。町一番の富豪の息子がいきなりこんな格好でやってきたんだ。
 私は顔から手をはずし、立ち上がる。
 しかし、なんと言っていいのかわからない。これから穢れ魔物退治に行ってきますなど言えない・・・。
 そう思っていると・・・・。

「いえそんな、大した家ではございません。お母様も、彩衣さんと同じく美しいですね。彩衣さんはお母さんに似たのでしょうか。」

 黙れ。と、私は、母の手をさりげなく握っている美空先輩を睨む。

「おっと、彩衣さんが嫉妬してしまっているようなのでこれくらいで。」

 してない!!!

「実はご挨拶が遅れましたが、彩衣さんとお付き合いさせていただいていまして・・・それで、今日は突然なのですが、これから彩衣さんをパーティーに私のパートナーとしてお連れしたいのですがよろしいでしょうか?服などは私がご用意しますし、もちろんアルコールは飲ませません。帰宅は遅くなるのですが・・・送り迎えはうちの車でいたしますので・・・。」

 再度、母の手を握り、誰もがYESと言ってしまいそうな輝くようなほほえみで先輩は言った。
 案の定母は、

「・・・はい・・・・」

 と、その笑みにみとれて答えていた。
 母ー!しっかりーー!!!

 まぁ、確かにその案はいいけどさ・・・先輩。
 でもそしたら私、毎日パーティー?明日はどうするんだろう。

「じゃあ・・・行ってきます・・・・」

 父とうるさい兄がいなくて、母が先輩にやられているうちに行ってしまおう。と、私は靴を履く。

「お母様、彩衣さんは遅くなりますが必ずちゃんと送り届けますので。何かありましたら、私の携帯にお電話下さい。」
「まぁまぁ、親切にありがとうございます。彩衣は幸せね。こんな素敵な彼氏をいつの間にか作って。」
「いえ、そんな。」
「お母さんも若かったら・・・」
「はいはいはい!行きましょうね!先輩!」
「おっと!それではお母様!失礼します。」
「またね~、臣君。」

 母は上機嫌に手を振っている。しかも臣君呼び。
 母がこんなにちょろいとは思わなかった。
 ん?先輩がすごいのか?と、思いながら玄関を閉めて、私はようやくほっとした。

「もー!先輩!なんですかあの出かける理由!しかもその格好!」
「マリアも気に入ってくれたじゃないか!みとれてくれただろ?あ~!嬉しいなぁ!」

 先輩は本当に嬉しそうに上機嫌に少し本当に踊りながら車のドアを開けてくれる。

「どうぞ、愛しのレディ。」

 そしてウインクしてきた。


 その格好でそれはやめてくれ。マジで。落ちる。


 私は大きくため息をついて、片手を顔に当てた。




 続。



 34.初戦闘!そしてフラグ?いやいやまさかwww


 その後、先輩の車に乗り、着いたのは一凛の暮らす学校の女子寮。
 おお、スチルと同じだ・・・ここに来るのはそういえば初めてだな・・・と、私が思いながら車から降りると、すでに一凛と麻日くんは入口の前に立っていた。
 おお・・・気まずそう。というか、萎縮してた一凛がほっとして、麻日くんがイライラしてる。
 この二人仲悪いなー・・・仲悪いというか・・・なんというか・・・・一応、麻日くんルートもあるんだよ?一凛。

 と、思っていると、

「おせぇよ!」

 と、麻日くんが吠えた。

「彩衣ちゃん!よかった!」

 そして一凛が私の方へ駆け寄ってくる。

「ごめんごめん、ちょっと先輩がお母さんと話し込んじゃって。」
「え?え!せんぱっ・・・!」

 さすがの一凛も車から出てきたこの先輩を見て手を口に当てて、ほうっとしている。
 まーなるよねー女子なら誰でも。

「やぁ、一凛ちゃん。こんばんは。」

 先輩はひらひらと手を振り私たちの方へとやってくる。

「臣!お前、なんだよその格好!」

 すると機嫌の悪かった麻日くんの機嫌がより一層、悪くなる。

「ん?マリアをパーティーに誘いに行くからそれなりの格好をしたんだよ。」
「先輩!」

 私は慌てて会話を遮った。

「麻日くん、これは私が夜遅くに家を出るために、パーティーに行くという口実を作るために先輩がこの格好で来てくれたんだ!だから責めないであげて!」

 私がそう言うと、

「・・・そんな格好で戦えんのかよ。」

 麻日くんはむっとしたまま少し黙り、ぶっきらぼうに言う。

「だーいじょうぶだよ。ボクは麻日より強いでしょ?それにこういう格好は着慣れてるから。」
「そーかよ!」

 機嫌悪そうに麻日くんは歩き出す。

「ああ!麻日くん待って!どこ行くの!」

 私は追いかける。

「標的のいる住宅街行くんだよ!さっさと行くぞ!」

 ったく!といいながら、ポケットに手を入れて麻日くんは歩き出す。

「え!?えっと・・・一凛!行こう!」
「う、うん!」
「さーて!狩りに行くかー!」

 私たちは目的地へと歩き出した。



「麻日くん晩ご飯食べた?何食べた?」
「・・・うるっせぇな。ちゃんと食べたよ。」
「ジャンクフード?」
「・・・・・」
「せめてご飯炊いて卵買って、卵かけご飯にしなー。」

 早足な麻日くんの後を小走りで追いかけながら言う。

「ていうか歩くの早い!後ろ離れちゃってるからもう少しスピード落として!」

 麻日くんの腕を掴んだ。

「・・・・・・。」

 麻日くんは足を止める。

「ボクはちゃんとマリアの後ろにぴったりついてるよ?」

「!!!先輩!?じゃあ一凛は!?」

 そう叫んで振り返ると、少し離れた暗闇に一人、息を弾ませた一凛が・・・。

「一凛ーーー!!!」

 一凛の元へ駆け寄る。

「大丈夫!?」
「う、うん・・・」
「なんなんですかあんたら二人!女の子一人暗闇に一人にして!最低!」
「な・・・」
「ええ!?」

 最低と言われ、先輩はショックを受け、麻日くんも多少は動揺している。

「一緒に行こう?」
「う、うん・・・。」

 一凛にそう言いながら、こいつらほんと最低だな。と、私は二人を睨んでいた。
 麻日くんはともかく先輩まで・・・私は先輩を睨んで冷たい態度で横を通り過ぎた。

「マリア~~~!許して~~~!!!だって、麻日とマリアがなんか仲良くしてるから~~~!」

 ほんとに盲目的にあたしのこと好きだな!
 と、自分でも怒ってるからちょっとあれなことを思いながらも私は一凛の腕を掴みながら歩いていく。

「麻日くん!少し歩くペース落としてね!」
「・・・わーったよ。」

 チッと舌打ちして、麻日くんは少しゆっくりめに歩き出した。
 先輩は反省したのか、私と一凛の背後を守るように歩いている。


「でも私以外はみんな穢れとか魔物見えるんだよねー・・・なんか微妙な気分・・・・」

 夜空の下の住宅街を歩きながらそういうと、

「見えないほうが・・・いいよ・・・」
「そうだね・・・・あんな物は・・・・。」

 と、先輩と一凛。

「あ・・・・・。」

 やば、そうだった、先輩はお母さんの件でいろいろあったし、確かゲームで一凛もこの町に来て見えるようになって動揺してたもんね・・・・。

「ご、ごめん・・・。」

 私は少しうつむいて小声で謝る。

「はーん!いつも人に発言には気をつけろとかいってんのに!」

 するとクソ麻日が振り返りそんなことを言ってきた。

「っ!うるさい!あたしとあんたじゃ頻度が違うでしょ!」
「そんなん関係あんのか~?」

 人を小馬鹿にしたように言ってくる麻日に私は腹が立つ。

「・・・なんか最近・・・麻日とマリアが仲いい気がする・・・・」

 私はその、静かな這うような声にビクッとして恐る恐る振り返った。

 暗闇の中で、光のない瞳で、漆黒に飲まれそうな先輩がたたずんでいた。

「あ?こんなやつと仲良くなんかねぇよ。」
「そ、そうですよ先輩!喧嘩してただけですよ!喧嘩!」

 ヤバイヤバイ!ヤンデレ発揮するなよこんなところで!!!

「そうかな・・・・」
「そうですよー、先輩。仲良くなんて・・・」

「臣!来るぞ!」

 すると突然、麻日くんの声が響いた、一気に緊張感が走る。

「彩衣ちゃん!こっち!」
「わわ!」

 私は一凛に手を引かれ、その前にまともに戻った先輩が立ちふさがる。

「おら!こっちだよ!」

 私は先輩の脇からそっと戦っていると思われる麻日くんを見た。
 そこでは、麻日くんが一人でバタバタと動き回っているだけだ。
 でも、あそこに魔物がいるのだろう。

 確かゲームでは、穢れはただ、黒いもやもやが立っているだけで、それに触れると精神が侵され、イライラや場合に寄っては凶暴化し犯罪を起こしたりする。
 魔物はキメラのような獣だった。
 きっと今、麻日くんは獣のような物と戦っている。
 しかし、私にはそれが見えない・・・やっぱり少し悲しい・・・寂しい・・・のかな?

 時折、空気のゆらぎが見える。それで思い出した。確か麻日くんは火の使い手。
 手から炎を出し、魔物を焼き尽くす。
 先輩は水の使い手、水を操り、窒息させたり、動けなくしたり、賢く戦っていた。
 神薙君は風の使い手、風を操り防御に強いが、かまいたちのように切り刻んだり出来る。
 そして彪斗くんは少し特別。土の使い手。手から剣を出し、それで戦う。

 はー・・・なんだかしばらくゲームやってないし、いろいろあったから忘れちゃうとこだったや。

「おらぁ!一丁上がり!」

 と、麻日くんの嬉しそうな声が聞こえる。

「さすがだね、麻日。」

 先輩の緊張がほどけた。
 魔物を倒したのだろう。私もほっとする。

 たしか、穢れや魔物は退治すると消えるから、もういないのかな?
 美空先輩が麻日くんに近づいていったので、消えたのだろう。
 私は麻日くんに声をかける。

「麻日くん大丈夫?怪我してない?」
「・・・・・・」

 麻日くんは少し驚いた様子できょとんとしている。

「し、してねぇよ!」

 そしてそっぽむいた。
 お、何だツンデレか?心配されて照れてんのか?
 私は面白くなったのもあり、本心もあり、もっと聞く。

「ほんとに?あ、頬すりむいてるよ!今度から絆創膏とか持ってきたほうがいいね。」

「いいよ!うるせぇ女だな!」

 麻日くんは少し顔を赤くして先を行ってしまった。
 ふふ・・・かわいいな。お?これフラグ立ってるか?いやいやまさかな・・・。

「マリア・・・・やっぱり麻日と・・・・。」

 あーーーー!!!!めんどくさいのがまた出たーーーーー!!!!!


 私はそう思いながら振り返り、取り繕うのだった。




 続。



 35.麻日くんの事情。


「お、穢れだ。」

 そういうと麻日くんは手をかざす。
 きっと炎で退治しているのだろう。

 そうかー、こうやって穢れ、魔物退治は行われてたんだなー・・・あんな簡単コマンドで進んでたけど。

 と、思いながら穢れ魔物退治はサクサクと進んでいく。
 麻日くんは生意気なだけあって強かった。一人で全部倒してしまっている。
 先輩は本当に私たちの護衛・・・私と一凛の前に立って守っているだけだ。

「麻日くんって強いんだね。」

 私は少し近寄り話しかける。

「は!?あんだよ急に!」

 また照れている。かわいいな。だんだんこの子の扱いというか、可愛さというか、からかい方がわかってきたぞ。

「いや、先頭歩いて穢れも魔物も全部倒してるじゃん?すごいなーって。」
「・・・・まぁな、親父もお袋も退魔師だったからな・・・その血引いてんだろ。」

 麻日くんは夜空を見上げてつぶやくように言う。

 あ、そうか・・・麻日くんのお父さんとお母さん・・・魔物に殺されて亡くなったんだっけ・・・。

 私は麻日ルートを思い出しながら数歩下がり歩く。

 お父さんとお母さんは凄腕の退魔師だった。
 そんな両親を尊敬して憧れていた麻日くん・・・。
 でも、ある日、二人とも強い魔物に遭遇し、亡くなってしまった。
 だからこの町に穢れと魔物が蔓延る原因になった神薙くんと一凛を憎んでいる。
 二人が宝玉を飲み、町に魔物が現れなければ両親は死なずにすんだ。
 自分も養護施設に行き、寂しい思いもせずにすんだ。
 高校に入ってからは、保護者代わりに九五さんがなってくれて、狭くてぼろいアパートで一人暮らししている・・・・本当なら、お父さんとお母さんがいて、お母さんのご飯とお弁当食べて、部活でもして温かい家庭で普通の高校生をしているはずなのに・・・・。

 不憫な子だな・・・・。
 よく考えれば先輩もそうだけど、つらい、悲しい人生を送ってきた可哀想な子なんだよね・・・。
 可哀想な子なんて本人に言ったらぶち切れされそうだけど。

 ゲームをプレイしてた時は、キャラクターの特に好きでもないキャラの一人だっけど・・・こうして実際に対面して会話して、事情知ってると・・・・可哀想でならないわ・・・おばさんは・・・。

「麻日くんはえらいなぁ!」

 私は突拍子もなく、麻日くんの頭をがしがしと撫でた。

「っ!あんだよ!やめろよ!」
「あははは!」

 私はまた顔を少し赤くしている麻日くんを、今では結構好きになれていた。

 すると、ピロロロロと、音が鳴る。

「おっと、11時だね。今日はもうおしまいだ。」

 美空先輩のスマホだった。

「え!ていうかもう11時なんですか!?」
「早いよねー、退治してると。」
「あっという間だよなー、まぁ、俺はこの後も続けるけど。」
「え、帰って寝なよ!明日も学校だよ!?」
「うるせぇな。お前は・・・母親かよ。」

 麻日くんがちょっとためらって言う。

「私が母親ならあんな食生活させません!!!」
「またそれか・・・」
「今度、ご飯作りに行ってあげようか?」
「いらねぇよ!」
「あははは!」

 そんな麻日くんからかいをしていると・・・・

「マリア・・・・本当に君は麻日が好きだね・・・・・好き・・・・」

「あーーー!!!先輩帰りましょう!先輩の豪華な車で帰りたいなー!」


 この先輩はなんとかしないといけないな・・・なるのか?
 いやでもなんとかしたい。

 私はそう思いながら、先輩の車でずっと先輩に手を握られながら帰宅したのだった。





 続。



 36.あっちもこっちも大変だ。


「いやー・・・昨日は緊張したわー・・・・。」

 私は屋上の青い空を見上げながらつぶやいた。

「初めてだったからね。」

 一凛が笑う。
 みんなでお昼ご飯を食べながらの作戦会議中、私が漏らした一言。

「あ、あの・・・速水さん・・・・」

 すると神薙君がおずおずと話しかけてきた。

「ん?」
「あの・・・大丈夫だった?」
「ああ、うん。全然。怪我とかしなかったよ。」

 私が笑って答えると、

「あ、いや・・・その・・・なんていうか・・・精神面で・・・・」
「・・・・・・」

 少しうつむいていう神薙君に、神薙君の優しさを感じる。
 優しいなぁ、神薙君。
 やっぱり推し二番目だわ。出来れば髪の毛切ってほしいんだけどなー。
 などと思いながら私は答える。

「うん!大丈夫!ありがとう。優しいね、神薙君は。」

「!」

 その言葉に、神薙君はあまり見えない頬を少し赤らめて慌てている。

「そ、そんなこと・・・ない・・・よ。」

 そしてうつむいた。なんだかちょっと嬉しそう?私の気のせい?

「でー、今日はどこ行くんだー?」

 すると、今日も私が押し付けたおにぎりを頬張りながら、麻日くんがなぜか少し不機嫌そうにそう行って来た。

「そうだね・・・どこにしようか・・・・」

 先輩の瞳からも光が消えて、遠くを見ている。
 え、何?みんなどうしたの?

「てか、昨日麻日くん何時まで退治してたの?」

 私が何気なく聞くと、

「1時。」
「は!?」

 返ってきた言葉に思わず叫んだ。

「え!何やってんの!?帰ってきてからお風呂入って、明日の支度して寝るだけだろうけど、でも、課題とかあるでしょ!?大丈夫なの!?」

 あせりながら聞くと、

「課題なんかやんねーよ。進級できるギリギリだけやって卒業できればいいんだ。」
「・・・え・・・・進路どうすんの?」
「退魔師。」

 きっぱりとした答えが返ってきた。

「~~~~~っ。」

 私は突っ伏した。

 退魔師のお給料とか待遇がどうなのかわからないが、この子は駄目だ。駄目だ。
 でも、首を突っ込んでいいのか・・・・。

「麻日くん・・・後でちょっと話がある。」
「あ?俺にはねぇよ。」
「私にはある。」
「・・・あんだよ。」

 そう言いながら麻日くんはおにぎりを頬張っていた。



 その後、ご飯を食べ終わった所で、じと目で見つめてくる先輩をスルーし、私は麻日くんを屋上の隅に呼んだ。

「麻日くん、今日か明日、麻日くんのアパート行っていいかな?じっくりと話したいことがあります。」

「あ?」

 麻日くんが怪訝な顔をしている。

「もちろんタダでとか言いません。夕飯を作ります。何が食べたいですか。」

 私は手の平を向け言う。

「いらねーよ。ていうか来るな。」

 その言葉にうっとたじろぐ。
 だが、行かねばならぬ。話さなければならぬ。膝を突き合わせて。

「行くの!何が食べたい!?調理道具ある!?」
「・・・一応、たぶん道具はあるけど・・・・」
「じゃあ何が食べたい!?」
「・・・・ハンバーグ。チーズのせ。」
「・・・・・」

 その言葉に私は目を丸くしてしまう。あまりにも可愛くて。
 でも笑っちゃいけない。ここまでの交渉が水の泡になってしまう。

「わかった!チーズのせハンバーグね!炊飯器ある?」
「・・・ある。」
「お米は?」
「・・・ない。」
「わかった!じゃあー・・・明日、私と麻日くん退治なしにしてもらって明日にしようか!」
「それは・・・」
「まぁ、たまにはいいじゃない。ね?」
「・・・・・」
「じゃあ、私が話しつけるから!ありがとう!」

 そう言うと、私は屋上の隅から、麻日くんの元から去った。

 ハンバーグかー・・・作り方どうだっけ。実家暮らしだからわかんないや。
 今日、教えてもらおう。
 そんなことを思いながらみんなの元へと戻る。

「何を話していたのかな?マリア。」
「・・・・・」

 先輩が笑顔で聞いてきた。
 この先輩もなんとかしなくてはなー・・・。

「明日の夜、私、麻日くんと話があるんで、私と麻日くん退治から抜かしてください。」

 私は直球でいう。
 でも、家に行くというのは言わなかった。先輩には刺激が強すぎる。

「・・・・・話って?」
「それは私と麻日くんの間の話です。」
「マリア・・・・」

 ヤバイ、私、殺されそう。

「先輩?私は先輩だけの私だけじゃありません。私は先輩を癒すとも庇うとも言いました。でも、私と先輩は友達です。独占欲で私を縛るのはやめてください。口に出すのはいいです。麻日くんと仲良くしてて悲しい。とか、寂しい。とか。僕もかまってほしい。とか。でも、実際に何か行動に移すことは、絶対にやめてくださいね?」

 静かに、淡々と、私は先輩の瞳を見て言った。

「・・・・・・」

 先輩は悲しそうな、悲痛な表情をしながらも、顔を背け、

「・・・わかったよ・・・・」

 と、静かに言った。

 これで大丈夫だろうか・・・言葉に出すだけならいい。
 でも、狂気の沙汰に出られるのは勘弁したい。

「何、話してんだー?」

 すると麻日くんが戻ってきた。

「麻日を抹殺したい。」

「!?」
「あ?」

 私は驚き、麻日くんは怪訝な顔をしている。
 先輩・・・口に出していいとは言いましたが・・・・まったく・・・溺愛されるのも楽じゃない。




 続。



 37.二次元は理想の世界。


「お母さーん!ハンバーグの作り方教えてー!あと、明日の夜、友達の家でハンバーグパーティーしてくるー。早めに帰ってくるけど。」

「ハンバーグパーティー?」

 帰宅した私は美女母にそう告げると、母は怪訝な顔をした。

「誰の家に行くの?一凛ちゃん・・・は寮だし・・・え?臣くん?」

 母の顔が嬉しそうになる。

「違う子。いつもおにぎり作ってもらってる、アパートで一人暮らししてるジャンクフードばっかり食べてる子・・・・。」

 私が少し顔を伏せて言うと、母は色々察してくれたようだ。

「・・・そう・・・じゃあまずは材料を買ってこないとね!ハンバーグの材料なんてないし!明日の分も買ってきなさい!もちろん彩衣のお小遣いでね!」
「ええーー!!!」

 そんなやり取りをして、私はスーパーへと向かった。
 そしてどっさりと買い込み帰って来る。
 ヤバイ、材料見ただけで、めんどくささが垣間見えた。
 料理めんどくさい。実家暮らし長いからな!ははん!
 ・・・って、威張れることじゃないんだけど・・・。

「お疲れ様、最近暑くなってきたから麦茶飲んで一休みしたら取り掛かりましょ。」
「あ、うん・・・」

 その言葉に、私はなんとなく過ごしていて忘れていた月日を思い出す。
 もう、5月後半かー・・・初夏だなー・・・もうすぐ梅雨かー・・・。
 私は夕暮れの窓の外を見つめる。

 まだ先は長い・・・8月31日のあと・・・私はどうなるのだろう・・・・。

「彩衣ー?そろそろはじめていいー?」
「あ、はいー!」

 私はグラスを置いて台所へ向かう。

 母と作るハンバーグ作りは中々に楽しかった。
 キッチンがモデルルームのような綺麗なキッチンで、美女母と楽しく作っているせいもあるかもしれない。
 こんな幸せを麻日くんにもあじあわせたいな・・・明日、一緒に作ってみようかな・・・と、密かに思う。

「出来たー!」

 私はお皿にのった、上にチーズがのったハンバーグと、その周りのレタスとプチトマト、そしてご飯とスープの一式に少し感動していた。

「上手にできてよかったわね。」
「お母さんのおかげだよー!」
「明日もうまく出来るといいわね。」

 母は微笑む。
 ・・・この母は天使だな。と、思った。
 私の元の世界の母もいるが・・・なんというか・・・やはり人間だし、色々あるし・・・一応、二次元の世界だからだろうか・・・彩衣ちゃんの母と父は完璧理想の両親だった。
 兄はちょっと・・・あれだが。

「うん!」

 私はこの世界にこれて本当によかったな。と、思いながら微笑んだのだった。




 続。



 38.麻日くんに、母性を感じる、今日この頃。


「一凛、ばいばーい!」

 食材を一旦、家に取りに行き、ついでに着替えて行くことにしたので、次の日、私は普通に下校した。

 そして米を何合か入れた重いトートバッグと、食材を入れたエコバッグ。他もろもろを持つと、私は美女母に見送られ、家を後にした。

 夕日になる空の中、私は学校の近くの踏み切りまで向かう。
 昼に麻日くんに家はどこかと聞いたら、説明するのがめんどくさいから踏切まで迎えに行く。と、言われたのだ。
 確か背景絵やスチルではキッチンと一間のオンボロアパートだったよなーと、思いながら私は重い荷物を持って歩いていく。

 カンカンカン!と鳴る踏み切りに来ると、向こう側に黒いパーカーと、ジーンズの、小柄な麻日くんがこちらに背を向けて立っていた。
 そういえば麻日くんの私服ってこないだ見たけどゲームでもそうだったけど、黒いパーカーとジーンズばっかりだよな・・・服、ないのかな・・・。

 などと思いながら私は踏み切りを渡り、小柄な少年に話しかける。

「麻日くん!」
「わっ!」

 え、そんなにびっくりする?気配で察しなよ。
 と、逆にびっくり。

「・・・お待たせ。」
「お、おう。」

 びっくりさせんなよ!とかくると思ったけど、なんだか大人しい・・・え?何?どうしたの?

「・・・荷物すげーな。」

 大量の荷物を持っている私を見て、怪訝な顔で言う。

「あ、うん。炊飯器あるっていうから、お米と卵余分に持ってきた。しばらく卵かけご飯食べなね。」

 笑顔で私が言うと、はぁ、と麻日くんはため息をつく。

「おら、荷物貸せ。」
「え・・・」
「持つよ。」
「でも、重いよ?」
「平気だよ!」

 しびれを切らした麻日くんは私の手からエコバックとトートバックの三つを奪っていく。

「・・・・・・」
「おら、アパートこっちだ!」

 そして軽々持ち、振り返りそう叫んだ。

「麻日くん力持ちーー!」
「うるっせ!」





「ここだ・・・・古くて汚くて悪いな・・・・」

「気にしないよ。」


 アパートの前につくと、麻日くんはガラにもなく申し訳なさそうにそう言った。
 私は何度目かの背景とスチルの光景だ・・・と、感慨にふけっていた。

 カンカンカンと、アパートの階段を上る。
 麻日くんの部屋は二階の一番、奥。

「ここだ。」

 荷物を全部片手で持ったまま、ガチャガチャと鍵を開ける。
 私は驚いた。
 え?マジ?麻日くんそんな筋力あるの?こんな小さいのに???

 そして扉が開く。

「入れよ。」

「あ、はい。おじゃましまーす・・・」

 ドサッと、玄関脇に荷物を置く麻日くんに遠慮もせず私は中を見て一言。


「何にもないね。」


「あ?」

 そう、部屋にはほぼ何もなかった。
 生活に必要な最低限の物しかない。
 そんな印象。

 娯楽品とか嗜好品とか一切ない・・・・本当にこれが男子高校生の部屋か!と、言いたくなる。

「金もねーし、家に帰ってきても風呂入って飯食って寝るだけだからな・・・・。」
「・・・・・・」

 その言葉にここに来た本来の目的を思い出した。

 ほとんど穢れ魔物退治に行ってるのね・・・と、私は心の中で思い、はぁ。と、ため息をついた。

「あんだよ。」

 靴を脱いで畳の部屋へと上がった麻日くんが怪訝な表情をする。

「なんでもなーい!さ!ハンバーグパーティーだよ!麻日くんも一緒に作るんだよ!おじゃましまーす!!!」

「あ!?お、俺、つくれねーよ!」

 麻日くんが慌てている。
 何だか自分の息子のように思えてきた・・・これが母性か・・・・と、私はのんきなことを思っていた。





 続。



 39.麻日くんの笑顔。


「麻日くん、お米炊いてー。無洗米持ってきたから水入れるだけだよー。」
「・・・・水・・・どこまでいれるかわかんねぇ・・・。」
「ていうか炊飯器新品じゃん!使ってないじゃん!中に説明書入ってるじゃん!!」
「・・・うるせーな」

 舌打ちする麻日くん。

「ここで暮らしだしてどのくらい?高校入ってから?・・・まぁいいや、水はカップ一杯が一合で一合はここに一合って書いてあるでしょ?二合は二合のライン。あ、こっちはおかゆだから違うよ。白米ね。」
「あー・・・なんとなくわかった。」

 お釜の中を二人でのぞき込んではなしていたので、顔が近くて年甲斐もなく少しどきどきした。

 私は昨日習ったハンバーグ作りへと取りかかる。
 麻日くんは苦い顔でお釜を洗っている。家事が嫌なんだろう・・・。

「おら、やったぞ。」

 炊飯器のスイッチを押すと、麻日くんはうんざりした顔で言った。

「ありがとー。じゃあ、手洗ってこっちきて。」
「まだやんのかよ・・・・」

 麻日くんはうんざりした表情をしていた。

「楽しいよー。あたしもあんまり料理しないけど挽き肉こねるのとか。ほらほら!」
「あー・・・・」

 しぶしぶといった感じに麻日くんは狭い台所で手を洗う。
 ちなみに炊飯器は床においてある。

「手洗った?じゃあ、挽き肉と卵と・・・あとなんだっけ。」
「・・・食えるもん作ってくれよ。」
「大丈夫だよ!」

 そんなこと言いながら私たちは狭い狭い台所でこぼしたりひっくり返したりしながら調理を進める。
 嫌がっていた麻日くんも段々表情がゆるんできて、笑うようにまでなった。

 麻日くん、こんな顔で笑うんだ・・・。
 と、私はこっそり思っていた。
 その笑顔は年相応の、幼い可愛い笑顔だった。



 続。



 40.懐かしい思い出。


「焼けた!」
「焼けたね!綺麗に!」

 私と麻日くんは、一口コンロでハンバーグをひっくり返し、うまく焼けたのを見ると、嬉しそうに声を上げた。

「彩衣、皿どれだ?これか?」
「あー・・・ちょっと待って。」

 いつの間にか私は、麻日くんに『彩衣』呼びされている。

 最初言われたとき卵を落としそうになったけど、向こうが気にしていない自然な流れだったので気にしないようにしている。

「チーズのせないと。まだお皿早い。ここ狭いから置く場所ないからね。あ、いらない食材片づけよう。冷蔵庫にしまっちゃって。」
「あーい。」
「・・・・・・。」

 一緒に料理している間に、麻日くんは何だかんだ心を許してくれたようで、仲が深まったというのか、態度が変わった。
 結構嬉しい。
 と、思いながらとろけるチーズをのせてフライパンのふたを閉める。
 さっき麻日くんが出してくれた台所の下からお皿を見繕い、二つ取る。
 サラダとスープはできている。ご飯もさっき出来上がりの音が鳴り、少し蒸らすんだよ。と、今、蒸らしている。

「麻日くん!」

 私は麻日くんを呼ぶ。

「あ?」

 麻日くんが近寄ってくる。

「できたよ!」

 そう言ってぱかっとフライパンのふたを開ける。
 そこにはチーズがいい具合に溶けたハンバーグが二つあった。

「・・・・・。」
「ね!ね!大成功!味はどうかな?おいしいといいね!」
「・・・ああ」
「・・・・・」

 急に麻日くんのテンションが下がったので、私は何だろう。と思いつつ、片付けは後にしてお皿にハンバーグを盛りつける。

 そして小さい狭いテーブルに、二人分のご飯とハンバーグ、サラダ、スープが置かれた。

「出来たー!よかった!無事にできて!冷めないうちに食べよう!」

 私は畳の一間の麻日くんの部屋に座る。

「・・・・・」

 麻日くんもゆっくり座った。

「いただきます!」
「・・・・いただきます・・・。」

 二人でそう言い、私はハンバーグに箸を入れたのだが・・・。

「・・・・・・・」

 麻日くんが箸を握ったままテーブルの上の食事を、少し眉間に皺を寄せ、見つめて手をつけないので、私は戸惑いつつ、麻日くんに訪ねる。

「麻日くん・・・なんか・・・食べたくないものあった?」

 嫌いな物でもあったのかと思った、きゅうりとか嫌いな人は嫌いだ。
 そしたら麻日くんはふっと笑い。

「いや・・・ちげー・・・・なんか・・・・すげーなつかしくて・・・・。」

 そう言ってうつむいた。

「・・・・え?」

 私は聞き返す。

「これ・・・母さんの・・・・得意料理でさ・・・・。まだ・・・二人が生きてた頃・・・・よく・・・食べてたから・・・・よく覚えてる思い出が・・・・これで・・・・・。」

 麻日くんがうつむいたまま、途切れ途切れに、話す。
 そして最後に口をぐっと引き結んだ。
 きっと泣くのを、あふれ出る涙を我慢しているのだろう・・・。

「・・・・・・。」

 泣いていいよ。と言っても、きっと麻日くんは泣かないだろう。
 むしろそんなこと言ったらなんか失礼だし、怒り出すと思う。
 今は泣きそうな麻日くんをスルーするのが一番。

「・・・そっか・・・じゃあ、無事に完成できてよかったね!冷める前に食べよう!いただきます!」

 私はそう言うと、いつでも母に頼めば食べられるチーズハンバーグを口に頬ばった。
 麻日くんも顔をふせたまま、箸でハンバーグを切り取り、口に頬張る。

 しかし箸と身体が震えていた。私は気にせず食事を進める。
 ズッという麻日くんの鼻をすする音が聞こえたが、無視した。

 二人で黙々と、テレビも何もない部屋で、静かにたまに聞こえる近所の音や、お隣さんの物音を聞きながら、食事を終えた。



 続。
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