149 / 160
第二部 第一章
36 ぬくもりを伝えて。
しおりを挟む
「あの……で、そんなわけで、今ノーラさんの様子見に行ったりしたいので、ノーラさんの事が終わるまで勉強会……お休みにして貰ってもいいでしょうか?」
佐知子がすまなそうに聞くと、
「えー! もう終わったんじゃないの!?」
セロが身を乗り出す。
「いや……まだ息子さん入院してますし……看護婦さんとの通訳とかしないといけないので……」
えーえー! とセロは椅子の上で揺れてふくれている。
「……行ってやれ……アーマ宿舎に入るまで世話してやるといい……」
勉強は落ち着けばまた出来るだろう……と、ヨウはほほえんでシャイをすする。
「……仕方ないなぁ」
セロもしぶしぶ承知した。
「ありがとうございます! ありがとう、ヨウ」
佐知子はヨウにほほえみかける。ヨウは横目で見ていた視線を泳がせながら伏せた。
気まずかった佐知子とヨウの雰囲気も元に戻り、勉強会を黙って欠席した理由も説明し、その後は色々とノーラやアーマやズハンの事などを話し、夜も更けたので夜のお茶会はお開きになった。
「サチコ……送ってく……」
セロの部屋を出るとヨウにそう言われ、佐知子は少し驚く。
「え、いいよ! こんな距離近いし、すぐそこだし」
手を振る佐知子。
「いや……心配だから……」
ヨウは顔を伏せる……。
「…………」
佐知子はお茶会で少し忘れていたが、今日のヨウにかけた心配を思い出す。そして少し俯く。
「じゃあ、お願いしよっかな」
そして顔を上げてほほえんだ。
「あ、ああ……」
「手繋いで行こうか?」
「は!?」
佐知子の突然の提案に、ヨウは大きな声を出してしまい、白い廊下にヨウの声が反響する。佐知子は、ふふふと笑う。
「手繋いで行こう。はい、手貸して」
佐知子は左手を差し出した。
「え、な、いや……」
「ほら、早く!」
佐知子は自らヨウの右手を取った。
自分でもどきどきしていたが、小さな子を……弟をあやす様な気分でいた。
きっと今のヨウは不安で一杯なのだろう。だから最後まで……使用人小屋まで一緒にいたいのだ。だからもっと不安を失くしてあげられる方法を……ぬくもりを伝えてあげようと思った。
私はちゃんとここにいるよ。
と、触れて、手の平越しに体温、肌の感覚で自分を感じさせてあげられれば、不安は大分和らぐと思ったのだ。
「はい、行こう!」
そして平静を装い佐知子は歩き出す。内心どきどきとしているが……。
短い距離をゆっくりと、二人は手を繋ぎながら歩き出した。
佐知子がすまなそうに聞くと、
「えー! もう終わったんじゃないの!?」
セロが身を乗り出す。
「いや……まだ息子さん入院してますし……看護婦さんとの通訳とかしないといけないので……」
えーえー! とセロは椅子の上で揺れてふくれている。
「……行ってやれ……アーマ宿舎に入るまで世話してやるといい……」
勉強は落ち着けばまた出来るだろう……と、ヨウはほほえんでシャイをすする。
「……仕方ないなぁ」
セロもしぶしぶ承知した。
「ありがとうございます! ありがとう、ヨウ」
佐知子はヨウにほほえみかける。ヨウは横目で見ていた視線を泳がせながら伏せた。
気まずかった佐知子とヨウの雰囲気も元に戻り、勉強会を黙って欠席した理由も説明し、その後は色々とノーラやアーマやズハンの事などを話し、夜も更けたので夜のお茶会はお開きになった。
「サチコ……送ってく……」
セロの部屋を出るとヨウにそう言われ、佐知子は少し驚く。
「え、いいよ! こんな距離近いし、すぐそこだし」
手を振る佐知子。
「いや……心配だから……」
ヨウは顔を伏せる……。
「…………」
佐知子はお茶会で少し忘れていたが、今日のヨウにかけた心配を思い出す。そして少し俯く。
「じゃあ、お願いしよっかな」
そして顔を上げてほほえんだ。
「あ、ああ……」
「手繋いで行こうか?」
「は!?」
佐知子の突然の提案に、ヨウは大きな声を出してしまい、白い廊下にヨウの声が反響する。佐知子は、ふふふと笑う。
「手繋いで行こう。はい、手貸して」
佐知子は左手を差し出した。
「え、な、いや……」
「ほら、早く!」
佐知子は自らヨウの右手を取った。
自分でもどきどきしていたが、小さな子を……弟をあやす様な気分でいた。
きっと今のヨウは不安で一杯なのだろう。だから最後まで……使用人小屋まで一緒にいたいのだ。だからもっと不安を失くしてあげられる方法を……ぬくもりを伝えてあげようと思った。
私はちゃんとここにいるよ。
と、触れて、手の平越しに体温、肌の感覚で自分を感じさせてあげられれば、不安は大分和らぐと思ったのだ。
「はい、行こう!」
そして平静を装い佐知子は歩き出す。内心どきどきとしているが……。
短い距離をゆっくりと、二人は手を繋ぎながら歩き出した。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
【※R-18】私のイケメン夫たちが、毎晩寝かせてくれません。
aika
恋愛
人類のほとんどが死滅し、女が数人しか生き残っていない世界。
生き残った繭(まゆ)は政府が運営する特別施設に迎えられ、たくさんの男性たちとひとつ屋根の下で暮らすことになる。
優秀な男性たちを集めて集団生活をさせているその施設では、一妻多夫制が取られ子孫を残すための営みが日々繰り広げられていた。
男性と比較して女性の数が圧倒的に少ないこの世界では、男性が妊娠できるように特殊な研究がなされ、彼らとの交わりで繭は多くの子を成すことになるらしい。
自分が担当する屋敷に案内された繭は、遺伝子的に優秀だと選ばれたイケメンたち数十人と共同生活を送ることになる。
【閲覧注意】※男性妊娠、悪阻などによる体調不良、治療シーン、出産シーン、複数プレイ、などマニアックな(あまりグロくはないと思いますが)描写が出てくる可能性があります。
たくさんのイケメン夫に囲まれて、逆ハーレムな生活を送りたいという女性の願望を描いています。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
【R18】聖女のお役目【完結済】
ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。
その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。
紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。
祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。
※性描写有りは★マークです。
※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる