142 / 167
第二部 第一章
29 悲痛な瞳。
しおりを挟む
季節は夏季から冬季へと変わろうとしていた。
アスワド村がある地域の季節は、四季ではなく夏季と冬季だけだ。日が暮れるのも少し早くなったがこの地域は一年中暑い。しかし、夜はだいぶ寒くなる。
(勉強会のこと……ノーラさんの事ですっかり忘れてたな……でも……来なかっただけでヨウがそんなに心配するなんて……)
布から灯りがもれる入口の横の壁に寄りかかりながら、佐知子はヨウのことを想う。
(……そうだよなぁ……いつまた戻っちゃうかわからないんだよなぁ……私自身も。ねぇ、神様?)
その問いに、あの軽いノリで話す神様は答えなかった。
(答えてよ。ていうか、全部終わるまで返さないでね。私、決めたんだから……)
佐知子が、むっとしながら茜色がほぼなくなる紺色の空を見上げていると……
「サチコ!」
「!」
名前を叫ばれ声のした方を向く。
走らせていた馬から滑り落ちるように地面に着地し、こちらへ走ってくる人影……ヨウだった。
「ヨッ……!」
名前を言うより早く、強く強く、抱きしめられた。
「サチコっ! よかった! いた……いた……っ!」
悲痛とも思える声が、大きい体にすっぽりと抱きしめられた頭上から聞こえてくる。
佐知子は瞳を見開き、ただただ硬直していた。
ヨウの力はとても強く息苦しいくらいだ。だが何故か……それが心地良いと少し思ってしまう。
「……ヨ、ヨウ……」
「サチコ……」
ヨウは佐知子をぎゅっと抱きしめたまま微動だにしない。ヨウからしっとりと汗が伝わってくる。いつものエキゾチックないい香りではなく、汗の匂いがする……。
(こんなに汗だくで……探してくれたんだ……)
そんなに心配してくれたんだ……と、佐知子は瞳を伏せる。
「……ヨウ……ごめんね……私はちゃんとここにいるよ……元の世界に戻ってないよ……用事があって、勉強会のことすっかり忘れてそっちに行ってたの……ごめんなさい……」
ヨウの胸の中でもごもごとそう伝えて、躊躇ったがヨウの背中に腕を回しぎゅっと力いっぱい抱きしめた。
「…………」
その言葉と、佐知子のぬくもりと、抱き返してきた感触に、ヨウは佐知子がここにいると実感しようやく安心したのか、ヨウはぎゅっと強く閉じていた瞳を大きく開き、そっと腕を緩め、佐知子を放した。
「もう……黙ってどこかへ行かないでくれ……」
そして体を離すと、佐知子の瞳を泣き出しそうに瞳を細め、悲痛な表情でじっと見つめヨウはそういった。
「……うん、ごめんね」
申し訳なく、佐知子はほほえんだ。
アスワド村がある地域の季節は、四季ではなく夏季と冬季だけだ。日が暮れるのも少し早くなったがこの地域は一年中暑い。しかし、夜はだいぶ寒くなる。
(勉強会のこと……ノーラさんの事ですっかり忘れてたな……でも……来なかっただけでヨウがそんなに心配するなんて……)
布から灯りがもれる入口の横の壁に寄りかかりながら、佐知子はヨウのことを想う。
(……そうだよなぁ……いつまた戻っちゃうかわからないんだよなぁ……私自身も。ねぇ、神様?)
その問いに、あの軽いノリで話す神様は答えなかった。
(答えてよ。ていうか、全部終わるまで返さないでね。私、決めたんだから……)
佐知子が、むっとしながら茜色がほぼなくなる紺色の空を見上げていると……
「サチコ!」
「!」
名前を叫ばれ声のした方を向く。
走らせていた馬から滑り落ちるように地面に着地し、こちらへ走ってくる人影……ヨウだった。
「ヨッ……!」
名前を言うより早く、強く強く、抱きしめられた。
「サチコっ! よかった! いた……いた……っ!」
悲痛とも思える声が、大きい体にすっぽりと抱きしめられた頭上から聞こえてくる。
佐知子は瞳を見開き、ただただ硬直していた。
ヨウの力はとても強く息苦しいくらいだ。だが何故か……それが心地良いと少し思ってしまう。
「……ヨ、ヨウ……」
「サチコ……」
ヨウは佐知子をぎゅっと抱きしめたまま微動だにしない。ヨウからしっとりと汗が伝わってくる。いつものエキゾチックないい香りではなく、汗の匂いがする……。
(こんなに汗だくで……探してくれたんだ……)
そんなに心配してくれたんだ……と、佐知子は瞳を伏せる。
「……ヨウ……ごめんね……私はちゃんとここにいるよ……元の世界に戻ってないよ……用事があって、勉強会のことすっかり忘れてそっちに行ってたの……ごめんなさい……」
ヨウの胸の中でもごもごとそう伝えて、躊躇ったがヨウの背中に腕を回しぎゅっと力いっぱい抱きしめた。
「…………」
その言葉と、佐知子のぬくもりと、抱き返してきた感触に、ヨウは佐知子がここにいると実感しようやく安心したのか、ヨウはぎゅっと強く閉じていた瞳を大きく開き、そっと腕を緩め、佐知子を放した。
「もう……黙ってどこかへ行かないでくれ……」
そして体を離すと、佐知子の瞳を泣き出しそうに瞳を細め、悲痛な表情でじっと見つめヨウはそういった。
「……うん、ごめんね」
申し訳なく、佐知子はほほえんだ。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
砂漠の国のハレム~絶対的君主と弱小国の姫~
扇 レンナ
恋愛
――援助を手に入れるために必要なのは、王の子を産むということ――
ナウファル国は広大な砂漠にある弱小国のひとつ。
第七皇女であるアルティングルは、《とある目的》のために、砂漠を支配する三大国のひとつであるイルハムにやってきた。
そこを治めているのは、絶対的な君主である王メルレイン。
彼にとある申し出をしたアルティングルだったが、その申し出は即座に却下された。
代わりとばかりに出された条件は――《王の子》を産むことで……。
++
イルハム国の絶対的な君主メルレインは疲弊していた。
それは、自身の母である先王の正妻が、《世継ぎ》を欲しているということ。
正直なところ、メルレインは自身の直系の子である必要はないと思っていた。
だが、母はそうではないらしく、メルレインのために後宮――ハレム――を作ってしまうほど。
その後宮さえ疎んでいたメルレインは、やってきた弱小国の姫にひとつの提案をした。
『俺をその気にさせて、子を産めばその提案、受け入れてやってもいい』
++
《後宮――ハレム――》、それは愛と憎しみの《毒壺》だ。
*hotランキング 最高81位ありがとうございます♡
▼掲載先→エブリスタ、カクヨム、アルファポリス
▼アラビアン風のファンタジーです。舞台は砂漠の国。なんちゃってアラビアンなので、深いことは考えずに楽しんでいただきたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる