神様の外交官

rita

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第二部 第一章

29 悲痛な瞳。

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 季節は夏季から冬季へと変わろうとしていた。

 アスワド村がある地域の季節は、四季ではなく夏季と冬季だけだ。日が暮れるのも少し早くなったがこの地域は一年中暑い。しかし、夜はだいぶ寒くなる。

(勉強会のこと……ノーラさんの事ですっかり忘れてたな……でも……来なかっただけでヨウがそんなに心配するなんて……)

 布から灯りがもれる入口の横の壁に寄りかかりながら、佐知子はヨウのことを想う。

(……そうだよなぁ……いつまた戻っちゃうかわからないんだよなぁ……私自身も。ねぇ、神様?)

 その問いに、あの軽いノリで話す神様は答えなかった。

(答えてよ。ていうか、全部終わるまで返さないでね。私、決めたんだから……)

 佐知子が、むっとしながら茜色がほぼなくなる紺色の空を見上げていると……

「サチコ!」
「!」

 名前を叫ばれ声のした方を向く。
 走らせていた馬から滑り落ちるように地面に着地し、こちらへ走ってくる人影……ヨウだった。

「ヨッ……!」

 名前を言うより早く、強く強く、抱きしめられた。

「サチコっ! よかった! いた……いた……っ!」

 悲痛とも思える声が、大きい体にすっぽりと抱きしめられた頭上から聞こえてくる。
 佐知子は瞳を見開き、ただただ硬直していた。
 ヨウの力はとても強く息苦しいくらいだ。だが何故か……それが心地良いと少し思ってしまう。

「……ヨ、ヨウ……」
「サチコ……」

 ヨウは佐知子をぎゅっと抱きしめたまま微動だにしない。ヨウからしっとりと汗が伝わってくる。いつものエキゾチックないい香りではなく、汗の匂いがする……。

(こんなに汗だくで……探してくれたんだ……)

 そんなに心配してくれたんだ……と、佐知子は瞳を伏せる。

「……ヨウ……ごめんね……私はちゃんとここにいるよ……元の世界に戻ってないよ……用事があって、勉強会のことすっかり忘れてそっちに行ってたの……ごめんなさい……」

 ヨウの胸の中でもごもごとそう伝えて、躊躇ったがヨウの背中に腕を回しぎゅっと力いっぱい抱きしめた。

「…………」

 その言葉と、佐知子のぬくもりと、抱き返してきた感触に、ヨウは佐知子がここにいると実感しようやく安心したのか、ヨウはぎゅっと強く閉じていた瞳を大きく開き、そっと腕を緩め、佐知子を放した。

「もう……黙ってどこかへ行かないでくれ……」

 そして体を離すと、佐知子の瞳を泣き出しそうに瞳を細め、悲痛な表情でじっと見つめヨウはそういった。

「……うん、ごめんね」

 申し訳なく、佐知子はほほえんだ。
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