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第二部 第一章
27 ズハン。
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佐知子が丸椅子に座りひたすら通訳をしていると、いつもの重低音に高音も混ざった鐘の音が少し小さく耳に届いた。
(お、終わった……)
佐知子は椅子から崩れ落ちそうになりそうな所を、肩を落として顔を伏せて大きく息を吐いてとどまらせた。
「はい! 今日の受付はこの方で終わりです! また明日いらしてください! ほら! 訳して!」
しかし、ズハンは佐知子に促す。
「はい!」
まだ終わってなかったのか! と、慌てて佐知子は大声で皆に伝える。するとあちこちから、そんな! や、今日の寝る場所はどうするんだ! また野宿か! などブーイングが聞こえてくる。
「さ、この方、終わらせましょ」
しかし、役人の女性、ズハンにはわからない。というか、何となくわかっているが毎度の事なので気にしていない様子だ。
佐知子はブーイングに、うひー。と、辛い顔をしながらも、最後の通訳に意識を向けた。
「はい、これが書類です。もう入口に皆さん集まってると思うので急いで行ってください。訳して!」
「はい!」
最後の人を終えると、二人は、はぁー……と重い溜息を吐いた。しかし、息を吐いたのも束の間。
「ご苦労様、サチコ。あなたのおかげで今日は助かったわ。まぁ、そのせいでアーサーが今頃、困ってるだろうけど」
ふっとズハンが気の毒そうに笑った。
「アーサー……さん?」
佐知子は軽く首を傾げる。
「あなたには関係のない話よ。さ、私はこれから怒られに行くから。あなたは帰りなさい。ありがとね」
ズハンは立ち上がると、佐知子に手を上げ礼を言いながらその場を立ち去ろうとする。
「あ、あの! すみませんでした! 私のせいで!」
『怒られに』という言葉に、佐知子は責任を感じ咄嗟に謝る。それはそうだ、嘘を言っているかもしれない一般人の通訳を勝手に採用したのだ。
「いーの、気にしないで。私もたまには楽したかったの」
ズハンは眉を下げ、笑う。
「あ……」
この仕事、長いんですか? や、大変ですよね。など話したいことはたくさんあったが、ズハンが立ち去ってしまったので、椅子から立ち上がった佐知子はそのまま帰路につくしかなかった。
(お、終わった……)
佐知子は椅子から崩れ落ちそうになりそうな所を、肩を落として顔を伏せて大きく息を吐いてとどまらせた。
「はい! 今日の受付はこの方で終わりです! また明日いらしてください! ほら! 訳して!」
しかし、ズハンは佐知子に促す。
「はい!」
まだ終わってなかったのか! と、慌てて佐知子は大声で皆に伝える。するとあちこちから、そんな! や、今日の寝る場所はどうするんだ! また野宿か! などブーイングが聞こえてくる。
「さ、この方、終わらせましょ」
しかし、役人の女性、ズハンにはわからない。というか、何となくわかっているが毎度の事なので気にしていない様子だ。
佐知子はブーイングに、うひー。と、辛い顔をしながらも、最後の通訳に意識を向けた。
「はい、これが書類です。もう入口に皆さん集まってると思うので急いで行ってください。訳して!」
「はい!」
最後の人を終えると、二人は、はぁー……と重い溜息を吐いた。しかし、息を吐いたのも束の間。
「ご苦労様、サチコ。あなたのおかげで今日は助かったわ。まぁ、そのせいでアーサーが今頃、困ってるだろうけど」
ふっとズハンが気の毒そうに笑った。
「アーサー……さん?」
佐知子は軽く首を傾げる。
「あなたには関係のない話よ。さ、私はこれから怒られに行くから。あなたは帰りなさい。ありがとね」
ズハンは立ち上がると、佐知子に手を上げ礼を言いながらその場を立ち去ろうとする。
「あ、あの! すみませんでした! 私のせいで!」
『怒られに』という言葉に、佐知子は責任を感じ咄嗟に謝る。それはそうだ、嘘を言っているかもしれない一般人の通訳を勝手に採用したのだ。
「いーの、気にしないで。私もたまには楽したかったの」
ズハンは眉を下げ、笑う。
「あ……」
この仕事、長いんですか? や、大変ですよね。など話したいことはたくさんあったが、ズハンが立ち去ってしまったので、椅子から立ち上がった佐知子はそのまま帰路につくしかなかった。
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