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第一部と第二部の間の番外編
【番外編】オレンジと水色の中。
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「サチ……あの……今日の日没の鐘がなったら……裏門の前で待っててくれないか……」
ごく普通の、ある日突然、勉強会の休憩の終わりにヨウにそう話しかけられた佐知子。
「え……うん……いいけど」
佐知子が二言返事で了承すると、
「おや~? デートのお誘いかな~?」
と、にやにやと机に肘をつき、手のひらに頬をのせながらセロがいう。
「……うるさい…………じゃあな」
セロに一言いい無視すると、ヨウは颯爽と行ってしまった。
「セロさん! からかうのやめてください!」
勉強に入ろうとしながら佐知子が怒りながら文句をいうと、
「いやいや、たぶんデートのお誘いだよ。今はあの時期だからね~」
「あの時期?」
セロの言葉に首をかしげる佐知子。
「おっと、これ以上はまずいな。さ、勉強勉強!」
佐知子が疑問符を返すと、セロは、ふふふとほほえみながら話をそらした。
(日没の鐘そろそろかな……早めに行っておこう)
佐知子がそう思い、裏門へと向かうと、既にヨウらしき人影が見える。いつからいたの。と笑いをこらえて、小走りに近づくと、日没の鐘がなった。
「ちょうどだな」
「ごめんね、いつからいたの?」
「気にしなくていい……」
「教えてよ~」
「いい……それより……行くぞ。開けてくれ」
そういって、ヨウが門番に門を開かせる。その開いた先に見えたのは…………
一面の、水色の絨毯が、風に揺れ広がっていた……。
「わー! わー!」
佐知子は思わず門から外へ駆けていゆく。
「あ、足下! 気をつけろ!」
ヨウは慌ててはしゃいだ佐知子の後を追う。そんな二人を、門番たちはクスリと笑っていた。
門が閉まり、畑のあぜ道を歩く二人。
「こんな水色……っていうか、淡い青っていうか水色っていうか……なんていえばいいんだろう! すごい綺麗な青の綿花なんだね! これ、綿花だよね?」
「ああ……バリク綿っていってな、ちょうど収穫時期で、綿花はこの色なんだ。ちょっとした観光地にもなるから、しばらくは収穫しなかったりする」
「確かに! だって綺麗だもん! うわ!」
「おっと!」
あぜ道から畑に落ちそうになった佐知子の腕を掴むヨウ。
「あはは、ごめん」
「はしゃぎすぎだ」
ヨウは苦笑する。
でも、うれしそうな佐知子を見て、ヨウもうれしそうにほほえんでいる。
落ち着いて、今度はゆっくりと、沈むオレンジ色の夕陽の色と、綿花の淡い水色の、綺麗な色の空間の中を、二人でならんでゆっくりと歩く……。
「綺麗だねぇ~」
「ああ……」
「これ見せてくれようと、今日誘ってくれたんだ」
「ああ……」
「ありがとね」
「いや……」
「まだまだ知らないことばかりだ……」
「ここの世界も広いからな……」
「この村のことさえも知らないよ」
「……俺は、お前の世界のことは何も知らないけどな……」
苦笑いした佐知子に、少し淋しそうに、ふっとヨウがそんなことをいったので、隣を歩くヨウを見た。
どこか悲しげな……淋しげな……つらそうな顔をしている…………。
「いつか……ヨウが私の世界にこれたらいいね! 神様の力使って!」
「!」
ぱっと見た佐知子は、オレンジ色の中、満面の明るい笑顔だった。その笑顔と、その言葉に……気休めかもしれないが、ヨウの心は救われた。
(ああ……どうしてサチコはいつも…………)
ヨウはそう思いながら、そっと佐知子の手に自分の手を伸ばす……けれどそっと引いた。
今はいい……この美しい風景を、二人で一緒に話しながら、見ていられるのなら…………と。
ごく普通の、ある日突然、勉強会の休憩の終わりにヨウにそう話しかけられた佐知子。
「え……うん……いいけど」
佐知子が二言返事で了承すると、
「おや~? デートのお誘いかな~?」
と、にやにやと机に肘をつき、手のひらに頬をのせながらセロがいう。
「……うるさい…………じゃあな」
セロに一言いい無視すると、ヨウは颯爽と行ってしまった。
「セロさん! からかうのやめてください!」
勉強に入ろうとしながら佐知子が怒りながら文句をいうと、
「いやいや、たぶんデートのお誘いだよ。今はあの時期だからね~」
「あの時期?」
セロの言葉に首をかしげる佐知子。
「おっと、これ以上はまずいな。さ、勉強勉強!」
佐知子が疑問符を返すと、セロは、ふふふとほほえみながら話をそらした。
(日没の鐘そろそろかな……早めに行っておこう)
佐知子がそう思い、裏門へと向かうと、既にヨウらしき人影が見える。いつからいたの。と笑いをこらえて、小走りに近づくと、日没の鐘がなった。
「ちょうどだな」
「ごめんね、いつからいたの?」
「気にしなくていい……」
「教えてよ~」
「いい……それより……行くぞ。開けてくれ」
そういって、ヨウが門番に門を開かせる。その開いた先に見えたのは…………
一面の、水色の絨毯が、風に揺れ広がっていた……。
「わー! わー!」
佐知子は思わず門から外へ駆けていゆく。
「あ、足下! 気をつけろ!」
ヨウは慌ててはしゃいだ佐知子の後を追う。そんな二人を、門番たちはクスリと笑っていた。
門が閉まり、畑のあぜ道を歩く二人。
「こんな水色……っていうか、淡い青っていうか水色っていうか……なんていえばいいんだろう! すごい綺麗な青の綿花なんだね! これ、綿花だよね?」
「ああ……バリク綿っていってな、ちょうど収穫時期で、綿花はこの色なんだ。ちょっとした観光地にもなるから、しばらくは収穫しなかったりする」
「確かに! だって綺麗だもん! うわ!」
「おっと!」
あぜ道から畑に落ちそうになった佐知子の腕を掴むヨウ。
「あはは、ごめん」
「はしゃぎすぎだ」
ヨウは苦笑する。
でも、うれしそうな佐知子を見て、ヨウもうれしそうにほほえんでいる。
落ち着いて、今度はゆっくりと、沈むオレンジ色の夕陽の色と、綿花の淡い水色の、綺麗な色の空間の中を、二人でならんでゆっくりと歩く……。
「綺麗だねぇ~」
「ああ……」
「これ見せてくれようと、今日誘ってくれたんだ」
「ああ……」
「ありがとね」
「いや……」
「まだまだ知らないことばかりだ……」
「ここの世界も広いからな……」
「この村のことさえも知らないよ」
「……俺は、お前の世界のことは何も知らないけどな……」
苦笑いした佐知子に、少し淋しそうに、ふっとヨウがそんなことをいったので、隣を歩くヨウを見た。
どこか悲しげな……淋しげな……つらそうな顔をしている…………。
「いつか……ヨウが私の世界にこれたらいいね! 神様の力使って!」
「!」
ぱっと見た佐知子は、オレンジ色の中、満面の明るい笑顔だった。その笑顔と、その言葉に……気休めかもしれないが、ヨウの心は救われた。
(ああ……どうしてサチコはいつも…………)
ヨウはそう思いながら、そっと佐知子の手に自分の手を伸ばす……けれどそっと引いた。
今はいい……この美しい風景を、二人で一緒に話しながら、見ていられるのなら…………と。
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