91 / 215
第一部 第六章
17 よかった。
しおりを挟む
門まで来ると、佐知子は門番の軍人に声をかけた。
「あ、あの……使用人の者なのですが、忘れ物をして……取りに行きたいんですが……」
そう言って通行証のコインを見せる。
「……はいよ」
軍人の間では、佐知子はもうヨウの恋人か想い人として密かに周知されているので、門番はふっと笑うと渡されたコインを返し、門を開けた。
「……ありがとうございます」
もちろん佐知子はそんなことは知らないので、門番のその笑みに、なんとなく帰ってきた軍人に会いに来たことを見透かされていると感じ、恥ずかしくて、少しうつむいて門を通った。
(うわっ……)
中に入ると、中では軍人たちが武器などの荷解きをしたり、くつろいだり、着替えたり、顔や手を洗ったりと、世話しない状況だった。
(こんなところに来ちゃ……まずかったかな……)
場違い感や、状況を考え、佐知子は少し焦る。
しかし、ひと目でいい。ヨウの無事を確認したい。姿を見たい。
佐知子は辺りを見渡した。黄土色の乾いた大地を大量の軍人が歩いたり走ったりしているため、砂ぼこりが立っている。ヨウの姿は捉えられない。
(どこだろう……)
歩きながらきょろきょろと辺りを見る。しかし、いない。まさか……と、嫌な予想が頭を過る。
(こうなったら……)
佐知子は意を決した。
「あ、あの!」
「!」
佐知子は側で馬から荷を下ろしていた、たれ目の人のよさそうなアフリカ系の男性に声をかけた。
「あのっ……ヨウ副長官はどこにいますか?」
「……ヨウ副長官なら、武器庫のほうだよ」
その言葉に、佐知子は思わず息を吸い込んで、少し目を見開く。
その言葉が意味するのは、ヨウは生きているということ。そして、大きな怪我もしていないということ。武器庫で何か副長官としての仕事をしているのだ。
(よかった!)
それだけで佐知子は泣きそうだった。涙が滲んでくる。体中に緊張した時の様な張り詰めた、ビリビリとした感覚が一気に襲ってきた。
思わず、手を口元に当てた。
そんな佐知子を見て、その男性はふっとほほえむ。
「! あっ、ありがとうございます!」
「いえいえ」
佐知子は男性のほほえみの意味に気づくと、頭を下げ、慌ててその場を去る。顔が熱くなった。
ともかく、ヨウは怪我もなく無事で生きていることは、はっきりした。
(よかった……!)
佐知子は心の底からほっとする。
本当に涙がどんどんあふれてきて泣きそうだった。ヨウに会ったら泣いてしまうだろう。ここでは迷惑だろうから我慢しないとな。と、ほほえみながら佐知子は思った。
「あ、あの……使用人の者なのですが、忘れ物をして……取りに行きたいんですが……」
そう言って通行証のコインを見せる。
「……はいよ」
軍人の間では、佐知子はもうヨウの恋人か想い人として密かに周知されているので、門番はふっと笑うと渡されたコインを返し、門を開けた。
「……ありがとうございます」
もちろん佐知子はそんなことは知らないので、門番のその笑みに、なんとなく帰ってきた軍人に会いに来たことを見透かされていると感じ、恥ずかしくて、少しうつむいて門を通った。
(うわっ……)
中に入ると、中では軍人たちが武器などの荷解きをしたり、くつろいだり、着替えたり、顔や手を洗ったりと、世話しない状況だった。
(こんなところに来ちゃ……まずかったかな……)
場違い感や、状況を考え、佐知子は少し焦る。
しかし、ひと目でいい。ヨウの無事を確認したい。姿を見たい。
佐知子は辺りを見渡した。黄土色の乾いた大地を大量の軍人が歩いたり走ったりしているため、砂ぼこりが立っている。ヨウの姿は捉えられない。
(どこだろう……)
歩きながらきょろきょろと辺りを見る。しかし、いない。まさか……と、嫌な予想が頭を過る。
(こうなったら……)
佐知子は意を決した。
「あ、あの!」
「!」
佐知子は側で馬から荷を下ろしていた、たれ目の人のよさそうなアフリカ系の男性に声をかけた。
「あのっ……ヨウ副長官はどこにいますか?」
「……ヨウ副長官なら、武器庫のほうだよ」
その言葉に、佐知子は思わず息を吸い込んで、少し目を見開く。
その言葉が意味するのは、ヨウは生きているということ。そして、大きな怪我もしていないということ。武器庫で何か副長官としての仕事をしているのだ。
(よかった!)
それだけで佐知子は泣きそうだった。涙が滲んでくる。体中に緊張した時の様な張り詰めた、ビリビリとした感覚が一気に襲ってきた。
思わず、手を口元に当てた。
そんな佐知子を見て、その男性はふっとほほえむ。
「! あっ、ありがとうございます!」
「いえいえ」
佐知子は男性のほほえみの意味に気づくと、頭を下げ、慌ててその場を去る。顔が熱くなった。
ともかく、ヨウは怪我もなく無事で生きていることは、はっきりした。
(よかった……!)
佐知子は心の底からほっとする。
本当に涙がどんどんあふれてきて泣きそうだった。ヨウに会ったら泣いてしまうだろう。ここでは迷惑だろうから我慢しないとな。と、ほほえみながら佐知子は思った。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。

二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!
めーめー
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。
だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。
「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」
そこから彼女は義理の弟、王太子、公爵令息、伯爵令息、執事に出会い彼女は彼らに愛されていく。
作者のめーめーです!
不定期で投稿していきます‼️
19時投稿です‼️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる