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第一部 第五章
14 別れの場所。
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別れの場所は、円形の塀で囲まれた村の外、門の前だった。
門の外に出ると、少し先に数え切れない程の馬が綺麗に整列されている。圧巻だった。
そして門の前は、人であふれかえっていた。
家族や恋人と、これから出陣する軍人が、別れを惜しんでいる。その軍人が、佐知子にはめずらしかった。
銀色の鉄の甲冑ではなく、分厚い布のような、もこもことした服を着ているのだ。おそらくあれが甲冑のような防具なのだろう。頭は鈍色の鉄の甲をかぶっている。腰には剣をさし、弓を持っている人もいる。
馬がずらりと並び、そんな格好をした、さまざまな人種の人々が、あちらこちらで涙を流したりしながら別れを惜しんでいる……まさに映画の世界だった。
(ヨウ……探さなくちゃ……)
しかし、圧倒されている場合じゃない……と、気を持ち直し、佐知子はヨウの姿を探す。しかし、この大人数の中から見つけ出すのは至難の業だ。軍人だけでも数百人はいるだろう。
佐知子は必死に人混みをかきわけ、ヨウの姿を探す。
(待ち合わせ場所とか決めとけばよかった……)
ここで会えなかったら……最悪だ……。
佐知子の胸にあせりと不安がわく。泣きそうな感情が込み上げてきた。
「あ!」
そこで佐知子は見慣れた姿を見つける。
「アイシャさん! アフマドさん!」
佐知子はすがるように二人に駆け寄った。
「あら、サチコ。どうしたんだい?」
甲を手に持って話す、もこもこした姿のアフマドと、心配そうな顔をしたアイシャがいた。
「すみません! ヨウ、知りませんか!」
必死そうな佐知子を見て、アフマドがふっと笑う。
「ヨウなら多分、一番前で馬と一緒だよ。いつも誰も見送りにこないから、こっち来ないし、副長官だから一番先頭なんだ。あっち行ってみな」
そういってアフマドは、門とは反対の、馬が整列する先頭の方を指差す。佐知子の顔が安堵でパッと明るくなった。
「ありがとうございます! あ、アフマドさんも気をつけて! 無事に帰ってきて下さいね!」
佐知子はそういいながら駆け出す。
「ああ……」
アフマドは、ほほえましく思いながら、ひらひらと手を振りほほえむ。
「まったく、早く結婚しちまえばいいのにねぇ、じれったい」
「まぁ、いきなり結婚は無理だろ、あのふたりは……あたたかくゆっくり見守ってやろうじゃないか……」
アフマドは走り去る佐知子の後ろ姿を見つめながら、ふっとほほえんだのだった。
門の外に出ると、少し先に数え切れない程の馬が綺麗に整列されている。圧巻だった。
そして門の前は、人であふれかえっていた。
家族や恋人と、これから出陣する軍人が、別れを惜しんでいる。その軍人が、佐知子にはめずらしかった。
銀色の鉄の甲冑ではなく、分厚い布のような、もこもことした服を着ているのだ。おそらくあれが甲冑のような防具なのだろう。頭は鈍色の鉄の甲をかぶっている。腰には剣をさし、弓を持っている人もいる。
馬がずらりと並び、そんな格好をした、さまざまな人種の人々が、あちらこちらで涙を流したりしながら別れを惜しんでいる……まさに映画の世界だった。
(ヨウ……探さなくちゃ……)
しかし、圧倒されている場合じゃない……と、気を持ち直し、佐知子はヨウの姿を探す。しかし、この大人数の中から見つけ出すのは至難の業だ。軍人だけでも数百人はいるだろう。
佐知子は必死に人混みをかきわけ、ヨウの姿を探す。
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ここで会えなかったら……最悪だ……。
佐知子の胸にあせりと不安がわく。泣きそうな感情が込み上げてきた。
「あ!」
そこで佐知子は見慣れた姿を見つける。
「アイシャさん! アフマドさん!」
佐知子はすがるように二人に駆け寄った。
「あら、サチコ。どうしたんだい?」
甲を手に持って話す、もこもこした姿のアフマドと、心配そうな顔をしたアイシャがいた。
「すみません! ヨウ、知りませんか!」
必死そうな佐知子を見て、アフマドがふっと笑う。
「ヨウなら多分、一番前で馬と一緒だよ。いつも誰も見送りにこないから、こっち来ないし、副長官だから一番先頭なんだ。あっち行ってみな」
そういってアフマドは、門とは反対の、馬が整列する先頭の方を指差す。佐知子の顔が安堵でパッと明るくなった。
「ありがとうございます! あ、アフマドさんも気をつけて! 無事に帰ってきて下さいね!」
佐知子はそういいながら駆け出す。
「ああ……」
アフマドは、ほほえましく思いながら、ひらひらと手を振りほほえむ。
「まったく、早く結婚しちまえばいいのにねぇ、じれったい」
「まぁ、いきなり結婚は無理だろ、あのふたりは……あたたかくゆっくり見守ってやろうじゃないか……」
アフマドは走り去る佐知子の後ろ姿を見つめながら、ふっとほほえんだのだった。
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