68 / 160
第一部 第五章
10 込み上げてきた涙。
しおりを挟む
セロと会話したり、黙ったりしながら勉強していると、あっという間に二十分が経ち、休憩時間になった。
ヨウは、来ない。
(来ない、か……)
アズラク語の勉強道具を片付けながら、心の中でポツリとつぶやいて、うつむき、少し暗い面持ちになる佐知子。
「……っ――」
そんな様子の佐知子に、セロが声をかけようとした時だった、コンコンと、少し大きく早いノックの音とともに、ガチャと乱暴に扉が開かれた。
「悪い! 少し遅れた!」
そして、少しあわてた様子のヨウが部屋へと入ってきた。
「!」
突然に、もう来ないと思っていた、会いたいと思っていた人が現れて、佐知子は言葉をなくし、瞳を見開き、その姿を見つめる。
「……なんだー、ヨウ来たんだー。今日、来られないのかと思ったよ」
セロも少し驚いて、一拍置いた後、いつも通りの調子で、話しかける。
「あ? ああ、まぁ、ちょっと大変だったが、なんとかな……当分、来られなくなりそうだったから……」
ヨウは扉を閉め、ふうっと息をつく。
「あー、やっぱりか。忙しくなってきた?」
「ああ……まぁな」
ヨウは、ティーセットの携帯器をテーブルの上へとのせながら、セロと会話をする。
「…………」
佐知子はヨウを見る。
ヨウは、いつもと変わらないヨウだった。
黒髪で、濃い緑の瞳。褐色肌で、背が高くて、鍛えられた逞しい体。
泣きそうだった。
ヨウの姿を見ただけで、そこでしゃべって、動いているのを見ただけで、涙がこみあげてきた。
「っ……」
佐知子は泣きそうになるのをうつむいて、ぐっとこらえる。
「…………」
そんな佐知子を見て、セロは瞳を伏せ、少しほほえみながら立ち上がる。
「さってと。それじゃあ、俺はちょっと用事があるから、でかけてくるよ。少ししたら戻ってくるからね」
「あ? ああ……」
ヨウは少しいぶかしげに返事をする。
「じゃあね~」
セロはひらひらと手をふり行ってしまった。
「なんだろうな……あいつ……」
パタンと、扉が閉まると、ヨウは佐知子に顔を向けながら話しかける。
「!」
しかし、佐知子を見て、ぎょっとする。体を硬直させ、思わず半歩後ろに下がった。
「っ……うっ……ひっく……ひっく……」
佐知子が泣いていたからである。
ヨウは、来ない。
(来ない、か……)
アズラク語の勉強道具を片付けながら、心の中でポツリとつぶやいて、うつむき、少し暗い面持ちになる佐知子。
「……っ――」
そんな様子の佐知子に、セロが声をかけようとした時だった、コンコンと、少し大きく早いノックの音とともに、ガチャと乱暴に扉が開かれた。
「悪い! 少し遅れた!」
そして、少しあわてた様子のヨウが部屋へと入ってきた。
「!」
突然に、もう来ないと思っていた、会いたいと思っていた人が現れて、佐知子は言葉をなくし、瞳を見開き、その姿を見つめる。
「……なんだー、ヨウ来たんだー。今日、来られないのかと思ったよ」
セロも少し驚いて、一拍置いた後、いつも通りの調子で、話しかける。
「あ? ああ、まぁ、ちょっと大変だったが、なんとかな……当分、来られなくなりそうだったから……」
ヨウは扉を閉め、ふうっと息をつく。
「あー、やっぱりか。忙しくなってきた?」
「ああ……まぁな」
ヨウは、ティーセットの携帯器をテーブルの上へとのせながら、セロと会話をする。
「…………」
佐知子はヨウを見る。
ヨウは、いつもと変わらないヨウだった。
黒髪で、濃い緑の瞳。褐色肌で、背が高くて、鍛えられた逞しい体。
泣きそうだった。
ヨウの姿を見ただけで、そこでしゃべって、動いているのを見ただけで、涙がこみあげてきた。
「っ……」
佐知子は泣きそうになるのをうつむいて、ぐっとこらえる。
「…………」
そんな佐知子を見て、セロは瞳を伏せ、少しほほえみながら立ち上がる。
「さってと。それじゃあ、俺はちょっと用事があるから、でかけてくるよ。少ししたら戻ってくるからね」
「あ? ああ……」
ヨウは少しいぶかしげに返事をする。
「じゃあね~」
セロはひらひらと手をふり行ってしまった。
「なんだろうな……あいつ……」
パタンと、扉が閉まると、ヨウは佐知子に顔を向けながら話しかける。
「!」
しかし、佐知子を見て、ぎょっとする。体を硬直させ、思わず半歩後ろに下がった。
「っ……うっ……ひっく……ひっく……」
佐知子が泣いていたからである。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
【※R-18】私のイケメン夫たちが、毎晩寝かせてくれません。
aika
恋愛
人類のほとんどが死滅し、女が数人しか生き残っていない世界。
生き残った繭(まゆ)は政府が運営する特別施設に迎えられ、たくさんの男性たちとひとつ屋根の下で暮らすことになる。
優秀な男性たちを集めて集団生活をさせているその施設では、一妻多夫制が取られ子孫を残すための営みが日々繰り広げられていた。
男性と比較して女性の数が圧倒的に少ないこの世界では、男性が妊娠できるように特殊な研究がなされ、彼らとの交わりで繭は多くの子を成すことになるらしい。
自分が担当する屋敷に案内された繭は、遺伝子的に優秀だと選ばれたイケメンたち数十人と共同生活を送ることになる。
【閲覧注意】※男性妊娠、悪阻などによる体調不良、治療シーン、出産シーン、複数プレイ、などマニアックな(あまりグロくはないと思いますが)描写が出てくる可能性があります。
たくさんのイケメン夫に囲まれて、逆ハーレムな生活を送りたいという女性の願望を描いています。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
【R18】聖女のお役目【完結済】
ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。
その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。
紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。
祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。
※性描写有りは★マークです。
※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる