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第一部 第五章
2 アフマドとの出会い。
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「今日の甘いものは、なに? なに!?」
「セロさん、本当に甘いもの好きですね」
あとから知ったが、セロは大の甘党だった。やはり頭をよく使うからだろうか……と、佐知子は思ったりした。
「まったくお前は……」
そういいながらヨウは、銀のティーセットの携帯器から、シャイの入ったポットを取り出し、いつもの小さなグラスを三つ取り出す。
そして皿に入っていたのは、小さな茶色いサイコロ状のものに、白い砂糖をまぶしたお菓子だった。
「なんだ~、今日はロムカか~」
セロはがっかりした様子でいった。
「文句があるなら食うな」
「まぁ、ロムカも悪くないけど、俺はバラヴァかクーファが好きだなぁ~。シロップがたっくさんかかったのが好き~」
「なら、自分で買って食べろ……」
と、素っ気なくヨウはいうと、グラスにポットからシャイをそそぐ。
勉強の合間の三十分もない短い時間。甘いものとシャイを飲みながら、たわいもない会話をする。これが佐知子の今の日常だった。
するとそこへ、ノックの音がした。
セロが、どうぞーと、声をかけると、扉が開く。顔をのぞかせたのは、佐知子も見慣れた中級下級の兵士が着る、灰色の長袖のシャツに、茶色のズボンの訓練着を着た、褐色肌にウェーブのかかった少し長めの黒髪の青年だった。左目の下に泣きぼくろがあるのが印象的だった。
「アフマド!」
ヨウが驚いて立ち上がる。
「セロ長官、すみません~。ヨウに用があってきました~」
少しくだけた感じに話すアフマドというその青年は、そういいながら部屋へと入ってくる。
そして佐知子を見た。
佐知子は見知らぬ男性に目をあわせて見られ、うっとたじろぐ。
「彼女があれ? 例のヨウの女神様? やったー! ようやく会えたー! ヨウったら会わせてくれないんだもん~。まぁ、母さんにいって会わせてもらう手もあったんだけど、怒られそうだし……こんにちはー。はじめまして~」
アフマドという青年は、手をふりながら佐知子に近づく。
「アフマド……俺に用だろ……何の用だ……」
ヨウが機嫌悪そうに、佐知子の前に立つ。
「あ、あーもう。なんだよ、いいじゃねーかちょっとくらい話しさせてくれたって。せっかく女神様拝めたのに」
「だから……女神様とかいうな……」
立ち止まって腕組みをしながらムッとするアフマドに、げんなりしながらヨウはいった。
「女神様っていったのはヨウじゃねぇかよ。なー、セロ長官?」
「そうだよねー?」
二人は、ハハハと軽く笑う。
「あれはガキの頃だろ!」
ヨウがめずらしく大きな声をだした。
「ははは! まぁ、からかうのはこれくらいにしとくか。黄長官から伝言。夕方の訓練、予定変わったからあとでこいだって」
「あ、ああ……」
ちゃんと用事があったのか……と、急に真面目な顔になって、手を腰にあて、少し頭をかしげながら話すアフマドに、ヨウは調子を崩される。
「で、俺は本当に、ちゃんとヨウの女神様にあいさつとお礼をいいたかっただけ」
「は?」
しかし、ヨウは次の言葉に怪訝な顔をする。
「あいさつくらい、いいだろ? 母さんとも知り合いなんだし」
ヨウは難しい顔をするが『母さん』という言葉が決め手だった。
「……変なこと……話すなよ」
ヨウはそういうと、すっと体をずらした。
「はいはい」
アフマドは苦笑していた。
「セロさん、本当に甘いもの好きですね」
あとから知ったが、セロは大の甘党だった。やはり頭をよく使うからだろうか……と、佐知子は思ったりした。
「まったくお前は……」
そういいながらヨウは、銀のティーセットの携帯器から、シャイの入ったポットを取り出し、いつもの小さなグラスを三つ取り出す。
そして皿に入っていたのは、小さな茶色いサイコロ状のものに、白い砂糖をまぶしたお菓子だった。
「なんだ~、今日はロムカか~」
セロはがっかりした様子でいった。
「文句があるなら食うな」
「まぁ、ロムカも悪くないけど、俺はバラヴァかクーファが好きだなぁ~。シロップがたっくさんかかったのが好き~」
「なら、自分で買って食べろ……」
と、素っ気なくヨウはいうと、グラスにポットからシャイをそそぐ。
勉強の合間の三十分もない短い時間。甘いものとシャイを飲みながら、たわいもない会話をする。これが佐知子の今の日常だった。
するとそこへ、ノックの音がした。
セロが、どうぞーと、声をかけると、扉が開く。顔をのぞかせたのは、佐知子も見慣れた中級下級の兵士が着る、灰色の長袖のシャツに、茶色のズボンの訓練着を着た、褐色肌にウェーブのかかった少し長めの黒髪の青年だった。左目の下に泣きぼくろがあるのが印象的だった。
「アフマド!」
ヨウが驚いて立ち上がる。
「セロ長官、すみません~。ヨウに用があってきました~」
少しくだけた感じに話すアフマドというその青年は、そういいながら部屋へと入ってくる。
そして佐知子を見た。
佐知子は見知らぬ男性に目をあわせて見られ、うっとたじろぐ。
「彼女があれ? 例のヨウの女神様? やったー! ようやく会えたー! ヨウったら会わせてくれないんだもん~。まぁ、母さんにいって会わせてもらう手もあったんだけど、怒られそうだし……こんにちはー。はじめまして~」
アフマドという青年は、手をふりながら佐知子に近づく。
「アフマド……俺に用だろ……何の用だ……」
ヨウが機嫌悪そうに、佐知子の前に立つ。
「あ、あーもう。なんだよ、いいじゃねーかちょっとくらい話しさせてくれたって。せっかく女神様拝めたのに」
「だから……女神様とかいうな……」
立ち止まって腕組みをしながらムッとするアフマドに、げんなりしながらヨウはいった。
「女神様っていったのはヨウじゃねぇかよ。なー、セロ長官?」
「そうだよねー?」
二人は、ハハハと軽く笑う。
「あれはガキの頃だろ!」
ヨウがめずらしく大きな声をだした。
「ははは! まぁ、からかうのはこれくらいにしとくか。黄長官から伝言。夕方の訓練、予定変わったからあとでこいだって」
「あ、ああ……」
ちゃんと用事があったのか……と、急に真面目な顔になって、手を腰にあて、少し頭をかしげながら話すアフマドに、ヨウは調子を崩される。
「で、俺は本当に、ちゃんとヨウの女神様にあいさつとお礼をいいたかっただけ」
「は?」
しかし、ヨウは次の言葉に怪訝な顔をする。
「あいさつくらい、いいだろ? 母さんとも知り合いなんだし」
ヨウは難しい顔をするが『母さん』という言葉が決め手だった。
「……変なこと……話すなよ」
ヨウはそういうと、すっと体をずらした。
「はいはい」
アフマドは苦笑していた。
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