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第一部 第一章
4-3 差し伸べられた手。
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「さーて、これからどうするかなー」
そして、そういいながら佐知子は立ち上がり、スカートをはたくと、自分が出てきた、おそらく何か神様を奉った建物から数メートル歩いていき、崖になっている所から下を見た。
「わぁ!」
そこからの眺めは絶景だった。
高台だと思っていたここは、本当に高台だったようで、崖からは下の風景が一望できた。
見たことのない雲ひとつない高い青い空に、中規模の川が流れ、そのそばに小さな集落がある。そして地平線まで黄土色の土や砂漠で、何もない。
とりあえず、あの集落に行こう。佐知子はそう思った。
「よし! じゃあ、ヨウくんの名前も決まったし、止血もしたし、あの川のそばの集落に下りて、お医者さん探そうか」
佐知子は振り返り、意気揚々とヨウに提案する。しかし、
「だめ!」
ヨウが叫んだ。
「え……?」
佐知子は驚いてきょとんとする。
「……ぼく……あそこからきたんだ……ちがうしゅうらくにいたんだけど、あそこのしゅじんにかわれて……ぶたれて……つらくて……にげてきて……うで、きられたけど、なんとかにげてきて……だからもどったら…………ころされちゃう……」
ヨウはうつむいて話す……最後の声は消え入りそうな声だった。
まさかあの集落でそんなことがおこっていたとは……佐知子はこの世界の残酷さを一つ知った。
「そっ……か……よっし! じゃあ、違う集落に行こう! で、二人で暮らそう? 私もまだこの世界のこと全然よくわかってないけど、あの集落に行けないなら、違う集落に行こう! ね! なるべく急いで!」
佐知子はヨウをはげますように笑顔で楽観的に言う。
本音はどこに違う集落があるのかなんてわからない、あてのない旅をするのは不安だ。ヨウの傷のこともある。でも、小さい子を不安にさせるわけにはいかない。佐知子は無理をして明るくふるまった。
「…………でも……」
しかし、ヨウは、もにょもにょと膝の上で手を動かし、動けないでいた。
ヨウは物心ついたときからずっと奴隷で生きてきた。そのせいで、自分の道を自分で決めるということが、うまく出来ずに育ってしまった。
買われた場所に行き、そこでいわれた通りに働き、出された物を食べ、眠り、またいわれた通りに働く。それがヨウの当たり前だった。
だが今、その場を、主人の元をヨウは去ってしまった。唯一いられる、帰れる場所は、主人の元なのだ……だが、そこには戻れない……戻りたくない……でも………どうしたらいいんだろう……ヨウはそんなことを考えていた。すると、
「ヨウくん! 一緒に行こう!?」
「…………」
白い太陽に照らされて、青い空を背にしながら、異世界の見慣れないセーラー服に、紺のハイソックス、ローファーという格好の少女は、ヨウに明るくほほえみかけ、手を差し伸べていた……そんな佐知子の姿は、ヨウにとって、とても輝かしいものだった。
そして、そういいながら佐知子は立ち上がり、スカートをはたくと、自分が出てきた、おそらく何か神様を奉った建物から数メートル歩いていき、崖になっている所から下を見た。
「わぁ!」
そこからの眺めは絶景だった。
高台だと思っていたここは、本当に高台だったようで、崖からは下の風景が一望できた。
見たことのない雲ひとつない高い青い空に、中規模の川が流れ、そのそばに小さな集落がある。そして地平線まで黄土色の土や砂漠で、何もない。
とりあえず、あの集落に行こう。佐知子はそう思った。
「よし! じゃあ、ヨウくんの名前も決まったし、止血もしたし、あの川のそばの集落に下りて、お医者さん探そうか」
佐知子は振り返り、意気揚々とヨウに提案する。しかし、
「だめ!」
ヨウが叫んだ。
「え……?」
佐知子は驚いてきょとんとする。
「……ぼく……あそこからきたんだ……ちがうしゅうらくにいたんだけど、あそこのしゅじんにかわれて……ぶたれて……つらくて……にげてきて……うで、きられたけど、なんとかにげてきて……だからもどったら…………ころされちゃう……」
ヨウはうつむいて話す……最後の声は消え入りそうな声だった。
まさかあの集落でそんなことがおこっていたとは……佐知子はこの世界の残酷さを一つ知った。
「そっ……か……よっし! じゃあ、違う集落に行こう! で、二人で暮らそう? 私もまだこの世界のこと全然よくわかってないけど、あの集落に行けないなら、違う集落に行こう! ね! なるべく急いで!」
佐知子はヨウをはげますように笑顔で楽観的に言う。
本音はどこに違う集落があるのかなんてわからない、あてのない旅をするのは不安だ。ヨウの傷のこともある。でも、小さい子を不安にさせるわけにはいかない。佐知子は無理をして明るくふるまった。
「…………でも……」
しかし、ヨウは、もにょもにょと膝の上で手を動かし、動けないでいた。
ヨウは物心ついたときからずっと奴隷で生きてきた。そのせいで、自分の道を自分で決めるということが、うまく出来ずに育ってしまった。
買われた場所に行き、そこでいわれた通りに働き、出された物を食べ、眠り、またいわれた通りに働く。それがヨウの当たり前だった。
だが今、その場を、主人の元をヨウは去ってしまった。唯一いられる、帰れる場所は、主人の元なのだ……だが、そこには戻れない……戻りたくない……でも………どうしたらいいんだろう……ヨウはそんなことを考えていた。すると、
「ヨウくん! 一緒に行こう!?」
「…………」
白い太陽に照らされて、青い空を背にしながら、異世界の見慣れないセーラー服に、紺のハイソックス、ローファーという格好の少女は、ヨウに明るくほほえみかけ、手を差し伸べていた……そんな佐知子の姿は、ヨウにとって、とても輝かしいものだった。
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