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第一部 第三章
19 未来は行動次第。
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「……さて、遅くなったな……小屋まで送る」
ヨウは棚に箱をしまい終わると、振り返りそう言った。
「あ、うん。ありがとう」
佐知子が革のサンダルを履き終わると、ヨウは部屋のランプを消して回る。そして、二人は部屋を出た。
兵舎は就寝時間になったらしく、廊下に転々とある小さな灯り以外、暗く、静まり返っていた。
二人は静かに兵舎を出た。
佐知子は、今、何時なんだろう。と、思いながら、馬小屋などがある広場……訓練場を歩いていると、暗闇の中で視界に輝く物が入り、その方向を、空を見上げた。
「うわ! ヨウくん見て! 見て!! 星すっごい綺麗!」
佐知子は空を見上げ思わず大声で叫んだ。
真っ暗闇の中で、空にはきらきらと星が無数に輝いていた。
その輝きは、今まで見たことがないもので、鮮明に、はっきりと、星が白や黄色、たまに赤く光っていた。
それは周りの漆黒の中で、落ちてきそうな程、沢山で、見たことのない光景に佐知子は恐怖さえ感じた。
「……そうか? いつもこんなんだが」
「え!」
しかし、立ち止まって横に並んだヨウにさらっとそう返されたので、佐知子は愕然としてしまう。
(この世界ではこれが当たり前なのかなぁ……)
星を見上げながらそう思う。
「あ、あとサチコ」
二人で星を見上げていると、ヨウが星を見ながら声をかけてきた。
「何? ヨウくん」
佐知子は顔を星からヨウへと顔を移す。
「その……ヨウ『くん』っていうの……ちょっと……やめてくれないか……俺も、いい歳だし……周りにも……ちょっと……」
「え!」
突然の話の内容に、佐知子は暗闇で顔がほぼ見えないヨウを見つめる。少し恥ずかしそうにしているようだった。
「え、あ……うん。ごめんね、そうだね。もう大人なのにヨウくんじゃね……じゃあ、ヨウさんで……」
「あ、いや……ヨウで……いい」
「え……」
二人の間に微妙な空気の沈黙が流れる。
男の人を名前で……呼び捨てで呼ぶのには抵抗がある……なんだか、恥ずかしい……だが、断れる感じでもない……佐知子は腹をくくる。
「う、うん……わかった……ヨウって呼ぶね」
「ああ……」
それから二人は歩き出し、佐知子を使用人小屋まで送り届けると、ヨウは、じゃあ。と、去っていった。
小屋に入ると、中は暗く、皆、眠りについていた。いろいろ聞かれずに済むと安堵しながら、暗闇に慣れた目で自分のスペースまで行き、薄い布団を敷して、布団にもぐりこんだ。
(明日は、夜が明けたらセロさんの所に行かなきゃなんだよなぁ……めんどくさいなぁ……てか、使用人としても働かなきゃだし……明日、どうすればいいんだろう……)
そんなことを考えながらあくびをする。
静かに襲ってきた睡魔にしたがい、うとうとと佐知子は瞳を閉じた……。
こうして、佐知子の異世界での生活一日目が幕を閉じた。
ここから、佐知子の異世界での生活がはじまる。明日から二日目、そして三日目と、毎日が過ぎていくだろう……。
そして、ただ単に『平凡が嫌で刺激のある異世界へ行きたい』と望んだ彼女が、想像もしないたくさんの出来事に遭遇し、感じ、考え、行動し……何度もバッドエンドを繰り返したこの世界を、ハッピーエンドへと導いていく…………ことになるかは、まだわからない。
未来は、彼女が考えて行動した結果次第なのだから――。
ヨウは棚に箱をしまい終わると、振り返りそう言った。
「あ、うん。ありがとう」
佐知子が革のサンダルを履き終わると、ヨウは部屋のランプを消して回る。そして、二人は部屋を出た。
兵舎は就寝時間になったらしく、廊下に転々とある小さな灯り以外、暗く、静まり返っていた。
二人は静かに兵舎を出た。
佐知子は、今、何時なんだろう。と、思いながら、馬小屋などがある広場……訓練場を歩いていると、暗闇の中で視界に輝く物が入り、その方向を、空を見上げた。
「うわ! ヨウくん見て! 見て!! 星すっごい綺麗!」
佐知子は空を見上げ思わず大声で叫んだ。
真っ暗闇の中で、空にはきらきらと星が無数に輝いていた。
その輝きは、今まで見たことがないもので、鮮明に、はっきりと、星が白や黄色、たまに赤く光っていた。
それは周りの漆黒の中で、落ちてきそうな程、沢山で、見たことのない光景に佐知子は恐怖さえ感じた。
「……そうか? いつもこんなんだが」
「え!」
しかし、立ち止まって横に並んだヨウにさらっとそう返されたので、佐知子は愕然としてしまう。
(この世界ではこれが当たり前なのかなぁ……)
星を見上げながらそう思う。
「あ、あとサチコ」
二人で星を見上げていると、ヨウが星を見ながら声をかけてきた。
「何? ヨウくん」
佐知子は顔を星からヨウへと顔を移す。
「その……ヨウ『くん』っていうの……ちょっと……やめてくれないか……俺も、いい歳だし……周りにも……ちょっと……」
「え!」
突然の話の内容に、佐知子は暗闇で顔がほぼ見えないヨウを見つめる。少し恥ずかしそうにしているようだった。
「え、あ……うん。ごめんね、そうだね。もう大人なのにヨウくんじゃね……じゃあ、ヨウさんで……」
「あ、いや……ヨウで……いい」
「え……」
二人の間に微妙な空気の沈黙が流れる。
男の人を名前で……呼び捨てで呼ぶのには抵抗がある……なんだか、恥ずかしい……だが、断れる感じでもない……佐知子は腹をくくる。
「う、うん……わかった……ヨウって呼ぶね」
「ああ……」
それから二人は歩き出し、佐知子を使用人小屋まで送り届けると、ヨウは、じゃあ。と、去っていった。
小屋に入ると、中は暗く、皆、眠りについていた。いろいろ聞かれずに済むと安堵しながら、暗闇に慣れた目で自分のスペースまで行き、薄い布団を敷して、布団にもぐりこんだ。
(明日は、夜が明けたらセロさんの所に行かなきゃなんだよなぁ……めんどくさいなぁ……てか、使用人としても働かなきゃだし……明日、どうすればいいんだろう……)
そんなことを考えながらあくびをする。
静かに襲ってきた睡魔にしたがい、うとうとと佐知子は瞳を閉じた……。
こうして、佐知子の異世界での生活一日目が幕を閉じた。
ここから、佐知子の異世界での生活がはじまる。明日から二日目、そして三日目と、毎日が過ぎていくだろう……。
そして、ただ単に『平凡が嫌で刺激のある異世界へ行きたい』と望んだ彼女が、想像もしないたくさんの出来事に遭遇し、感じ、考え、行動し……何度もバッドエンドを繰り返したこの世界を、ハッピーエンドへと導いていく…………ことになるかは、まだわからない。
未来は、彼女が考えて行動した結果次第なのだから――。
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