神様の外交官

rita

文字の大きさ
上 下
36 / 162
第一部 第三章

8 ライラという子。

しおりを挟む
「すごい荷物だねー!」

 ライラという少女は、佐知子が大きなカバンを二つ持ち、よろよろと歩いてくるのを笑いながら見ていた。

「あ、はい。何も持っていなかったんで、いろいろ買ったので……」

 革のカバンをライラの隣の空いている絨毯の上に置くと、佐知子は息をついた。

「ここが……えっと、名前、なに? あたしはライラ」
「あ、タカ……サチコです」
「サチコ……サチでいい?」
「はい」

 名前を聞かれ、高橋佐知子と名乗るのを何となく佐知子はやめた。
 この村は名字のない人が多い様なので、それに合わせたのもあるが、長い名前だね。や、どれが名前? などと聞かれると面倒だからだ。
 この世界ではサチコでいい。佐知子はそう思った。

「ここがサチのスペースね。まぁ、布団敷いて寝るスペースくらいしかないんだけど」

 ぽんぽんっと手のひらで叩かれたスペースは、確かに両脇に私物の敷物が敷かれている間にぽっかりと空いた、絨毯が見える布団一枚分位のスペースだ。

「で、これが布団。あと、ここの棚自由に使っていいから」

 手を置いたのは、壁の手前に置かれた白い薄い布団だった。毛布もあるようだ。そして壁は薄い黄土色のレンガで、二段の棚が大きく空いていた。

(あ、よかった。買った物ここに置ける)

 そう思いながら佐知子は座る。

「新品のカンラだよね? いいなー! 今日買ったの?」
「あ、はい」

 佐知子は着慣れないカンラに、少し照れくさくほほえみながらライラを見る。
 目が慣れて来たのと近づいた事でようやくはっきりライラの外見がわかった。

 ライラは褐色肌の同い年位の少女だった。長い黒髪を後ろで一本の三つ編みにしている。瞳は青く、珍しくて綺麗で、ついじっと見てしまいそうになる。服は作業着と呼ばれる、半袖のシャツに、ゆったりとしているが、裾はきゅっと締まったズボンを履いていた。

「えっと……荷物、棚に置いてもいいですか?」

 佐知子は何となく、ライラに問う。

「え? ああ、うん! 邪魔してごめんね!」
「あ、いや! そんなことは!」
「あ、敬語つかわなくていいよ。歳、近いでしょ? いくつ?」

 あ、荷物片付けながらでいいよ。と、ライラは付け加え、また寝転び佐知子を見上げる。

「今年、十七になりま……なるよ」
「あ、じゃあ、一個上だ。あたし今年十六ー」
「そうなんだ」
(いい子でよかったな)

 佐知子はそう思いながら、革のカバンの荷物をレンガの棚に片付けていく。

「どこ出身? 外見からだとホン人ぽいけど」
「ホン人?」

 佐知子は動かしていた手を止め、右斜め下で寝転ぶライラを見る。

「あれ? 違う? あ、詮索しちゃってごめんね。ここでは詮索はなしだよね」

 ライラは手をひらひらと振って眉を下げる。

(ホン人……ホンって国があるのかな?)

 佐知子はそう思いながらまた棚に荷物を置いていく。


「よっし、こんなもんかな」

 革の大きなカバンは空になり、棚にはみっちりと物が詰まった。

「あ、終わった? じゃあハンム行く? 行ってないよね?」

 するとライラが寝転がっていた体勢から起き上がり、絨毯の上に敷いた厚手の敷物の上であぐらをかく。

「ハンム?」

 佐知子には何のことかわからない。

「お風呂だよお風呂! ひろーいお風呂! 行ったことないの?」
「……ない」

 確か、広場でそんなような名前を聞いたような……と、佐知子は思いながら、銭湯みたいなものかな? と、思う。

「じゃあ、一緒に行こう! 案内するよ!」

 ライラは支度を始める。

「あ、うん!」

 ライラに言われて石鹸やタオル、着替えなどを一通り風呂敷のような大きな布に包むと、佐知子はライラと一緒に使用人小屋を出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話

めるの
恋愛
仕事に疲れたアラサー女子ですが、気付いたら超絶美少女であるアナスタシアのからだの中に! 魅了の魔力を持つせいか、わがまま勝手な天才魔術師や犬属性の宰相子息、Sっ気が強い王様に気に入られ愛される毎日。 幸せだけど、いつか醒めるかもしれない夢にどっぷり浸ることは難しい。幸せになりたいけれど何が幸せなのかわからなくなってしまった主人公が、人から愛され大切にされることを身をもって知るお話。 ※主人公以外の視点が多いです。※他サイトからの転載です

異世界転生したら悪役令嬢じゃなくイケメン達に囲まれちゃいましたっ!!

杏仁豆腐
恋愛
17歳の女子高生が交通事故で即死。その後女神に天国か地獄か、それとも異世界に転生するかの選択肢を与えられたので、異世界を選択したら……イケメンだらけの世界に来ちゃいました。それも私って悪役令嬢!? いやそれはバッドエンドになるから勘弁してほしいわっ! 逆ハーレム生活をエンジョイしたいのっ!! ※不定期更新で申し訳ないです。順調に進めばアップしていく予定です。設定めちゃめちゃかもしれません……本当に御免なさい。とにかく考え付いたお話を書いていくつもりです。宜しくお願い致します。 ※タイトル変更しました。3/31

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です

二度目の勇者の美醜逆転世界ハーレムルート

猫丸
恋愛
全人類の悲願である魔王討伐を果たした地球の勇者。 彼を待っていたのは富でも名誉でもなく、ただ使い捨てられたという現実と別の次元への強制転移だった。 地球でもなく、勇者として召喚された世界でもない世界。 そこは美醜の価値観が逆転した歪な世界だった。 そうして少年と少女は出会い―――物語は始まる。 他のサイトでも投稿しているものに手を加えたものになります。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

処理中です...