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第一部 第三章
2 健康診断。
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病院は先程の門、軍用地の門から出て右手の一番手前の建物だった。
外側の薄い黄土色のレンガ造りに対して、中は先程の廊下のように、壁は真っ白で清潔感がある。けれどこちらは漆喰で塗ったものだった。
中には病人や怪我人が絨毯の敷かれた待合室で座ったり横になったりして待っている。
その横を、カーシャとヨウと共に、佐知子はまたもやヨウからもらった布を頭から被りながら歩いて行く。
トトは途中で自分は薬草畑に行くから。と、去って行った。
「あ、カーシャ院長、さきほどの患者さんが……」
「はいはい。あー、うん。わかった。あとで行くよ」
歩いていると、カーシャは次から次へと声をかけられる……。
(院長先生なんだ……そんな偉い人に健康診断なんて頼んでいいのかな……)
佐知子はそう思いながら、おずおずとヨウの影に隠れて歩いていた。
「はい、入ってー。ここ、あたしの診察室」
そう言われて開かれた鉄の扉の先は、廊下と同じ白い漆喰壁の明るい診察室だった。
(あ……明るい……太陽の光がよく入る……)
大きな窓に、光がよく入るように窓格子が開けられていた。そこから燦燦と太陽の光がそそいでいる。不安な患者の気持ちをぬぐうための措置だろうか。
「ちょっと、あんたはどこまでついてくるの。服、脱ぐんだから廊下で待ってなさい!」
「え、あ、ああ……」
カーシャに言われ、ヨウは慌てて診察室から出て行った。
「じゃ、そこに座って」
そう指示されたイスは、鉄の四本の脚に淡いクリーム色のクッションのようなものがついた、日本でもよく見かける一人用の丸椅子だった。
部屋にはカーシャ用の机とイス、患者用のベッド、イス。あとは壁にあいた棚に薬品や道具がたくさん置いてあった。
佐知子は丸椅子に座ると、頭から被っていた布を取り、手に持つ。背負っていたリュックは下ろして足元に置いた。
「えーっと、新しいカルテカルテ……」
カルテなんてあるんだ……と、失礼ながら思いつつ、案外ちゃんとした病院なんだなぁと佐知子は思う。
「じゃあ、問診からね。えっと名前は?」
「高橋佐知子です」
「タカハシ……サチコが名前よね?」
「あ、はい!」
「歳は?」
「えっと……」
問診は、名前、年齢、今までかかった大きな病気、今かかっている病気などを聞かれた。
「じゃ、服、上下脱いで下着になってー」
「あ、はい……」
少しためらいながらも、佐知子はセーラー服を脱いでいく。脱いだ服は渡されたカゴに入れた。
「……めずらしい下着だねぇ」
向かいあったカーシャが目を丸くしていう。
やっぱりか……と、佐知子は思った。何となく言われる様な気はしていた。
「そう……ですかね」
ははは……と、佐知子は苦笑いした。
「でも可愛い」
カーシャはドレッドヘアを揺らしてにっこりと笑った。その笑顔に佐知子はぐっと言葉につまる。
「へー、これで、胸支えてんだ。機能的だね。てか、踊り子の衣装だねぇ……ここではみんな大体晒巻いて、下は何にも履かないんだけど……履いた方が衛生的かも……ちょっと考えよ」
カーシャはそんなことをいいながら、こちらの世界の聴診器を佐知子の胸にあてた。
そのあとも腹部を触診したり、舌や足裏を見たり、側にあった機械で佐知子にはわからない単位での身長と体重を量り、最後に頭髪にシラミがいないかチェックをされ、健康診断は終わった。
「はい、おわり。問題ないね。服着ていいよー」
ほっとして服に手をかける佐知子。
「病院はあたしいない時もあるし、他の先生が担当することもあるけど、年中無休だし、タダだから、何かあったらおいでね。あ、これ健康診断の結果。これ持ってハーシムのとこ行きな」
「ありがとうございました」
またハーシムさんのところに行くのか……と、思いながら、佐知子はカーシャに礼をのべ、診察室をあとにした。
「あ、ごめん。おまたせ」
少し重い鉄の扉を開けると、廊下の壁に寄りかかりながら、パッとこちらを見たヨウと目があった。
「いや、大丈夫だ……問題なかったか……?」
「うん、問題ないって。これ、ハーシムさんに渡してだって」
再度、リュックを背負い、布を頭からかぶりながら、佐知子は何が書かれているのかわからない、アラビア語に似た言葉が書かれている少し目の粗い紙の様なものをヨウに渡す。
「ああ……じゃあ、国事部へ行くか……」
ヨウは行くぞ。と、歩き出す。また、ハーシムさんに会うのか……と、思うと、佐知子の足は少し重かった。
外側の薄い黄土色のレンガ造りに対して、中は先程の廊下のように、壁は真っ白で清潔感がある。けれどこちらは漆喰で塗ったものだった。
中には病人や怪我人が絨毯の敷かれた待合室で座ったり横になったりして待っている。
その横を、カーシャとヨウと共に、佐知子はまたもやヨウからもらった布を頭から被りながら歩いて行く。
トトは途中で自分は薬草畑に行くから。と、去って行った。
「あ、カーシャ院長、さきほどの患者さんが……」
「はいはい。あー、うん。わかった。あとで行くよ」
歩いていると、カーシャは次から次へと声をかけられる……。
(院長先生なんだ……そんな偉い人に健康診断なんて頼んでいいのかな……)
佐知子はそう思いながら、おずおずとヨウの影に隠れて歩いていた。
「はい、入ってー。ここ、あたしの診察室」
そう言われて開かれた鉄の扉の先は、廊下と同じ白い漆喰壁の明るい診察室だった。
(あ……明るい……太陽の光がよく入る……)
大きな窓に、光がよく入るように窓格子が開けられていた。そこから燦燦と太陽の光がそそいでいる。不安な患者の気持ちをぬぐうための措置だろうか。
「ちょっと、あんたはどこまでついてくるの。服、脱ぐんだから廊下で待ってなさい!」
「え、あ、ああ……」
カーシャに言われ、ヨウは慌てて診察室から出て行った。
「じゃ、そこに座って」
そう指示されたイスは、鉄の四本の脚に淡いクリーム色のクッションのようなものがついた、日本でもよく見かける一人用の丸椅子だった。
部屋にはカーシャ用の机とイス、患者用のベッド、イス。あとは壁にあいた棚に薬品や道具がたくさん置いてあった。
佐知子は丸椅子に座ると、頭から被っていた布を取り、手に持つ。背負っていたリュックは下ろして足元に置いた。
「えーっと、新しいカルテカルテ……」
カルテなんてあるんだ……と、失礼ながら思いつつ、案外ちゃんとした病院なんだなぁと佐知子は思う。
「じゃあ、問診からね。えっと名前は?」
「高橋佐知子です」
「タカハシ……サチコが名前よね?」
「あ、はい!」
「歳は?」
「えっと……」
問診は、名前、年齢、今までかかった大きな病気、今かかっている病気などを聞かれた。
「じゃ、服、上下脱いで下着になってー」
「あ、はい……」
少しためらいながらも、佐知子はセーラー服を脱いでいく。脱いだ服は渡されたカゴに入れた。
「……めずらしい下着だねぇ」
向かいあったカーシャが目を丸くしていう。
やっぱりか……と、佐知子は思った。何となく言われる様な気はしていた。
「そう……ですかね」
ははは……と、佐知子は苦笑いした。
「でも可愛い」
カーシャはドレッドヘアを揺らしてにっこりと笑った。その笑顔に佐知子はぐっと言葉につまる。
「へー、これで、胸支えてんだ。機能的だね。てか、踊り子の衣装だねぇ……ここではみんな大体晒巻いて、下は何にも履かないんだけど……履いた方が衛生的かも……ちょっと考えよ」
カーシャはそんなことをいいながら、こちらの世界の聴診器を佐知子の胸にあてた。
そのあとも腹部を触診したり、舌や足裏を見たり、側にあった機械で佐知子にはわからない単位での身長と体重を量り、最後に頭髪にシラミがいないかチェックをされ、健康診断は終わった。
「はい、おわり。問題ないね。服着ていいよー」
ほっとして服に手をかける佐知子。
「病院はあたしいない時もあるし、他の先生が担当することもあるけど、年中無休だし、タダだから、何かあったらおいでね。あ、これ健康診断の結果。これ持ってハーシムのとこ行きな」
「ありがとうございました」
またハーシムさんのところに行くのか……と、思いながら、佐知子はカーシャに礼をのべ、診察室をあとにした。
「あ、ごめん。おまたせ」
少し重い鉄の扉を開けると、廊下の壁に寄りかかりながら、パッとこちらを見たヨウと目があった。
「いや、大丈夫だ……問題なかったか……?」
「うん、問題ないって。これ、ハーシムさんに渡してだって」
再度、リュックを背負い、布を頭からかぶりながら、佐知子は何が書かれているのかわからない、アラビア語に似た言葉が書かれている少し目の粗い紙の様なものをヨウに渡す。
「ああ……じゃあ、国事部へ行くか……」
ヨウは行くぞ。と、歩き出す。また、ハーシムさんに会うのか……と、思うと、佐知子の足は少し重かった。
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