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第一部 第二章
3-1 楽しい異世界に私は来た!
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(わー……)
馬に乗り歩いたのは、幼稚園の時に動物園でポニーに乗って円形状の広場を少し歩いた以来だろうか……と、佐知子は一定のリズムで上下する馬上で涼しい布に包まりながらそんなことを思い出していた。
頭上にはギラギラと強く輝く太陽。日本では見たことのない青い色をした雲ひとつない高い空。
そして何とも言えない乾いた独特の匂いのする空気。
そして、今、馬にのっている。
ポッカポッカと足音を立てて、ゆっくりと歩んでいる艶やかな黒い毛並みの美しい馬。
そして両脇には白い服で見えないが、自分を引き上げることなど容易い、逞しい男性の腕、そして背後には厚い胸板。
至近距離で恥ずかしくて見ることは出来ないが、頭上にはその胸板の持ち主、褐色肌の整った顔の男性……。
(来た! 私はあの平凡な日常から脱して楽しい異世界に来たー!! ここは楽しい異世界ー!!)
佐知子は包まった布の端を纏めて持っていた首元の手に、ぎゅっと力を入れて、一人顔を俯けてにやけながら嬉しさに震えていた。
(やばい……幸せだ……どうしよう……楽しい……まだ何も始まってないけど……)
そんなことを考えながら今度は力を抜き、少し空を見てため息を吐く。
「どうした? 大丈夫か? ……水、飲むか?」
「あ、ううん。大丈夫」
佐知子の考えていた事など知る由もなく、震えたりため息を吐く佐知子を心配して声をかけてくれる優しいヨウ。
馬はゆっくりと歩き、平坦な所から坂道を下り、どんどん村へと近づいて行った。
時間は二十分程だろうか。
佐知子が右腕にしていた腕時計は普通に使えたので助かった。
村に近づくにつれ、佐知子はその塀の高さに驚かされた。塀と呼んでいいのかさえわからない。
それは茶褐色のレンガを積んで造られていて、高さはビル三階分はあるだろうか。
上には見張りもいる。
城壁と呼ぶべきなのだろうか。
しかし、城はあるのか? ないのか? と、佐知子が思っていると、門まで来た。
門は鉄製だった。
開いていて、門番が両側に一人ずつ立っていた。
門の出入りは自由な様で、馬に乗ったヨウと佐知子の他にもラクダを引いた商人風の人や、走り回る子供、畑仕事に向かう大人、老若男女、様々な人種の人が歩いていた。
そしてヨウと佐知子が通ろうとすると、門番の二人が敬礼をして挨拶をしてきた。
ヨウは頷いて答える。佐知子は少し疑問に思った。
そのまま門をくぐると一気に風景、空気が変わった。
門をくぐるとそこは大通りだった。
まるで映画やアニメで見た昔のアラビアの光景だ。
両側の商店には髭を生やし、赤い帽子やターバンをした店主。金や銀の商品を扱う店。
服装もそうだった。
白いワンピースの様な服を着ている人がほとんどだったが、中には長袖の服にゆったりとした裾が膨らんで足首で締まったズボンを履いている人もいる。
そして、大通りの目の前は民家のようで行き止まりだった。
その民家は薄い黄土色のレンガで出来ていて、洗濯物が隣の家と繋がった紐にかけられ、ひらひらとひらめいている。
活気も凄かった。
わいわいと人が多く賑やかで、人々が生活をしているパワーを感じる。
「うわー! 凄いねぇ!!」
佐知子が瞳を輝かせながら好奇心に満ちた表情で辺りをきょろきょろと見ていると、ヨウはふっとほほえみ、
「少し村を見て行くか……?」
と、佐知子に問う。
「いいの!?」
「ああ……」
「ありがとう!」
「…………」
振り返ってほほえむ佐知子に、ヨウはぐっと唇を引き結び少し俯いた。
馬に乗り歩いたのは、幼稚園の時に動物園でポニーに乗って円形状の広場を少し歩いた以来だろうか……と、佐知子は一定のリズムで上下する馬上で涼しい布に包まりながらそんなことを思い出していた。
頭上にはギラギラと強く輝く太陽。日本では見たことのない青い色をした雲ひとつない高い空。
そして何とも言えない乾いた独特の匂いのする空気。
そして、今、馬にのっている。
ポッカポッカと足音を立てて、ゆっくりと歩んでいる艶やかな黒い毛並みの美しい馬。
そして両脇には白い服で見えないが、自分を引き上げることなど容易い、逞しい男性の腕、そして背後には厚い胸板。
至近距離で恥ずかしくて見ることは出来ないが、頭上にはその胸板の持ち主、褐色肌の整った顔の男性……。
(来た! 私はあの平凡な日常から脱して楽しい異世界に来たー!! ここは楽しい異世界ー!!)
佐知子は包まった布の端を纏めて持っていた首元の手に、ぎゅっと力を入れて、一人顔を俯けてにやけながら嬉しさに震えていた。
(やばい……幸せだ……どうしよう……楽しい……まだ何も始まってないけど……)
そんなことを考えながら今度は力を抜き、少し空を見てため息を吐く。
「どうした? 大丈夫か? ……水、飲むか?」
「あ、ううん。大丈夫」
佐知子の考えていた事など知る由もなく、震えたりため息を吐く佐知子を心配して声をかけてくれる優しいヨウ。
馬はゆっくりと歩き、平坦な所から坂道を下り、どんどん村へと近づいて行った。
時間は二十分程だろうか。
佐知子が右腕にしていた腕時計は普通に使えたので助かった。
村に近づくにつれ、佐知子はその塀の高さに驚かされた。塀と呼んでいいのかさえわからない。
それは茶褐色のレンガを積んで造られていて、高さはビル三階分はあるだろうか。
上には見張りもいる。
城壁と呼ぶべきなのだろうか。
しかし、城はあるのか? ないのか? と、佐知子が思っていると、門まで来た。
門は鉄製だった。
開いていて、門番が両側に一人ずつ立っていた。
門の出入りは自由な様で、馬に乗ったヨウと佐知子の他にもラクダを引いた商人風の人や、走り回る子供、畑仕事に向かう大人、老若男女、様々な人種の人が歩いていた。
そしてヨウと佐知子が通ろうとすると、門番の二人が敬礼をして挨拶をしてきた。
ヨウは頷いて答える。佐知子は少し疑問に思った。
そのまま門をくぐると一気に風景、空気が変わった。
門をくぐるとそこは大通りだった。
まるで映画やアニメで見た昔のアラビアの光景だ。
両側の商店には髭を生やし、赤い帽子やターバンをした店主。金や銀の商品を扱う店。
服装もそうだった。
白いワンピースの様な服を着ている人がほとんどだったが、中には長袖の服にゆったりとした裾が膨らんで足首で締まったズボンを履いている人もいる。
そして、大通りの目の前は民家のようで行き止まりだった。
その民家は薄い黄土色のレンガで出来ていて、洗濯物が隣の家と繋がった紐にかけられ、ひらひらとひらめいている。
活気も凄かった。
わいわいと人が多く賑やかで、人々が生活をしているパワーを感じる。
「うわー! 凄いねぇ!!」
佐知子が瞳を輝かせながら好奇心に満ちた表情で辺りをきょろきょろと見ていると、ヨウはふっとほほえみ、
「少し村を見て行くか……?」
と、佐知子に問う。
「いいの!?」
「ああ……」
「ありがとう!」
「…………」
振り返ってほほえむ佐知子に、ヨウはぐっと唇を引き結び少し俯いた。
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