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第13話:宇宙の果て

Dパート(1)

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 アルテローゼを大気圏に落とした後、レッドノーム号はディビット達の乗ったスペースボートを追いステーションに向かっていた。スペースボートと異なり大気圏スキップ軌道を取ることができないレッドノーム号は、スペースボートの遅れること数時間でようやくステーションの側にたどり着いていた。
 ステーションへの接近軌道に入ろうとしたところで、レッドノーム号に通信が入った。

『レッドノーム号艦長トーゴー大佐、こちらは地球連邦宇宙軍司令、トワィニング大将だ。現在の貴君の行動は、宇宙軍司令部からの命令から逸脱している。直ちに作戦行動を停止し、司令部に状況を報告したまえ。レッドノーム号…』

 地球と火星の間は光速でも約四分半。リアルタイムの通信は難しいため、連邦宇宙軍司令部は通信内容を繰り返しトーゴー大佐に送ってきていた。

 連邦宇宙軍司令部から通信がきているということは、ステーションが自閉症モードから抜け出したということであり、

「ジュモーがやられたか」

「みたいですぜ」

 トーゴー大佐と禿頭の大男のオペレータは、ステーションのAIを支配してたジュモーが負けたことを理解するのだった。

「やっぱりジュモーあいつでは無理だったか…」

「やっぱりあっしが行くべきでしたか」

「だが、お前がいないとこの船は動かせない。木星方面軍は人材不足だからな」

 ジュモーはゴーレムマスターの魔法でAIを制御下に置くことはできた。しかし魔法しか知らず、現代科学を理解できないジュモーに宇宙船の制御を任せることはできなかった。

「せめてもう少し優秀な連中が復活すれば良かったんですがね~」

 大男は頭をペしっと叩いて、天を仰いだ。

大復活・・・で目を覚ましたは良いが、体を持てた者は数少ないからな。そしてお前のように地球人青の星の連中の科学・・を理解できた者となると更に少ない」

地球人青の星の知識を知って、混乱する連中ばかりでしたね~」

 トーゴー大佐と大男は二人で目を閉じて唸ってしまった。

「ここで悔やんでもしかたあるまい。これからどうやって火星を殲滅するかを考えよう」

「分かりやしたが、この体の魂が色々と制約かけてくるのがうっとうしいですぜ。AI連中もガードが堅くて、迂闊な事はできませんし…」

「この体は人といっても我らの知る人とはかなり異なっていた。魂を完全に掌握できないのはしかた有るまい。だが手順を踏めば行動は起こせるのだ。たとえ我ら二人・・だけでも、宿敵を滅ぼすという使命を達成するのだ」

 トーゴー大佐は指揮官席をドンと叩くと、モニターに映る青い星火星を睨み付けた。トーゴー大佐の目には妄執の青黒い炎が燃えていた。

「たとえ我らの星が既に無くともですか。どうしてこうなっちまったんでしょうね~」

《火星方向から、接近する機体があります。識別…アルテローゼです》

 その時レッドノーム号のAIが火星方向からアルテローゼが接近してくることを警告する。

「なにっ!」

「馬鹿な、あの角度で大気圏に突入してどうやって戻ってきたんでやす。ありえねーですぜ」

 トーゴー大佐と大男は慌ててモニターを見るが、そこには大気圏上層部から上昇しているアルテローゼの姿が映し出されていた。

《大気圏突入から原理は不明ですが、何らかの方法で軌道を修正したようです。この速度では、あと五分でレッドノーム号の側を通り過ぎてしまいます》

「「はぁ?」」

 大気圏スキップ軌道を取ったアルテローゼは、レッドノーム号に追いつくためにかなり速度を付けていた。確かにそれでレッドノーム号に追いつくことはできたが、このままでは通り過ぎてしまう。AIがモニターに表示した軌道は、レッドノーム号とアルテローゼはすれ違うだけであった。

「あいつら、何を考えている」

「どうしやす、迎撃しやすか?」

「いや、このままの軌道なら何もできまい。それに全長十八メートルのアルテローゼあれが、全長二キロのレッドノーム号を何とかするだけの力を持っていると思うか?」

「しかし、この相対速度でぶつかったら大事ですぜ」

「それはアルテローゼあれが特攻してくると言うことか? そんな馬鹿な事をすれば、自分たちも死ぬんだぞ。せいぜいすれ違い様に何か撃ち込んでくるぐらいだろう。まあ、どうせ魔法・・で防がれるだろうがレーザー砲を撃ち込んでおけ」

 トーゴー大佐はそう言って艦長席に深々と座り直した。

「了解しやした。あと二分で射程に入りやす」

 大男はオペレータ席でアルテローゼを迎撃するための準備を始めた。

「ふん、魔法・・を使うとは火星にも我らと同じような者がいたと言うことか……ん魔法・・…軌道変更…まさか」

 トーゴー大佐は、慌ててモニターに表示されたアルテローゼの軌道を見直す。

「射程に入りやした。射撃開始!」

《了解、射撃を開始します》

 大男の合図でAIはアルテローゼに向かってレーザー砲を打ち始めた。

「あれ、弾かれてないですぜ。プロテクション・フロム・ミサイルの魔法じゃなくて、あれはシールドの魔法を使ってやす」

「くそ、レッドノーム号の軌道を修正しろ。アルテローゼあれはぶつかってくるつもりだ」

 トーゴー大佐が叫ぶが、レッドノーム号は小型の機動兵器のように急激な軌道変更はできない。そして、レーザー砲をシールドの魔法で防ぎながらアルテローゼはレッドノーム号に衝突した。
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