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第12話:宇宙へ

Aパート(3)

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『私は地球連邦軍、火星方面軍司令部、作戦参謀、アッテンボロー少佐だ。今回木星方面軍の支援攻撃のおかげで、革命軍の部隊によるヘリオス首都進行が阻止されたことには感謝する。だが、火星方面軍こちらも多大な被害を受けてしまった。いや、迎撃部隊は人的被害はないものの、壊滅状態と言って良い。この点に付いて木星軍に正式に抗議すると共に、今後は地上への攻撃は、火星司令部の指示に従い、特に新兵器『神の雷』の使用は控えてもらいたい』

『ふむ…』

 アッテンボロー少佐の抗議に、トーゴー大佐は思案するかのようにシートに座り直して目を閉じた。

「(さて、どう出てくるか)繰り返すが、火星司令部の指示に従ってもらいたい」

 アッテンボロー少佐がそう繰り返すと、

『…火星方面軍に被害が出てしまったことには謝罪する。…だが、地上への攻撃及び、『神の雷』の使用については、こちらの判断で行うつもりだ』

 目を開いたトーゴー大佐は、そう言いきった。

「な、何を言っているのだ。宇宙軍が惑星に対して独自に攻撃を実施することは、交戦規程、第4-5条で禁止されている。火星司令部の許可を得ない攻撃は容認できない!」

 アッテンボロー少佐はコンソールにこぶしを叩きつけてそう強弁するが、

『それに関しては、連邦軍本部からの許可をもらっている。通信回線3-45を開いてもらえるかな』

 トーゴー大佐は、涼しい顔でそう言ってきた。

「…」

 アッテンボロー少佐はオペレータに目線で通信回線を開くように促す。
 通信回線を開くとレッドノーム号から暗号化されたデータが送られてくる。暗号化の解除キーはオッタビオ司令の生体認証情報であった為、暗号データはオッタビオ司令の端末に転送され、生体認証後に復号された。

「こ、これは…。連邦軍本部がこんな許可を出すとは…信じられない」

 木星方面軍に送られた連邦軍本部からの指令書を見たオッタビオ司令は、いつもの惚けた様子をかなぐり捨て狼狽していた。

「司令、一体どのような指令書が送られてきたのですか?」

 オッタビオ司令の様子を見たアッテンボロー少佐は、司令官席に駆け寄った。

「これを見た前」

「…! 連邦軍本部は、火星を開拓前の更地に戻すつもりなのか?」

 アッテンボロー少佐が見た連邦軍の指令書には、地球から火星への援軍は行われないことと木星方面軍に火星での反乱を速やかに収拾するために武器使用無制限の許可が与えられる、という内容が記載されていた。

『それが、連邦軍本部からの指令書だが』

 モニターのトーゴー大佐は、両手の指を組みあごを乗せた姿勢でアッテンボロー少佐とオッタビオ司令の二人を見下ろしていた。

「…こんな命令が出るとは考えられない。至急連邦軍本部に確認を取らせてもらいたい」

 アッテンボロー少佐は、トーゴー大佐を見上げるとそう告げた。

『…勝手にしたまえ。だが、今は太陽風が強くて地球との通信は不安定だぞ』

 しかし、トーゴー大佐は薄笑いを浮かべてそう返す。

「太陽風だと? そんな話は聞いていない。君、直ぐに連邦軍司令部に通信を繋ぎたまえ。早くステーションを呼び出すんだ」

 現在の火星環境では地表から地球までの長距離通信・・・・・ができない事情・・があり、軌道上の宇宙ステーションを介して通信を行う必要があった。

「そ、それが…ステーションとの通信が繋がりません」

 オペレーターが焦った声でそう報告する。宇宙ステーションとの通信を示すモニターにはノイズが乗るばかりであった。

「馬鹿な。ステーションと通信ができない事があるわけが…まさか?」

 アッテンボロー少佐がモニターのトーゴー大佐を睨み付けたが、彼は薄ら笑いを浮かべたままであった。

『どうやら、太陽風が強くてステーションとの通信も無理なようだな』

「ふざけるな。レッドノーム号そちらとの通信が繋がるのに、ステーションに繋がらないわけがあるものか」

『では、ステーションの通信機が故障しているのではないのかな?』

「…複数ある通信設備が全て故障するわけがないだろう。問題が起きれば、管理AIが直ぐに対処を行うはずだ」

 火星軌道上の宇宙ステーションには、常駐の職員はおらず、地球からの定期船が来るまでは通常は管理AIと整備ロボットだけで運営されていた。そして最近の革命軍との戦いもあり、宇宙ステーションの状態をモニターするだけの余裕が火星司令部にはなかった。

『では、ステーションの管理AIがおかしくなったのでは? 早く技術者を送って修理したまえ』

「…現在、火星に…いやヘリオス首都にシャトルは無い。つまりステーションに出向いて修理に向かう術は無いのだ」

 巨人によってシャトルが破壊された為、ヘリオス首都に軌道上まで上がるシャトルは無かった。他の都市に行けばレアメタル運搬用のシャトルがあるのだが、革命軍がいる状況でそれを頼ることはできなかった。

『では、こちらでステーションの修理を行う事にしよう。だがそれは火星の反乱の収拾してからだがな』

「くっ!」

 アッテンボロー少佐には唇を噛みしめることしかできなかった。

『我々も暇ではないので、さっさと反乱を片付けたいのだ。そこでだが、革命軍の本拠地であるオリンポスを攻撃して終わりにしたのだが。オッタビオ司令、攻撃許可をもらえるかな?』

 トーゴー大佐は、さらりととんでもない要求を突き付けてきた。
 その内容にギョッとして、アッテンボロー少佐がオッタビオ司令を見ると、彼は冷や汗を流し青ざめた表情であった。

「(まさか、司令は許可を出すつもりがあるのか?)」

 アッテンボロー少佐は、オッタビオ司令が許可を出すつもりであれば、殴ってでも止めるつもりであった。

「許可は出せない。私は…連邦軍は火星市民を護るために存在している。私は例え建前でもそれを捨てるつもりは無いよ」

「し、司令」

 アッテンボロー少佐は、オッタビオ司令が許可を出さなかったことに安堵して、握りしめていた拳を解くのだった。
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