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第11話:空から来るもの
Bパート(1)
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「なんだと、巨人が倒されただと?」
野戦司令部で、ロボット兵器部隊の補給終了を待っていたイスハークに、巨人が倒されたと報告が上がってきた。
「は、はい。左翼に向かった巨人からの信号が途絶したため、偵察ドローンを向かわせたところ、破壊されていることが…」
「巨人が倒されるとか、あり得ないだろうが!」
「ヒッ」
狼型の巨人が倒されたと報告するオペレータは、テーブルを叩きつけたイスハークの怒声に驚いて小さく悲鳴を上げる。
「残りの三体の方はどうなっている」
「…今のところ順調に進行しています。そろそろ右翼の連邦軍と接触する頃かと」
オペレータは端末を操作して、巨人の進行状況を確認して報告する。
「状況は逐次私の所まで上げるんだ」
「了解しました」
オペレータが席に戻るのを見て、イスハークはため息をついた。
「どんなに強くとも、単騎では勝てない。サトシに『戦いは数だよ』と言ったのは俺じゃないか」
イスハークは、落ち着くために頭を振って深呼吸をする。
「部隊の補給終了まで後どれだけだ?」
「後…十分ください」
必死にロボット兵器の操作を行っているGC社のシステムエンジニアが、悲鳴のような声でイスハークに答えた。
「遅い! あと五分で終わらせろ」
「それではエネルギー補充が完全には終わりません。確実に動作させるには…」
「数はこちらの方が上なのだ、エネルギーは九割もあれば十分だ。それともGC社の兵器は、エネルギーが満タンじゃないと数で劣っている敵に負けるというのか」
「わ、分かりました。九割であれは、あと三分で終わらせます」
「うむ。急がせろ」
イスハークはエンジニアの回答に満足げに頷くと、準備が整うまで戦術モニターに視線を移して、巨人達の状況を見守ることにした。
◇
右翼に向かっていた馬型の巨人は、その突進力を生かして連邦軍を蹂躙していた。
馬型の巨人にもプロテクション・フロム・ミサイルの魔法陣が搭載されており、その力は狼型のものより上であった。レーザー機銃どころか装輪戦車の戦車砲も逸らせるだけの力を持っていた。
連邦軍の部隊に肉薄した馬型の巨人は、その足を使って連邦軍のロボット兵器を蹴飛ばし、踏みつぶす。
「くそっ、大シルチス高原と同じ羽目になるのか…」
連邦軍の右翼を指揮していたブルーノ少佐は、次々と破壊される友軍の情けない姿に唇を噛みしめた。
しかし、そこに届いたのは左翼の部隊が狼型の巨人を撃破したという通信だった。
「左翼の部隊が巨人を倒しただと。それは本当か?」
「はい。狼型の巨人に多脚装甲ロボットを肉薄させて倒したそうです」
「…なるほど、そういうことか。馬型の巨人にも同じ手が使えそうだな」
ブルーノ少佐は、馬型の巨人の姿と動きから対策を思いつく。
「各部隊、良く聞いてくれ。馬型の巨人は突進力はあるが、小回りはきかない。それに高原で戦った巨人ほどの装甲もない。攻撃が当たれば効果はある。遠距離から当たらないなら、近寄って当ててやれば良いんだ。踏みつぶしに来たら、ゼロ距離射撃をお見舞いしてやるんだ!」
そう命令を出すと、各部隊から『了解』と応答が返ってくる。右翼の連邦兵士は、ディビットが狼型の巨人を倒したことで、トラウマを克服しその士気を保っていたのだった。
「左翼の奴らが巨人を倒したんだ」
「俺達だってやれるはずだ」
「今こそ汚名を挽回…じゃなくて、返上するチャンスだ。やってやるぜ」
「マーズリアンに負けるかよ」
巨人は無敵じゃない、倒せるんだ。先の大敗の汚名を返上できると、連邦軍の兵士達は奮闘を始めた。
◇
馬型の巨人のコアは、当然馬の脳が治められていた。元は乗馬用の馬だったそれは、サイボーグ化の適正があったため、脳を摘出されて機動兵器のコアとなった。元は乗馬用だったことあり人の命令を聞き、走り回ることに喜びを感じていた。しかし四足歩行のデータ収集が終わり、機動兵器としての運用試験が始まると、馬の脳にはストレスが溜まるようになった。
馬は草食動物の為、身を守る為に戦うことはあっても、積極的に相手を襲うことはない。走ることだけでなく、命令されたままに攻撃を実行して相手を破壊すると言うことは、馬にとっては耐え難いストレスであった。
そして、馬はもともと感覚の鋭い動物である。それがロボットに組み込まれると、視覚や聴覚は生身であったときよりも敏感となり、触覚、嗅覚、味覚はなくなってしまった。その為、視覚や聴覚に対して過敏とも言える反応を示すようになっていた。
そんな状況で、馬型の巨人は戦場にかり出された。敵から撃たれると、それは視覚や聴覚情報として脳に届けられる。一対一ならまだしも、敵のど真ん中で暴れ回っている状態では、四方八方から攻撃が集中する。魔法により命中することはないが、音は光は大きなストレスとなり、コアの馬の脳に大きなストレスを与えていた。
馬の脳はイライラをつのらせ、オペレータの指示を無視して敵の中に飛び込み暴れ回った。完全なロボット兵器ではない事が、馬型の巨人の命取りとなった。
連邦軍は、飛び込んできた巨人を十重二十重に取り囲み、包囲する。そして、肉薄してはゼロ距離で攻撃を仕掛ける。
一発や二発の攻撃を受けただけでは問題はないが、連邦軍のロボット兵器は数の有利を生かして、倒されても壊されても突撃してくるのだ。馬型の巨人は悲鳴を上げるが、それは戦場に木霊するだけだった。
戦況が不利と気付いたオペレータは、馬型の巨人に包囲網を抜け出すように指示を出すが、既に取り囲まれている状況ではそれも不可能であった。
「数の勝利だな」
多脚装甲ロボットに取り付かれ倒れる馬型の巨人に対して、ブルーノ少佐は勝利の笑みを浮かべた。
野戦司令部で、ロボット兵器部隊の補給終了を待っていたイスハークに、巨人が倒されたと報告が上がってきた。
「は、はい。左翼に向かった巨人からの信号が途絶したため、偵察ドローンを向かわせたところ、破壊されていることが…」
「巨人が倒されるとか、あり得ないだろうが!」
「ヒッ」
狼型の巨人が倒されたと報告するオペレータは、テーブルを叩きつけたイスハークの怒声に驚いて小さく悲鳴を上げる。
「残りの三体の方はどうなっている」
「…今のところ順調に進行しています。そろそろ右翼の連邦軍と接触する頃かと」
オペレータは端末を操作して、巨人の進行状況を確認して報告する。
「状況は逐次私の所まで上げるんだ」
「了解しました」
オペレータが席に戻るのを見て、イスハークはため息をついた。
「どんなに強くとも、単騎では勝てない。サトシに『戦いは数だよ』と言ったのは俺じゃないか」
イスハークは、落ち着くために頭を振って深呼吸をする。
「部隊の補給終了まで後どれだけだ?」
「後…十分ください」
必死にロボット兵器の操作を行っているGC社のシステムエンジニアが、悲鳴のような声でイスハークに答えた。
「遅い! あと五分で終わらせろ」
「それではエネルギー補充が完全には終わりません。確実に動作させるには…」
「数はこちらの方が上なのだ、エネルギーは九割もあれば十分だ。それともGC社の兵器は、エネルギーが満タンじゃないと数で劣っている敵に負けるというのか」
「わ、分かりました。九割であれは、あと三分で終わらせます」
「うむ。急がせろ」
イスハークはエンジニアの回答に満足げに頷くと、準備が整うまで戦術モニターに視線を移して、巨人達の状況を見守ることにした。
◇
右翼に向かっていた馬型の巨人は、その突進力を生かして連邦軍を蹂躙していた。
馬型の巨人にもプロテクション・フロム・ミサイルの魔法陣が搭載されており、その力は狼型のものより上であった。レーザー機銃どころか装輪戦車の戦車砲も逸らせるだけの力を持っていた。
連邦軍の部隊に肉薄した馬型の巨人は、その足を使って連邦軍のロボット兵器を蹴飛ばし、踏みつぶす。
「くそっ、大シルチス高原と同じ羽目になるのか…」
連邦軍の右翼を指揮していたブルーノ少佐は、次々と破壊される友軍の情けない姿に唇を噛みしめた。
しかし、そこに届いたのは左翼の部隊が狼型の巨人を撃破したという通信だった。
「左翼の部隊が巨人を倒しただと。それは本当か?」
「はい。狼型の巨人に多脚装甲ロボットを肉薄させて倒したそうです」
「…なるほど、そういうことか。馬型の巨人にも同じ手が使えそうだな」
ブルーノ少佐は、馬型の巨人の姿と動きから対策を思いつく。
「各部隊、良く聞いてくれ。馬型の巨人は突進力はあるが、小回りはきかない。それに高原で戦った巨人ほどの装甲もない。攻撃が当たれば効果はある。遠距離から当たらないなら、近寄って当ててやれば良いんだ。踏みつぶしに来たら、ゼロ距離射撃をお見舞いしてやるんだ!」
そう命令を出すと、各部隊から『了解』と応答が返ってくる。右翼の連邦兵士は、ディビットが狼型の巨人を倒したことで、トラウマを克服しその士気を保っていたのだった。
「左翼の奴らが巨人を倒したんだ」
「俺達だってやれるはずだ」
「今こそ汚名を挽回…じゃなくて、返上するチャンスだ。やってやるぜ」
「マーズリアンに負けるかよ」
巨人は無敵じゃない、倒せるんだ。先の大敗の汚名を返上できると、連邦軍の兵士達は奮闘を始めた。
◇
馬型の巨人のコアは、当然馬の脳が治められていた。元は乗馬用の馬だったそれは、サイボーグ化の適正があったため、脳を摘出されて機動兵器のコアとなった。元は乗馬用だったことあり人の命令を聞き、走り回ることに喜びを感じていた。しかし四足歩行のデータ収集が終わり、機動兵器としての運用試験が始まると、馬の脳にはストレスが溜まるようになった。
馬は草食動物の為、身を守る為に戦うことはあっても、積極的に相手を襲うことはない。走ることだけでなく、命令されたままに攻撃を実行して相手を破壊すると言うことは、馬にとっては耐え難いストレスであった。
そして、馬はもともと感覚の鋭い動物である。それがロボットに組み込まれると、視覚や聴覚は生身であったときよりも敏感となり、触覚、嗅覚、味覚はなくなってしまった。その為、視覚や聴覚に対して過敏とも言える反応を示すようになっていた。
そんな状況で、馬型の巨人は戦場にかり出された。敵から撃たれると、それは視覚や聴覚情報として脳に届けられる。一対一ならまだしも、敵のど真ん中で暴れ回っている状態では、四方八方から攻撃が集中する。魔法により命中することはないが、音は光は大きなストレスとなり、コアの馬の脳に大きなストレスを与えていた。
馬の脳はイライラをつのらせ、オペレータの指示を無視して敵の中に飛び込み暴れ回った。完全なロボット兵器ではない事が、馬型の巨人の命取りとなった。
連邦軍は、飛び込んできた巨人を十重二十重に取り囲み、包囲する。そして、肉薄してはゼロ距離で攻撃を仕掛ける。
一発や二発の攻撃を受けただけでは問題はないが、連邦軍のロボット兵器は数の有利を生かして、倒されても壊されても突撃してくるのだ。馬型の巨人は悲鳴を上げるが、それは戦場に木霊するだけだった。
戦況が不利と気付いたオペレータは、馬型の巨人に包囲網を抜け出すように指示を出すが、既に取り囲まれている状況ではそれも不可能であった。
「数の勝利だな」
多脚装甲ロボットに取り付かれ倒れる馬型の巨人に対して、ブルーノ少佐は勝利の笑みを浮かべた。
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