ゴーレムマスターの愛した人型兵器

お化け屋敷

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第10話:救出

Bパート(1)

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「いや、お前が我が君であるわけはない。貴様は一体何者なのだ」

 サトシは再びレイチェルを押さえつけると、覗き込むようにレイチェルに顔を近づけた。

「クッ、何を私に何をするつもりなの? それに、何者とはどういうことです? 貴方が私を掠わせたんでしょ?」

 突然サトシに顔を近づけられて、「このままではサトシに何かされてしまうのでは」と、レイチェルは激しく動揺、サトシと顔を合わせないように横を向いた。

「質問するのはこちらだ。おい、俺の顔を見るんだ!」

 サトシはレイチェルの顎を掴むと、強引に自分に向きなおさせた。

「一体何を聞きたいというのです。それに貴方の顔を見ろとは…」

 腕を縛られ反撃できない状況では、レイチェルはサトシの顔を見るしかなかった。それでも、レイチェルは精一杯の抵抗のつもりで、サトシの顔を睨み付けた。

 しかしその睨み付けたサトシの顔で眼鏡が怪しく光り始めた。それはほんのわずかな輝きだったが、レイチェルの視線は逸れに釘付けとなった。

「そうだ、そのまま見続けろ」

 サトシがそう叫ぶと、眼鏡の輝きがまるでダイヤモンドに反射する光のようにキラキラと明滅し始めた。レイチェルは、ますますその輝きから目を逸らすことができなくなった。

「これは…一体なに…なので…す?」

 その光は危険だと心が警告を出すが、既に手遅れだった。レイチェルの思考は、次第に霧がかかったように白く閉ざされていった。そしてレイチェルの体から、抵抗する力が抜けていった。

「ふぅ、ようやく暗示にかかったか。ここまで強力な催眠暗示をかけるのは久しぶりだが、上手くいったようだな」

 先ほどまで光り輝いていた眼鏡は、今は普通の眼鏡となっていた。サトシの眼鏡には、人を催眠状態にする機能が付いていたのだ。この力によって、サトシは火星解放戦線のリーダーとなったのだが、そのことを知っている者はいない。
 そのサトシの眼鏡の催眠機能だが、通常は彼への興味や好感度を上げ、発言を受け入れるようにするという効果を発揮している。しかし、魔力マナを込めることで、今のレイチェルのように深い催眠状態にして、サトシの思い通りに操るといった機能も持っていた。
 何故サトシがその様な魔法の道具マジックアイテムを所持しているのか。恐らく彼が"我が君"と呼ぶ人物に関係があるのだろうが、それを知るものはサトシしか居なかった。

 サトシは、レイチェルの抵抗がなくなったのを確認して、彼女を押さえつけるのを止めた。
 催眠術にかかったレイチェルは、まるで人形のようにじっとしており、その目は虚ろであった。
 サトシは、レイチェルを立たせると、手錠を外した。

「しかし、見れば見るほど我が君・・・に似ている…いやその者と言って良い容姿だな。この容姿、我が君が探していた理由もうなずける」

 サトシは、一人納得した様子で頭を振った。

「とにかく、我が君の所に連れて行くしかないが、そう言えばまだ名前すら聞いてなかったな。お前の名前は何というのだ?」

「…レイチェル・エルゼレッドですわ」

 サトシの問いに、レイチェルは抑揚のない声で答える。それこそ、レイチェルがサトシの催眠支配下に入っている証であった。

「レイチェルか、どこかで聞いたような名前だな。…まあ良い。それよりこれからお前は我が君と謁見することになる。だが我が君ソックリのその顔を、他の者に見せるのは不味いな。よし、ヘルメットを被って付いてくるんだ」

「…分かりましたわ」

 サトシに命じられるまま、レイチェルはヘルメットを被る。
 そしてサトシとレイチェルは連れ立って、エグゼクティブルームを後にするのだった。


 ◇


 オリンポス火山の廃坑。迷路のような坑道を通った先に存在する部屋にサトシは再び訪れていた。
 しかし今度はサトシだけではなく、レイチェルを伴っていた。同行者であるレイチェルの歩みは、催眠状態のためか、まるで夢遊病者かゾンビのように、ゆらゆらとしたものだった。

「我が君、お捜しの人物をお連れしました」

 サトシは部屋の奥に向かうと、平安時代の貴族が使っていたような御簾の前に跪いた。その背後にレイチェルは無言で立ち尽くす。

「…」

 御簾の向こうから、サトシに何か意思のようなモノが伝わったのか、彼は頷いた。

ヘリオス首都で巨人を倒した機動兵器のパイロットこそ、我が君がお探しの者である…そう私は思いましたので、お連れしました。おい、我が君の前だ、レイチェル、ヘルメットを脱ぐのだ」

 サトシが命じると、レイチェルはヘルメットを脱いだ。ヘルメットからこぼれる金髪ドリルが、薄暗い部屋にキラキラと光をまき散らした。

「…!?」

 レイチェルの顔を見たのか、御簾の向こうのサトシが我が君と呼ぶ者が驚くのが分かった。

「御覧の通り、この者は我が君とソックリでございます。それこそ、我が君が探していた者の証だと…」

 サトシがそこまで言ったところで、御簾がするすると巻き上がった。

「おお、我が君。やはりこの者でしたか」

 サトシは、我が君の命を果たせたと、顔から笑みがこぼれる。

 だが、

「ちGaウ。こノ者deハNAい。tiガうnoダー」

 サトシに聞こえたのは、我が君の否定の叫びだった。

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