78 / 143
第10話:救出
Aパート(3)
しおりを挟む
ロケットブースターで加速したアルテローゼは、十数分で高度五十キロメートルに達した。ロケットブースターの加速時には、強烈なGがかかるのだが、それはフォーリングコントロールの魔法で軽減され、アイラがそれに耐える必要はない。
弾道軌道に乗ったところで、ロケットブースターは排除され、アルテローゼは無重力状態となった。ロケットブースターでの加速による機体の不調が出るかもと心配指定のだが、現状機体に目立った異常は無かった。
「あれ、何か体がふわふわするね」
ようやく気持ち悪さもなくなり、アイラは元気が出てきたようだった。アイラがシートベルトを外すと、彼女の体は浮き上がった。
『これが無重力というやつか。アイラ、シートベルトを付けておかないと、また気持ち悪くなるぞ』
レイフも無重力状態は初体験であるが、生身ではないため、アイラのように無重力を感じることはできない。レイフは残念に思いながらも、アイラにシートベルトを付けるように注意した。
「ええ、また気持ち悪くなるの。それはやだな~」
アイラは慌ててスティックを握って、体をシートに固定し、シートベルトを締め直した。
『まあ、この光景でも見ておけ』
「うぁ、凄い。これが火星なの? 火星って言うから赤い星だと思っていたのに青くてきれいだね~」
レイフが、モニターに表示した火星の映像にアイラは食いついた。高度五十キロメートルというと、ほとんど大気がない高度である。宇宙と言っても良いその高度から見る火星は、青く綺麗な球体としての姿を見せていた。スラム育ちのアイラはこのような光景を見るのは初めてであり、その映像の迫力に心を奪われていた。
『(これが火星、そして宇宙か。青い星と真っ黒な空というのは、儂も初めて見る光景だな)』
レイフも宇宙を見るのは初めてである。しばし、宇宙の光景に目を奪われていた。
『(ん、あれは何だ。巨大な物が空に浮かんでいるぞ。…あれはもしかして宇宙ステーションという奴か)』
アルテローゼのカメラは、火星の衛星軌道上に白いドーナツ状の巨大建造物を捉えていた。それは地球~火星の定期便が停泊する宇宙ステーションであった。今は定期便が来ていないため、ステーションは最小限の人員しかいないはずだった。
『(あれは、何だ?)』
レイフは、その白いドーナツに、データにない鉛筆状の物体が刺さっているのを発見した。もちろん、刺さっていると言ってもリングの中央の穴の部分にである。
『(あれはもしかして、宇宙船という物か? しかし、データベースには無い形だが…いや、あったぞ。あれは木星宇宙軍の船か)』
どうやら木星宇宙軍の宇宙船は、宇宙ステーションに接舷している様であった。
『(空気の無い虚空で、あのような物を作り上げ、そして星と星を行き来する船が存在する。この世界の技術は、魔法と引けを取らぬほど凄い。儂もいつかここに乗り出してみたいものだ)』
初めて見る宇宙、そして宇宙ステーションと宇宙船に、レイフの目は釘付けとなった。もしここでレイフが、木星宇宙軍の宇宙船がステーションにたどり着いていることをヴィクターに伝えていれば、事態はまた異なった様子を見せたのだが、神ならぬ身であるレイフにはそんな事は分からなかった。
そしてアルテローゼが十数分の宇宙の旅が終えると、機体はオリンポスに向かって降下していった。
◇
誘拐されたレイチェルは、潜水艦が港に寄港してしばらくすると、彼女を拉致した革命軍の兵士に達よって潜水艦から港に連れ出された。
「どこに連れて行くつもりですの」
「我ら火星革命戦線のリーダー、サトシが君に会いたいと言っているのだ。おとなしく付いてくるのだ」
「嫌ですわ。どうして私がそのサトシとやらに会う必要があるのです」
「それについては、サトシに聞いてくれ」
兵士はレイチェルにヘルメットを被せると、車に乗せた。リーダーと大柄な男性兵士が、車に乗り込む。他のメンバーはここでお別れのようだった。
車は発進すると、港からオリンポス市内に入り、真っ直ぐにオリンポス行政ビルに向かっていった。
「(行政ビルに革命軍の基地があるのですか?)」
行政ビルと言えば連邦政府の施設である。そこに革命軍の基地があることに、レイチェルは驚かされるのだった。
革命軍兵士の検問を何度か抜けると、行政ビルにたどり付く。パイロットスーツを着たレイチェルは周りの注目を浴びる。しかしリーダーはそんな視線を無視して、レイチェルを最上階のエグゼクティブルームに連れて行った。
「連邦軍の機動兵器のパイロットを連れて参りました」
「御苦労だった。これで君たちの任務は完了だ。…そうだ、任務成功の報償といっては何だが、ここのラウンジを自由に使ってくれたまえ」
「はつ、ありがとうございます。ですが、我々は再び潜水艦で首都に戻る予定ですので、ここで失礼させていただきます」
「まじめなことだな。まあ、君たちの好きにしたまえ」
リーダーはサトシに敬礼すると、名残惜しそうな顔をしている大柄な男性兵士を引き連れて、部屋を出て行った。
そして、エグゼクティブルームに残されたのは、サトシとレイチェルだけとなった。
「(彼が、革命軍のリーダー、サトシですか)」
エグゼクティブルームに入ってから、レイチェルは、サトシの顔を睨みつけていた。何しろ彼は多くの人をテロや戦闘で殺した革命軍のリーダーである。レイチェルにとっては憎い敵なのだ。しかしヘルメット越しに睨んでいるため、そのレイチェルの視線にサトシは気づいてはいなかった。
二人が部屋を出て行った後、サトシはレイチェルに近付いた。サトシは、ヘルメットを脱がせようとしただけなのだが、そんな事はレイチェルには分からなかった。
「(近寄らないで!)」
「ヘルメットを取って顔を見せてもらうだけだ」
身の危険を感じ、身を捩って逃れようとするレイチェルと近寄るサトシ。二人の脚がもつれ合い、床に倒れ込んでしまった。
カラ、カラ、カラ
倒れた拍子に、ヘルメットが脱げてしまった。
ヘルメットからこぼれ落ちる金髪ドリル。
「くっ!」
サトシに組み敷かれる形となったレイチェルは、顔を横に背けた。
「君がパイロットなのか? 失礼した、私はヘルメットを取ろうとしただけなのだ……」
サトシは慌てて体を起こして、レイチェルを立たせようとした。そのときレイチェルの顔を見た途端、サトシの動きが止まった。
「我が君?」
「へっ?」
サトシの呟きに、レイチェルは少し間抜けな返答を返してしまった。
弾道軌道に乗ったところで、ロケットブースターは排除され、アルテローゼは無重力状態となった。ロケットブースターでの加速による機体の不調が出るかもと心配指定のだが、現状機体に目立った異常は無かった。
「あれ、何か体がふわふわするね」
ようやく気持ち悪さもなくなり、アイラは元気が出てきたようだった。アイラがシートベルトを外すと、彼女の体は浮き上がった。
『これが無重力というやつか。アイラ、シートベルトを付けておかないと、また気持ち悪くなるぞ』
レイフも無重力状態は初体験であるが、生身ではないため、アイラのように無重力を感じることはできない。レイフは残念に思いながらも、アイラにシートベルトを付けるように注意した。
「ええ、また気持ち悪くなるの。それはやだな~」
アイラは慌ててスティックを握って、体をシートに固定し、シートベルトを締め直した。
『まあ、この光景でも見ておけ』
「うぁ、凄い。これが火星なの? 火星って言うから赤い星だと思っていたのに青くてきれいだね~」
レイフが、モニターに表示した火星の映像にアイラは食いついた。高度五十キロメートルというと、ほとんど大気がない高度である。宇宙と言っても良いその高度から見る火星は、青く綺麗な球体としての姿を見せていた。スラム育ちのアイラはこのような光景を見るのは初めてであり、その映像の迫力に心を奪われていた。
『(これが火星、そして宇宙か。青い星と真っ黒な空というのは、儂も初めて見る光景だな)』
レイフも宇宙を見るのは初めてである。しばし、宇宙の光景に目を奪われていた。
『(ん、あれは何だ。巨大な物が空に浮かんでいるぞ。…あれはもしかして宇宙ステーションという奴か)』
アルテローゼのカメラは、火星の衛星軌道上に白いドーナツ状の巨大建造物を捉えていた。それは地球~火星の定期便が停泊する宇宙ステーションであった。今は定期便が来ていないため、ステーションは最小限の人員しかいないはずだった。
『(あれは、何だ?)』
レイフは、その白いドーナツに、データにない鉛筆状の物体が刺さっているのを発見した。もちろん、刺さっていると言ってもリングの中央の穴の部分にである。
『(あれはもしかして、宇宙船という物か? しかし、データベースには無い形だが…いや、あったぞ。あれは木星宇宙軍の船か)』
どうやら木星宇宙軍の宇宙船は、宇宙ステーションに接舷している様であった。
『(空気の無い虚空で、あのような物を作り上げ、そして星と星を行き来する船が存在する。この世界の技術は、魔法と引けを取らぬほど凄い。儂もいつかここに乗り出してみたいものだ)』
初めて見る宇宙、そして宇宙ステーションと宇宙船に、レイフの目は釘付けとなった。もしここでレイフが、木星宇宙軍の宇宙船がステーションにたどり着いていることをヴィクターに伝えていれば、事態はまた異なった様子を見せたのだが、神ならぬ身であるレイフにはそんな事は分からなかった。
そしてアルテローゼが十数分の宇宙の旅が終えると、機体はオリンポスに向かって降下していった。
◇
誘拐されたレイチェルは、潜水艦が港に寄港してしばらくすると、彼女を拉致した革命軍の兵士に達よって潜水艦から港に連れ出された。
「どこに連れて行くつもりですの」
「我ら火星革命戦線のリーダー、サトシが君に会いたいと言っているのだ。おとなしく付いてくるのだ」
「嫌ですわ。どうして私がそのサトシとやらに会う必要があるのです」
「それについては、サトシに聞いてくれ」
兵士はレイチェルにヘルメットを被せると、車に乗せた。リーダーと大柄な男性兵士が、車に乗り込む。他のメンバーはここでお別れのようだった。
車は発進すると、港からオリンポス市内に入り、真っ直ぐにオリンポス行政ビルに向かっていった。
「(行政ビルに革命軍の基地があるのですか?)」
行政ビルと言えば連邦政府の施設である。そこに革命軍の基地があることに、レイチェルは驚かされるのだった。
革命軍兵士の検問を何度か抜けると、行政ビルにたどり付く。パイロットスーツを着たレイチェルは周りの注目を浴びる。しかしリーダーはそんな視線を無視して、レイチェルを最上階のエグゼクティブルームに連れて行った。
「連邦軍の機動兵器のパイロットを連れて参りました」
「御苦労だった。これで君たちの任務は完了だ。…そうだ、任務成功の報償といっては何だが、ここのラウンジを自由に使ってくれたまえ」
「はつ、ありがとうございます。ですが、我々は再び潜水艦で首都に戻る予定ですので、ここで失礼させていただきます」
「まじめなことだな。まあ、君たちの好きにしたまえ」
リーダーはサトシに敬礼すると、名残惜しそうな顔をしている大柄な男性兵士を引き連れて、部屋を出て行った。
そして、エグゼクティブルームに残されたのは、サトシとレイチェルだけとなった。
「(彼が、革命軍のリーダー、サトシですか)」
エグゼクティブルームに入ってから、レイチェルは、サトシの顔を睨みつけていた。何しろ彼は多くの人をテロや戦闘で殺した革命軍のリーダーである。レイチェルにとっては憎い敵なのだ。しかしヘルメット越しに睨んでいるため、そのレイチェルの視線にサトシは気づいてはいなかった。
二人が部屋を出て行った後、サトシはレイチェルに近付いた。サトシは、ヘルメットを脱がせようとしただけなのだが、そんな事はレイチェルには分からなかった。
「(近寄らないで!)」
「ヘルメットを取って顔を見せてもらうだけだ」
身の危険を感じ、身を捩って逃れようとするレイチェルと近寄るサトシ。二人の脚がもつれ合い、床に倒れ込んでしまった。
カラ、カラ、カラ
倒れた拍子に、ヘルメットが脱げてしまった。
ヘルメットからこぼれ落ちる金髪ドリル。
「くっ!」
サトシに組み敷かれる形となったレイチェルは、顔を横に背けた。
「君がパイロットなのか? 失礼した、私はヘルメットを取ろうとしただけなのだ……」
サトシは慌てて体を起こして、レイチェルを立たせようとした。そのときレイチェルの顔を見た途端、サトシの動きが止まった。
「我が君?」
「へっ?」
サトシの呟きに、レイチェルは少し間抜けな返答を返してしまった。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
我ら新興文明保護艦隊
ビーデシオン
SF
もしも道行く野良猫が、百戦錬磨の獣戦士だったら?
もしも冴えないサラリーマンが、戦争上がりのアンドロイドだったら?
これは、実際にそんな空想めいた素性をもって、陰ながら地球を守っているエージェントたちのお話。
※表紙絵はひのたけきょー(@HinotakeDaYo)様より頂きました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる