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第10話:救出

Aパート(3)

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 ロケットブースターで加速したアルテローゼは、十数分で高度五十キロメートルに達した。ロケットブースターの加速時には、強烈なGがかかるのだが、それはフォーリングコントロールの魔法で軽減され、アイラがそれに耐える必要はない。
 弾道軌道に乗ったところで、ロケットブースターは排除され、アルテローゼは無重力状態となった。ロケットブースターでの加速による機体の不調が出るかもと心配指定のだが、現状機体に目立った異常は無かった。

「あれ、何か体がふわふわするね」

 ようやく気持ち悪さもなくなり、アイラは元気が出てきたようだった。アイラがシートベルトを外すと、彼女の体は浮き上がった。

『これが無重力というやつか。アイラ、シートベルトを付けておかないと、また気持ち悪くなるぞ』

 レイフも無重力状態は初体験であるが、生身ではないため、アイラのように無重力を感じることはできない。レイフは残念に思いながらも、アイラにシートベルトを付けるように注意した。

「ええ、また気持ち悪くなるの。それはやだな~」

 アイラは慌ててスティック操縦桿を握って、体をシートに固定し、シートベルトを締め直した。

『まあ、この光景でも見ておけ』

「うぁ、凄い。これが火星なの? 火星って言うから赤い星だと思っていたのに青くてきれいだね~」

 レイフが、モニターに表示した火星の映像にアイラは食いついた。高度五十キロメートルというと、ほとんど大気がない高度である。宇宙と言っても良いその高度から見る火星は、青く綺麗な球体としての姿を見せていた。スラム育ちのアイラはこのような光景を見るのは初めてであり、その映像の迫力に心を奪われていた。

『(これが火星、そして宇宙か。青い星と真っ黒な空というのは、儂も初めて見る光景だな)』

 レイフも宇宙を見るのは初めてである。しばし、宇宙の光景に目を奪われていた。

『(ん、あれは何だ。巨大な物が空に浮かんでいるぞ。…あれはもしかして宇宙ステーションという奴か)』

 アルテローゼレイフカメラは、火星の衛星軌道上に白いドーナツ状の巨大建造物を捉えていた。それは地球~火星の定期便が停泊する宇宙ステーションであった。今は定期便が来ていないため、ステーションは最小限の人員しかいないはずだった。

『(あれは、何だ?)』

 レイフは、その白いドーナツ宇宙ステーションに、データにない鉛筆状の物体が刺さっているのを発見した。もちろん、刺さっていると言ってもリングの中央の穴の部分にである。

『(あれはもしかして、宇宙船という物か? しかし、データベースには無い形だが…いや、あったぞ。あれは木星宇宙軍・・・・・の船か)』

 どうやら木星宇宙軍の宇宙船は、宇宙ステーションに接舷せつげんしている様であった。

『(空気の無い虚空で、あのような物を作り上げ、そして星と星を行き来する船が存在する。この世界の技術は、魔法と引けを取らぬほど凄い。儂もいつかここ宇宙に乗り出してみたいものだ)』

 初めて見る宇宙、そして宇宙ステーションと宇宙船に、レイフの目は釘付けとなった。もしここでレイフが、木星宇宙軍の宇宙船がステーションにたどり着いていることをヴィクターに伝えていれば、事態はまた異なった様子を見せたのだが、神ならぬ身であるレイフにはそんな事は分からなかった。

 そしてアルテローゼレイフが十数分の宇宙の旅が終えると、機体はオリンポスに向かって降下していった。





 誘拐されたレイチェルは、潜水艦が港に寄港してしばらくすると、彼女を拉致した革命軍の兵士に達よって潜水艦から港に連れ出された。

「どこに連れて行くつもりですの」

「我ら火星革命戦線のリーダー、サトシが君に会いたいと言っているのだ。おとなしく付いてくるのだ」

「嫌ですわ。どうして私がそのサトシとやらに会う必要があるのです」

「それについては、サトシに聞いてくれ」

 兵士はレイチェルにヘルメットを被せると、車に乗せた。リーダーと大柄な男性兵士が、車に乗り込む。他のメンバーはここでお別れのようだった。

 車は発進すると、港からオリンポス市内に入り、真っ直ぐにオリンポス行政ビルサッカーボールに向かっていった。

「(行政ビルに革命軍の基地があるのですか?)」

 行政ビルと言えば連邦政府の施設である。そこに革命軍の基地があることに、レイチェルは驚かされるのだった。

 革命軍兵士の検問を何度か抜けると、行政ビルにたどり付く。パイロットスーツを着たレイチェルは周りの注目を浴びる。しかしリーダーはそんな視線を無視して、レイチェルを最上階のエグゼクティブルームに連れて行った。

「連邦軍の機動兵器のパイロットを連れて参りました」

「御苦労だった。これで君たちの任務は完了だ。…そうだ、任務成功の報償といっては何だが、ここのラウンジを自由に使ってくれたまえ」

「はつ、ありがとうございます。ですが、我々は再び潜水艦で首都に戻る予定ですので、ここで失礼させていただきます」

「まじめなことだな。まあ、君たちの好きにしたまえ」

 リーダーはサトシに敬礼すると、名残惜しそうな顔をしている大柄な男性兵士を引き連れて、部屋を出て行った。

 そして、エグゼクティブルームに残されたのは、サトシとレイチェルだけとなった。

「(彼が、革命軍のリーダー、サトシですか)」

 エグゼクティブルームに入ってから、レイチェルは、サトシの顔を睨みつけていた。何しろ彼は多くの人をテロや戦闘で殺した革命軍のリーダーである。レイチェルにとっては憎い敵なのだ。しかしヘルメット越しに睨んでいるため、そのレイチェルの視線にサトシは気づいてはいなかった。

 二人が部屋を出て行った後、サトシはレイチェルに近付いた。サトシは、ヘルメットを脱がせようとしただけなのだが、そんな事はレイチェルには分からなかった。

「(近寄らないで!)」

「ヘルメットを取って顔を見せてもらうだけだ」

 身の危険を感じ、身を捩って逃れようとするレイチェルと近寄るサトシ。二人の脚がもつれ合い、床に倒れ込んでしまった。

 カラ、カラ、カラ

 倒れた拍子に、ヘルメットが脱げてしまった。

 ヘルメットからこぼれ落ちる金髪ドリル。

「くっ!」

 サトシに組み敷かれる形となったレイチェルは、顔を横に背けた。

「君がパイロットなのか? 失礼した、私はヘルメットを取ろうとしただけなのだ……」

 サトシは慌てて体を起こして、レイチェルを立たせようとした。そのときレイチェルの顔を見た途端、サトシの動きが止まった。

「我が君?」

「へっ?」

 サトシの呟きに、レイチェルは少し間抜けな返答を返してしまった。

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