65 / 143
第8話:拉致
Bパート(2)
しおりを挟む
アイラを人質にされ、抵抗できなくなったレイチェルは、手錠をかけられた。アイラは眠っている間に毛布でグルグルと簀巻きにされてしまった。
アイラは途中で目を覚まして、「な、なんだよお前達は」と騒ぎ立てたが、
「我々は、火星革命戦線のメンバーだ。サトシの命令で任務を遂行中だ」
とリーダーが言うと、おとなしくなってしまった。
「あたいを助けに来てくれたの?」
「いや、この娘の確保が任務だ。お前については、サトシから特に何も聞いてない。大体、お前がこの船に乗っていたことは、想定外なのだ。とにかく我々の邪魔をしないようにしていろ」
とリーダーは冷たくアイラにそう言った。
「そんな、サトシはあたいのことを見捨てたの…」
アイラは、サトシに見捨てられたと感じたのか、うなだれてしまった。
歩く気力も無く、人形のように立ち尽くすアイラは、簀巻きの状態のまま大柄な男性メンバーの肩に担がれてしまった。
「あと少しで火星タコがこの船に取り付く。そのタイミングでこの船から脱出するぞ」
「了解」x4
リーダーは手のウォッチ型端末を見て、全員に脱出タイミングを伝える。
「一体どうやってこの船から脱出するおつもりなのかしら? もしかして救命ボートを使うつもりなのかしら。よるの海にあんな小舟で乗り出すとか、危険ですわよ」
「ふふ、救命ボートで逃げ出してどうする。あっという間に追いつかれてしまうだろ」
「では、一体どうやって逃げ出すのかしら」
「それは見てのお楽しみだ」
リーダーは、薄笑いを浮かべてレイチェルの質問をはぐらかした。
「(脱出には、何か特別な手段を準備していると言うことなのかしら。でもそんな物があれば、レイフや武装偵察小隊の方達が見逃すわけはないと思うのですが…)」
レイチェルは、リーダーの自信ありげな態度を不審に感じた。レイフは別格としても、ちゃらんぽらんに見える武装偵察小隊のメンバーは、意外にも兵士としての能力は高いのだ。彼らが愚連隊扱いされているのは上司への不服従が原因であり、そんな兵士であっても軍隊にとどめておくほど、小隊の面々は、各分野でのスペシャリストである。そんな彼らが見通しのよい海上で敵を見逃すとは思えなかった。
「そろそろお喋りの時間は終わりだな。ヘルメットの通信機は壊したな、よしヘルメットを被らせろ」
パイロットスーツのヘルメットは、通信できないように細工されてしまった。機密性の高いヘルメットを被ってしまうと、声が外に聞こえなくなってしまった。これでは部屋を出て声を上げてもレイフに声は届かないだろう。
「(レイフ、どうすれば良いの)」
状況は、レイチェルにとってどんどん不利な方向に進んでいくが、彼女には打てる手がなかった。
◇
『(ええい、レイチェルは何をやっているんだ。幾ら女性の準備が遅いと言っても、限度があるぞ)』
アルテローゼの中で、レイフはなかなかレイチェルが来ないことに焦りを覚えていた。何しろ船に近づいてくるのはあのクラーケンである。もしレイフの知っている魔獣のクラーケンであれば、この鉄の船とて簡単に沈められてしまうのだ。
『ホァンに任せず、儂が整備用ロボットを操って、行くべきだった』
アルテローゼはそう言って、手近の整備用ロボットを操ろうとしたところで、そのロボットがいなくなっていることに気づいた。
『ん、整備用ロボットは、何処に消えた。それにマーズ海運会社の社員達も何時の間にかいなくなっているぞ』
火星タコとレイチェルに気を取られている間に、つい先ほどまでアルテローゼの装備状況をチェックしていた、マーズ海運会社の社員の姿も見えなくなっていた。
『もしかして火星タコとの戦いが始まるから、船室に戻ったのか?』
レイフが、社員達の動きをモニターすると、彼らは艦橋に向かっていた。
『事前の打ち合わせでは、火星タコとの戦いの間は船室に待機する手はずになっていたはずだが。あの者達の動きは、何かおかしいぞ』
レイフは、社員達のその動きに不審な物を感じとった。監視カメラでその姿を捉えると、彼らは銃を持って、艦橋に向かう通路を走っていた。
『これは、もしかして反乱…いや彼奴らはもしかして革命軍なのか? ディビット、今艦橋に敵が向かっている。何とかするんだ』
「はぁ、敵って火星タコが来るのは分かってるぞ。レイフは何を言ってるんだ?」
「火星タコが向かっているのは分かってるって。レイチェルさんはまだなのか?」
ディビット達は、敵=火星タコと勘違いしているようで、レイフの忠告に「何言ってるんだ?」という対応であった。
『とにかく、これを見るんだ』
「ん? どうして社員の人達が…って、彼奴ら銃を持っているじゃないか」
「え、マジ?」
「あちゃ、ディビットがカードでカモったから、怒ったんじゃないの?」
「馬鹿なこと言ってる場合じゃないぞ。多分アイツら革命軍だ。マーズ海運会社は革命軍に協力していたんだよ」
レイフは、艦橋のモニターに監視カメラの画像を流す。それを見たディビット達は、社員達が実は革命軍の兵士であることにようやく気づいた。
『儂が緊急隔壁を下ろす。しかし、隔壁を手動で解除するのは、AIから止められないが、時間稼ぎにはなるだろう。それまでに火星タコを何とかする方法を考えてくれ』
レイフは、そうディビットに伝えると、艦橋に続く通路の隔壁を閉じるようにAIに命令する。
『なっ、閉まらないだと』
一体どのような仕掛けをされたのか、隔壁はAIからの支持に反応しなかった。
「なんてこった。こりゃ、ハードウェアに色々細工されているじゃないか」
ディビットが監視カメラの画像を見て、隔壁の制御コンソールが細工されている事に気づいた。しかも、レイフはディビットに気付かれないように、隔壁を閉めようとするまでAIに警告が出ないような凝った細工がなされていた。マーズ海運会社から艦船に詳しいと紹介されていたが、確かに彼等はその手のエキスパートだったようだ。
『うーむ、その手の仕掛けでは儂にはお手上げだな』
レイフはAIを制御することはできても、この世界のハードウェアに詳しくはないため、そのことに気づけなかった。ディビットがチェックしていればそれに気づけたのだろうが、彼は巡視船の制御にかかり切りで、それをマーズ海運会社の社員達に任せていた。その社員達が小細工をしたのであれば、たとえAIが指揮下にあっても気づかないのは当然であった。
「これはまずいな、このままじゃ直ぐに艦橋にやってくるぞ。艦橋のドアは…さすがに細工されていないか。取りあえずロックしたが、何時まで持ちこたえられるか分からないぞ」
艦橋の前にたどり着いた革命軍の兵士は、ドアがロックされていることに気づく。しかしそのことも彼らは予想済みで、用意していたレーザーカッター取り出し、ドアの切断を開始した。軍艦のドアは頑丈だが、レーザーカッターの切断に耐えられるだけの強度はない。つまり、ドアが破壊されるのは時間の問題と言うことだった。
「まさか、生身で戦う羽目になるとはな~」
「これを撃つのは、新兵の訓練以来じゃないか?」
「トホホ、拳銃の残弾殆ど無いぞ」
ディビット達は、護身用の拳銃を持っていた。それを抜くと椅子やコンソールの影に隠れて、ドアが焼き切られ、革命軍が入ってくるのを今かと待ち構えることになった。
◇
その頃、レイチェルを迎えに行ったホァンは、もう少しで船長室にたどり着くところだった。
「レイチェルさんは、何をしてるのかな~。もしかしてまだ着替え中とか…。背中のファスナーが上がらないのなら僕がお手伝いしますよ~」
何も知らないホァンは、脳天気にそんな事を考えていた。ちなみに、パイロットスーツに背中のファスナーはない。
浮かれている彼は、そのままノックもせずに船長室のドアを開いた。ホァンは、ドアがロックされていると分かっていたのだが、もしかしてというスケベ心で、手が勝手に動いてしまったのだ。
「あれ、開いちゃった? って、皆さん、何をやってるんですか?」
ドアが開いたことに驚いたホァンは、そこでレイチェルを拘束してる社員達改め革命軍の兵士と相対する。
火星タコが船に取り付いてから、船長室を出るという計画であった兵士達は、突然現れたホァンに驚いた。レイフに気づかれないように船長室に閉じこもっていたため、ホァンの接近に全く気づいていなかったのだ。
真っ先に行動したのは、レイチェルだった。彼女はアイラを抱えていた巨漢の男に、体当たりと足払いをかけて引き倒した。
「うぉっ」とうめき声を上げて倒れる巨漢の男は、女性と若い男性を巻き込んで倒れ込む。そして巨漢の男に抱えられていたアイラは、簀巻き状態から解放されると、レイチェルの前に転がった。
「(アイラちゃん、お願い。レイフの、アルテローゼの所に向かって!)」
レイチェルはヘルメットを被っているため、声は他の人には全く聞こえなかった。しかし、常人より耳の良いアイラには、ハッキリと聞こえた。
「あたいは、革命軍なんだよ」
アイラは、サトシに見捨てられたが、まだ自分は革命軍と思っていた。だか、そこで再びサトシに見捨てられた事に思い至り、目から光が消えていく。
「(おねがい、このままじゃ船が沈んでしまいますわ。それでアルテローゼが、いえレイフがいなくなったら、ガオガオも復活できないのよ!)」
「ガオガオ……」
しかし、ガオガオというレイチェルの言葉に、アイラの瞳に光が戻ってくる。アイラにとってガオガオは、サトシ以上に大事な存在だった。
「(アイラちゃん、お願い、アルテローゼとこの船を守って)」
「分かったよ。金髪ドリル、あたいは行くよ。でもこれは、ガオガオのためだからね」
意思を取り戻したアイラは、獣のように四つん這いになり、ドアに向かって走り出した。その姿は、猫、いやガオガオを彷彿とさせる素早いものだった。
「待て、アイラ。我々を裏切るのか」
リーダーがアイラにそう問いかけるが、彼女は振り返ることもなく、ホァンを突き飛ばして船長室を出て行った。もちろんアイラの向かう先は、アルテローゼのいるヘリ甲板である。
そして、残されたホァンは、
「降参します」
リーダー達に銃を突きつけられて、両手を挙げ投降の意思を示していた。
◇
『レイチェルが、狙われた?。社員達の目的は最初からレイチェルだったのか。何故アルテローゼではなく、レイチェルを狙うのだ?』
船長室付近の監視カメラの映像から、レイフはようやくレイチェルが狙われていたことに気づいた。しかし、それに気づいたとしても、操る整備用ロボットもなく、アルテローゼも動けない状態であるレイフに打つ手はなかった。
『このままでは、不味い。しかも火星タコは…もう取り付いたぞ』
そして、更に状況は悪化する。ついに火星タコが船に取り付いたのだ。火星タコは、触手を伸ばすと巡視船の船首に貼り付けて甲板に乗り上げてくる。その力は強く、艦首にあった機関砲が瞬く間に鉄くずに変わってしまった。しかしディビット達は、艦橋に向かった兵士の相手で手一杯であり、何も手を打てない。
このまま、巡視船は破壊され、アルテローゼも海に沈んでしまうのか…。
しかし、この危機的状況を乗り切るための鍵があった。
「ジャジャーン、やってきたよ~」
獣のように四つ足で走ってきたアイラが、かけ声と共にヘリ甲板に現れた。
そう、その鍵とはレイチェルによって逃がされたアイラであった。
『(まだこの娘が信用できるとは分からぬが、今は仕方ない) 待っていたぞ。アイラ、早くコクピットに乗り込むんだ』
「分かったよ~」
レイフに急かされ、アイラはアルテローゼのコクピットに乗り込む。アルテローゼのシートは、アイラの小柄な体格に合わせて最適なサイズに変化していく。
『アイラ、スティックを握るんだ』
「分かってるよ」
アイラがスティックを握ると、レイフはアルテローゼの機体を起動させる。レイチェルがコクピットに座らなければ正常に動作しないはずの機体が、レイフの思い通りに動き始める。
そう、アイラは、アルテローゼを正常に動かすことのできる二人目のパイロットだったのだ。
『さて、アイラ。まずはクラーケンを始末して、巡視船を救うぞ』
「それから金髪ドリルをたすけるんだよね」
二人の思いが一致すると、マリンフォームに変形したアルテローゼは、海に飛び込んだ。
アイラは途中で目を覚まして、「な、なんだよお前達は」と騒ぎ立てたが、
「我々は、火星革命戦線のメンバーだ。サトシの命令で任務を遂行中だ」
とリーダーが言うと、おとなしくなってしまった。
「あたいを助けに来てくれたの?」
「いや、この娘の確保が任務だ。お前については、サトシから特に何も聞いてない。大体、お前がこの船に乗っていたことは、想定外なのだ。とにかく我々の邪魔をしないようにしていろ」
とリーダーは冷たくアイラにそう言った。
「そんな、サトシはあたいのことを見捨てたの…」
アイラは、サトシに見捨てられたと感じたのか、うなだれてしまった。
歩く気力も無く、人形のように立ち尽くすアイラは、簀巻きの状態のまま大柄な男性メンバーの肩に担がれてしまった。
「あと少しで火星タコがこの船に取り付く。そのタイミングでこの船から脱出するぞ」
「了解」x4
リーダーは手のウォッチ型端末を見て、全員に脱出タイミングを伝える。
「一体どうやってこの船から脱出するおつもりなのかしら? もしかして救命ボートを使うつもりなのかしら。よるの海にあんな小舟で乗り出すとか、危険ですわよ」
「ふふ、救命ボートで逃げ出してどうする。あっという間に追いつかれてしまうだろ」
「では、一体どうやって逃げ出すのかしら」
「それは見てのお楽しみだ」
リーダーは、薄笑いを浮かべてレイチェルの質問をはぐらかした。
「(脱出には、何か特別な手段を準備していると言うことなのかしら。でもそんな物があれば、レイフや武装偵察小隊の方達が見逃すわけはないと思うのですが…)」
レイチェルは、リーダーの自信ありげな態度を不審に感じた。レイフは別格としても、ちゃらんぽらんに見える武装偵察小隊のメンバーは、意外にも兵士としての能力は高いのだ。彼らが愚連隊扱いされているのは上司への不服従が原因であり、そんな兵士であっても軍隊にとどめておくほど、小隊の面々は、各分野でのスペシャリストである。そんな彼らが見通しのよい海上で敵を見逃すとは思えなかった。
「そろそろお喋りの時間は終わりだな。ヘルメットの通信機は壊したな、よしヘルメットを被らせろ」
パイロットスーツのヘルメットは、通信できないように細工されてしまった。機密性の高いヘルメットを被ってしまうと、声が外に聞こえなくなってしまった。これでは部屋を出て声を上げてもレイフに声は届かないだろう。
「(レイフ、どうすれば良いの)」
状況は、レイチェルにとってどんどん不利な方向に進んでいくが、彼女には打てる手がなかった。
◇
『(ええい、レイチェルは何をやっているんだ。幾ら女性の準備が遅いと言っても、限度があるぞ)』
アルテローゼの中で、レイフはなかなかレイチェルが来ないことに焦りを覚えていた。何しろ船に近づいてくるのはあのクラーケンである。もしレイフの知っている魔獣のクラーケンであれば、この鉄の船とて簡単に沈められてしまうのだ。
『ホァンに任せず、儂が整備用ロボットを操って、行くべきだった』
アルテローゼはそう言って、手近の整備用ロボットを操ろうとしたところで、そのロボットがいなくなっていることに気づいた。
『ん、整備用ロボットは、何処に消えた。それにマーズ海運会社の社員達も何時の間にかいなくなっているぞ』
火星タコとレイチェルに気を取られている間に、つい先ほどまでアルテローゼの装備状況をチェックしていた、マーズ海運会社の社員の姿も見えなくなっていた。
『もしかして火星タコとの戦いが始まるから、船室に戻ったのか?』
レイフが、社員達の動きをモニターすると、彼らは艦橋に向かっていた。
『事前の打ち合わせでは、火星タコとの戦いの間は船室に待機する手はずになっていたはずだが。あの者達の動きは、何かおかしいぞ』
レイフは、社員達のその動きに不審な物を感じとった。監視カメラでその姿を捉えると、彼らは銃を持って、艦橋に向かう通路を走っていた。
『これは、もしかして反乱…いや彼奴らはもしかして革命軍なのか? ディビット、今艦橋に敵が向かっている。何とかするんだ』
「はぁ、敵って火星タコが来るのは分かってるぞ。レイフは何を言ってるんだ?」
「火星タコが向かっているのは分かってるって。レイチェルさんはまだなのか?」
ディビット達は、敵=火星タコと勘違いしているようで、レイフの忠告に「何言ってるんだ?」という対応であった。
『とにかく、これを見るんだ』
「ん? どうして社員の人達が…って、彼奴ら銃を持っているじゃないか」
「え、マジ?」
「あちゃ、ディビットがカードでカモったから、怒ったんじゃないの?」
「馬鹿なこと言ってる場合じゃないぞ。多分アイツら革命軍だ。マーズ海運会社は革命軍に協力していたんだよ」
レイフは、艦橋のモニターに監視カメラの画像を流す。それを見たディビット達は、社員達が実は革命軍の兵士であることにようやく気づいた。
『儂が緊急隔壁を下ろす。しかし、隔壁を手動で解除するのは、AIから止められないが、時間稼ぎにはなるだろう。それまでに火星タコを何とかする方法を考えてくれ』
レイフは、そうディビットに伝えると、艦橋に続く通路の隔壁を閉じるようにAIに命令する。
『なっ、閉まらないだと』
一体どのような仕掛けをされたのか、隔壁はAIからの支持に反応しなかった。
「なんてこった。こりゃ、ハードウェアに色々細工されているじゃないか」
ディビットが監視カメラの画像を見て、隔壁の制御コンソールが細工されている事に気づいた。しかも、レイフはディビットに気付かれないように、隔壁を閉めようとするまでAIに警告が出ないような凝った細工がなされていた。マーズ海運会社から艦船に詳しいと紹介されていたが、確かに彼等はその手のエキスパートだったようだ。
『うーむ、その手の仕掛けでは儂にはお手上げだな』
レイフはAIを制御することはできても、この世界のハードウェアに詳しくはないため、そのことに気づけなかった。ディビットがチェックしていればそれに気づけたのだろうが、彼は巡視船の制御にかかり切りで、それをマーズ海運会社の社員達に任せていた。その社員達が小細工をしたのであれば、たとえAIが指揮下にあっても気づかないのは当然であった。
「これはまずいな、このままじゃ直ぐに艦橋にやってくるぞ。艦橋のドアは…さすがに細工されていないか。取りあえずロックしたが、何時まで持ちこたえられるか分からないぞ」
艦橋の前にたどり着いた革命軍の兵士は、ドアがロックされていることに気づく。しかしそのことも彼らは予想済みで、用意していたレーザーカッター取り出し、ドアの切断を開始した。軍艦のドアは頑丈だが、レーザーカッターの切断に耐えられるだけの強度はない。つまり、ドアが破壊されるのは時間の問題と言うことだった。
「まさか、生身で戦う羽目になるとはな~」
「これを撃つのは、新兵の訓練以来じゃないか?」
「トホホ、拳銃の残弾殆ど無いぞ」
ディビット達は、護身用の拳銃を持っていた。それを抜くと椅子やコンソールの影に隠れて、ドアが焼き切られ、革命軍が入ってくるのを今かと待ち構えることになった。
◇
その頃、レイチェルを迎えに行ったホァンは、もう少しで船長室にたどり着くところだった。
「レイチェルさんは、何をしてるのかな~。もしかしてまだ着替え中とか…。背中のファスナーが上がらないのなら僕がお手伝いしますよ~」
何も知らないホァンは、脳天気にそんな事を考えていた。ちなみに、パイロットスーツに背中のファスナーはない。
浮かれている彼は、そのままノックもせずに船長室のドアを開いた。ホァンは、ドアがロックされていると分かっていたのだが、もしかしてというスケベ心で、手が勝手に動いてしまったのだ。
「あれ、開いちゃった? って、皆さん、何をやってるんですか?」
ドアが開いたことに驚いたホァンは、そこでレイチェルを拘束してる社員達改め革命軍の兵士と相対する。
火星タコが船に取り付いてから、船長室を出るという計画であった兵士達は、突然現れたホァンに驚いた。レイフに気づかれないように船長室に閉じこもっていたため、ホァンの接近に全く気づいていなかったのだ。
真っ先に行動したのは、レイチェルだった。彼女はアイラを抱えていた巨漢の男に、体当たりと足払いをかけて引き倒した。
「うぉっ」とうめき声を上げて倒れる巨漢の男は、女性と若い男性を巻き込んで倒れ込む。そして巨漢の男に抱えられていたアイラは、簀巻き状態から解放されると、レイチェルの前に転がった。
「(アイラちゃん、お願い。レイフの、アルテローゼの所に向かって!)」
レイチェルはヘルメットを被っているため、声は他の人には全く聞こえなかった。しかし、常人より耳の良いアイラには、ハッキリと聞こえた。
「あたいは、革命軍なんだよ」
アイラは、サトシに見捨てられたが、まだ自分は革命軍と思っていた。だか、そこで再びサトシに見捨てられた事に思い至り、目から光が消えていく。
「(おねがい、このままじゃ船が沈んでしまいますわ。それでアルテローゼが、いえレイフがいなくなったら、ガオガオも復活できないのよ!)」
「ガオガオ……」
しかし、ガオガオというレイチェルの言葉に、アイラの瞳に光が戻ってくる。アイラにとってガオガオは、サトシ以上に大事な存在だった。
「(アイラちゃん、お願い、アルテローゼとこの船を守って)」
「分かったよ。金髪ドリル、あたいは行くよ。でもこれは、ガオガオのためだからね」
意思を取り戻したアイラは、獣のように四つん這いになり、ドアに向かって走り出した。その姿は、猫、いやガオガオを彷彿とさせる素早いものだった。
「待て、アイラ。我々を裏切るのか」
リーダーがアイラにそう問いかけるが、彼女は振り返ることもなく、ホァンを突き飛ばして船長室を出て行った。もちろんアイラの向かう先は、アルテローゼのいるヘリ甲板である。
そして、残されたホァンは、
「降参します」
リーダー達に銃を突きつけられて、両手を挙げ投降の意思を示していた。
◇
『レイチェルが、狙われた?。社員達の目的は最初からレイチェルだったのか。何故アルテローゼではなく、レイチェルを狙うのだ?』
船長室付近の監視カメラの映像から、レイフはようやくレイチェルが狙われていたことに気づいた。しかし、それに気づいたとしても、操る整備用ロボットもなく、アルテローゼも動けない状態であるレイフに打つ手はなかった。
『このままでは、不味い。しかも火星タコは…もう取り付いたぞ』
そして、更に状況は悪化する。ついに火星タコが船に取り付いたのだ。火星タコは、触手を伸ばすと巡視船の船首に貼り付けて甲板に乗り上げてくる。その力は強く、艦首にあった機関砲が瞬く間に鉄くずに変わってしまった。しかしディビット達は、艦橋に向かった兵士の相手で手一杯であり、何も手を打てない。
このまま、巡視船は破壊され、アルテローゼも海に沈んでしまうのか…。
しかし、この危機的状況を乗り切るための鍵があった。
「ジャジャーン、やってきたよ~」
獣のように四つ足で走ってきたアイラが、かけ声と共にヘリ甲板に現れた。
そう、その鍵とはレイチェルによって逃がされたアイラであった。
『(まだこの娘が信用できるとは分からぬが、今は仕方ない) 待っていたぞ。アイラ、早くコクピットに乗り込むんだ』
「分かったよ~」
レイフに急かされ、アイラはアルテローゼのコクピットに乗り込む。アルテローゼのシートは、アイラの小柄な体格に合わせて最適なサイズに変化していく。
『アイラ、スティックを握るんだ』
「分かってるよ」
アイラがスティックを握ると、レイフはアルテローゼの機体を起動させる。レイチェルがコクピットに座らなければ正常に動作しないはずの機体が、レイフの思い通りに動き始める。
そう、アイラは、アルテローゼを正常に動かすことのできる二人目のパイロットだったのだ。
『さて、アイラ。まずはクラーケンを始末して、巡視船を救うぞ』
「それから金髪ドリルをたすけるんだよね」
二人の思いが一致すると、マリンフォームに変形したアルテローゼは、海に飛び込んだ。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

我ら新興文明保護艦隊
ビーデシオン
SF
もしも道行く野良猫が、百戦錬磨の獣戦士だったら?
もしも冴えないサラリーマンが、戦争上がりのアンドロイドだったら?
これは、実際にそんな空想めいた素性をもって、陰ながら地球を守っているエージェントたちのお話。
※表紙絵はひのたけきょー(@HinotakeDaYo)様より頂きました!

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる